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文 友光だんご
写真 藤原 慶
編集 Huuuu

日本に暮らす皆さんは、おそらく一度は「ハンコ」を押した経験があると思います。

子ども時代、夏休みのラジオ体操へ参加した印として。宅配便の受け取りや、アパートを借りる時。そして仕事の際のありとあらゆる書類に。

自分の名前をインクで転写するシンプルな動きに、ときには人生さえ左右されてしまうことも。ハンコ、めちゃくちゃ大事。いや、そうだったはずなんですが……

なんだか最近、「ハンコ離れ」みたいな風潮、ありませんか。

いろんな書類の電子化にともないハンコを押す機会が減り、クライアントさんに請求書を提出する際も「ハンコ不要です! PDFでいいですよ」と言われ。楽になるのは嬉しいのですが、一方で戸惑いもあるんです。

あの「ハンコを押す」という大事っぽい行為はなんだったの? 無くても本当に大丈夫なんですか……???

ハンコを見つめる友光だんごさん 写真

無性にハンコのことが気になって仕方がなくなっていました。

調べてみると、「ハンコ不要」の背景には「電子契約」の台頭があるそう。そして、その電子契約サービスを、時計メーカーとして有名なセイコーが提供しているとのこと。

ハンコの意味って何だったの? 電子契約でハンコがいらない理由とは?など、話を聞いてきました。

中嶋勝治さん 写真

話を聞いた人:セイコーソリューションズ デジタルトランスフォーメーション本部 中嶋勝治(なかじま・かつじ)さん

戦国時代の日本はサイン文化だった?

取材の様子 写真

「ハンコはとても大事」だと思っていたんですが、最近は使われなくなっているのでしょうか。

「法律上は必要ないのに、慣習としてハンコが使われていた」場面が多かったんです。そうした場面でハンコが使われなくなっている、というのが正確ですね。

「日本はハンコ文化」みたいなイメージがありましたが、慣習とはどういうことですか。

これほどハンコを使うのは中国、韓国、日本だけで、他の国では契約などの際に用いるのはサインが主流です。しかし、そもそも日本の法律で有効性が定義されているのは「実印」だけなんですよ。

実印とは「役場で登録された、本人を証明する印鑑」のことですね。不動産取引や、保険、銀行融資などの際に必要となります。逆に、それ以外の意志確認の場面で使われているハンコって、ほとんどの場合、法律的にはサインでも何ら問題がないんですよ。

ハンコを押す様子 写真

ええっ! では日本人はハンコ好きだっただけ……?

どうなんでしょう。歴史的に見ても、日本のハンコ文化はわりと新しいものだと思うんですよね。例えば戦国時代の武将が書いた文書を見ると、最後に書いてあるのはサインが多いんですよ。「花押(かおう)」と呼ばれるものですが、あれは墨で書いていますから。

おそらく明治の頃に印鑑登録の制度ができたのをきっかけに、契約などでハンコを使う文化が広まったのではないでしょうか。

勝手なイメージで、日本では大昔からハンコが使われてたのかと思ってました。歴史の授業で習った金ピカの「漢委奴国王印」のイメージが強すぎたのかもしれません。

あれはたしかに印象的ですね(笑)。もちろん、明治以前にもハンコ自体はありました。ハンコ自体は非常に便利なツールですから、明治以降に生まれた日本的な会社の文化と相まって、広く普及していったのだと思われます。

コロナで普及する電子契約

質問する友光だんごさん 写真

最近、特に「電子契約」という言葉をよく聞くのはコロナの影響が大きいのでしょうか。

はい。新型コロナ感染症の拡大により「ハンコを押せない」場面が増えてきたことで、電子契約の導入は増えています。ハンコを押すには会わないといけません。しかし、コロナのリスクがありますから、物理的に会うのがなかなか難しい。すると、商談が進められないわけです。

打ち合わせはビデオ通話で、という場面も増えてきましたから、契約もオンラインで、というのは自然な流れではないでしょうか。

電子契約自体は以前からあったのでしょうか?

ええ、セイコーでは2012年頃から電子契約サービスを提供しています。

コロナ以前は、電子契約のメリットの一つとして「印紙が不要になる」ことがありました。日本の法律では、紙の契約書には印紙が必要になります。数億円単位の契約になると、10万円以上の印紙が必要になる。でも、電子契約では印紙がいらないため、その分のコストが削減できるんです。

しかし、コロナ以後は「電子契約でないと、事業が継続できない状況が起こりうる」ということがわかりました。メリット以上の「必要性」が生まれたため、一気に導入が進んでいますね。電子上で契約をする不安やリスクを気にされていたものの、「やってみたら楽だった」というお客様は多いですね。

大きな組織になればなるほど、いきなり「やり方を大きく変える」ことって苦手じゃないですか。いままでハンコ好きだった日本の会社組織を、結果としてコロナが変えたわけですね。

「暗号鍵」と「タイムスタンプ」がハンコの代わり

セイコーの提供する「かんたん電子契約 for クラウド」 写真

セイコーの提供する「かんたん電子契約 for クラウド」。画面の指示に従っていくと、ものの数分で契約が完了する

目に見えないぶん、電子契約のイメージがいまいちわかなくて不安な気持ちもあります。どのような仕組みになっているのでしょうか。

契約においては、「いつ・誰が」その契約に対して合意をしたのか、が重要になります。そこで「誰が」合意をしたのかを示すのがハンコ、もしくはサインとなりますね。「いつ」についても、契約の日付が必ず契約書には書かれています。

逆に言うと、この「いつ・誰が」を正確に証明できるのであれば、紙ではなく、電子契約というのも成り立つわけです。そのために、セイコーの電子契約サービスでは「電子署名」「タイムスタンプ」の技術が用いられています。

知らない言葉が出てきました。電子署名とは、クラウド上で署名する、みたいな……? タブレットを使うとか?

いえ、文字を書く必要はありません。電子署名は「暗号鍵」というものを使います。これは、ざっくり言うと「本人だと証明するデータ」ですね。電子契約サービス上では、使用者の方それぞれに暗号鍵を付与して、その鍵を用いて「誰が同意したか」を証明するんです。

中嶋勝治さん 写真

紙の契約の場合、ハンコという「その人しか持っていないもの」、もしくはサインという「その人しか書けない筆跡」で本人だと証明しますよね。概念としては、それと同じです。

ああ〜、なるほど! 「その人しか持っていないもの」で本人だと証明する、と。たしかに同じだ。

「タイムスタンプ」も暗号情報でして、そのデータがいつ作成されたものか、正確な時刻を記録しておく技術です。この暗号鍵とタイムスタンプは、わかりやすく例えると「お札の透かし」みたいなものですね。

つまり、普段は見えないけれど、適切な方法によって確認できる。光を当てるとお札の透かしが浮き出るように、対応したソフトウェアを使うと、暗号鍵やタイムスタンプが確認できるんです。

わかりやすい。仕組みがわかると怖くなくなってきますね……。

契約のためのサービスが継続しなくては意味がない

質問する友光だんごさん 写真

紙の契約に比べて、電子契約ならではの強みってあるんでしょうか?

紙の場合、意外と消失のリスクが大きいんです。例えば東日本大震災やアメリカの同時多発テロのように、天災や事件・事故によって書類が無くなるケースは多くて。また、社屋を移転した際、契約書が紛失してしまう……なんてこともありますね。

電子データの場合、単体だと消えやすいのですが、同じデータをコピーしてバックアップがとれます。そのため、複数のハードディスクやクラウド上に保存して、リスクを分散させることができるんです。

電子データより物理データのほうが無くなるリスクが高い、というのは意外でした。

逆に、紙のほうが可読性は高いです。つまり、誰でもそのまま目視して内容を確認できる。電子データの場合は、デバイスやソフト、ファイル形式が対応していないと読めない場合があるんですね。そのため、現在は最も互換性が高いPDF形式で電子契約書が作成されています。

ウェブサービスの進歩は早いですから、電子契約の場合、サービスの入れ替わりも激しそうです。

「サービスの継続性」が、まさにセイコーの電子契約サービスの強みなんです。例えば50年契約の住宅ローンを組んだのに、50年後に「サービスは終了しました」なんてことになったら困りますよね。

いや、それは困ります。せっかく50年も頑張ってローンを払い切ったのに……。

弊社は2001年にタイムスタンプ事業を立ち上げて、約20年間、電子契約に関連するサービスを継続させてきました。それだけの歴史を持つのは、セイコーともう1社くらいです。もちろん未来のことはわかりませんが、約20年間サービスを継続してきた信頼で、これからの安心もお約束しています。

時計メーカーとしての歴史も、電子契約サービスには活かされているんですか?

ええ、やはり時刻を証明するサービスですから、世界標準時とズレのない、正確な時刻を提供しています。そもそもタイムスタンプ事業も、IT時代を見据えた次の企業方針として「インターネット上においても正確な時間・時刻を届ける」ことを目的に、2001年に始まったものなんです。

契約の電子化で「どこでも仕事ができる」ようになる

実際に操作しながら説明する中嶋勝治さん 写真

電子契約が普及すると、いろんな点が自由になりそうですね。

時間、それから場所に関する制約が外れてきますよね。まず、地方の企業にとってのメリットが大きいと思います。契約作業がオンラインで完結すれば、わざわざ東京へ来る必要もないですから。

地方にオフィスを置くデメリットも減りますね。

私どもは地方の銀行のお客様が多いのですが、打ち合わせがWeb会議になって、以前よりも回数が増えました。それに、パソコンとネット環境さえあればOKですから、旅行先から契約や決裁を行うことも可能なわけです。

「上司が海外休暇中で、ハンコがもらえなくて……」みたいな場面もなくなると。

そのとおりです。グローバル企業で、CEOの方が海外にいても問題ありません。

国のほうでも電子契約を推進していて、いろんな手続きが電子でもOK、あるいは電子でしか受け付けませんという風に変わっています。今後は、基本的に電子契約やネット上での手続きが主軸になっていくのではないでしょうか。

なるほど、いろんな変化が起きそうですね。丸の内のオフィス街の風景が変わったり、日本人がもっと気軽に海外休暇をとるようになったり……。テレワークなのに「ハンコをもらうためだけに会社へ行きます」なんてことも、なくなっていくと。

弊社への問い合わせも今年の6月ごろから非常に増えています。大きな企業や銀行が電子契約を導入すれば、取引先である企業や個人事業主の方も導入しますよね。ですから、今年の後半から来年にかけて、一気に広がっていくのではと思います。

ハンコを見つめる友光だんごさん 写真

「ハンコ」の活躍の場は減るものの、「実印」の役割は変わらず存在し続けることもわかりました。逆に気軽に押す場面が少なくなり、「物理的にハンコを押す」行為の重みが増していきそうですね。

ハンコ離れは起きていたけれど、むしろ関係は深くなるのかもしれません。引き続きよろしくな、ハンコ……!!!

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