建築家
隈研吾時問時答

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光と風に、体のリズムを合わせる。

充足感を感じるのはどのような時ですか?

僕の家はね、大きなテラスがあるんですけど、最近テラスを植物だらけにしたんですよ。それで真ん中に、大きな檜の1本物のカウンターを置いてね。そこでお茶を飲むような時間を持つことにしたんです。そうするとなんかテラスが全く違うものに変わって、自分の家自身も違ったものに感じられるようになりました。本当にテラスの中にいると、植物がばーっとあって、それが風を受けたり光を受けたり、植物の中の流れる時間と、僕がそこのカウンターに座っているときの時間、自分の体のリズムみたいなものがすごくうまい形で同調しているような感じがするんですね。

どんな時間に思考を巡らせたり、考えを深めたりされますか?

それは朝か、夜ですね。やはり昼間は大体こっち(事務所)にいることが多いので。

1 日の過ごし方についてお聞かせください。

普段はですね、朝大体 6 時ごろ目が覚めて、少しストレッチをして、その時あまり寒くなければさっきのテラスに出て、植物の中でそういう時間を過ごして、それから軽く食事をして、事務所に 8 時くらいに来る感じなのかな。

仕事に集中する時は、デスクにいることが多いですか?

時々、テラスに来ている。やはりこのテラスに来て風を感じるとか、光を感じるとかがすごく重要で、そこで考えたり、あるいは時々電話をしたり、やはりこの空間がすごく重要なんですよね。

隈研吾

自分らしいと思うのはどのような時間ですか?

自分らしいなというのはね、まず動いている時。動いている時っていうのはいろんな意味で自分の歩くリズムとか自分の鼓動のリズムとか風のリズムとか、いろんなリズムを感じることができるのが動いている時だから。止まっている時だと自分がどういうリズムかが割と分かんなくなっちゃうんだよね。だから動いている時というのが自分にとってはすごく大事。僕のこのテラスが好きっていうのも、テラスでずっとぐるぐる動いて歩きまわっているわけ。それはすごく自分にとって重要なことだと思いますね。

特に好きな時間はありますか?

そうね、やはり歩ける時間、動ける時間っていうのがすごく好きだから。ただそれも体を使って動けるのがすごくいい。パリの事務所の時は、パリは歩ける街だから、例えば 40 分かかっても、打ち合わせまで歩いて行くんですよね。東京だとなかなかね、40 分歩いて打ち合わせ行くっていうのはしにくいんだけど。だけどパリにいた時はそういうことができるから。40 分歩いて打ち合わせ行くっていうのはすごく好きですね。

建築も、流れる時間の中にある。

アイデアやコンセプトはどのような時間の中で生まれますか?

それはもう、いつでも建築のことを考えている(笑)。どんなタイミングで思いつくかはさまざま。テラスに行って気持ちいいなと思っている時に思いつくこともあるし、あるいは車の中で運転している時に突然気づくこともあるし、いつ来るかはわからないですね。

建築と時間の関係性について、どのようにお考えでしょうか。

建築のことを「凍れる時間」っていう風に、時間を凍結したものだとよく言われるんですよね。薬師寺の塔が、時間が凍結した結果生まれたみたいな造形だっていうことをよく言われるんだけど、僕はそれはすごく納得できる反面、実は凍結してないんじゃないか。凍結すると建築はかちっと固まって、時間は流れていて建築はそれに対して固まったもの、固定したもの、という誤解を招く恐れがあって。実は建築も流れ続けているんじゃないかなと思うんですね。だから建築が凍結したっていうのは、多分、写真で建築を撮ることで、写真だと固定されて動かないという印象を与えることで生まれた誤解なような気もしていて。実際僕らがこの建築の中に入る時って、建築っていうのは絶えず変化し続けて、流れ続けているんじゃないかなと。建築は、本当は時間の中にある、時間と一緒に流れているわけで、決して凍結してないと僕は思うんですね。

隈研吾

何を思い浮かべながら構想されるのでしょうか?

僕はいつも建築をあるシークエンスとしてデザインしているから、入り口でまず自分が近づいていって、入り口を越えて室内に入っていて、そこでこう歩いて、こういう風に、っていうね。大きな時間の流れをデザインしているんですよ、実は。絶えずそこで自分がこの所でこう歩いてこれを見上げているとか、ドアに入って方向転換するとか、そういう自分の時間の中での動作を考えながら設計しているから、形を設計しているという意識はあまりないんですよね。

街に流れる「音」に耳を澄ます。

隈さんは世界各地、日本各地で建築物を手がけていらっしゃいます。アイデアを生み出す際に大切にされていることは、何かに例えるならば、どのようなものでしょうか?

風土によって環境によってそこで流れている「音」が違うっていうか、そこで流れている音楽が違う。音楽っていうのはリズムもあるし音色もあるわけだけど、それが場所場所で全然違って、違う音楽が流れているなと感じて。そこに建築をデザインするっていうことは、流れている音楽の中に僕も一緒に演奏に参加してと言われて、そこに僕の音を加える。だからそれには周りの音をよく聞かないと自分でどこで入っていいかわからない。どこでどのくらいの強さの音をどう響かせたらいいかというのは、そこに流れている音が聞けないと、自分がそこの演奏に参加できないという意識はよく持ちますね。

隈研吾

その街に流れる音楽(文化や空気感)を感じることが、構想を練る上で大切なのでしょうか?

その敷地を見に行く時も、敷地だけを見てもダメで、敷地に行くまでにいろんな街の音楽っていうのがあるわけよ。それをやはりいろいろ聞きながら敷地に行かないと、突然敷地にポンって行ってその周りだけ見ても、何か見た感じがしなくて、行く全部の時間の流れが情報なんだよね。

「建築は 100 年単位で考える」というお話がありました。隈さんにとって、100 年という時間はどのようなものでしょうか?

100 年の時間っていうのは、建築にどんどんいい音色を響かせてくれるなと思っていて。その 100 年単位は建築の劣化じゃなくて建築の味わいが深くなっていく時間だと考えて、いつもそういう風に言っているんですね。

常に変わり続ける事を意識しながらデザインをされているのでしょうか。

それはある種 1 番大事なことで、いかに 100 年を味方につけるか、時間を味方につけるかということが、そこに対してのイマジネーションが湧かないと僕は良い建築はできないと思いますね。

隈研吾
(撮影:Ayumi Yamamoto)
※本内容は音声でお聴きいただくことも可能です。文章では話の内容をよりわかりやすくするために言葉の調整や補足をした箇所があります。音声と文章、どちらもお楽しみいただければと思います。

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プロフィール

隈研吾
隈研吾 建築家

1954年生まれ。東京大学建築学科大学院修了。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。1964年東京オリンピック時に見た丹下健三の代々木屋内競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を目指す。大学では、原広司、内田祥哉に師事し、大学院時代に、アフリカのサハラ砂漠を横断し、集落の調査を行い、集落の美と力にめざめる。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。これまで20か国を超す国々で建築を設計し、日本建築学会賞、フィンランドより国際木の建築賞、イタリアより国際石の建築賞他、国内外で様々な賞を受けている。

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