取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
時計を選ぶとき、デザインや機能と同じくらい大切なのが、購入した後のサポートではないでしょうか。 時計の製造を担う「セイコーウオッチ株式会社」と、 セイコーの時計をメンテナンスしている「セイコータイムラボ株式会社」では、グループ企業ならではの強みを活かし、密な連携によるアフターサービスの好循環が生まれています。今回はとくに、グランドセイコーのアフターサービスに焦点を当て、同社の修理技能士である田中 宏治さんと、セイコーウオッチ株式会社の楠 智之さんにお話をうかがいました。
セイコーウオッチとセイコータイムラボが取り組まれている、グランドセイコーのアフターサービスについて教えてください。
― 楠さん:私たちは組織の垣根を超えて、「時計をつくる」ことから、お客様に「販売する」こと、そしてお使いいただくなかで「修理する」ことまで、一気通貫の体制を取っています。
もともとセイコーの長い歴史において、品質に関する情報共有の会議体は早くから設けられてきました。しかし20年ほど前までは、普段の業務が異なることもあり、今ほどの密接な連携は取れていなかったそうです。それが徐々に変化しはじめたのは、それぞれの立場で「ブランドを大切にする想い」を共有できるようになってからでした。
今では各社が「より良いものをつくる」「より良いマーケティング活動を行う」「より良いメンテナンスをする」といった役割の中で、ブランドを想う意識を共有できていると感じています。目線が揃ったことで、もともとあった仕組みがより有効活用され、ブランドを高めていく体制が理想的に機能するようになりました。
時計をつくり、その魅力を伝えるセイコーウオッチの楠さん。「特にこの5〜6年は、グループのなかでアフターサービスの重要性が共有できるようになってきました」
― 田中さん:当社ではアフターサービスとして、お客様のセイコーの時計の修理やオーバーホールといった高度なメンテナンスを専門的に行っております。グループ内の連携によって、お客様の声や市場での反応が私たちにも共有されると、気持ちが引き締まるような、大きな励みとなっています。また、我々の方からも気になることがあると設計側に一緒に確認をお願いするなど、連携によって改善の速度も早くなってきました。
最近では以前に比べて、修理に関心を寄せるお客様が増えたと感じています。サステナビリティへの意識が高まる中、「修理を重ねることで、良いものを長く使い続けられる」という点に魅力を感じて、熱心にご質問をいただく機会も増えています。
修理のチームリーダーであるセイコータイムラボ田中さん。今回は実際の緻密な修理ワークの様子も見せていただきました
店頭でのイベントも開催されているのですね。
― 楠さん:グランドセイコーブティックや百貨店の店頭で、定期的に開催しています。田中さんや他の修理技能士さんに来ていただき、精度調整などの技術を実演しているんです。
高度なアフターサービスの魅力をどうしたらお客様に伝えられるのか、私たちも以前から課題にしていました。グランドセイコーの購入を検討されるお客様も、目の前で修理の品質が高いことを実感いただくと、「安心できる」と言っていただくことも多いです。
― 田中さん:店頭では、道具の一部を持ち込み、作業する手元をモニターで見ていただけるようにしています。時計の心臓部である「ひげぜんまい」の調整を実演したり、バンド(時計のベルト)部分を研磨する際の緻密なマスキング作業をお見せしたり、時にはお客様にも作業を体験していただくこともあります。
細かなパーツで構成されたバンド部分は、パーツごとに異なる研磨を施すため、オレンジ色のマスキングテープで緻密に保護しながら3回に分けて磨き上げる
アフターサービスを体験されたお客様からはどのような反響がありますか。
― 田中さん:よくいただくのは、「まさか直ると思っていなかった」という驚きと感謝の声です。街の修理屋さんで断られて諦めかけていた方から「諦めずメーカーに出してよかった」と言っていただけると、我々としてもしっかり期待にお応えできたことを嬉しく思います。
通常、修理の時計にまつわる個人情報を知ることはないのですが、先日は後から「60年前にお父様が使っていた時計」だったことを教えてくださったお客様がいました。大切なご家族の歴史を未来へつなぐお手伝いができ、私たちとしても大変光栄でした。
― 楠さん:メンテナンスを通して寄せられるお客様のご意見は、私たちの時計製造にも活かされています。実際に、お客様のご意見を設計部門にフィードバックし、製品の改善に反映されたこともありました。こうした循環が、グループで連携できていることの強みだと感じています。
セイコータイムラボには海外AS推進室もあり、世界9か所のセイコー海外拠点(アメリカ・イギリス・オランダ・オーストラリア・タイ・台湾・中国・韓国・インド)にグランドセイコー認定の修理技能士が常に控えているため、日本のみならず世界中で日本と同等の高度なメンテナンス体制を整えている
― 楠さん:グランドセイコーを長く愛用いただける試みとして、2025年10月からグランドセイコー「想いをつなぐ」サービスが始まり、大変好評いただいています。これは、お使いになったグランドセイコーをご家族など別の方に受け継ぐ際、通常通りの内装・外装を整えた修理後、ご要望によりプレゼント包装したり、裏蓋に刻印を入れることも特別に承るサービスです。
実はこのサービスは、2025年入社の新人研修中に社員が発案したアイデアが元となっているんです。研修中の「アフターサービスの新しい提案を考える」という課題に対して、「親から受け継いだ時計を使いたいけど動かない」あるいは「受け取った時点で、年季が入っていた」という体験談がきっかけになったと聞いています。
現在は、セイコーウオッチカスタマーセンターやグランドセイコーブティックまで修理にお越しくださった方を中心にご案内していますが、「まさに、そういうことをしたかった!」と喜ばれる方もいらっしゃいます。時計を引き継がれる方と一緒に引き取りに来る方も多く、その場でお二人の喜びの声を聞かせていただくこともあると聞いています。
楠さん、田中さんともに「新品に限らず、長くグランドセイコーを愛用し続けてもらえることが嬉しい」と語る
長く愛されるブランドであるために、どんなことに気を付けていますか。
― 田中さん:アフターサービスの会社として、お客様のご期待に応えられるよう、社内全体で技術力を上げていく事です。それと同時に、「メーカーならここまで直せるんだ、寄り添ってくれるんだ」という事実を、もっと多くの方に知っていただくことです。良いサービスを提供し、ブランドの価値につながることをしていけたらと思っています。
― 楠さん:時計は、買って終わりになるものではありません。想い出や贈り物など、誰かのかけがえのない人生と共にあるものです。我々がお客様の大切な時計に寄り添えるのも、技能士の皆さんによる高度なアフターサービスという“品質の砦”があるからです。この揺るぎない技術力と安心こそが、グランドセイコーを長くお使いくださるお客様への一番の応援になると考えています。
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