文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
「半導体」と聞くと、どんなイメージが浮かぶでしょうか。専門的な技術や、精密機器、AIなどを考える人もいるかもしれません。
2026年9月、半導体メーカーであるセイコーNPC株式会社が、小学生向けの半導体教室を初めて開催しました。専門的な話をどのように説明したのか。また、なぜ地域の子どもたちに伝えたかったのか。当日の様子と同社の取り組みについてご紹介します。
1975年(昭和50年)に誕生したセイコーNPC株式会社では、電子デバイスの正確な動作を支える水晶発振器用ICを中心に、私たちの身近な家電や通信機器など、さまざまな電子機器に組み込まれる半導体製品を手がけています。主力である水晶発振器用ICは国内外で高いシェアを持ち、近年では物の動きや温度を電気信号に変換するセンサ製品の開発にも力を入れています。
セイコーNPCが生産拠点を置く栃木県那須塩原市は、豊かな自然に恵まれた地域です。
今回の体験教室では、市内の小学1〜5年生が参加しました。まずは当日の教室の様子をお届けします。
セイコーNPCの「はんどうたい体験教室 〜光で動く車のひみつ〜」は、市内の黒磯公民館で連続開催されている「子ども探検隊プログラム」の1講座として実施されました
はじめの説明ではクイズがたくさんあり、低学年の子どもたちも楽しそうに参加していました。みんなで「半導体には、電気の通り道がたくさんある」「電気の通り道には、(水に例えて)電気の流れをコントロールする“蛇口”(トランジスタ)がたくさんある」「お家にある家電にもたくさん使われている」ということを学んだ後は、実物を見る時間です。
各テーブルに置かれた3つの瓶のうち、半導体はどれでしょうか?
みどり・赤・青の瓶に入った、どれも小さな部品たち
グループ内での相談も真剣です
正解は赤の瓶の部品でした。0.5mm角の半導体は、ラメの粒だと思った子もいたほどの小ささ
半導体の拡大パネルが登場。「このなかに電気の流れをコントロールする“蛇口”(トランジスタ)はいくつあるでしょうか?」というさらなるクイズにはたくさんの声が上がりました
車を動かす動力についても、先生たちの実演を見ながら考えた後で、製作へ。実際に手を動かす体験の時間です。ひとり1台、光センサで走る車の組み立てに取り掛かりました。
先生の説明をよく聞いて、みんなとても上手です
各パーツの役割を聞きながら、順番に付けていきます
みんなの車が無事に完成したところで、実際に車を走らせてみることにも挑戦しました。ライトの光をセンサに当てて、自分のマシンを動かしてみます。光の当て方を工夫したり、お友達と相談する様子なども見られました。
コースにはいろいろな高さの坂があり、減速しないようにするにはどうすればいいか考える場面も
みんなで交代に走らせた、グループ対抗の時間
半導体のはたらきについて、知って・つくって・動かした、充実の体験教室
セイコーNPCとして初めて取り組んだ体験教室。運営を担当した、同社「半導体・ものづくり体験教育プロジェクト」の5名に、今回の背景などをお聞きしました。
小学生向けに体験教室を開催した背景を教えてください。また、実際に開催してみた手応えはいかがですか。
― ムサさん:弊社では人材戦略の一環として「NPCチャレンジ制度」という社内制度を活かし、社員の挑戦と自律を促す取り組みを行っています。また、以前からセイコーグループの時育チームによる「わくわく教室」のようなことに挑戦したいと考えていました。そこでこの社内制度を通して、プロジェクトとして教室運営ができないだろうか、と考えたのが始まりです。
その時私は人事部だったこともあり、人事部の瀧川さん、経営企画部の宮腰さんと大田原さんに声をかけたんです。5人くらいのチームにできたらと思い、社内公募を行ったところ、技術部の矢吹さんが手を挙げてくれました。技術職の人を求めていたので、とても良いバランスのチームができたと思います。
セイコーNPCの「半導体・ものづくり体験教育プロジェクト」リーダー、ムサさん
― 瀧川さん:今日はとにかく子どもたちが楽しんでくれるかどうかが心配でした。半導体や電気の仕組みもまだ知らない低学年の子どもたちもいたので、説明が一方的にならないように、できるだけ問いかけをしたり、クイズを盛り込んだりして工夫しました。子どもたちは割と初めから反応が良くて、嬉しかったです。
例えがわかりやすく、楽しい説明でスムーズな司会進行だった人事部の瀧川さん
企画する際に工夫した点や、悩ましかったこと、また、セイコー時育チームと相談したことなどがあれば教えてください。
― 瀧川さん:当初はうちの製品に関わることをプログラムに入れ込もうと思ったのですが、それはかなりハードルが高かったんですよね。
― ムサさん:そこで、半導体について知ってもらえる講座はどうかと考えて、行政の方や教育委の方々に相談させてもらいながら、少しずつ今日の内容ができていきました。当初は、電気が流れる「導体」と、電気が流れない「絶縁体」、その中間の物質としての「半導体」を学んでもらうために、ブロックで「MOS構造」を説明できたら面白いかな、と思ったのですが、それは中高生向けの内容だと思い直しました。
― 矢吹さん:光で走る車を提案したのは、少数精鋭であるこの5人で実現可能なことを考えた上でのアイデアでした。また、3Dプリンターでつくったパーツを自分で選び、自分で組み立てることで、子どもたちにもつくる楽しさを感じて欲しかったです。
全員分のパーツをつくるために何日間も3Dプリンターで対応したという技術部の矢吹さん
― 大田原さん:子どもたちへの伝え方として、矢吹さんが光で走る車を提案してくれた時、とてもいいアイデアだと思いました。車なら地域の子どもたちにとって身近なものですし、動く仕組みを伝えるのにピッタリですよね。
今日は子どもたちとうまく話せるかどうか、少し緊張していたのですが、始まってみたら参加者のお子さんたちがたくさん話しかけてくれました。うまくできたら「見て見て!」と呼んでくれたり、走る仕組みを「こういうことでしょ?」と聞いてくれたり。私自身、入社する前のまだ半導体のこととか全然知らなかった頃を思い出して、子どもたちの反応にも共感していました。
経営企画部の大田原さん。同社公式キャラクター「塩原はんぞう」イラスト制作を担当
― 宮腰さん:内容については、事前に時育チームの皆さんと意見交換の時間をいただき、メンバーで「わくわく時計教室」の見学にもお邪魔しました。クイズなど、子どもたちとたくさんやり取りしながら進行していたのが印象的で、いろいろ参考になりました。
今日は子どもたちの考え方を近くで見られたのが新鮮でした。半導体やものづくりに関心をもってくれたり、セイコーNPCという地域の会社を知ってもらえるきっかけになっていたらいいな、と思います。
経営企画部の宮腰さんは、参加者へのお土産に含まれていたICチップ入りマグネットの制作も担当。「将来、今日の参加者が入社してくれたら嬉しいです」
― 矢吹さん:今後、今日のような講座を同じ題材で開催するとしたら、車の仕様を変更したいですね。「セイコーわくわく時計教室」を見学させてもらったとき、持ち帰ることができるように紙製の日時計をつくっていたので、あんなふうに紙やダンボール製の創作キットをつくることができないだろうか、と考え中です。
今後はどんなプロジェクトに挑戦したいとお考えですか?また、次世代の子どもたちに望むことはどんなことでしょうか。
― ムサさん:まだこれからチームみんなで話し合うところですが、プロジェクトとしての活動期間は12月までになるので、あと4ヶ月ほどあります。当初考えていたのは、小学生向けと中学生向けの両方を開催することでした。小学生向けとしては今日のような内容を市内の他の小学校でも開催したいと話していたので、年内にあとどのくらい私たちが活動できるのか、これから検討したいと思います。
個人的には中学生を対象にして、弊社の主力製品であるオシレーター(水晶発振器)ICをプログラムにできたらいいなと考えています。わたしたちセイコーNPCは元々、時計用のICをつくるために始まった会社ですし、正確な時(基準クロック)を刻むための回路なので、セイコーのイメージにもつながるのではないかと考えています。
「那須塩原市にこんな半導体の会社があるんだ、ということを子どもたちに知ってもらいたい」と語るプロジェクトチームの皆さん
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