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宮城県の中学生が作詞に挑戦!──震災10年の節目に向けたプロジェクト始まる

文 清水麻衣子
写真 中川 司

宮城県の中学生が作詞に挑戦!──震災10年の節目に向けたプロジェクト始まる

2020.04.17

カーン、カーン、カーン……。3月11日14時46分、銀座・和光の時計塔から、今年も鎮魂と希望の鐘が鳴り響いた。人々は足を止め、黙祷と祈りを捧げる。東日本大震災発生の翌年から毎年見られる光景だ。黙祷を終えると、空は突然表情を変え、魂を浄化するかのような優しい雨粒が落ちてきた。震災があった日の夜、東北には空いっぱいの星がまたたいていたそうだ。ショーウインドウには星のカードにしたためた希望のメッセージ──「あの日を忘れない」「絆」「平和な日々がずっと続きますように」など──があふれ、銀座と東北を人々の“思い”でつないでいく。

(上)銀座・和光ショーウインドウ 写真、(下)星型カードが飾られた銀座・和光ディスプレイ

写真 セイコーグループ

『"わ"で奏でる東日本応援コンサート』がつないだ多賀城中学校との縁

来年は、東日本大震災から10年という節目の年。その10年に向けてひとつのプロジェクトがスタートした。セイコーグループ(株)服部真二CEOが作曲をし、東日本を応援する合唱曲を制作しようというものだ。その曲の作詞に挑戦しようと手を挙げたのが、宮城県多賀城中学校だ。

きっかけは、多賀城中学校の生徒たちが参加した、2年前の『“わ”で奏でる東日本応援コンサート』に遡る。セイコーは、震災直後から毎年被災地をまわり、地元の人々と共にこのコンサートを作り上げている。震災直後、被災地の方々に、音楽で少しでも元気を届けたいと始めたこのコンサートは、今では東北の方々と共に、復興への道のりを力強く描く希望の舞台になったと言う。服部CEOは、コンサートの実行委員長として、2011年8月から、毎年被災地をまわっている。多賀城で開催された『“わ”で奏でる東日本応援コンサート』は、通算31回目のコンサートだった。

"わ"で奏でる東日本応援コンサート2018 in 多賀城」で演奏する、多賀城中学校、多賀城第二中学校、多賀城高校の吹奏楽部の生徒たち 写真

「"わ"で奏でる東日本応援コンサート2018 in 多賀城」で演奏する、多賀城中学校・多賀城第二中学校・多賀城高校の吹奏楽部の生徒たち。コンサート名が書かれたステージ看板は、多賀城中学校の美術部員14名が作り上げた。

写真 セイコーグループ

『“わ”で奏でる東日本応援コンサート』がつないだ今回のプロジェクトには、多賀城中学校の松尾隆治校長の強い思いがあった。松尾校長が、多感な少年時代からあたためてきた”思い”を語った。

「私が高校生の時、日本を代表する自動車メーカーの会長さんが学校に来られ、お話を聞く機会がありました。南極に社員を送っているという話や、宇宙ロケットの開発にも携わっているという壮大な話に感銘を受け、ずっと忘れられませんでした。その言葉は、夢や努力の大切さを私に教えてくれ、一生の激励の言葉となりました。いつか、皆さんにも、同じような経験をしてもらいたいと考えていました。」(松尾校長)

松尾校長 写真

松尾校長から生徒に、”思い”が語られた

松尾校長が思いを巡らせる中、2年前に服部CEOとの出会いが生まれ、今回のプロジェクトにつながった。服部CEOは、自分が言葉を贈るだけでなく、東日本を応援する合唱曲を多賀城中学校の生徒たちと作りたいと考え、自身が作った3つの曲を贈ったのだ。多賀城中学校の全校生徒400人は、学年別にそれぞれの曲への作詞に挑戦。

出来上がった詞を受け取った服部CEOは、松尾校長の熱い思いを実現するため、体育館のステージに立ち、生徒の前でお礼のスピーチを行った。

”夢”を持ち、”挑戦”を続けてほしい

セイコーの歴史をまとめたビデオを紹介する服部CEO 写真

セイコーの歴史や、創業者 服部金太郎の精神、そして”夢”を持つことの大切さを、生徒に伝えた。

「セイコーは明治14年、今から139年前に創業しました。創業者の服部金太郎は、人一倍の努力家であり、幼い頃から寺子屋で勉学に励んでいました。努力家であるとともに、金太郎は、"常に時代の一歩先"を行く人物でした。明治の時代に、先進したヨーロッパの時計の修理技術を習得し、修理の仕事をしながら、”国産の誇れる時計を作りたい”という夢に向かって、コツコツと頑張った。そして、国産初の腕時計を誕生させました。

皆さんも、どんなに小さくても”夢”を持ち、”挑戦”を続けてほしい。失敗しても、その過程が大事です。

創業者・金太郎の精神は今なお受け継がれ、現在は “時代とハートを動かすSEIKO” というスローガンに込められています。ハートを動かす音楽の力を信じて、セイコーは東日本応援コンサートを続けています。皆さん一人ひとりの思いを詞に込めていただき、ありがとう。皆さんが作詞した作品を読むのが、とても楽しみです。」(服部CEO)

服部CEOからの激励の言葉に、生徒たちは感謝の「エール」で気持ちを伝えた。

(上)各学年の代表者から服部CEOに詞を贈呈 写真、(中)各学年の代表者、松尾校長、服部CEO 集合写真(下)服部CEOに感謝を込めて、エールを披露 写真

(上)各学年の代表者から服部CEOに詞が贈られ、握手を交わした(中)全校生徒に一つずつ、防災クロックが贈られた(下)服部CEOに感謝を込めて、生徒たちがエールを披露

服部CEOを囲んで、音楽について、夢について、語り合った

音楽科担当の馬場美沙子教論 写真

「テーマとなるヒントを与え、自由に書かせた」という音楽科担当の馬場美沙子教諭

服部CEOの楽曲に、生徒たちはどんな思いを込め、詞を紡いでいったのか……。

「子どもたちには、音源をひたすら聴かせて、友達のことや、ふるさとのこと、震災のこと、未来のことなど、ヒントとなるようなテーマを与え、思いのままに書いてもらいました。提出までの1ヶ月の間、皆、純粋な気持ちで考え、書いたと思います。曲に詞を付ける大変さを味わいながらも、こういうのを作ってみたい! という気持ちがあったように思います。中学生が考えていること、日々感じていることが、並べられた言葉から情景になって伝わってきます。完成した曲を皆で歌うことになったら、詞に込められた気持ちを表現できるよう、指導したいです。」(馬場教諭)

左から本郷海琉さん、木村智哉さん、相澤慶人さん、服部CEO、渡部愛海さん、鈴木奏夢さん、松尾校長 写真

左から本郷海琉さん、木村智哉さん、相澤慶人さん、服部CEO、渡部愛海さん、鈴木奏夢さん、松尾校長

生徒を代表して、本郷海琉さん、木村智哉さん、相澤慶人さん、渡部愛海さん、鈴木奏夢さんが校長室に集まり、服部CEOと語り合った。鈴木さんは2年前の『"わ"で奏でる東日本応援コンサート』に吹奏楽部として参加、渡部さんは受付などをボランティアで手伝った。

「最初に曲を聴いたとき、“何気ない日常”のイメージがまっすぐ浮かんで、震災のことを思い出しました。震災の直後、今までの環境とまったく違ってしまって、その違いを曲の中で明確にしながら書きました。今、震災を経て、皆がひとつになれたので、過去にも現在にも感謝をしなくてはいけないと思っています。」(木村さん)

多賀城中学校生徒と服部CEOとの語らいの様子 写真

生徒代表が服部CEOとの語らいを楽しんだ

過去から現在 そして未来へ 中学生が描く豊かな未来

「最近環境問題が気になっています。人間がより良い生活にしようとしたことで、問題が増えてしまっていると思うんです。豊かな生活を未来に残すため、それを可能にするためのエンジニアになりたいなと思っています。」と夢を語るのは、相澤さん。

「ずっと夢を描き続け、あきらめないことが大事。人がなんと言おうと自分の信念を貫いてほしい。」と服部CEOから激励の言葉が贈られた。

音楽が好きで、ギターやピアノなどを習っている渡部さん。
「環境問題などで苦しんでいる人が多い中、音楽で人を楽しませるだけでいいのか、それでは救えないんじゃないかと、不安もあります。」

「音楽の力は、人を喜ばせるだけではない。感動を生み、人と人の距離が縮まる、結びつける。そういう力があります。たとえばビートルズのジョン・レノンは、昔『イマジン』という曲を作った。ベトナム戦争で世の中が混乱する中、世界の平和を祈る曲だった。そして、歌で、世界中の人を動かしたんです。音楽には力があるんですよ。」(服部CEO)

子どもたちの未来に向けて

楽譜 写真

生徒たちが描く明るい未来を願い、松尾校長はこんなことを語った。

「生徒たちは、希望や絆など、子どもたちなりの考えや思いを、譜面いっぱいに表現していました。

2年前の多賀城でのコンサートは、4つの中学・高校の吹奏楽部や、美術部、ボランティアをした生徒など、多くの生徒が関わり、ただ聴くのではなく、みんなで作り上げたコンサートでした。とてもありがたい。みんながつながり、励まされたら励ます人になっていってほしいと思っています。広めていくこと、つながっていくことが大事。

震災の記憶は決して消えることはないが、乗り越え、前に向かって頑張っていく人になってほしい。子どもたちがやがて活躍し、社会が回っていくことが、本当の意味の復興になると思います。今日は服部CEOに夢を持って進んでいくことの大切さを伝えていただき、私が40年前に感動した体験を子どもたちにも与えることができました。きっと子どもたちに何か残せたのではないかと思います。今年で退官する私の夢も叶いました。」

生徒たちが思い思いに書いた詞は、専門家の意見も交えながら、楽曲として完成する。その日を楽しみに、震災10年という節目に向かっていく。

※教職員等の情報は2月の取材時のものです。

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