Design Concept
ファイナルラップベルは800m以上の中長距離種目で使用され、先頭の選手が残り1周に入った瞬間、高らかに鳴り響き、最終周回であることを知らせます。〝最後の勝負〟の幕開けを告げるベルの音は、会場の興奮を高めると共に、スプリントを仕掛ける選手たちに向けた激励の音。制作にあたり、選手の耳元へ確実に届く実用性と、格別な瞬間を捉えて魅せる、ベル単体での造形美を両立させるよう努めました。
デザインから見直し、
性能面も向上
ファイナルラップベルには、本大会における特別感と、セイコーらしさが込められています。デザインはタイミングチームとデザインチームが既存のベルを採寸し、それを元にどこをアップデートするべきかを思案。
採用されたデザインは、なめらかな段差を追加したラッパ形状の縁取りに和のテイストを含んでいます。素材はそれまでの真鍮製から青銅製に変えることで、より遠くへ届く大きな音に、さらに既存のベルより肉厚にすることで、より高く澄んだ和鐘の様な余韻のある音になりました。また、雨天時の競技でも耐えうる仕様を目指して、船舶で使用される「号鐘」を参考にベル内側形状を調整。霧などの悪天候でも衝突しないように鳴らす号鐘に近づけることで、これまでのファイナルラップベルよりもパワーアップした音を響かせることができました。
時計に使われる技法を使用
緩やかにカーブした3次曲面上に配されたロゴが歪んで見えないのは錯覚調整を施しているからです。この調整は時計のベゼルのなどの傾斜のある形状に数字や文字を配する時に使用される技術です。また三箇所に配されたロゴの「鏡面仕上げ」に対して、ベルの表面は微細な横線の「ヘアライン仕上げ」を施し、異なる表情の織りなす立体感を演出しました。
この二つの磨き仕上げも高級時計などの表面処理に用いられる技法です。
日本ならではの技術を活かして
ベル本体の制作は、国内最大手の鐘鋳造メーカーである富山県高岡市の「老子製作所」へ依頼しました。細かいロゴ部分にはミリ単位の仕上げが求められ、砂型鋳造では限界に近いレベルでありながらも、連綿と続く伝統的な彫金仕上げ技術で、美しい仕上がりとなりました。
ベルを鳴らす紐には、江戸時代から続く江戸組紐を起用。制作いただいたのは、東京都で江戸組紐の伝統を継承する「龍工房」です。大会のテーマカラーとなった日本の伝統色「江戸紫」を表す藤色の糸に、金と銀の糸を合わせて編むことで江戸の「粋」を表現して頂きました。
直径5~6ミリの組紐を特別な結び方をすることで持ちやすさと太さと強度を出し、ラップカウンターの機材に絡まないよう、房の長さまで細かく検証されています。
取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
