取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
2025年9月。東京での開催は34年ぶりとなった世界陸上(東京2025世界陸上競技選手権大会)が開催されました。セイコーは1985年からワールドアスレティックスとパートナーシップを結び、1987年のローマ大会以降、19大会連続で世界陸上のオフィシャルタイマーを務めました。
長年にわたり世界陸上を支えてきたセイコーですが、今回の大会では新たなチャレンジがありました。そのひとつが、セイコーグループ社員によるボランティア参加です。
今回の世界陸上は、約3,400名のボランティアスタッフが大会運営を支えていました。そのうちセイコーグループからは38名がボランティア活動に参加し、それぞれの持ち場で、大会の円滑な運営とトップアスリートの挑戦をサポートする役割を果たしました。
こうした活動の背景には、どのような思いや工夫があったのか。セイコーグループ株式会社 スポーツブランディング部の甘原怜和さんと北村真優さんに伺います。
世界陸上の社員ボランティアは、どんな経緯で始まったのでしょうか。
― 甘原さん:「セイコーからも運営ボランティアの活動に参加しませんか」と、ワールドアスレティックスからお話をいただいたのは、大会の1年ほど前です。初めての取り組みだったため、社内でさまざまな意見交換を行い、結果的には、職種などを問わず、セイコーグループ各社の社員と、その一親等以内で18歳以上のご家族を対象に希望者を募りました。
どのくらいの希望者がいるのか全く予想できませんでしたが、11月に募集を開始すると、ワールドアスレティックスから示されていた定数30名を大きく上回る数の応募があったんです。すごいことですよね。平日の活動も必要になるため、業務を休んだり職場の調整が難しい人も多いだろうと思っていたのですが、世界陸上というイベントの注目度の高さを実感しました。そこで私たちもワールドアスレティックスに相談して、人数枠を増やしていただき、最終的には希望者全員がボランティア活動に参加できるかたちとなりました。
セイコーグループとして国際大会への協賛や、アスリート支援を通してセイコーのブランディング発信を担当する甘原さん。「東京での開催ということで、これまでの経験のなかでも最大級のイベントでした。会期中は全体の動きを見ながら、ワールドアスレティックスとの調整や招待ゲストのおもてなしなどを行っていました。」
― 北村さん:より多くの社員に大会に関わって頂くため、セイコーグループ株式会社社員を対象にセイコーの独自施策に参画いただくサポートスタッフの募集も行いました。具体的には、会場である国立競技場の外構部に特設されたブースでの時計販売をサポートいただきました。持株会社である弊社においては、部署や業務によっては日頃、直接的には時計と関わらない社員も少なくありません。世界陸上という特別な場で来場者と直接ふれあい、セイコーがどのように大会に貢献しているのかを、現場で感じてもらいたいーそんな思いで企画しました。
来場者に、より世界陸上を楽しみ、オフィシャルタイマーであるセイコーの取り組みを理解頂くため、特設コラボカフェなどを含めた周遊マップを制作。「会場でマップを広げている女性を見かけて、自分が関わったものが活かされていると自分の仕事にやりがいを感じました」と北村さん
― 甘原さん:世界陸上は世界各地で開催される大会であり、さらに東京で開催される今回はメディアでも大々的に取り上げられることが予想できました。私たちスポーツブランディング部にとっても、セイコーのブランディングを考えるうえで一大イベントです。
これまで、私たちがどんな業務をしているのかをグループ社内に向けて発信する機会はあまりありませんでした。一般のファンの方にメッセージを届けることは大切ですが、もっと近くにいる社内の方々にも理解いただくために、ボランティア活動はすごく有効だと思ったんです。
社員の方々やご家族がボランティア活動に参加してもらうことで、セイコーのブランディング活動を知ってもらい、私たちの世界陸上における取り組みを肌身に感じ、自分事化するきっかけになるのではないか。ある意味では、社内のファンを増やすようなことが実現できるといいなあと考えていました。
社員ボランティアを募るにあたって、課題になったのはどんなことでしたか。
― 甘原さん:セイコーブースでの活動は業務扱いとなりますが、運営ボランティアはあくまでも業務外の活動となっていました。ボランティア活動のために業務を休むとなると、有給休暇が減ってしまう。どういうかたちにすれば参加希望者のハードルを下げられるのか、早々に人事部に相談し調整した結果、セイコーグループ株式会社としては最大3日の特別休暇が適用されることになりました。ただ人事制度は事業会社ごとに異なるため、セイコーグループ株式会社の人事部から各社の人事部へ、特別休暇を参考情報として共有してもらいました。
― 北村さん:特別休暇の制度自体はあったものの、セイコーグループとしても前例がなく、各社の方にご尽力いただきました。個人的にも、業務として人事部と連携できたことは新しい経験になりました。
実際にボランティアに参加された38名の方々からは、どのような感想などがありましたか。
― 甘原さん:各事業会社から、年代や役職も異なるさまざまな応募があったことも良かったと思っています。セイコーグループの役員に報告した時も、自社からも希望者がいることや、さまざまな方が希望されていることに対する評価がありました。私たちスポーツブランディング部としても全く新しい取り組みとなりましたが、東京での開催という点を強みに変えることができたと思います。
― 北村さん:大会ボランティアに関しては、担当の持ち場やシフトを決めるのは全て世界陸上の方で担当されていました。私たちも社内で動きを把握しようと思って確認したところ、実際にはさまざまな担当業務があったようです。
希望通りの業務だった方ばかりではないと思いますが、それでも終了後に聞かれた声は、「選手の間近で大会に貢献できた喜び」や「大きな大会で会社の取り組みに関われて誇りを感じた」といった声がすごく多かったです。また、新しいことにチャレンジしたいという気持ちでボランティアに応募くださった方もいて、会社としての取り組みではあったものの、それぞれの目標や挑戦に変えていただけたことは、すごく良かったと思いました。
世界陸上のボランティアに参加されたことについて、教えてください。
和光の店頭で販売を担当しております。大学ではボランティアサークルに所属し活動に取り組んでおりましたが、社会人になってからは参加ができずにいたところ、今回の募集を見つけ、すぐに応募しました。学生時代とは異なり、企業の一人として参加できることも魅力に感じました。特別休暇が適用されることもあり、上司や職場の方々にも相談しやすかったです。
参加できる時期が限られていたこともあり、会期前に、ボランティアスタッフにユニフォームを配布する業務を4日間担当しました。スタッフの皆さんこれから世界陸上に関われるというワクワク感で、熱気があり、明るい雰囲気だったのが印象的でした。毎日異なるボランティアスタッフとご一緒できて、いろんな方の暮らし方や働き方に触れる機会にもなりました。
セイコー社員であることをお伝えする度に、自分が会社の一員であることを実感しました。今回の体験によって、仕事とボランティアの違いが自分のなかではっきりと意識できるようになりました。より一層、責任感を持って仕事をしなくては、という気持ちになりました。またボランティアの機会があれば積極的に参加したいと思っています。
セイコーソリューションズで総務を担当しています。今回は上司から「世界陸上のボランティアに参加できるよ」と教えていただいたのが応募のきっかけです。ボランティアは初めてだったんですが、新しいことに挑戦することが好きで、また水泳をやっていた頃にセイコーのタイマーをよく見かけていたこともあり、陸上競技も間近で感じてみたいと興味を持ちました。
平日を含め5日間の業務だったので、特別休暇があったおかげで積極的に参加できました。もし自分の有給休暇だけだったら参加できる日数も限られていたと思います。担当業務は、羽田空港でした。世界陸上のロゴを手に、日本に到着した選手の方々を適切なバスへご案内する担当です。1日何十名も案内しますが、国旗のついたジャージを着ていたり、体格も他の方と全然違うので、すぐ見分けることができました。
他のボランティアの方には、普段あまり交流のない年代や立場の方や、海外から参加している方もいて、せっかくの機会なので積極的にいろんな方と会話の機会を持つように努めました。皆さんすごく主体的だし、積極的に動く方が多かったです。大いに刺激を受ける機会になり、私のなかのポジティブさも向上した気がします。
セイコーウオッチの特販営業部でオリジナルウオッチの開発に携わっています。業務ではスポーツに直接関わることは少ないですが、大学ではスポーツ心理学を専攻し、マラソン大会に出たりもしています。今回のボランティア募集を見た時も、これはやらなきゃ、と思って即エントリーしました。
担当したのは、東京大学の陸上競技場です。投てき競技のウォーミングアップと練習競技場になっていて、私は場所の設営や、投てき物を手渡ししたり、ドリンク補充などを行いました。会期前の研修と、会期中に4日間、あと会期後の撤収にも参加したので、全部で6日間の活動でした。
国立競技場で働きたかったと思いましたが、実際には想像以上に選手と近かったのが嬉しかったです。競技前の選手たちは、めちゃくちゃ投げ込む人もいれば、少し走るだけの人、ウェイトでトレーニングする人など、まちまちだったことが印象的です。また、やり投げの予選後、まだ一人で練習している日本人選手がいると思ったら、上田百寧選手でした。他の方から「予選落ちのなかでも順位が高かったため、決勝繰り上げの可能性に備えて準備している」と聞き、ほんのわずかな可能性に全力で挑む姿勢に感銘を受けました。
今回、入念に準備するアスリートの姿を目の前にして、自分ももっと何かできることがあるんじゃないのかと自問し、普段の業務でもプロ意識を持てているかと振り返る機会になりました。
株式会社 服部セイコーの時代に入社し41年、和光では18年目で現在は総務部に勤務しています。世界陸上のボランティア募集を知り、これはきっと面白いはずだと直感しました。昨年の春に定年を迎え再雇用となり、新しいことに挑戦する機会が減っていたこともあって、応募を決めました。
担当は国立競技場での競技運営補助です。開幕前に2日、会期中に5日、事前研修2日を含めて9日間の参加でした。主な業務は、競技フィールドのゲート開閉補助や、関係者席の案内・管理業務などです。なかでもゲートの開閉はグラウンドに近く、観客席の盛り上がりもすぐそばで感じられますし、臨場感がありました。間近で見る選手たちの体格の良さにも驚きましたね。公式時計を担当しているセイコーのタイミングチームを初めて間近で見られたことも良かったです。
今回、特別休暇を3日間いただいたことで、会社を挙げて応援下さっていることを実感しました。和光は年に2回、5連休を取れるので、合わせれば8日間あると思うと安心して応募することができました。
再雇用もあと1年数ヶ月ですので、その先何をしようかと考えることも多いのですが、今回の経験を通して、自分の興味があること、人に貢献できること、それから、ボランティアという働きかたの魅力を実感することができました。後輩社員にも、こうした機会を積極的に使われることをお勧めしたいです。
私はセイコーのブースで販売のお手伝いに応募しました。以前も販売の経験はありましたが、スポーツ大会の会場は初めてですし、自分が商品企画に関わった時計がお客様の手に渡るところを現場で見てみたいと思ったのがきっかけです。
担当は会期最終日、朝10時から19時まででした。海外からのお客様も多く、なかには前回の世界陸上で買った時計をまた贈り物用に買いたいという方や、購入特典としてお付けしていたタオルも含めて時計が欲しいという方など、様々なお客様が購入される様子を間近で見れたことは大変いい経験でした。
今までは時計のデザインを中心に担当していましたが、今年から広報部に出向となり、全体的な視野での発信や活動を行う部署にいます。今回の世界陸上での経験は、グループ全体への影響などを考えるうえでも非常に有意義な経験でした。
オフィシャルタイマーをはじめとするセイコーの技術力に加え、個々人が主体的に関われる場となった東京2025世界陸上。「時」を捉え、「時」の価値を伝えるセイコーグループは、社員一人ひとりの働きがいを支援しながら、より明るい未来に向けて歩みを進めています。
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