

レジェンドアスリートたちが中学生に直伝!“バトンと笑顔”をつないだ豪華リレー指導
文 大西マリコ
photo by AFLO SPORT
2023年5月21日、初夏の陽気の中でセイコーゴールデングランプリ陸上2023(以下、セイコーGGP2023)が開催されました。初となる横浜を舞台に、日本最大の競技場・日産スタジアムに国内外のトップアスリートが集結。“世界体感”をキャッチコピーに、日本国内で現地観戦できる唯一の世界最高峰の大会として大いに盛り上がりました。
そんな熱戦が繰り広げられる少し前に、もう1つのイベントが同じ日産スタジアムで行われました。それが「セイコーわくわくスポーツ教室inセイコーGGP陸上2023横浜」です。セイコースマイルアンバサダー(スポーツ担当)で講師を務める福島千里さんを中心に、いつもは小学生を対象に実施しているセイコーわくわくスポーツ教室がバージョンアップ。陸上競技に真剣に取り組む中学生を対象に、福島さんに加え、髙平慎士さん、江里口匡史さん、髙橋萌木子さんの元日本代表のレジェンドアスリートたちによる豪華リレー指導が実現しました。
元日本代表のレジェンドアスリートたちが中学生を直接指導!

特別版のわくわくスポーツ教室には、福島さんに加え、髙橋さん、江里口さん、髙平さんの豪華レジェンドアスリートが指導を担当した
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未来を担う子どもたちに、スポーツの楽しさや素晴らしさを伝える取り組み「セイコーわくわくスポーツ教室」。世界で活躍する本物のアスリートから体を動かす楽しさを学び、世界大会で使用する本物の計測機材でタイムを計るなど、選手と技術という“2つの本物”に触れながらスポーツと時について考える時間を提供しています。
これまで小学生を対象に行ってきた本教室ですが、セイコーGGPでは初めて中学生を対象に開催。さらに、今回は真剣に陸上競技に取り組む中学生が参加対象ということもあり、普段よりも本格的な内容を取り入れた男女混合リレーの授業を実施しました。

広大な日産スタジアムのトラックに中学生たちは嬉しそうに足を踏み入れた
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また、通常は小学校の体育館や校庭などで福島さんが1人で講師を務めることが大半ですが、今回は国際的なスタジアムで4人の講師が直接指導。女子100m・200mの日本記録保持者でセイコースマイルアンバサダーの福島さんをメイン講師に、2008年北京で男子4×100mリレーの銀メダリストに輝いた髙平慎士さん、日本選手権男子100mで4連覇を成し遂げた江里口匡史さん、女子100m日本歴代3位の11秒32の記録を持つ髙橋萌木子さんの3人のレジェンドアスリートたちが集結しました。
4人の元日本代表から指導を受けられるスペシャルバージョン。さらにスタジアムの大型スクリーンには、トラックを走る姿が映し出されるなど、大会本番と同じ仕様です。生徒たちも観客席から見守る親御さんたちも一体となって楽しめる、初めてづくしの豪華なわくわくスポーツ教室となりました。
豪華講師陣たちから学んだ“日本代表レベルのリレー技術”

日本陸上競技連盟の公式マスコット・アスリオンも教室の応援に駆けつけた
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今回、教室に参加したのは、陸上競技部やクラブチームに所属している神奈川県内の中学1~3年生たち。イベント当日の日付である2023年5月21日がセイコーのタイマー風に刻印された黄×黒色のTシャツを着用し、気合十分です!
続々とグラウンドに集まった中学生のみなさんですが、広大で本格的な装置が並ぶ会場に少し緊張気味な様子……。すると、そこへ4人の講師が軽快な走りで颯爽と登場。「わぁ〜!」という感嘆の声と笑顔が溢れ、会場は拍手に包まれました。
まずはメイン講師の福島さんから開会のご挨拶。
福島「今日はセイコーGGPが行われる会場で選手と同じトラックを走ることができる、またとない機会です。午後からの大会では、世界陸上オレゴン22の男子100mで優勝したフレッド・カーリー選手も走ります。多くのトップアスリートと同じ場所で走れる喜びを感じながら、楽しい時間にしていきましょう!」

大会で使われる機材で計測された記録や映像が大型スクリーンに映し出された
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リレーの授業を行う前に、陸上競技をより深く楽しむためのコーナーを実施。世界大会でも使用されるセイコーの計時計測機材の紹介です。スタートやフィニッシュで、どんな機材を使用して、どのように計測しているのかを大型スクリーンに映し出されたCG VTRを見て学びます。
どの選手にも公平にスタート音が聞こえるようにスピーカーが内蔵されている「スターティングブロック」や、1万分の1秒まで計測可能な「フォトフィニッシュカメラ」など、さまざまな機材とその機能に参加メンバーは興味津々。アスリートが、わずか100分の1秒を縮めるために挑戦し続ける裏側には、同時に正確な計時計測のための技術進歩への挑戦があることが伝えられました。
陸上への知識を深めた後は、いよいよレッスン開始!準備運動を兼ねたウォーミングアップを行います。午後からセイコーGGPが行われるトラックで9レーンをめいっぱい使用してスキップや、もも上げしながら走って体をしっかりと温めます。

いよいよ本番のバトンパス。世界と対等にわたり合う日本のバトンパスの技術を教わる中学生たち
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体も気持ちもほぐれたところで、バトンパスの練習に移動。レジェンドアスリート講師の髙平さんから「みなさん、日本チームのバトンパスは上手だと思いますよね?今日はそのコツをたっぷりお伝えします。」と言われると、生徒たちは真剣な眼差しで髙平さんら講師を見つめて指導が待ちきれない様子でした。
レクチャーテーマは、リレーの基本「オーバーハンドパス」と「アンダーハンドパス」のやり方。レースの勝敗を左右すると言っても過言ではないバトンパスに磨きをかけるべく、指導を仰ぎます。髙平さんと髙橋さんが、それぞれのパスの良い点悪い点や上手に行うためのポイントを解説してくれました。
髙平「オーバーハンドパスは後ろに腕を伸ばす分、距離を稼げます。確実に渡せる安心感がありますね。しかし、走る姿勢が崩れるためバトンを受け取った後のダッシュが遅くなるデメリットもあります。一方のアンダーハンドパスは、走る姿勢を崩さずに受け渡しできるので加速がスムーズなのが利点です。オーバーハンドパスより難しいので、練習やコミュニケーション量が重要になります。」

かつてのライバルであり、戦友だった髙橋さんと福島さんがバトンを受け渡しの見本を見せる
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髙橋「オーバーハンドパスは腕を高く上げないといけないので走りがブレやすい点が懸念です。受け手は、バトンをもらう時に掌をしっかりと相手に向けるのがポイント。腕だけを使うのではなく、肩まわりの柔軟性も大事ですよ!」
約30分間、学校ごとのチームに分かれて、レジェンドアスリート講師たちの指導を真剣に聞きました。練習の最後には、レジェンドアスリート4人のバトンパスを間近で見られるという願ってもない機会が到来!福島さんから髙橋さんへの「オーバーハンドパス」、髙平さんから江里口さんへの「アンダーハンドパス」が披露されました。

練習では成功しなかったバトンパスを本番でクリアするところが、さすがレジェンドアスリートだ
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結果は、4人全員バトンパスに成功!「昨夜の練習では1度も成功しなかった(笑)。」と語る髙平さん・江里口さんペアはホッと安心した表情を見せました。江里口さんが「タイミングがぴったりだった。こういう本番に強いところも僕たちはレジェンドですよね!」とユーモアたっぷりに話し、会場を盛り上げました。
教室の最後は、参加チーム13組による「男女混合4×100mリレー」。選手となる生徒のみなさんは、この日教わったことを存分に生かそうと各自ウォーミングアップを行います。

トップアスリートが世界大会に臨むのと同じ仕様でリレーに臨んだ中学生たち
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レース開始前には、世界大会さながらの紹介もありました。「第1レーン、○○中学校、○○選手!」と呼ばれ、大型モニターに姿が映し出されると皆手を大きく上げて一礼。その堂々とした姿はすでに立派なアスリートでした。
そして、全13組による2レースが終了。男女混合4×100mリレーで1位に輝いたのは、48秒43のタイムだった大井町立湘光中学校チーム。福島さんからヒーローインタビューを受けたアンカーの選手は「周りがみんな速かったけど頑張りました。最後は減速してしまい悔いが残っています。」とコメント。「意識が高いですね!」と福島さんを驚かせました。

優勝した大井町立湘光中学校チームには、セイコープレミアムシートチケットが贈呈された
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優勝した大井町立湘光中学校チームには、セイコーグループ 服部真二代表取締役会長兼グループCEOより、セイコーGGPのセイコープレミアムシートチケットを贈呈。
中学生とは思えないほどレベルの高いレース展開に、服部CEOは「50秒切れるかな?と思っていましたが、48秒台という結果に驚きました。男子100m日本記録保持者であり、Team Seikoメンバーである山縣亮太選手の背中を追いかけて、未来に向かって頑張ってください!」と参加したみなさんにエールを送りました。
「自分たちが楽しむこと」で実現した息ぴったりのチームワーク

教える自分たちがまず楽しんだというレジェンドアスリートの4人。
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トップアスリートと同じ機材、景色を体感しながら学んだ「セイコーわくわくスポーツ教室 inセイコーゴールデングランプリ陸上2023横浜」。ともに日本の陸上競技界を牽引してきたレジェンドアスリートの4人に、講師として参加した感想を聞きました。
福島さん、レジェンドアスリートのみなさん、本日はお疲れ様でした!講師として臨んだ「セイコーわくわくスポーツ教室」はいかがでしたか?
福島「セイコーGGPという大きな大会が開催される会場、環境で子どもたちが陸上を体験できたことが素晴らしく、貴重な機会になったと思います。普段は私1人で指導を行っていますが、1人では伝えきれない部分もあったはずです。今回、この4人で指導できたことに価値を感じています。リレーのチームワークの重要性を、4人が力を合わせることで伝えられたと思います。今日は集まっていただき、すごく感謝しています。」
髙平「生徒のみなさんが、僕たちが伝えたいことに対してしっかりとパフォーマンスで応えてくれて素晴らしかったです。教えている僕たちが、中学生のみなさんの笑顔をまぶしく感じていました。参加者の中から日本を代表するトップアスリートが出てくれたら本当に嬉しいですね。指導を通して僕たちが夢を見させてもらった気持ちです。」
髙橋「さまざまなレベルの子どもたちがいる中で、全員が共通して『楽しかった!』と言っていたことが何よりも嬉しかったです。きっと福島さんやセイコーさんがこの教室で伝えたいと思っていることを形にできたのではないかと思います。」
江里口「今日は教える僕たち自身が楽しむことを重視していました。子どもたちも本当に楽しんでいて、素敵な笑顔がたくさん見られて良かったです。みんな真面目で、純粋な子たちばかりでした。一緒に活動していく中で『陸上が好きなんだな。』『陸上を楽しんでくれているんだな。』と実感できてすごく嬉しかったです。」
福島さんは、初の中学生を対象にした「わくわくスポーツ教室」でしたが、小学生対象の教室と比べて意識したことはありましたか?
福島「基本的には小学生の教室と変わらず『楽しんでもらいたい。』という気持ちで接していました。とはいえ、今回参加していただいた中学生のみなさんは陸上に本格的に取り組んでいるので、子どもたちがこの教室でどういったことを得たいのか、望んでいるのかを常に意識しながら指導しました。」
レジェンドアスリート講師のみなさんに質問です。ともに選手として切磋琢磨してきた福島さんの“講師ぶり”はいかがでしたか?
髙橋「彼女のことは中学3年生の頃から知っていますが、『こんなに喋れるようになったんだ!』と感動しました(笑)。やっぱり彼女にしか伝えられないことがあると思います。日本短距離界の女王・福島さんだけが持つ感覚を言葉にするのはとても難しいはずです。でも今日、彼女が指導する様子を間近で見たらきちんと言語化できていて、しっかり考えを伝えられていて感動しました!」
髙平「中学生という多感でシャイな子が多い世代に対して、スムーズにコミュニケーションを取れているのが印象的でした。僕は少し厳しい感じになりがちなのですが、福島さんが持つほんわかした空気感や明るさのおかげで生徒さんたちも心を開いていて、正直羨ましいなと感じました(笑)。今回4人で講師をしましたが、何よりも彼女が中心にいることによって、福島さんの魅力に惹きつけられてみんなで同じ方向を向いて取り組めたと思います。」
みなさん、大絶賛ですね!最後にレジェンド講師陣の感想を聞いた福島さんの気持ちと、今後の「わくわくスポーツ教室」での目標を教えてください。
福島「こんなに褒めていただけるなんて……!嬉しいです、ありがとうございます。今回は初めての試みが多く、規模も大きかったので不安な気持ちもありましたし、指導中も必死でした。でも、事前ミーティングの段階からみんなで一緒に作り上げてきて、たくさん助けてもらったおかげで素晴らしい教室になったと思います。
私1人の力ではここまで盛り上げられなかったと思いますし、4人だからこの教室ができたのだと感じています。みなさんの感想を聞いてモチベーションが上がったので、これをきっかけに1人でももっと頑張りたいです!それと同時に複数だからこそ伝えられることもあるなと感じたので、またこのメンバーと一緒に講師を務めたいです!」
セイコーわくわくスポーツ教室 in セイコーゴールデングランプリ陸上2023横浜

セイコースマイルアンバサダー(スポーツ担当)
福島千里
北京・ロンドン・リオデジャネイロと3大会連続で世界の大舞台に出場。女子100m、200mの日本記録保持者。日本選手権の100mで2010年から2016年にかけて7連覇を成し遂げ、2011年の世界陸上では日本女子史上初となる準決勝進出を果たした。引退後は「セイコースマイルアンバサダー」に就任。「セイコーわくわくスポーツ教室」などの活動を通じて次世代育成に貢献している。