取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
2022年6月、新たに歴史を体感できる場が誕生しました。場所はセイコー創業の地、銀座。街のランドマークのひとつでもある和光本館です。
歴史を物語る重厚な外観はそのままに、新たに「SEIKO HOUSE GINZA(セイコーハウス銀座)」という名前にリニューアル。地下1階から4階の店舗「和光」はこれまで通り営業を継続し、5階から屋上はセイコーの世界観や文化を発信する場となりました。
絶えず銀座の街に「時」を伝えてきた時計塔と、新しく始まるこれからのことについて、セイコーグループ株式会社で広報を担当される眞田伸子さんにうかがいました。
SEIKO HOUSE GINZAについて教えてください。
現在の建物は2代目で、関東大震災からの復興の証として1932年に完成したものです。火災や地震を考慮して頑丈な天然石が施され、屋上には時計塔が作られました。この時計塔は4面に向けられた時計があり、正時のたびにチャイムを鳴らし、街を往来される方々に時を知らせる役目をしてきました。当時はまだ時計を持ち歩く習慣がない人も多かったため、暮らしの中に時間という概念が浸透することにも貢献してきたと思います。
竣工から90周年を迎えましたが、これまで外観はほとんど変わることなく、一方で銀座の街はどんどん変化を重ねてきました。時計の会社にある時計塔ですから、高い頻度で丁寧にメンテナンスを行い、常にずれることなく、現在も時をお知らせしています。文字通り、銀座の街と共に過ごしてきた建物といえるでしょう。
セイコーの始まりは、創業者である服部金太郎が時計の小売りと修理のお店としてスタートした「服部時計店」でした。やがてこの場に社屋を設けた創業者は、この街をとても愛していたと思います。当時の写真を見ると、竣工当時の銀座にはまだ高い建物も少なく、路面電車が走ったりしていました。誰もがスマホですぐ時間を知れる今とは「時」に対する気持ちも全く違っていたため、時計塔が伝えることの重要性も大きく異なるものだったと思います。
今ではこの時計塔を銀座のシンボルと言っていただいたり、建物のデザインにロマンを感じてくださるお声も多く、時代が変化した今もここでお客さまをお迎えできること自体、大変感慨深いものがあります。銀座という街に守られてきたとも言えるのではないでしょうか。
今なぜここをリニューアルされたのでしょうか。
90周年という区切りを迎え、これまでセイコーとして繋いできた気持ちを表すようなリニューアルを行いました。今回しつらえを新しくしたのは5階、6階、7階、そして屋上です。
5階には90年前の竣工時から使われていた執務室があり、重厚なこの雰囲気を保ったままゲストラウンジとなりました。事業各社のお客様をお迎えしたり、今後のウェビナーなど国内外の発信に向けた環境も整備しました。6階はこれまで「和光ホール」として芸術家や作家など文化的な展示等を行ってきた場所ですが、名称を「セイコーハウス銀座ホール」に変更し、これまで同様にアートとの共創を予定しています。展示をご覧くださるお客さまにお越しいただいたり、グループ全体の展示を国内外に発信する予定です。
そして7階はセイコーのものづくりを体験したり工房として改修し、屋上はウッドデッキとベンチを施した「セイコースカイガーデン」として、体験型イベントやブライダルの撮影といった活用を考えています。
安全上の理由もあり、残念ながらいつでも誰でもご利用いただけるわけではないのですが、これからはこの場の活用にふさわしい機会を企画していきます。これまで和光にお越しくださっていたお客様はもちろん、初めてお越しくださる方にもご来場いただきやすいように考えていくつもりです。
先日は「セイコーわくわく時計教室」の「日時計編」が、セイコーミュージアム銀座と屋上を利用して開催されました。今までも限定的に屋上をご利用いただいたことはありましたが、たくさんの親子の方々に喜んでいただく光景を見て、改めてリニューアルした意味があったと思いました。
90年の間に大きな建物も増えたため、時計塔が4面あることはあまり知られていないと思います。屋上にお越しいただくと時計塔を間近で見ていただけますし、時計塔の前での撮影もきっと、良い思い出にしていただけるのではないかと思います。
SEIKO HOUSE GINZAがもたらす価値についてはどのようにお考えですか。
色々ありますが始まったばかりのいま言えることとして、まずひとつに内部的な効果を感じています。ブランドのはじまりでもあるこの館に「SEIKO」という名前がついたことで、和光以外の事業会社の社員にとっても、改めてここが我々の聖地だと意識しやすくなりました。実際、6月のオープン以降、グループ内事業会社で屋上や5階を利用してお客様をお招きすることも増えています。この場所から「自分たちの事業を発信しよう」という共通意識が出ているようです。
今は社会全体に向けたサステナビリティが問われていますが、セイコーは元々、高品質な時計を作ることで長く使っていただけるよう、自社製品自体にサステナビリティの意識を反映して参りました。それがこのSEIKO HOUSE GINZAができたことでさらに直接的、あるいは間接的にも社会貢献ができると考えています。
例えばここで、企業としてより高度な商談を行うことや、芸術家や作家などの紹介を通して日本の文化を守ることにも貢献できると思います。かつては日本の社会が文化を下支えしてきた歴史があり、そうした慣習によって現代まで長く続いてきた文化もたくさんあります。
私たちは、SEIKOという自分たちのブランドだけを守るのではなく、日本の会社である矜持をもって、国内の文化もしっかり守りたい。私自身、約30年にわたる勤務を通して、上層部の思いをそんな風に理解してきました。そもそも90年の歴史をもつこの建物を、さらに維持すること自体、文化の継承と持続可能な思いを体現していると思うのです。
また「セイコーわくわく時計教室」のような次世代に向けた取り組みも非常に重要だと考えています。それも一方的に提供するのではなく、お子さんたちにしっかりと学んで満足いただけること、そして、いつかこの日のことを思い出すようなことがあれば嬉しいです。
いつか、どれほど先の将来であっても、この日に、普段は誰も入れない銀座のビルの屋上に上がったことや、古代の人と同じ仕組みの日時計を作ったことを思い出してほしい。それが何かの折に「あの時は楽しかったな」とか「あれ好きだったな」と思い出す原体験があると、人生を考えたり決断するときに大切な指針になると思うんです。大人になって銀座を歩きながらそんなことを思い出したり、もしかして、いつか当社に入社してくれたりするようなことがあったら、誰かの人生の役に立てたことになります。少し大げさかもしれないですけど、それができたら最高のサステナブルな施策といえるのではないでしょうか。
もちろんお子さんだけではなく、これまで和光をご利用くださっていたお客様をはじめとする大人向けの企画もしっかり考えているところです。6月にリニューアルして、今はなんとか順調に滑り出したと実感し始めたところですので、これからここがどんな場になっていくか、わたし自身もSEIKO HOUSE GINZAに期待しています。
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