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「優しさ」って、何だろう。
「優しさがあふれる社会をつくる」ために、私たちは何ができるのだろう。

世界157ヵ国から、2万人の子どもたちが考えた「優しさ」が寄せられた「国際ユース作文コンテスト」。
作文コンテストへの応募条件は、自身が考える「優しさ」を、10実践すること。この作文コンテストの前に、世界中で、2万人×10の「優しさ」が行われたのだ。

「優しさであふれる社会をつくる」をテーマに開催された第20回「国際ユース作文コンテスト」で、最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞したナイジェリアのビクトル君(14歳)と、ロシアのイリヤ君(22歳)に、彼らが考える「優しさ」について聞いた。

あなたは今日、どんな「優しさ」を実践しますか?

ビクトル君 写真

「子どもの部」で最優秀賞を受賞した オルタヨ・イフェダヨ・ビクトル君(ナイジェリア・14歳)

Kindness is Free ”優しさ”とは、”無償の愛”であると、彼が教えてくれた

ナイジェリアの中学校で学生生活を送るビクトル君。あなたが考える「優しさ」を教えてください。

ビクトル君 「ある日、町一番のお金持ちが言いました。『優しさなんてものは、弱い人間がもっと弱くてどん底の人間にみせるものさ』と。彼が亡くなった日、葬儀の会場には、9人しかいなかった。
僕が思う優しさは、”無償の愛”です。僕には、”優しさ”そのものの存在であった、オカフォーという年の離れた友達がいました。オカフォーは、子どもの頃に両足を失い、とても苦労した人です。でも彼は、スケートボードに乗りながら、いつも町を掃除し、草を刈って、子どもやお年寄りを元気づけていました。足を失くしても、貧しくても、彼がいるところにはいつも喜びと笑顔があった。

でも、彼は、結核にかかり亡くなってしまいました。その日、町中の人が彼の死を嘆きました。彼は、この町のどのお金持ちよりも多くを与えた人だった。彼がいなくなって数ヵ月後、人々が怖がっていたヘビがまた出るようになり、道をわたる時にオカフォーが手を貸してあげていたお年寄りの女性は、制限速度を超えて走ってきたバイクにひかれて亡くなった。

オカフォーがいなくなったことで、ポッカリと大きな穴が開いてしまった町を見て、僕はオカフォーの役割を引き継がなければいけないと思い、子ども31人で”オカフォー・メモリアル・グループ”を結成しました。僕たちは子どもだし、体力も十分ではない。でも、オカフォーがやっていたことを自分たちの手で始めました。そして、気がついた。オカフォーの行いは、施しとしてではなく、純粋な愛と優しさからだったことに。

オカフォーに、どうしてみんなに優しくするのか聞いたとき、彼はこう言った。「ライオンだって仲間に優しくするだろ。だから僕もみんなに優しくするんだ。」と。
オカフォーは、すべてを失っても、周囲へたくさんの”優しさ”を与え続けてくれた。彼にとって”優しさ”とは、彼の心が生み出す自然の愛だったのだと思う。

(左)子どもたちをまとめるビクトル君 写真(右)町を守る子供たち 写真

(左)『オカフォー・メモリアル・グループ』のリーダーとして子どもたちをまとめるビクトル君(右)オカフォーの愛を受け継ぎ、子どもたちの力で町を守っている

写真 公益財団法人 五井平和財団

何百万人ものアフリカの生徒たちが、読書や作文の習慣を身につけ、”夢”を描く未来につなげたい

(左)オカファーの言葉 写真、(右)図書館の様子 写真

オカフォー・メモリアル・グループは、図書館の整備も行っている。図書館には、オカフォーの言葉が飾られている。

写真 公益財団法人 五井平和財団

ビクトル君 「今、僕の学校では、僕がこのコンテストで受賞した話題で持ちきりです。僕は、今回のコンテストの賞金を、すべて図書館建設に寄付します。僕の今回の受賞が、何百万人ものアフリカの生徒たちが読書や作文の習慣を身につけるきっかけとなり、そして”夢”を描くことができる未来につながればと願っています。」

Kind Souls Make the World a Better Place 優しい魂が 世界をより良い場所にする

イリヤ君 写真

ロシアの大学で言語学を学ぶイリヤ君。イリヤ君にとっての「優しさ」とは?

イリヤ君 「私は車椅子で生活しており、生まれた時から”優しさ”に囲まれて生きてきました。私にとって”優しさ”とは、大げさな言葉ではなく、他の人が私のためにしてくれた行為そのものです。家族、医師、友達、先生。周囲の皆がくれる優しさは、いつも私が前進するためのエネルギーの源でした。彼らの優しさがなければ、私の毎日はもっとずっと厳しいものだったでしょう。だから自然と、自分も社会に”優しさ”を還元することを意識するようになりました。みんなの優しさが、私に”他の人に親切にしたい”という気持ちを持たせてくれたのです。

私が社会に示すことができる”優しさ”のひとつが、語学力を生かしたボランティア活動です。私は周囲の優しさのおかげで、大学の外国語学部に進み、能力を身につけることができました。だから、人々の役に立つために「自分にできることは何か」を考えました。

今、私は、染色体の問題を抱える子供やその家族の力になるために、医療冊子やコミック本を翻訳する活動に参加しています。病気に関する情報を英語からロシア語に翻訳し、情報を必要とする人々が母国語で読めるように提供しているのです。時には、病に苦しむ人々の声を英語に訳して発信することもあります。自分の力の及ぶ範囲で、そのような子どもたちの力になれることを嬉しく思います。

この受賞がきっかけで、身の回りの人々や地域、社会に対して責任のようなものを感じています。こうした賞をいただいた代表として、これまで自分が受け取ってきた優しさや幸せを、喜びという形で社会に還元していきたいです。喜びは人の心に響きます。人々の心が明るければ、世界がより優しくなると思います。」

イリヤ君をサポートする医師陣 写真

イリヤ君をサポートする医師陣。「彼らは経験豊富で優しいだけでなく、その仕事はまさに英雄的と言えるものです。」

写真 公益財団法人 五井平和財団

(上)ピアノを演奏するイリヤ君 写真、(下)イリヤ君 写真

音楽が大好きなイリヤ君。彼のピアノの演奏に仲間が集まります。

写真 公益財団法人 五井平和財団

イリヤ君 「学校に行けるようになると、そこでは先生や友達から、優しさを受け取りました。先生たちは、私に知識だけでなはく、彼らの一部も与えてくれた。私が寂しい思いをしないよう、勉強を面白くしようとしてくれました。学部やグループの仲間たちはとてもフレンドリーで、いつも僕の手助けをしてくれます。」

イリヤ君が疾病を持つ子どもたちやその家族向けに翻訳した本 写真

イリヤ君が疾病を持つ子どもたちやその家族向けに翻訳した本。今年は16冊の小冊子とコミック本を出版した。

写真 公益財団法人 五井平和財団

(上)作文を発表するビクトル君 写真、(下)作文を発表するイリヤ君

五井平和財団が開催したフォーラム「優しさで世界は変えられる?」で、作文を発表する二人。

写真 公益財団法人 五井平和財団

お互いの作文を読んでどう感じましたか?

イリヤ君 「オカフォーは”優しさ”を体現する生き方をして、コミュニティを動かしたと思います。彼が亡くなった後も、こうしてその”優しさ”が次の世代に引き継がれているのですから。私も彼のように、周りにポジティブな影響を与えられるような人になりたいです。」

ビクトル君 「イリヤさんの前向きな姿勢がすばらしいと思いました。」

優しさのバトンをつなぐ そのバトンは、あなたの中にある

どうしたら、世界により優しい人が増えると思いますか?

ビクトル君 「自分のことだけではなく、仲間のことを考えることだと思います。何かを必要としている人に、自分が渡せるものを渡したらいい。その行為はバトンのように、人から人へと渡っていくはずです。渡すものは、なんでもいいと思います。ちょっと荷物をもってあげるとか、話しかけるとか、お金があるならお金でもいいかもしれない。もっている力を独り占めしないことが重要です。誰かの役にたつことは、自分のことも幸せな気持ちにしてくれます。そして、自分ひとりでは実現できないような大きな夢や目的をもつこと。僕は母からいつもそう教えられてきました。優しい気持ちになれない時もあります。でも、そんな時にも優しさを示していくために、一人では描けないような大きい夢をみていくことが大事だと思います。」

ビクトル君とイリヤ君、インタビューの様子 写真

周囲の”優しさ”がいつも自分を導いてくれたというイリヤ君(右)。大学に通い始めた時、キャンパスには自分が入るためのスロープが一つもなかった。でも、学長の”優しさ”から、建物のエントランスが改修され、今では誰でも大学の校舎をくぐり、専門的な知識を学べる機会ができている。

イリヤ君 「ビクトル君の意見に共感します。まず、自分が”優しさ”を実践すること。小さなことでもいいから、社会に貢献できると思うことをやってみることが大切なのではないでしょうか。私だったら、翻訳のプロフェッショナルになること。また、もっと知識や技術を身につけて、教師となってそれをみんなに伝えていくこと。自分が知っていることや体験したことを人々とシェアすることも、優しさのひとつの形だと思います。知識や経験を独り占めしないということですね。」

ビクトル君とイリヤ君、インタビューの様子 写真

では反対に、何が優しくなることを阻んでいると思いますか?

ビクトル君 「一人ひとりの凝り固まった考え方だと思います。これが正しい、自分はこうあるべき、という考え方に縛られている人は、自分に夢中で、他の人を思いやる余裕はない気がします。」

イリヤ君 「優越感や差別心は、何かを独り占めしてしまい、優しくなることを邪魔します。また、時々人は、受け取ることばかりを望んでしまう。与えることはせずに、受け取ることだけを要求してしまう。でも、それは間違っている。私は常に、人に何が与えられるかを考えます。与えるだけで終わることはありません。常に、自分が与えたものが相手を変え、周囲に影響を与え、そして最後は自分に返ってくるのです。だから、人には自分がしてもらって嬉しいことをする必要があると思います。受け取るのももちろん嬉しいことですが、誰かに喜んでもらえることを自ら行う方が、より幸せな気持ちになれますよね。」

将来、どんなことをしたいですか?

ビクトル君 「本がとても好きなので、作家になりたいです。もう一つの夢は、エンジニアになること。機械をみると、分解してみたくなります。でも、今回いただいた時計は、分解しません。(笑)将来の夢ではないけど、生まれ変わったらイルカになりたいです。泳ぐのが大好きなのと、イルカは世界一フレンドリーで優しい哺乳類だから。」

ビクトル君 写真

日本の印象は、「先進的で、きれいで、人が親切」。ビクトル君が通うブッカーズ・インターナショナル・スクールでは、今回の受賞をきっかけに、次年度からは日本語が学べるようになるとのこと。もちろん、ビクトル君も日本語に挑戦する予定だ。

写真 公益財団法人 五井平和財団

イリヤ君 写真

演劇、クラッシック音楽、武道の鑑賞が好きだというイリヤ君は、日本の伝統音楽や漫画、ゲームのファンでもある。

イリヤ君 「私は、教師になりたいです。そして、翻訳も続けていきたい。今は英語とフランス語を勉強していますが、これから多くの国を旅して、世界の遺跡を訪ねたり文化に触れていき、もっと多くの外国語にチャレンジしてみたいと思っています。」

ビクトル君、イリヤ君へセイコープロスペックスの「Save the Ocean」限定モデルを贈呈 写真

最優秀賞の二人に、セイコー プロスペックスの「Save the Ocean」限定モデルが贈呈された。このモデルは海洋保護活動を支援するキャンペーンモデルで、売上金の一部が活動資金として寄付される。ダイヤルには、保護種に指定される「ホホジロザメ」をモチーフとし、ダイナミックな波を模したデザインが施されている。セイコーが取り組む「優しさ」の一つを、このモデルから感じることができる。
ビクトル君着用モデル:SBDL057 イリヤ君着用モデル:SBDL059 

取締役 金川宏美 写真

ビクトル君とイリヤ君に時計を進呈した、セイコーグループ取締役 金川宏美は語る。「若者たちのピュアな視点と真っすぐな表現が持つ作文の迫力に、毎年たくさんの気づきと驚き、感動をいただいています。彼らの純粋な目を通して紡ぎだされた言葉の数々は、大人には書くことができない、かけがえのないものです。未来を担う若者たちの意見を広く発信していくことを、これからもセイコーグループは応援していきます。」

ビクトル君、イリヤ君らの集合写真 写真

ビクトル君は担任の先生と、イリヤ君はお父さんと来日した。「ビクトルは、とても情熱的で、社会的な意識が高い生徒です。新しいことにもどんどん挑戦する明るい子です。」と語る先生。イリヤ君のお父さんは「イリヤは頑張り屋。決めたことを最後までやり抜く粘り強さと集中力があります。」と息子を表現した。

優しさで世界は変えられる?

あなたの考える「優しさ」の実践を、まずは身近な人へ、そこから地域へ、社会へ。
自ら「優しさ」へ向けて動きだすことで、その“わ”は、どこまでも広がっていくだろう。
それこそが、地球上の誰一人取り残さず、持続可能な世界を実現するための「SDGs」の取り組みの一歩なのかもしれない。

公益財団法人 五井平和財団「国際ユース作文コンテスト」ホームページ

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