取材・文 大西マリコ
写真 落合直哉
セイコー次世代育成活動である「時育®」がついに沖縄県に初上陸!「時育®セイコースポーツクリニック in 沖縄」として、陸上競技では初となる中長距離を専門とする中高生を対象としたイベントが実施されました。しかも講師はTeam Seiko新加入メンバーであり、13もの日本記録を保持する田中希実選手。日本陸上界における第一人者が、沖縄の県大会等で活躍する中高生たちに直接指導を行いました。
そして、イベントMCは田中選手とYouTubeでコラボレーションする仲であり、セイコースポーツファンリーダーとして活動するたむじょーさんが担当。時育®で初の講師を務める田中選手をサポートしつつ、自身の専門分野である中長距離の選手たちと積極的に交流しました。今回は沖縄での田中選手の初講師の模様や、イベント参加者の声、講師やMCのインタビューなど当日の様子を余すことなくお届けします。
あいにくの悪天候に見舞われながらも、沖縄県内在住の50人以上の中高生が「時育®セイコースポーツクリニック in 沖縄」に参加しました。イベントの開始前から小雨が降り出してぐずついた天気……。しかし、そんな不安を吹き飛ばすかのように颯爽と走りながら、講師の田中希実選手が登場します!
日本陸上界のスーパースターとの交流を心待ちにして整列していた生徒たちは、一気に色めき立ちます。憧れのトップアスリートを目の前に一同が笑顔で拍手喝采を送り、中には胸に手を当ててときめく生徒もいるなど、興奮と喜びを隠せない様子でした。
全員が集まったところで、講師を務める田中選手とたむじょーさんの自己紹介が始まりました。
田中選手「みなさん、こんにちは!Team Seikoに加わりました田中希実です。今日はあいにくの雨ですが、みなさんと同じようにこの機会を楽しみにしていました。実は、私もたむじょーさんも雨女雨男で、2人とも張り切りすぎて雨を降らせてしまいましたね(笑)。天候には恵まれませんでしたが、みなさんと一緒に走ることを楽しめる1日にしたいと思いますので、よろしくお願いします!」
たむじょーさん「どうも!たむじょーです。僕は箱根駅伝の出場経験があるように、中長距離が専門分野です。そして、今回は競技のまさにトップアスリートである田中選手と時育®セイコースポーツクリニックで一緒にみなさんを指導できることにワクワクしています。僕自身の経験を活かしつつ、田中選手の進行を楽しくサポートできるよう頑張りますのでよろしくお願いします!」
イベント開始の挨拶の後は、体育館へ移動し、本格的な指導がスタート。田中選手はまず、自身が日常的に取り入れているウォーミングアップメニューをレクチャーしました。
呼吸を効率よく行うための胸郭ストレッチや、走りのパフォーマンスに直結する胸椎の動かし方、股関節と胸郭の連動をよくするストレッチなど、田中選手が実践的なルーティンを惜しみなく伝授します。
ヨガの「英雄のポーズ」から上半身と腕をひねるストレッチでは、身体がぐらぐらと揺れてバランスを崩す生徒が続出。これについて、「あえてバランスの取りにくい動きをすることで、上半身と下半身のバランスの取り方を身体に落とし込むようにしています。」と冷静に語る田中選手。軸がまったくブレない驚異の体幹を披露し、体勢を保つのが難しいストレッチの動作を淡々と説明しながらこなします。
ストレッチは単に身体をほぐすために行うのではなく、「身体のどの部分をしっかり使っているのか?」を実感しながら、これから本格的なトレーニングをする前の『身体への意識付けをすること』が大事だそうです。身体の動きをしっかり理論立てて説明できる点も、トップアスリートの田中選手だからこそであり、その説明の1つひとつに説得力がありました。
続いて、ストレッチ同様に田中選手が大切にしているウォーミングアップの1つでもある「もも上げ」を実践。最初の10秒はゆっくり太ももを引き上げ、次の10秒は素早くももを上げて緩急をつけます。このようにウォーミングアップで一気に息を上げてから実際の走りに入ることも多いそうです。
「上体は、まっすぐ起こして頭が引っ張られている状態をキープしましょう!骨盤を高くする意識をしながら目線は前へ!」と具体的で分かりやすい指導を徹底。動作を的確に言語化できる点が田中選手の持ち味です。
身体がほぐれたところで、次は体育館内を軽くジョギング。列をなして軽く走る最中で、田中選手から世界のトップランナーのトレーニング法について興味深い小話がありました。
「ケニアの選手たちは短い距離をゆっくりとしたペースで走るというウォーミングアップしかせず、その後にいきなり変化をつけて、スピード練習に取り組むんですよ。今日は私がケニアで学んだ練習スタイルと似たカリキュラムを実践してもらいます!」とメニューの意図を説明しました。
田中選手が、ウォーミングアップの後に組んだメニューが「シャトルラン」でした。音の合図に合わせて徐々にペースを上げていく往復持久走であり、かなりのタフさが求められます。
体育館の左右を往復する際に端でギュッと踏み込んでUターンすることで、ストレートに走り続けるよりも足腰に負荷がかかります。さらに、音のテンポが上がるにつれ、走るスピードもアップ!まさに中長距離走に欠かせない持久力アップに最適なトレーニングに、生徒たちは汗を流しながら必死に食らいつきます。
奮闘する生徒たちに触発され、たむじょーさんも急遽シャトルランに参加!ランニング×コメディYouTuberとしての威信をかけて、「まだまだ学生さんには負けられない!」と気合いが入るたむじょーさん。
結果は男子生徒との一騎打ちになるまで貫録の走りを見せましたが、最後は生徒が粘り勝ち!地元の仲間がたむじょーさんを打ち破る展開となるなど、予想外の熱い戦いに盛り上がり、体育館は応援と拍手に包まれました。
たむじょーさんの熱い走りを目の当たりにし、会場にいる誰もが「田中選手がシャトルランをしてみたらどれくらいすごいのだろう?」と思ったところでしたが、肝心の田中選手は「私、ターンが上手くできないので、やってみたらきっと壁にぶつかると思います(笑)」と語り、会場の笑いを誘いました。
まだ雨はやまないものの、「せっかくだからトラックを思いっきり走りたい!」ということで、後半は、再び外に移動!10000mリレーにチャレンジしました。先ほどのシャトルランで決定したチームに分かれ、1チーム14人×4チームでの対決。田中選手の「よーい!スタート!」の掛け声でリレーが開始されました。
リレーのタイムは、世界陸上などさまざまなスポーツ競技大会で計時計測を行ってきたセイコーのタイマーで計測。100分の1秒単位の計時を実現する正確さで、未来の記録へとつながる大切な時を刻みます。
1人400mを複数回走るこのリレー。400mを全力で走るのはかなりキツイですが、それを複数回こなすというエンドレスリレー方式で行うため、生徒たちも必死です。
たむじょーさんが「男子10000mの世界記録はウガンダのジョシュア・チェプテゲイ選手が記録した26分11秒です。みなさんも1周あたり62秒8のタイムを出せば世界記録を超えられます!みんなのパワーで雨も吹き飛ばしちゃいましょう!」とユーモアたっぷりに鼓舞。
一方の田中選手は「速く走ることも大事ですが、雨でトラックが滑りやすいので一番大事なのはケガをしないこと。諦める時はきっぱり諦めることも強さです!」と、第一線で活躍し続ける現役選手ならではのアドバイスで生徒たちを気遣う優しさを見せます。
田中選手と、たむじょーさんとともに学んだことを活かしながら、一生懸命走る生徒たち。出番の終わった人も「ファイトー!」「もう少しだよ!」と力いっぱい応援し、チーム一丸となって10000mを最後まで走り切りました。
結果は1位チームが27分16秒。世界記録には惜しくも届きませんでしたが、田中選手は「何事も、挑むことに意味があります。挑戦をやめてしまったら何も始まらないので、これからも走り続けましょう!」と生徒たちを激励しました。
雨天にもかかわらず熱心に学ぶ姿勢を見せた沖縄の中高生たち。一流アスリートから直接指導を受ける「時育®セイコースポーツクリニック」は、単に走る技術だけでなく、時間の大切さや挑戦することの意義も学べる貴重な機会となりました。生徒たちの陸上競技に対するモチベーションも大きく高まったようです。セイコーは、今後もTeam Seikoのアスリートたちとともに、次世代を担う若者たちの挑戦を応援していきます。
「時育®セイコースポーツクリニック in 沖縄」に参加した県内のトップランナーである中学生と高校生に感想を聞きました。
スポーツクリニックに参加してみていかがでしたか?田中選手とたむじょーさんから指導を受けた感想を教えてください。
男子中学生「自分たちがなかなか関わることのできないプロの方々に直接教えてもらえる機会は貴重でした。田中選手のウォーミングアップはシンプルなのに、しっかりとさまざまな部位の動きを効果的に意識できる内容で、とても勉強になりました。たむじょーさんも優しく接してくれて、思っていた以上に親しみやすかったです!」
女子高校生「田中選手が普段しているウォーミングアップを間近で見られる機会はなかなかないので、この経験を通して多くのことを学べました。特に大会前は私たちがジョグを重視するのに対し、田中選手はストレッチやケアを大事にしていると知り、明日からの練習に取り入れていきたいです!」
田中選手の走りや練習方法で特に印象に残ったことはありますか?
男子中学生「田中選手の走りは体幹が安定していて軸がぶれません。小柄な身長を活かしたピッチの速さと、上半身の腕振りなど全身の連動が力強い走りにつながっているのだと思います。これからは高校で都大路(※)、大学では箱根駅伝を目指し、今回学んだことを活かしていきたいです!」
女子高校生「実際に一緒にアップをさせていただいたとき、軽いジョグでもピッチが速く、腕の振りも深いことに気づきました。私たちと身長は同じくらいなのに、足がしっかりと太ももまで上がる走り方は参考になります。普段疲れると上半身がぶれるので、背筋を伸ばすことを意識して練習に取り組みます!」
(※)全国高等学校駅伝競走大会(通称:高校駅伝)
悪天候の中で大役を見事に全うした田中選手。生徒たちとのフレッシュな触れ合いもあり、その表情は非常に晴れやかだった
写真 落合直哉
悪天候にも負けず、笑顔いっぱいで終了した「時育®セイコースポーツクリニック」。沖縄で中長距離、さらに講師は田中選手という初めてづくしのイベントとなりました。最後に田中希実選手とたむじょーさんにお話を伺いました。
初めての「時育®セイコースポーツクリニック」はいかがでしたか?
田中選手「沖縄での初開催であり、私自身も初めてのスポーツクリニックだったため、最初は不安もありましたが、無事に終えることができて安心しています。生徒たちには、私が日々実践している意識や技術をできるだけ率直にお伝えするよう心がけました。専門的な言葉も、中高生ならば理解できる年齢だと考え、骨盤や胸椎、腸腰筋といった言葉もそのまま使いながら、陸上に真剣に取り組む上で大切なポイントを伝えられたと思います。」
たむじょーさんとの二人三脚での指導はいかがでしたか?
田中選手「私は技術的な指導は得意ですが、場を盛り上げる部分はたむじょーさんのエンタメ力を借りることができて、とても助かりました。参加者が楽しみながらも陸上と真剣に向き合うという両面からアプローチできる理想的なコンビになれたのではないかと思います。この相乗効果が学生たちにも良い影響を与えられたなら嬉しいです!」
続いて、セイコースポーツファンリーダーとしてイベントを盛り上げた、たむじょーさんにもお話を伺いました。
沖縄での開催だけにシーサーポーズを決めるたむじょーさん。YouTuberならではのエンタメ力で田中選手をサポートした
写真 落合直哉
沖縄での「時育®セイコースポーツクリニック」の手応えはいかがでしたか?
たむじょーさん「みなさん本当に喜んでくださっていて、大きな手応えを感じました。世界レベルで活躍する田中選手のウォーミングアップ方法を直接学べる機会はなかなかないですよね。参加者の目の輝きを見ても、貴重な経験になったと確信しています。セイコーが提供するこうした機会は、若い選手たちの成長にとって本当に素晴らしい取り組みだと思います!」
中長距離のスペシャリストとして、今回の指導で大切にしたことは?
たむじょーさん「今回は田中選手にメインで指導していただき、私はサポート役に徹しました。中長距離は僕自身の専門分野なので、動きの意図や効果がすぐに理解できるため、指導もスムーズでした。これからもセイコースポーツファンリーダーとして、陸上の魅力を多くの人に伝えていきたいですね。特に今年は東京2025世界陸上もあるので、この盛り上がりを1人でも多くの方に届けられるよう頑張ります!」
陸上競技・中距離選手
田中希実
1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、西脇工高(兵庫)に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月にNewBalance所属アスリートとして プロ転向。2021年東京五輪1500mで日本人初の8位に入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。
セイコースポーツファンリーダー
たむじょー
帝京大学2年時に箱根駅伝の8区を走ったトップランナー。実業団からの誘いを断り、大学卒業と同時にランニングとコメディをミックスしたチャンネル『たむじょー【Tamujo】』を開設した。ランニング×コメディYouTuberを信条に、走りと笑いの融合を目指している。
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