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2025年2月、Team Seikoは新たな仲間として、フェンシングの飯村一輝選手を迎えました。前年夏フランスで開催された世界大会では、男子フルーレ団体戦にて見事、金メダルを獲得したひとりです。

2008年に日本人選手初のメダリストとなったフェンシング男子フルーレの太田雄貴さんを指導したのが、飯村選手の父・飯村栄彦さんでした。小さい頃から身近に憧れの存在がいたことや、夢中になれるスポーツと出会えた自身の経験から、次世代育成に高い関心を示している飯村選手。早速、小学生を対象に、時育®の一環として開催しているセイコーわくわくスポーツ教室、初のフェンシング編が開催されました。

圧倒的なスピード感と、しなる剣先

定員の10倍以上もの希望があった初のフェンシング編。会場には、小学校4〜6年生の全12名が集まり、大きな拍手で飯村選手を迎えました。

飯村選手 「今日はいっぱい体を動かして、一緒フェンシングを楽しみましょう」

写真 飯村選手

まずは飯村選手がデモンストレーションを見せてくれました。

飯村選手 「相手の銀色の部分を剣で突くと、後ろのスコアボードにランプが付きます。少し早い動きですが、基本動作やルールはこの後説明するので、まずは見ててください」

写真 飯村選手と橋本雄偉選手

子どもたちにも分かりやすく説明する飯村選手(写真左)

写真 飯村選手と橋本雄偉選手

間近で見る世界レベルのフェンシングはすごい迫力。子どもたちも真剣なまなざしを向けていました

写真 飯村選手と橋本雄偉選手

得点によってブザーがなると同時に、毎回大きな拍手が響きます

写真 飯村選手と橋本雄偉選手

デモンストレーションのサポートは、立教大学の橋本雄偉選手

初めて見る本物のフェンシングに、熱気を帯びてきた参加者たち。早くも「やってみたい」という声も聞こえてきました。この後は、フェンシングの基本動作とルールを学びます。

基本動作のマルシェ、ロンペ、ファンデヴ

まずはウォーミングアップから。膝の屈伸やストレッチに続き、軽いジョギングやスキップ、サイドステップと、体を温めます。

写真 飯村選手

飯村選手「フェンシングは特に脚がとっても大事。しっかり準備しよう」

写真 参加した子供たち

飯村選手 「まずは基本の構えからやってみましょう。両足を肩幅くらいに開き、利き足を前に出して、顔と体も同じ向きにします。もう片方の足は後ろで、かかとを90度、前足に直角の向きで置きます。そしたら前足をもう一歩前へ、膝は軽く曲げて腰を落とすように。前の腕は肘を曲げて、後ろの腕は伸ばします。重心は真ん中で取るようにしてみて。これが基本の構えです。アンガルド、と言われたらこのポーズをします」

写真 飯村選手

飯村選手「重心がわからなかったら、その姿勢のまま上に軽くジャンプしてみて。着地した時の姿勢が、重心が取れている状態です」

飯村選手  「次に、前に進む動き。前足を上げて出す、そしたら後ろ足を前足の方に寄せる。この繰り返しです。後ろに行く時はその逆。慣れるまでは足がしんどく感じるかもしれないけど、練習してみましょう。僕が『マルシェ』と言ったら前に出る、『ロンペ』と言ったら後に下がる合図です。隣の人にぶつからないようにして、やってみよう」

写真 飯村選手

マルシェ、ロンペ、と繰り返し動きの練習。「前足の膝、ちゃんと曲げてるかな?後ろの足は90度に置けてる?」と声を掛ける飯村選手

飯村選手  「次は相手を仕留める動作、ファンデヴです。基本の姿勢から手をまっすぐ伸ばして、前足を一歩大きく踏み出して。その時、前足はまっすぐ前に向けて、膝は90度にする。ちょっとしんどいかもしれないけど、やってみよう。マルシェ、ロンペ、ファンデヴ、この3つを組み合わせて練習します」

写真 参加した子供たち

飯村選手の指導を受け、思い切り前へ踏み込む参加者の皆さん。「そうそう、みんな飲み込みが早いな。この3つでもうフェンシングできるよ」

得点のルール、ポイントは2つ

フェンシングは、剣のやり取りによる攻撃権の奪い合いが見どころです。飯村選手が実際の動作を見せながら、分かりやすくルールを解説してくれました。

飯村選手 「今日は2つのポイントを覚えてください。まず1つ目は、相手より先に踏み込むこと。先ほど伝えましたが、審判の『アンガルド』の声で構えたら、次に『プレ?』と言われるので、これは準備はいいですかという確認です。続いて『アレ!(はじめ)』の合図で前に出る。マルシェで前に踏み出し、先に出ることで攻撃権を持ち、突けたらこちらの得点になります」

写真 飯村選手

一つ目のポイントは、先に前に出ることで攻撃権を持つこと

飯村選手  「じゃあ、責められた方はどうするか。これが2つめのポイントになります。それは、まず相手の剣を叩くこと。叩いた方に攻撃権が移るので、そこで突くと、得点できます。つまり得点するためには、相手より先に進むか、または最後に剣を叩くか。この2つがフェンシングの基本ルールです」

みんなで確認しあったら、いよいよメタルのジャケットを着用し、二人ひと組で剣を重ねての練習です。

写真 飯村選手と参加した子供たち
写真 飯村選手と参加した子供たち

マスクも初めて着用。道具が揃うとグンと本格的になりました

飯村選手  「じゃあまずは、剣の先が少し触れるくらいに距離を取って。アンガルドの姿勢を取ってから、小さく剣を叩く練習をしてみよう。その時も膝は曲げて、後ろの腕は伸ばしてね。マルシェ、ロンペ、ファンデヴの復習もしてみよう」

写真 参加した子供たち

会場は、東京池袋にあるF+ FENCING CLUB TOKYO(エフタス フェンシングクラブ東京)にて

写真 飯村選手

ファンデヴ!の声で一斉に勢いよく踏み込みます

コツを掴んだ個人戦と、手に汗握る団体戦

あっという間に慣れてきたみんなを見て、早速、練習試合を行いました。実際の得点ボードを使いながら、三点先取の個人戦がスタートです。

飯村選手  「まず最初は、お互い少しだけ相手に剣を付けて、ランプの動作を確認します。そしたら開始線まで下って。相手と審判にそれぞれ挨拶をしてから、アンガルドの構えを取ります。僕が審判しますね。プレイ、アレ!のタイミングで試合開始です」

写真 飯村選手と参加した子供たち

最初にランプの確認を。試合の前と後には、必ず相手と審判への挨拶も忘れずに行います

写真 参加した子供たち

みんなも真剣に見守りながら応援。ルールの流れをつかみ始めるにつれ、徐々に盛り上がりを見せていきました

写真 参加した子供たち

実際に体験してみることで、どんどん楽しくなってきた様子の皆さん。途中でまた別の得点ルールを教わるなど、理解を深める過程を楽しんでいました。「もっとやりたい!」という声に応えて、最後は6人対抗の団体戦となりました。

写真 飯村選手と参加した子供たち

お互いの自己紹介をして、誰が何番目に出るかと作戦会議。「3勝したら勝ちだから、先に強い人を出すか、最後に強い人を出すか、どうする?」

写真 参加した子供たち

「がんばれー!」と飛び交う熱い声援

写真 飯村一輝

負けが続きそうなチームの選手にこっそりアドバイス。するとこの後すぐに効果を発揮して、得点していました

写真 参加した子供たち

プレ、アレ!

団体戦はそれぞれのチームが三勝し、最後は大将戦で勝負をつけることに。こうなると盛り上がりは最高潮です。大きな声援を受けながらの真剣勝負。どちらかが前に踏み込み、攻める度に大きくなる拍手と掛け声。ドラマティックな展開に、最後は双方の選手に大きな拍手が送られて、無事に試合終了となりました。

飯村選手 「すごくいい試合だった!みんながんばったね。最後は全員がみんなと握手して、今日の御礼を伝え合おう」

文武両道を叶える、時間の使い方

質疑応答ではたくさん質問の手が挙がりました。フェンシングについてや普段の食事のこと、そして現役の大学生でもある飯村選手に、学業と両立するための時間の使い方についても。

飯村選手 「高校の時から一年の半分近く海外遠征に出ていたので、学校の先生にあらかじめ勉強の仕方を質問していました。今でも飛行機の移動時間とか、練習までの待ち時間とか、この時間にこれはできる、と考えて、隙間時間を使うようにしています。忙しくても工夫することで時間は作れるはず。うまく時間を捻出しながら、自分がやりたいことを広げていきたいと思っています」

また「フェンシングを辞めたいと思ったことはありますか?」という質問には、次世代への思いが込められていました。

飯村選手  「小学校1年生から15年以上続けていて、フェンシングを辞めたいと思ったことは一回もありません。フェンシングをしている時間が一番楽しいし、考えたくないほど緊張すると言う人もいる世界の大舞台も、フェンシング人生で一番楽しかったです。もちろん緊張したり焦ったりもするんだけど、焦っている自分も楽しかった。というのも、何事も楽しめたら乗り越えられる、と思っているんです。みんなも勉強とか大変なこともあると思うんだけど、例えばテストの点を友達と勝負するとか、何か楽しめるような状況に変えることができたら、うまくいきます。楽しくてしかなたいと感じるものを見つけてくださいね」

写真 参加した子供たち

参加した皆さんにも今日の感想をお聞きしました。

「初めてのフェンシングでした。最初はわからないことが多かったけど、優しく教えてもらえたので全部楽しかったです。一回試合してみたら少し感覚が掴めたのも嬉しかった。飯村選手が文武両道という話をしていて、僕も学校の勉強では算数が大好きなので、スポーツと勉強の両方ができることは良いなって思いました」(小学4年生)

「1年生の時からフェンシングのクラブに入っています。今日は飯村選手に直接会えたことが嬉しかったし、近くで見たらテレビで見るよりもすごい迫力で、かっこよかった。遠征があっても隙間時間で勉強していると聞いたことを参考にして、これから中学生になっても勉強とフェンシングを両立できたら嬉しいです」(小学6年生)

写真 参加した子供たち

父の背中を追っていた。未来世代のためにできること

飯村選手  「元気なみんなと過ごせて、すごくパワーをもらいました。子どもが大好きなので、本当に楽しかったです。今日はいつも以上に分かりやすく言語化することに気をつけました。初めてフェンシングをする子もいましたし、3ステップくらいに細分化したので、うまく伝わってると良いな。

試合はすごい盛り上がりましたね。楽しそうなみんなを見られて、今日やって良かったなぁと思えたし、僕もすごく嬉しかったです。最後の接戦の時、「自分が行く」と前に出た子や、それをまっすぐに応援する子、それぞれが楽しんでくれたと思います。ああいう緊張する場面こそ、楽しんだ方が勝ちですからね」

写真 飯村一輝

飯村選手 「日本のフェンシングはこれまで、代替わりする前に上の世代が引退してきました。欧米では、上の世代が強いうちに次世代を育てて、上の世代を超える実力になったときに世代交代しているんです。日本でも、次世代の育成をしながら僕らが活躍し続けることで、日本の基幹種目になっていくと思います。僕自身は環境に恵まれていたおかげで、ナショナルチームの方にいろんなきっかけをいただきましたので、自分がメダリストになった今、次世代のためにできることは積極的に続けていきたいです。

僕自身、何か困ったことがあったら一番に相談しようと思ってもらえる人間になることを目標にしています。それは多分、父の背中をずっと追ってきたからですね。僕が通っていた龍谷大学付属平安高校のフェンシング部には、顧問の代わりに先輩が後輩を教える「数珠つなぎ」という伝統があるんですけど、それを始めたのは父なんです。人を惹きつける力が強く、何かあった時には自分事として周りの人を引き込めるし、人脈もある。そういうところをすごく尊敬しています。ビジネスやセカンドキャリアの実践という点では太田(雄貴)さんをロールモデルに思っていて、僕も未来の世代に向けて、それぞれの良いところを咀嚼しながら、自分流に引き継ぎたいと思っています」

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プロフィール写真 飯村一輝

フェンシング選手
飯村一輝

2003年12月27日生まれ。京都市出身。太田雄貴のコーチだった父・栄彦さんの影響で京都女子大附属小1からフェンシングを始める。龍谷大平安中・高(京都)を経て、慶大に進学。高校1年生だった15歳で男子フルーレの日本代表入り。2022年世界ジュニア選手権優勝、ワールドカップ(W杯)3位入賞。2023年世界選手権で史上初の男子フルーレ団体金メダル獲得に貢献した。2024年パリ五輪はフルーレ個人4位、団体金メダル。妹の彩乃も女子フルーレの日本代表。

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