取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
時という普遍的な価値観を通して次世代を支援するセイコーグループでは、さまざまな体験プログラムを<時育>として展開しています。これまでも「わくわく時計教室」や「わくわくスポーツ教室」、「わくわく音楽教室」など、子どもたちが“本物”に触れる体験をたくさんお届けしてきました。
アスリートから直接学べるわくわくスポーツ教室では、陸上・水泳・トランポリン・柔道に続き、2024年秋、初の開催となったテニス教室。「セイコーテニスクリニック」の名の如く、参加者と個別に向き合う充実の内容です。初回の講師として、ジュニア時代から選手として活躍し、 グランドスラムやWTAツアー、ITFツアーなど、 世界的な活躍で日本テニス界を牽引した奈良くるみさんをお迎えしました。
奈良さんがアンバサダーを務める国際女子テニス大会「東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント 2024(以下、東レPPO)」の会場と同じ、有明テニスの森公園で開催された「セイコーテニスクリニック in 東レPPO 2024」の様子をお届けします。
テニスクリニック初の受講生となったのは、13〜18歳までのジュニア選手たち20名。奈良さんと過ごせる限られた時間に向けて、朝からウォームアップに余念がありません。この日、テニスクリニックの企画進行を担当していただいたのは、東レPPOのトーナメントディレクターでもあり、ご自身もジュニア時代から長く選手として活躍されてきた西野 栄さんです。
西野さん 「今日はポジショニング(立ち位置)がテーマになります。奈良さんがどんなことを実践しているのか、よく注意して見るようにしてくださいね」
開会式では、参加者の皆さんに時間を伝えるセイコーのタイマーと共に、セイコーとスポーツの繋がりも紹介されました。お話ししてくれたのは、セイコーグループ株式会社コーポレートブランディング部の北村真優さんです。
北村さん 「私たちセイコーが担うオフィシャルタイマーの役割は、主に選手のタイム計測や円滑な試合進行です。国内外のさまざまな種目でオフィシャルタイマーを務めていますので、ぜひ皆さんも、何か試合を観戦する時には、時計にも注目してみてください」
いよいよ奈良さんが登場。場内にはほのかな熱気と興奮が走りました。
奈良さん 「今日をとても楽しみにしていました。皆さんに会えて嬉しいです。短い時間なので何を伝えられるか、いろいろ考えました。みんなもどうか集中して、楽しく、一緒に練習しましょう」
さっそく始まったテニスクリニック。まずは奈良さんによるラリーを見学します。
「今日はポジショニングがテーマですので、ラリー中は、ボールの動きと、奈良さんの動きに注目してください。どういうボールが来たら、どういう体の動きをしているかをよく見て」という事前説明に従い、皆さん真剣なまなざしです。
奈良さん 「今の私のラリーを見て、何か感じたことはありますか?伝えたかったのは、前後の動きを意識して欲しい、ということでした。練習だと、ラリーはあまり動かなくても打てることが多いんですが、それでは試合での動きと違ってしまうんですね。
私自身、自分よりも体格の大きな選手が相手の時など、ボールのスピードやパワーの強さでは勝てないことが多かったので、ボールを捉えるタイミングと、足のスピードで世界と戦ってきました。基礎的な点ではあるんですが、今日は、いつもよりも足の感覚を意識して、前にしっかり出ること。前後の動きを大きくすることを意識してみてください」
各コートの練習は15分ずつで交代します。セイコーのタイマーが示す残り時間を見ながら、西野さんからは「選手として、時間管理も大事なこと。各自で意識していきましょう」とアドバイスがありました。
参加者全員とクリニックを終え、ラストは閉会式で一日の振り返りを行いました。まずは西野さんから、ジュニア選手の皆さんへの優しい激励の言葉。
西野さん 「今日は奈良さんから、マイクを通さないで直接アドバイスしてもらったので、きっとそれぞれに言葉をもらったことだと思います。ぜひ今日この後、まずはお父さんやお母さんに、どんなアドバイスだったかを話してください。一度アウトプットすると記憶に残ります。そして、明日からの練習にどんどん活かしてくださいね」
続いて奈良さんからも、ご自身のジュニア時代や試合での経験から、具体的で核心をついた助言が送られました。
奈良さん 「今日みなさんにお伝えしたことは、基礎的なことでした。よく『トップ選手になるにはどんな練習をしたらいいですか』とか『特別なトレーニング方法はありますか』といった質問をされることがありますが、本当に、そういうものはひとつもないんです。トップに行く人たちはみんな、基礎的なことを意識して、常に自分自身をプッシュできているんです。
今日のラリーだって、自分で意識的に強度を上げて、本気で集中してやろうと思ったら、たぶん最初は1分間ももたない。そのくらい大変です。私もジュニアの時はそこまで意識できていなかったので、何球やっても疲れないと思ってました。でも上手くなればなるほど、そして、テニスの質が上がれば上がるほど、本気でがんばれる時間は短くなります。なので、最初は1分、次は1分半、そして2分、とひとつひとつ集中力を長く保てるようになることが大事です。それに従い、成長のスピードも上がっていくと思います。
テニスは1人で戦うことが多いし、試合に出れば勝ち負けが決まるので、やっぱり厳しくてタフなスポーツではあると思います。でもその分、すごく人間的に成長できることも多いんです。コーチやご家族、仲間と一緒に成長できることは素晴らしいことだと思います。
目標はみんないろいろだと思いますが、それぞれが目標に向かって毎日毎日、自分ができるベストを尽くすこと。テニス選手としてだけではなく、人間として成長していけるようにがんばってほしいです。」
初開催となったセイコーテニスクリニック。参加されたジュニア選手の皆さんにも感想をお聞きすることができました。
「今日は奈良さんに見てもらうことができて嬉しかったです。自分のなかでも、打つ時には早く引いて早く準備することが課題だったのですが、奈良さんからもそうアドバイスをいただきました。おかげでちゃんとボールを真ん中で捉えることができ、課題だったことがよく理解できました」(中学3年生)
「奈良選手が大好きで参加しました。初めて世界レベルの選手に見てもらう機会で、足の動きについてとても勉強になりました。私が押せている時にも攻めきれてない状態だったと指摘いただき、今後は、良いボールを打てたと思ったら思い切って前に出てみて、と言ってもらいました」(中学2年生)
最後に西野さんにも、お話をお聞きしました。
西野さん 「セイコーさんがいろんな競技で次世代への取り組みをしていることは知っていたんです。テニスでもやって欲しいと思っていたので、今日はそれが叶い、個人的にも嬉しかったです。
参加者を募集する際、テニスの成績は条件にしませんでした。というのも、ナショナルの選手だとトップ選手との練習を受ける機会もあるんですが、そういうグループではないところで、今勢いのあるジュニアたちに来てもらいたい、と思ったからです。子どもたちが成長するタイミングって、それぞれ違いますからね。
でも蓋を開けてみたら、みんなとっても上手でしたね。くるみちゃんが相手に合わせてバウンドコントロールしてくれたこともあり、それぞれすごく良いラリーを経験できたように思います。
今日の内容も、くるみちゃんがプロだった時のコーチから『くるみだからこそ伝えられることを』と、アドバイスしてもらったんです。海外の選手は、背が高く体も大きいし、腕のリーチもあってカバーが広い。もちろん日本の選手の体格もそれぞれですが、平均的には体格差があると言えます。そのなかでいかに戦うか。くるみちゃんの場合は、やはりタイミングとポジショニングのうまさでした。今日は本人から各自にそのことをアドバイスしてもらえたことが良かったと思います」
西野さん 「東レPPOは、今年で39回目の開催になりました。世界の女子テニスを統括するWTAも昨年度で50周年ですので、女子プロテニスの発展と同時進行で開催されてきたトーナメントだと言えます。日本にとっても、東レPPOがあったからこそ、女子テニスが発展したと言っても過言ではないと思いますね。
その間、テニスビジネスもかなり大きくなったと思うんですが、だからこそ、この大会の意義はこれからも発信されてほしいです。今年はトーナメントディレクターという立場でもありますが、ずっとテニスを続けてきたひとりとしても、そう思っています。そして日本の女子テニス選手たちも、この大会を足がかりにして、世界の舞台へどんどん出て欲しいです。
今日のテニスクリニックに参加してくれた皆さんには、東レPPO準決勝の観戦チケットがプレゼントされました。しっかり世界レベルの選手の動きを見て、大いに刺激を受けてもらいたいです。そしていつか、今日のテニスクリニックをきっかけに世界を目指す選手が出たら、それはとっても嬉しいですね」
初開催のセイコーテニスクリニックでは、今後の活躍が楽しみなジュニアの皆さんと出会うことができました。女子テニスのさらなる展開を、応援しています。
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