取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
ヘアメイク 長谷川真美&丹澤瑞希
子どもたちにわくわくする体験を届ける、セイコーわくわく教室。いろいろな時(とき)を知る「時計教室」、自然の中で生物多様性を体験する「環境教室」、一流アスリートに教わる「スポーツ教室」、そしてプロミュージシャンに習う「音楽教室」など、内容や対象年齢も幅広い次世代教育活動です。
2024年1月8日。初の試みとして、時計教室と陸上教室、そして水泳教室の3つが同日に揃った「セイコーわくわくフェスタ」が開催されました。アスリートに教わるだけでなく、その人柄に触れるトークセッションなど、充実の内容となった当日の様子をお届けします。
参加者は「陸コース」と「水コース」にそれぞれ20名ずつ、抽選で選ばれた約40名の小学4・5年生です。講師を務めるのは、陸上女子100m・200mの日本記録保持者である福島千里さん、東京五輪水泳女子400m・200m個人メドレー日本史上初となる2冠を達成した大橋悠依選手です。おふたりとも、セイコーのパーパス「世界中が笑顔であふれる未来づくり」を叶えるアスリートチーム「Team Seiko」のメンバーです。
テレビやニュースで目にする本物のメダリストを目の前に、初めこそ緊張気味だった子どもたちですが、いざ教室が始まると、楽しそうにそれぞれの練習に励みました。
陸コースは、ウォーミングアップやストレッチからスタート。手を繋ぎリズムに乗ってジャンプをしながら、前後左右のいずれか、福島さんがランダムに示す方向へ移動する練習では、うっかり方向を間違えがちの子どもたち。隣のお友達とぶつかっては笑い合い、一気にみんなの距離が縮まったようでした。
福島さん 速く走るためのポイントは、跳躍、接地、姿勢です。跳躍とは、滞空時間を長くすること。宙に浮く時間を長くして、足が接地する時間を短くすることで、走りの勢いが増します。そのためにジャンプをウォーミングアップに取り入れるのがおすすめです。
グラウンドに引かれたラインや、地面に置いた円形を目印に、リズムよくジャンプの練習をする子どもたち。前方向、横方向、そして前後に足を動かしながら、と実践的な基礎練習が続きます。
そしていよいよ、速く走るための練習へ。
福島さん 速く走るために、手足は大きく、速く動かすことが大事です。自分の手をナイフに、そして腰から大根をぶら下げていることをイメージしたら、その大根を素早くカットするように腕を速く動かす。腕の振りが良くなると、その反動で足も速く動くようになるんです。そして姿勢。良い姿勢を保つために、走っている間の目線を決めましょう。頭の位置がずれないように、どこか1箇所を見ながら走ることです。
スタートの良さに定評がある福島さんならではの、具体的なアドバイスがありました。
福島さん 運動会で1位になるテクニックをお伝えします!徒競走はスタートが大事なので、3つのポイントを意識してみてください。まず、スタートラインでは前足にしっかり体重を掛けて、前傾姿勢。それから、スネを前にしっかり倒すこと。そして、頭からカカトまで、まっすぐ一直線の姿勢を取ってください。こうすると、後ろ足の一歩目が大きく前に出るので、隣のお友達よりも前に出せます。
最後には、習ったことの集大成として20mを一人ずつ走り、タイムを計測。世界陸上などの大会で用いられているものと同じ、セイコーの大型スポーツタイマーを使用します。見事、4秒08を出した女の子が1位となり、福島さんと勝負できる権利を獲得しました。
最終試合は「負けず嫌い」を自称する福島さんが3秒67で駆け抜けて勝利。競争した女の子から、「次は4秒を切りたい」という向上心の高いコメントを聞くことができました。
「今日は水と仲良く、楽しく練習していきましょう」という大橋選手の爽やかなあいさつでスタートした水コース。プールサイドでの説明とウォーミングアップに続き、大橋選手の代名詞ともいえる個人メドレーの披露がありました。
寺川さん 大橋選手は、水面を滑るように泳ぐことを意識しているそうですよ。今日はいつもよりゆっくり泳いで見せてくれるので、しっかり観察してくださいね。背泳ぎの時はブレない頭の位置、平泳ぎの時はまっすぐの姿勢、クロールは手と足のタイミングに注目してみてください。
大橋選手が泳ぎ出すと、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロールと、間近で見る世界一の泳ぎに釘付けの子どもたち。「すごい!」「思っていたよりもずっと速い!」「水しぶきが全然なかった!」と、素直な感想が飛び出します。
俄然やる気の上がった子どもたちも、早速練習スタートです。
大橋選手 まずは、みんなの泳ぎを見せてほしいので、3コースに分かれたら順番に25mを2回、泳いでみてください。最初はクロールで、帰りはまたクロールでもいいし、自分の好きな泳ぎで戻って見せてくださいね。
大橋選手 私が泳ぐ時にいちばん大切にしていることは、姿勢です。前からも横からもまっすぐ見えるように立ってみて。そして頭からつま先まで、自分の体に1本の棒が入ってるようなイメージをしてください。腕の位置は耳よりも後ろ、手は頭の上で組んで、泳いでる時の目線はプールの床です。
大橋選手 水中で姿勢をキープするにはお腹に力を入れて、足が下がらないようにすること。姿勢をキープできれば、蹴伸びでもまっすぐ、長く進めるようになります。平泳ぎでも同じで、お腹の力が抜けてしまうと腰が沈みがちになってしまいます。クロールのバタ足も、力任せに足を動かすんじゃなくて、水の中で柔らかく力を伝えることをイメージしてみましょう。
具体的なアドバイスをもらいながら続けた練習の最後は、セイコーのスポーツタイマーで一人ずつのタイム計測です。上位のふたりは大橋選手と勝負することができるので、みんな真剣。
寺川さんからの「ゴールするときのタッチは、どんなことに気をつけたらいいですか?」という質問を受けた大橋選手のアドバイスはさすが、実践的で具体的でした。
大橋選手 良いタイムのためには、少しでも早くタッチ板を押すことが大事です。手をピンと伸ばして、一番長い指からしっかり押し込むことを意識してみてください。
最後は、16秒76と、16秒57を出した上位ふたりの男の子が大橋選手と勝負。男の子たちはクロールで、大橋選手は平泳ぎで勝負することになりました。寺川さんによる「テイク ユア マーク」のスターターピストルで一斉に3人が泳ぎ出すと、プールサイドからは大きな声援。みんなも一緒に盛り上げます。
スタート直後は大橋選手がリードしていたものの、結果は男の子たちの勝利。「勝ててめっちゃ嬉しい」と素直な感想がこぼれました。
この日は陸・水どちらのコースの参加者も「時計教室」に参加。時間という概念から、時計そのものの歴史、振り子の時計を使って正確に時を測る原理などを学びます。学校や習い事など、普段から時間に関わる約束事の重要性をすでに理解している子どもたちは、真剣な眼差しで取り組んでいました。
さらに水コースで解説もしてくれた寺川綾さんの司会で、福島さんと大橋選手によるトークセッションも行われました。
参加者と同じ小学4・5年生の頃はどんなお子さんでしたか?と聞かれると、「週に5〜6日は水泳の練習をして、選手として試合に出始めていました」という大橋選手。福島さんも、「4年生から陸上を始めました。北海道という地域性もあって、夏は陸上、冬はスピードスケートをしてましたね」と、ふたりともアスリートとしての活躍を予感させる生活だったようです。
また成人の日でもあったこの日は、小学4・5年生が「ハーフ成人式」の年代であることから、話題はハタチまでの成長の話へ。
寺川さん いろいろなことが成長する時期ですが、それに伴って、挫折やうまくいかないこともありますよね。乗り越える秘訣は何ですか?
大橋選手 私は学生の頃、全国大会に出ても100位代とか。あまりいい結果が出せずに挫折ばかりでした。それでも泳ぐことが好きだったし、コーチをはじめ周りの方々に恵まれていて、壁にぶつかるたびに周りの人に助けてもらってきました。失敗から学ぶっていうことも大いにあるので、周りに頼れる人を見つけて、いっぱいいろんなことにチャレンジして欲しいです。
福島さん スポーツをやっていると、私もそうでしたが「勝つことがこの世の全て」と思いがちなんですよね。でもそんなことないんです。負けてるときだって成長している部分は必ずあるし、勝ち負けだけにこだわらないことも大事。モチベーションが下がってもやることは同じなので、目標をぶらさないことが大切だと思います。勝つためにがんばることも素敵だけど、それ以上に、夢中になることを見つけて、楽しんでもらいたいです。
「今日はセイコーや時計について初めて知ることが多く、すごい選手にも会えて、嬉しかったです。今度の運動会では今日教わったことを活かして、1位になりたいです。」(参加:陸コース)
「日常とは違う一面が見れました。福島さんのお人柄のおかげか、緊張もしなかったようです。夢中になれるものを見つけて、精一杯取り組んでもらいたいですね。」(お父様)
「普段から走ることは好きなので、今日は楽しかったです。スネをまっすぐ倒すことを習えたことが、一番印象に残りました。最後は福島さんと勝負できて、ものすごく速いと思いました。」(参加:陸コース)
「何かのきっかけになったら良いなと思って、私が勝手に応募したらありがたいことに当選しました。今日のことが勉強など、他のことにもつながったら良いなと思います。」(お父様)
「泳ぎの基本とか、説明がわかりやすかったし、すごいお手本が見られました。僕も試合に出てるけど、タッチの仕方とか考えたことがなかったので、今度から上手くできそうな気がします。時計のことが知れたのも楽しかったので、こういう機会があればまた参加したいです。」(参加:水コース)
「水泳をがんばってるんですけど、悔しそうにしてる時もあるので『勝ち負けだけじゃない』と言うのを聞けて、感謝しています。一つでも二つでも、たくさん夢を持って、楽しんで過ごして欲しいです。」(お母様)
「普段から週に6回は水泳の練習をしていて、私も200m個人メドレーに出ています。今日は大橋選手に質問できたり、水泳を教えてもらえて、すごく楽しい1日でした。またこういう機会があったら参加したいです。」(参加:水コース)
「アスリートとの距離がすごく近いイベントに参加できて、本人の刺激にもなったようです。将来はこのまま、素直で嘘をつかない、人間的に魅力のある大人になってくれたらと思います。」(お父様)
今日は指導する上でどんなことに気を付けていましたか。
福島さん 楽しく笑顔になってくれることはもちろんですが、安心・安全を心がけて、子どもたちが怪我をしないように、それと保護者の方が安心して見ていられるように心がけました。また家庭でも一緒に練習できるように、走りのポイントが保護者の方にも伝わるように気をつけて話しました。1日だけでは速くならないので、継続してもらえると嬉しいです。
何か子どもたちから学んだこともありましたか?
福島さん 陸上教室をするたびに思いますが、子どもたちの素直な動きに驚かされることがあります。子どもたちが思いもよらない動き、やってほしい動きとは別の動きになってしまうことが多く、もちろん、うまくいくように声掛けや指導を行うわけですが、私自身の指導方法を振り返るきっかけにもなっています。常に学ぶ姿勢を持ち続けていきたいです。
今日の感想を聞かせてください。
大橋選手 久しぶりの水泳教室ということもあって、子どもたちにすごく元気をもらいました。みんなからも楽しんでくれたという声が聞けて、すごく嬉しかったです。自分が泳ぐ上で大切にしてる姿勢の話とか、技術的なことも伝えたりしたので、それを楽しんでもらえて良かったです。
最後の勝負では負けちゃって悔しかったですけど(笑)、でも勝ちを積む経験をすることは大事なので、今日のふたりが自信に変えてくれたら、それで十分オッケーです。
今日子どもたちと過ごした時間で、どんなことを感じましたか。
大橋選手 休憩中、他にどんな習い事をしてるとか教えてくれたんですけど、水泳だけじゃなくいろんなことをしてる子が多くて、好きなことを続けて欲しいと思いました。その時々で悩みや壁もあると思うんですけど、とにかく楽しんで続けて欲しいって伝えました。
私の試合を見てくれているという子もいて、応援してもらえること自体が嬉しいですし、みんなが自分を見て、またこれからもがんばろうと思ってもらえたらいいな、と思います。
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