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駅時計撤去のニュースに多くの意見が寄せられるなど、あらためてその存在が注目を集める公共の時計。個人のスマートフォンに取って代わられつつある、とも言われますが、公共の時計には、すべての人に正しい時を知らせる役割や街のランドマークといった、ほかにはない価値があります。

今回フォーカスするのは、卒業記念品や社会奉仕団体などの周年記念品として学校や公園などに寄贈される「モニュメントクロック」。セイコータイムクリエーション株式会社 タイムシステム事業本部 営業担当の鶴岡秀樹さんとデザイナーの治面地良和さんに、モニュメントクロックにかける想いや贈り主であるお客さまとの関わり方について話を聞きました。そのなかで見えてきた、モニュメントクロックの大切な役割とは?

セイコーだからできる、機能性とデザイン性の両立

モニュメントクロックとは、どのようなものを指すのでしょうか?

鶴岡:簡単にいうと、街のランドマークや学校のシンボルになるような時計のことです。時計として使えることはもちろんですが、ポールの形状にデザイン性を持たせたり、文字板にアレンジを加えたりすることで、オリジナリティを出せるので、「実用性を兼ねた記念碑」として寄贈されることが多いです。

左から、藤沢駅 サンパール広場(神奈川県)、東洋大学附属牛久中学校・高等学校(茨城県)、龍谷富山高等学校(富山県)に設置されたモニュメントクロック

左から、藤沢駅 サンパール広場(神奈川県)、東洋大学附属牛久中学校・高等学校(茨城県)、龍谷富山高等学校(富山県)に設置されたモニュメントクロック

セイコーならではの特徴や強みはありますか?

鶴岡:バリエーションの多さですね。壁掛型やポール型など、形状の種類はもちろん、スタンダードなものからフルオーダーメイドまで幅広いラインナップをご用意しています。また、材質や文字板のデザイン、駆動方式や時刻修正方法なども選べるので、お客さまそれぞれに合ったご提案ができます。

治面地:デザイナー視点でいうと、これまで時計メーカーとして培ってきたノウハウですね。デザイン性とともに視認性や耐久性など、時計に求められる機能をしっかりと両立させたものをご提案できるのは、大きな強みだと思います。

営業担当の鶴岡さん

営業担当の鶴岡さん

地域の特色やオリジナリティを活かした、世界にひとつだけのモニュメントクロック

具体的に、モニュメントクロックの制作の流れを教えてください。

鶴岡:「卒業記念品や周年記念品として時計を贈りたい」というご相談をいただいたら、まずお話をうかがいます。数ある選択肢のなかで、当社のモニュメントクロックを寄贈品として選んでくださったことについて、お客さまの想いをしっかりお聞きしたうえで、予算感や設置場所をヒアリングします。その後、デザインの提案に着手します。十数種類の塔体デザインから選んでいただくセミオーダーメイドタイプの場合もありますし、一からデザインを起こすフルオーダーメイドの場合もあります。

たとえセミオーダーメイドでも、文字板にロゴを入れたり、塔体の一部に装飾をあしらったりすることでオリジナリティを加えられるので、できるだけ世界にひとつのものをご提案したいと思っています。材質や文字板のフォントひとつとっても、アイデアがどんどん出てくるので、何か月にもわたって打ち合わせを重ねることもあります。お客さまに納得いただけるデザインが完成したら、ご注文をいただき、制作に取り掛かるという流れです。

フルオーダーメイドの場合、どのようにデザインするのでしょうか?

治面地:可能なかぎり、設置予定の場所に足を運びます。塔体の高さや文字板の大きさ、両面が良いのか3面タイプが良いのかを決めるのに、「どこからどんな人がその時計を見るのか」を考えるんです。その場所にマッチしたものをデザインしなければならないので、まずは基礎情報を確認したうえで、地域の特色や特産物、文化などをリサーチして、デザインに盛り込んでいくことが多いですね。

鶴岡:学校や公園に設置する場合は、子どもたちのイラストが原案になることもあります。子どもたちが思い思いに描いてくれたものを、デザイナーがブラッシュアップしたり、配置し直したりして。

治面地:時計としての機能や文字の視認性は大事にしたいので、子どもたちの気持ちやイラストのよさを活かしながら、デザインを再構成するようにしています。

デザイナーの治面地さん

デザイナーの治面地さん

みんなでアイデアを出し合い制作。プロセス自体がセレモニー

モニュメントクロックの役割について、どのようにお考えですか?

治面地:時計として公共の場で正しい時を知らせるのはもちろんですが、たとえば公園のポール時計にはスピーカーがついているものがあり、毎日決まった時刻にメロディーが流れます。子どもたちに帰る時間を知らせる役割もありますし、自治体によっては防災無線の役割を果たすものもあり、1日1回、正常に鳴るかどうかのチェックも兼ねて使われているようですね。

鶴岡:モニュメントクロックを担当していて思うのが、贈り主の方々が一つひとつのプロセスを大事にされているということです。自分たちが心を込めて贈った時計が永く時を刻み、役に立つことを願って、みんなでアイデアを出し合い、ひとつのものをつくり上げていくこと自体がセレモニーのような。熱い想いをうかがうと、私たちもできるかぎりお客さまのご要望にお応えできる提案をして、納得のいくモニュメントクロックをつくりたいという思いになります。もちろん、納期や予算などの制約はありますが、そうして完成した時計は、設置したときにすごく喜んでいただけますね。

特に印象的だったエピソードがあれば、ぜひ教えてください。

鶴岡:とある小学校の時計の設置工事に立ち会ったときです。子どもたちから募ったイラストを文字板にデザインした時計を校舎に取りつけたあと、盛大な除幕式が行なわれました。時計がお披露目されたときに、子どもたちから「うお~」という歓声が上がり、何とも言えない達成感を感じたのを覚えています。

また、高校の正門前に時計塔を設置した際には、その日のうちにポールを設置し、時計を取りつけたのですが、生徒たちにとっては、「朝にはなかった時計塔が下校する頃には建っている!」という状況に。下校の際に、大騒ぎして喜んでいる子や写真を撮っている子を見て、とてもうれしかったですね。その後、副校長先生からご連絡をいただき、「とても素敵な時計をつくっていただきありがとうございました。生徒たちの生活にもメリハリがついたようです。」という声をいただいて、本当にありがたかったです。

左から、淑徳巣鴨中学高等学校(東京都)、長泉町立北小学校(静岡県)に設置されたモニュメントクロック

左から、淑徳巣鴨中学高等学校(東京都)、長泉町立北小学校(静岡県)に設置されたモニュメントクロック

治面地:私は公園のモニュメントクロックをデザインしたときですね。子どもたちがイラストの原案やアイデアを出してくれたので、それをもとにデザインしたんです。そもそもその公園には時計がないうえに、夢中で遊んでいると帰宅時間を忘れがちなので、「音楽が流れる時計がほしい」と子どもたち自身が要望したみたいで。そうして設置された時計は、必要とされているし、大切にもされる。除幕式があったので、私も参加させていただいたのですが、完成した時計を前に喜ぶ子どもたちの顔を見ることができてうれしかったです。

岡本公園(三重県)に設置されたモニュメントクロックと、子どもたちによるイラストの原案

岡本公園(三重県)に設置されたモニュメントクロックと、子どもたちによるイラストの原案

鶴岡:すごくありがたいのが、オリジナルの文字板をデザインするときに、「SEIKOのロゴを入れてください」と言っていただくことです。フルオーダーだと一からデザインをつくるので、わざわざロゴを入れる必要はないのですが、それでも「あえて入れてください」と。「それが、自分たちがきちんと信頼性の高い時計を贈った証になる」と、セイコーブランドを信頼していただけていることが何よりもうれしいですね。

50年以上続く、「モニュメントクロック」のかたち

セイコーでは、いつ頃からモニュメントクロックの制作をされているのでしょうか?

治面地:1970年代に発行された古いカタログには、すでにモニュメントクロックに関する記載があるんです。いまでも日本武道館の前にある時計塔のほか、1970年に開催された『日本万国博覧会(大阪万博)』では、会場内のパビリオンの前に時計を設置したという記録があるので、少なくとも50年以上前にはあったと思います。

およそ50年前のカタログ。いまでも現存するモニュメントクロックが多数掲載されている

およそ50年前のカタログ。いまでも現存するモニュメントクロックが多数掲載されている

いつまでも愛してもらうために。品質の高さで、お客さまの想いを叶えたい

長く使われるモニュメントクロックは、メンテナンスが大変ではないでしょうか。

鶴岡:たしかに、「何十年も前の時計を直してほしい」「学校が廃校になってしまうけど、みんなの思い出の時計を残したい」といったご相談をいただくこともあります。メーカーとしては、お客さまの想いをどうしたら叶えられるかを考え、時計の安全性を担保したうえで、外装のメンテナンスや針や部品の交換などに対応することもあります。

治面地:思い入れのある時計ですので、長く動き続けることを期待されるんですよね。ですから、鶴岡が言ったようなお問合せがいまだに入る。通常だったら「保証期間外です」で終わってしまうのですが、昔の資料が残っていれば、引っ張り出して、当時の情報や代替の部品を調べて……。新しいものを買っていただければありがたいのは事実なのですが、そういう手間をかけても、お客さまとは真摯に向き合うようにしています。

長持ちするのはもちろん、そのあともメンテナンスしやすいものをつくるのが私たちの役目です。設計やデザインの段階から、「長く使っていただけるものをつくるにはどうすればいいか」ということは、社内で徹底的に考えます。

鶴岡:何十年もシンボルであり続けられる、誰かにとっての思い出のものになれるからこそ、セイコーのモニュメントクロックを選んでいただけているのだと思います。

長く使い続けられるセイコーのクオリティーは、サステナビリティの観点からも、今後も必要とされるものになりそうですね。

鶴岡:そうですね。セイコーの場合、もともとソーラー式の時計を扱っていたり、何十年と使われるものも多くあったりするので、社員一人ひとりのなかにも「長く使われるものに携わっている」という、サステナビリティへの意識があると思います。

最後に、モニュメントクロックにかける想いを教えてください。

治面地:設置場所の地域の皆さんや毎日時計を利用する皆さんに、長く愛していただけるようなかけがえのないものをつくれるように、これからも励んでいきたいです。

鶴岡:私は営業なので、納品や工事に立ち会うことが多く、お客さまの反応を一番近くで感じられるんです。うれしそうな顔を見るたびに、「こういう人を増やしたい」という気持ちになり、それが一番のやりがいにもなっています。時計を贈る方々の想いや未来への願いが込められたモニュメントクロックは、これからも永く時を刻み、誰かの思い出として記憶に残り、必要とされていくものだと思います。喜んでくれる方が一人でも増えるように、貢献していきたいです。

鶴岡さん 治面地さん 画像

環境配慮型商品の開発により持続可能な社会を推進

広報担当の稲葉さんは「もともとISO9001やISO14001※を取得している部門があること、数十年にわたって長くご利用いただく商品を販売していることもあり、SDGsに対する社員の意識は高いと感じている」と語ります。社内では、定期的にISOに関する講習会を実施しているほか、環境配慮型商品などに関する製品講習会も実施しています。

※ ISO9001:品質マネジメントの国際規格 ISO14001:環境マネジメントの国際規格

また、時計駆動器の改良により、従来品に比べ、高性能かつ長寿命化を実現した「エコ駆動器」を発売するなど、新たな技術を活用しながら環境に配慮した商品の企画・開発にも取り組んでいます。 想いを込めた時計が時を刻み、次世代へとつながる。顧客一人ひとりと向き合いながら、社会全体のSDGsの推進に貢献していく、セイコーならではのサステナビリティです。

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