取材・文 やなぎさわまどか
写真 落合直哉
人類の誕生前から無数の生きものの住処だった海。健全な海は水を循環させ、二酸化酸素を吸収し、気候を調整するなど、地球環境を支える重要な存在。しかしながら今、喫緊の課題として叫ばれるのが海洋ゴミ問題です。
<セイコー プロスペックス>は、多くのダイバーたちに愛用されていることへの感謝を込めて、海洋保護活動に取り組んでいます。活動を支えてくれるパートナーは、ダイバーたちへの教育を行う世界最大機関PADIです。
2022年6月、逗子海岸。第2回目となるセイコーウオッチ社員による海洋保護活動を行いました。2021年に始まったこの取り組みでは、セイコーウオッチ社員が浜辺のゴミを、同時に、PADIダイバーたちが海洋からのゴミをそれぞれ手分けして回収します。最後は一緒に、海洋ゴミの分別と重さの計量を行なってデータベースに記録。普段は目につかない海の底で何が起きているのかを学び、課題を見つめ直す活動です。
夏が近づき、浜辺で過ごす人も多いこの時期。一見きれいに見える砂浜も、少し注意して足元を見れば、砂に紛れずに顔を出しているゴミがあちこちにありました。参加社員たちは早速、事前に受けたレクチャーの内容を参考にしながら、プラスチックやガラスの破片、空き缶や吸い殻といった浜辺のゴミを拾い集めます。
セイコーウオッチ社員がビーチクリーンアップを行なっている同じ時に、近くの湾から海中に潜るPADIダイバーの皆さん。実は近年の調査によって、海に行き着いたゴミの約70%が海底に蓄積されていることが明らかになりました。英語でマリンデブリ(Marine debris)と呼ばれる海底のゴミは、砕けた破片が動物たちを脅かしたり、付着したウィルスが遠くまで移動してしまうなど、生態系への影響が問題視されている海洋汚染問題の核となるものです。
事前にレクチャーしてくれたPADIアジア・パシフィック・ジャパン、バイスプレジデントの伊東正人さんからは、「海の中と外、どちらの活動も重要」というお話がありました。
伊東さん:街で人が出したゴミは、風で飛ばされて川などに入り、きちんと片付けられなかったりした結果、海に行き着きます。つまりゴミは「人の心」から出ているとも言えるんですね。出てしまったものは少しずつでも片付けるしかありませんので、わたしたちダイバーは潜るたびに回収しています。
また、フィンを付けないでも出来る活動もたくさんあるんです。海に入ってしまう前に砂浜でゴミを拾うことも、ビーチクリーンアップしたよとSNSで拡散することも、同じように大切なアクションです。水中の活動はフィンズオン(fins on)、陸上ではフィンズオフ(fins off)、どちらも欠かせない環境活動です。
始まりは、ウオッチブランドとして海や山などアウトドアで活動する多くの方々に愛されてきた<セイコー プロスペックス>にありました。特に海では、1965年に国産初のダイバーズウオッチを発売して以来、今も世界中のダイバーと一緒に時を刻んでいます。そうしたことへの感謝を込めて、<セイコー プロスペックス>Save the Oceanシリーズは売り上げの一部を海洋保護活動に支援。2021年からは、PADI AWARE財団が展開する海洋保全を目的とした特別プログラム「Dive Against Debris®(ダイブ・アゲインスト・デブリ)」への支援も開始しました。
ビーチクリーンアップ活動も、こうした支援活動の延長線上にありました。セイコーウオッチSDGs推進室の松江幸子さんは、会社の取り組みを社員が実感する重要性についてこう語ります。
松江幸子さん:SDGsの取り組みを進めるにあたり、社員一人ひとりが環境課題に実感をもつ必要があると考えました。会社からの支援や寄付だけで終わりにするのではなく、自分たちの手と体を動かして、問題を自分事にする。支援先と連携しながら社会課題を現実的なものだと捉え、今何をするべきか考えることが重要だと思うんです。セイコーウオッチとして、みんなの中にもそうした意識をきちんと根付かせる機会を増やしたいと考えています。
Dive Against Debris®の活動は、ゴミの回収だけではありません。PADIの世界的ネットワークを活かし、どこで、いつ、どんなゴミが、どのくらい回収されたかといった細かな情報を写真と共にデータベースで集計しています。これは世界各地における海洋ゴミの実態を、確実なデータにすることで分析可能にし、行政や政治家などを通じて、将来的に新たな環境整備や法整備に役立ててもらえることを想定したものです。
セイコーウオッチとの活動で回収されたゴミもまた、PADIのデータベースに登録されることになっています。登録対象は海底から回収した海洋ゴミとなるため、セイコーウオッチ社員はダイバーの皆さんが回収したゴミの集計を担当します。これもまた、フィンズオン(水中)とフィンズオフ(陸上)のコラボレーションでした。
秋山さん:今回も1時間程の作業時間でびっくりする量のゴミが回収できました。皆さんにはデータベース登録のためにゴミの分別と記録をお願いします。実際に海に潜ったのはダイバーですが、分別をしてみることで、海洋ゴミとはどんなものなのか、この機会に実態を知っていただけたらと思います。まずはゴミの重さを計測して、どんなものがあるのか一つずつ分類してみましょう。
回収されたゴミは水洗いされ、データベースに登録するために記録していきます。グループで手分けしながら、ゴミの種類や重さなどを細かく記録する作業のスタートです。
この日は455点 60.4kgの海洋ゴミが回収されました。特に多かったのはビン、カン、食品の空き容器、網やロープといった漁具、釣り糸や仕掛けなどの釣り道具。その他にも食器類や衣類、中には携帯電話や車のバッテリーといったものまで。少し意外なことにペットボトルは見当たりません。PADIアジア・パシフィック・ジャパン会長である中野龍男さんからは、こんなお話がありました。
中野さん:海底で回収されるゴミは、すべて我々人間の日常生活を便利にするための残骸ばかりです。また、ペットボトルのような軽いものは小さく砕けてずっと消えません。ダイバーが少しずつ拾うだけでは解決しきれないので、我々みんなで普段からできることをしないといけないですね。ペットボトルは買わないとか、街のゴミも拾うとか。1日一個のゴミ拾いでも全員が毎日すれば大きな変化です。小さな意識と行動が直結する問題だということがご覧いただけたと思います。
実際、参加したセイコーウオッチ社員たちは、この日の活動にどんな感想をもったのでしょうか。
武内真央さん:砂浜は思っていたよりもペットボトルがなくて、もっと小さな破片になったものばかりでした。拾いながら、このまま海に入ってしまったら亀や魚が食べてしまうのかな、と教わったばかりのことを想像したり、花火大会や屋外イベントなどでゴミ箱が溢れてしまっていることを思い出して、ああいったところから川や海に行ってしまうのかも、と考えたりしました。エコバッグやマイボトルは使っていますが、これからは出先で出したゴミも持って帰ってしっかり捨てようと思います。広報としてメディアの方とお話する機会も多いので、今日体験したようなPADIの素晴らしい活動をもっとお伝えしていきたいと思います。
大八木裕介さん:海には走りに来ることもあるんですが、ゴミ拾いをする機会までは見つけられずにいたので、今日参加できて良かったです。海洋ゴミの7割が海底に沈んでいると知り、これまで目にしたよりもずっと多くのゴミが海に存在してることを意識しました。改めて、人間が出しているものだということも実感して、問題が自分ごとになった気がしています。これからは街のゴミを見る目も変わるし、このゴミがどこに行くのかを意識しながら生活しなくてはいけないと思いました。プロスペックスは新製品の発売前に予約が入るような人気の高い商品ですので、お客様との会話の中でも、こうした活動のことまでご紹介したいと思います。
取締役の高倉昭さんはPADIへの感謝と共に、セイコーの時計を扱う立場としても環境活動を行う重要性を教えてくれました。
高倉 昭さん:今日は参加しながら、なぜセイコーというブランドが海を守る活動をするのか、と考えていました。まずひとつ、セイコーの時計を扱う者として、わたしたちはダイバーや海に入る皆さんに、プロスペックスを使って笑顔になってもらいたいですよね。でもいくらお気に入りの時計があっても、海が汚れていたら楽しいはずがありません。
それともうひとつ、時計の会社として、私たちには地球を守る意義があると思います。1日の時間は地球が一周回ることで作られている、つまり「時」は地球が作っているんですね。その地球を守れなければ、「時」だって守れないことになる。地球の営みがあってこそ、「時」の価値が継続されるんです。「時」を示す時計の会社だからこそ、率先して地球を、そして、水資源である海を守る活動を行うことが欠かせません。これからもPADIの皆さんと一緒に、海洋保護活動をしっかり継続していきましょう。
SDGs推進室の松江さんは、こうした取り組みを「意義のあるかたちで継続させることが目標」と話していました。
松江幸子さん:社員たちが自ら理解を深め、取り組む意味を実感しながら継続できることが重要だと考えています。みんなが普段から環境問題を意識しやすいように、この2年間で20回ほど社内向けのメルマガも出しました。その時々で起きている環境関連のニュースや、社内のSDGs計画に関係することなどを書いています。マイボトルを使う人が増えたり、社会課題を自分ごととして考えるようになったり、少しでも良いきっかけになれたら嬉しいですね。今後も、社員が参加できる活動の場づくりを続けていきたいと思っています。
PADIがフィンズオン(水中)、セイコーウオッチがフィンズオフ(陸上)という役割分担は、最後の共同作業によって実に見事なコラボレーションになっていました。海洋ゴミ問題を中心に置くことで、普段から海底を見ている人と、なかなか海底まで見る機会がない人の生活環境や価値観の違いが消える。社会課題を解決する着実な歩みは、こうした問題の捉え方に他者を交えることから始まると思いました。引き続きセイコーウオッチの海洋保護活動に注目したいです。
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