Magazine ジャズコラム
Interview
石塚真一・NUMBER 8 インタビュー
『BLUE GIANT』とジャズの未来
- 2026/10/05
- 2026/10/05
Profile
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石塚真一
石塚真一
1971年茨城県生まれ。中学生時代はブラスバンド部に所属し、大学時代はバンドで活動。会社員を経て、独学で漫画家を目指す。山岳救助を描いた『岳 みんなの山』で「第1回マンガ大賞2008」、「第54回(平成20年度)小学館漫画賞 一般向け部門」、「第16回(平成24年度)文化庁メディア芸術祭 マンガ部門優秀賞」を受賞。『BLUE GIANT』で「第9回マンガ大賞2016」第3位、「第62回(平成28年度)小学館漫画賞 一般向け部門」、「第20回(平成29年度)文化庁メディア芸術祭 マンガ部門大賞」を受賞。
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NUMBER 8
NUMBER 8
漫画原作者・編集者・脚本家。『BLUE GIANT』を立ち上げ、担当編集として石塚氏をサポート。ヨーロッパ編『BLUE GIANT SUPREME』からはストーリーディレクターとして制作に関わる。2023年公開のアニメ映画『BLUE GIANT』では脚本を担当。作品に登場する雪祈を主人公にした『ピアノマン~BLUE GIANT 雪祈の物語~』では小説家デビューを果たした。現在も漫画原作者として数々の作品を手がける。
ジャズ・ミュージシャンを目指す若者たちが世界の一流プレーヤーから直に指導を受けられる理想のジャズ・キャンプを日本でも実現すべく、2016年にスタートしたSeiko Summer Jazz Camp(以下:セイコージャズキャンプ)。今年で10周年を迎えた同キャンプは、世界的作編曲家の挾間美帆を講師に迎えた作曲・編曲コースを新たに開講するほか、大人気ジャズ漫画『BLUE GIANT』とのコラボレーションによる“BLUE GIANT賞”を創設するなど、よりスケールアップしたプログラムでの開催です。ここでは、『BLUE GIANT』の作者であり、今年度セイコージャズキャンプの審査員として「BLUE GIANT賞」を選定された石塚真一さん、NUMBER 8さんのおふたりのインタビューをお届けしましょう。
ガラコンサートから聴こえてきた、ジャズの未来を担う若き才能たちの音
漫画『BLUE GIANT』は、2013年4月からビッグコミック(小学館)で連載がスタート。世界一のジャズ・プレーヤーになることを目指す宮本大という若者を主人公にした同作はこれまでに、仙台と東京を舞台にした第1部『BLUE GIANT』から、ヨーロッパに舞台を移した第2部『BLUE GIANT SUPREME』、大のアメリカでの生活を描いた第3部『BLUE GIANT EXPLORER』を経て、現在連載中の第4部ニューヨーク編『BLUE GIANT MOMENTUM』につながっていく長編作品。2023年には第1部が映画化され、第47回日本アカデミー賞で最優秀音楽賞(上原ひろみ)と優秀アニメーション作品賞を受賞しています。今回の「BLUE GIANT賞」の創設は、『BLUE GIANT』の主人公である宮本大が抱く“世界一のジャズプレーヤーになる”という情熱と、次世代育成を掲げるセイコージャズキャンプの理念が重なって実現したもの。ジャズの未来を担う若き才能を応援する特別賞という位置付けです。選考するのは、作者の石塚真一氏と、ストーリーを担当するNUMBER 8氏のおふたり。セイコージャズキャンプのガラコンサートでの審査と授賞式を終えた両氏に話を伺ってみました。
『BLUE GIANT』の世界と共通する熱い思い
――「BLUE GIANT賞」の審査員としてセイコージャズキャンプに参加した感想をお聞かせください。
石塚(以下:石):とてもストレートな感想ですけど、聴いていてものすごく楽しかったです。受講生の皆さんも楽しそうに演奏していましたし。ですがそれと同時に、コンペティション独特の緊張感もあって、それを乗り越えようとする雰囲気が強く伝わってきました。それぞれの個性的なプレーにものすごくジャズを感じることができ、本当によい時を過ごすことができました。
NUMBER8(以下:N):皆さんとても元気ですよね。そういう元気な音が響いている空間にいるのはとても心地よかったです。それと、それぞれのソロ・パートから、自分独自の演奏にしよう、目立ってやろうというような気概が感じられたことも頼もしかった。そういうところは『BLUE GIANT』の主人公たちともつながるような感じがして、見ていてとても面白かったです。
石:そうですね。みんなが自分の中で戦っている感じがあって。そこは宮本大と同じ熱いものをすごく感じました。それからもうひとつ感じたのが、受講生さんたちの成長ぶり。僕は、セイコージャズキャンプのレッスンを受ける前の演奏も聴かせてもらっていたんですけど、今日のコンサートでは、もう別人と思えるくらいに演奏が変化している受講生さんもいて。本当に驚きました。
――「BLUE GIANT賞」を選ぶ際、どのような点を重視されましたか?
N:最初は迷いましたね。全員が覇気あふれるプレーをしていたので。ふたりでいろいろと話し合った結果、“石塚さんの胸に一番突き刺さった人がいいんじゃないかな”ということに。最終的には石塚さんに決めてもらいました。
石:基準をどこに置くかは、最初は迷いました。なにしろ賞を上げるなんて初めてのこと。どちらかと言えば僕たちはこれまでずっと、“欲しいなあ”と思う側でしたから(笑)。光栄であると同時に畏れ多いなとも思って。でも貰った人が喜べる賞を手渡せるのは、こちらとしてもすごくうれしいですね。
挑戦を続けることによって生み出される大きな成長
――そうして選ばれたのが澤田愛菜さんというトロンボーン奏者。彼女のどのような点が胸に突き刺さったのですか?
(澤田愛菜さんのGraduatesページはこちら)
石:ソロの最初の一音でやられました。“バー!”っていう力強いロングトーン。そこから、“おりゃ!”っていう声が聞こえた気がして。もちろん、そんな声は出していないんですが、そういう熱い気持ちが伝わってきたのが印象的でした。それから、ステージで楽しそうにしている点もよかった。他の人たちのソロの時も脇で、“うんうん”ってうなずきながら楽しそうに聴いていて。ずっとこのまま成長していってほしいなと思いました。彼女は、11月21日にキングセイコー主催で行なわれる馬場智章さんのコンサートにゲスト出演することになっていますけど、今日のような、“おりゃ!”って感じるようなプレーで、馬場さんたちにぶつかっていってもらいたいですね。きっとさらに成長すると思いますので。
――今、“成長していってほしい”と話されましたが、『BLUE GIANT』では、挫折と挑戦を繰り返しながら成長していく姿が数多く描かれています。そうした成長への期待なども込めて、セイコージャズキャンプ卒業生の皆さんにメッセージをいただけますか?
N:たしかに、挫折は数多く描かれていますね。僕自身たくさん経験していますので。挫折を経験したことのない人なんて、石塚さんくらいじゃないですか?
石:またまたそんなことを言って(笑)。僕もたくさんしてますって。
N:ですけど、挫折してしまった以上は、成長しないと勿体無いっていうのはすごく感じるんですよね。すんなり行ければ最高なんですけど、でも結局のところ、挫折を経験した方がずっといいんだろうと。のちのち、面白かったって思えるんだろうなというのはいつも考えますね。受講生の皆さんもこうして貴重な機会を得られたんで、何があってもやり続けることを大事にしてほしいなと思います。
石:これは逆説的になるかもしれないんだけど、セイコージャズキャンプの講師の方たちってみんな、ものすごいミュージシャンなわけですよね。でも実際のところ、生まれつきそうだったわけではなくて、最初はみんな普通の子供だったはず。だけど、ある時からミュージシャンの道を歩み始めたと思うんです。ですから、卒業生の皆さんに頭に入れていただきたいのは、最初はみんな普通なんだということ。そしていつの日か、ターニングポイントを自分で見極めて、立派なミュージシャンになっていくんだということを意識してほしいと思います。


ジャズ・シーンの未来を担う若きミュージシャンたちへの期待
――そうした若い皆さんの成長を応援するために、セイコーグループがセイコージャズキャンプを推進しています。
N:ありがたいことですよね。セイコーさんは“時”に取り組んでいる企業ですけど、僕たちが関わっているジャズの中にも、時間の過ごし方であるとか、その時間をいかに豊かにするとか、苦しい時間をどう過ごすかとか、“時”に関することがたくさん詰まっていて。その共通する部分を、若手の育成を通じて豊かにしてくれる素晴らしい取り組みだと思っています。
石:先日、ちょっとフランスに行かせていただく機会があって、美術館にも何回か行ったんですけど、その時に感じたのが、芸術を後援するパトロンの存在の大きさなんです。経済的な後ろ盾がないとあれだけの作品は生まれなかっただろうと。僕たちにとって、文化やアーティストはとても重要なものですが、それを支える人たちも、実はとても重要な存在だと思うんです。セイコーさんのようなメセナ企業(芸術や文化活動を支援する企業)が芸術にとってパトロン的な役割を果たしてくれているおかげで、現在のジャズ・シーンの活気が生み出されているように思えます。
――最後に、今後のジャズ・シーンの活気を生み出すであろう若いミュージシャンにどのようなことを期待されますか?
石:大きなビジョンで活動してもらえたらワクワクしますね。“ビートルズを超える!”みたいな(笑)。そういう最大限に大きい考え方をすると、新しい何かが生まれるような気がしますので。
N:そうだね。たしかに、そういうふうに世界的に活躍してほしいというのはあるね。でもそれと同時に、もっとジャズが身近に聴けるような環境、どこの街でも毎晩ジャズを楽しむことができる社会を作っていってもらえるとうれしいな。世界が豊かになるように思えるので。



