文 村上アンリ
写真 近藤 篤
幼い頃世界の舞台で戦う選手を観て、憧れの選手の背中を追い始め、ついにその世界最高の舞台までたどり着いた競泳の坂井聖人選手。
そんな彼自身の姿を見ることで、子どもたちにも夢や勇気を与えられる存在になれれば、と願う。
水泳を始めたきっかけからイメージトレーニング、そしていま強く意識している時間について聞いてみた。
決して順風満帆ではない、坂井聖人のこれまでの競技人生
昨年手術をされたそうですね?
内視鏡手術で右肩にできていたガングリオンをとりました。昨年4月の日本選手権のときから、なんだか痛みがあっておかしいなと思っていたんです。それが次第に肩に力が入らないような状態になり、冷蔵庫を開けてペットボトルを取ろうとしても、握ることはできても持ち上げられなかったりしました。
それは相当悪い状態だったのですね。原因はなんだったのでしょうか?
ドクターからは、肩の回しすぎと診断されました。僕の泳ぎの特性上、どうもその部分に負担がかかるみたいです。でも、ある意味で手術をしたのはラッキーなタイミングでしたね。もし今年手術をしていたら、相当不安な精神状態だったと思います。
坂井選手が水泳を始めたきっかけは何だったのですか?
兄が水泳をやっていて、母にあなたもやればいいんじゃないのって勧められたんです。でも実は僕、最初は水泳がけっこう嫌だったんです。水があまり好きじゃなかったんですよ。(笑)中一の時も、スイミングスクールの一般クラスから選手クラスに入るかって聞かれたときに、僕は部活でバスケもやっていたんですけど、そのバスケがかなり下手で。もし上手かったら、たぶんバスケをやっていたでしょうね。
じゃあ水泳を止めようと思ったことは何度かあったのですか?
中二の時に一度あります。エントリーはニ番目の成績で挑んだ大会で、100mも200mも予選落ちしました。それから1ヶ月くらい全く泳がなかったし、クラブにも顔を出しませんでした。その時説得してくれたのは、スイミングクラブのコーチでしたね。全国中学大会で優勝させてやるから、と励まされました。
トレーニング中にイメージすることとは
で、気がつくとそんな坂井選手が世界の舞台でメダルをとるなんて話をしています。(笑)トップの世界が視野に入ってきたのはいつ頃からですか?
中学の時はもちろん世界の舞台なんて考えもしないです。高二の時に日本選手権の準決勝まで進んで、じゃあ次はリオの出場権を狙ってみようかな、と考え始めましたね。その頃いつもトレーニング中にイメージしていたのは、僕の横をマイケル・フェルプス選手が泳いでいる場面でした。いつも僕は彼と競りながら泳いでいるんです。
ちなみにフェルプス選手と坂井選手、どっちがリードしているんですか?
もちろんフェルプス選手ですよ。僕はほんの少しだけ後ろから追いかけているんです。
もちろん最後は自分が勝つつもりで泳いでいるんですけど。
で、本番でもそのままの結果になっちゃいましたね。
そうなんです。後になって考えてみると、練習中、一度も彼に勝っていなかった。(笑)
じゃあ今は先頭を泳いでるイメージで練習している?
はい!フェルプス選手は引退してしまいましたので、だから今はその競争相手をミラーク選手に変えました。彼はハンガリーの若手で、リオで勝ったフェルプス選手のタイムより0.6秒くらい速いタイムで泳いでいます。19歳だから伸び盛りです。でも今度は、僕がミラーク選手をリードしながら、っていうイメージでやってます。(笑)
坂井聖人にとっての「1分51秒51」
「1分51秒51」これが坂井選手にとってとても意識している時間だと伺いました。
そうです。僕の専門種目は200メートルのバタフライで、その時間が現時点での世界記録なんです。水泳をやっているからには、やはり世界記録というのが目標です。
順位というのは人との争いで、タイムは自分の中での競争、そんな感じですか?
いえ、それほど違いのあるものではないような気もします。タイムを意識すれば、必然的に順位もついてきますから。
世界の舞台は強烈に意識しますか?
しないといえば嘘になりますけれど、基本的に自分は、今は今、って思うタイプです。まずは2019年の世界水泳で金メダルをとる、そこにフォーカスしていますね。ですから最初のターゲットは日本選手権(4月)ですね。
「1分51秒51」という時間を自分の中で最終的にどこまで上げたいという目標はありますか?
0.01でもいいです。ちょっとでも更新できれば、それで大満足です。その記録を超える、それだけしか考えていないですよ。1秒でも、0.1秒でも、どのくらい超えるかということは全く意識していないです。
世界記録の更新って大変ですよね、当たり前ですけど。
あの世界記録って、足首まである高速水着の時代の記録で、その記録を残したのは、怪物と呼ばれたマイケル・フェルプス選手です。その記録を破ったら、気持ちよく大満足ですね。(笑)
いやいや、まだまだもっと大きなところを狙っているのでしょ。世界の舞台を自分の記録更新の場にする、そんなイメージはあるのでしょうか?
それはありますね。そこで出せたら最高だろうなってイメージは常にありますよ。
自分自身、いつも新しいモチベーションを考えないといけないですから。どういうモチベーションを持てるか、そこがもう一段強くなるポイントだと思っています。
坂井選手の活躍が次に続く子供達の刺激にもなると良いですよね。
僕は小さい頃世界の舞台を見て、いつかはこの人たちのように、こういう舞台で泳ぎたいなって思っていました。個人的にはアテネで銀メダルをとった山本貴司さんに影響を受けましたよ。世界の舞台で銀メダルってすげえな、って。僕自身の経験から言って、小さい頃から強い選手を意識することってとても大事なんだと思うんです。レベルの高い試合、クオリティの高い泳ぎを見ることで、子供たちも刺激をもらえるし、良い影響をもらえますしね。そういう意味で、僕の泳ぎが彼らに良い刺激を与えられたらと願っています。
今年、そして来年の坂井選手のご活躍を期待してます。
ありがとうございます。2018年は肩を怪我して、代表も落ちてしまったんですが、2019年・2020年と試合は続いて行くので、いつも金メダルを目標にして頑張ってゆくつもりです。これからも引き続き応援をお願いします!