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【成田実生×大橋悠依 特別対談 後編】大舞台で戦ってきた2人の「時間の使い方」と、自分を超えるための「メンタルパフォーマンス」 【成田実生×大橋悠依 特別対談 後編】大舞台で戦ってきた2人の「時間の使い方」と、自分を超えるための「メンタルパフォーマンス」

【成田実生×大橋悠依 特別対談 後編】大舞台で戦ってきた2人の「時間の使い方」と、自分を超えるための「メンタルパフォーマンス」

文 久下真以子
写真 落合直哉

ともにTeam Seikoのメンバーであり、競泳・個人メドレーという同じ種目の先輩・後輩でもある大橋悠依と成田実生の特別対談。

二人の出会いやアスリートとしての互いへのリスペクト、そして8月のパンパシフィック選手権、9月のアジア大会へ出場する成田の意気込みについて掘り下げた前編に続き、後編では個人メドレーという種目の過酷さを知る二人だからこそ語り合える、レース当日の過ごし方やプレッシャーへの対処法などを聞いた。

世界の舞台で“今までの自分”を超え、最高のパフォーマンスを発揮するための「時間の使い方」と「メンタルの整え方」に迫る。

【成田実生×大橋悠依 特別対談 前編】水面下でつながる絆。2冠の女王から新星へ渡される「大舞台の心構え」

味噌汁とメロンパン。スタートに立つまでの「時間との向き合い方」

インタビューの様子

朝に味噌汁を飲むこと、アップを早く済ませて休憩の時間を作ることがルーティンだったと振り返る大橋

写真 落合直哉

お二人のレース当日の過ごし方やルーティンなどについて教えてください。

大橋:朝ご飯では必ず味噌汁を飲むようにしていました。水泳では朝からレースをすることもありますし、レベルが高い大会では初戦からいいタイムを出さなければならないので、温かいものを入れて内臓を起こすイメージですね。

会場に入ってからは、私は結構早くウォームアップを済ませてしまうタイプでした。アップを終えたらリラックスできる格好に着替え、20~30分ほど休憩してからレース用の水着に着替えるというのがルーティン。休憩の20~30分間は、音楽などを聴きながら「心を整える時間」に充てていました。聴く曲はその時々によって変わりますが、現役の最後のほうによく聴いていたのはMrs. GREEN APPLEです。

成田:私は悠依さんのお味噌汁とは趣が全然違うのですが、朝はメロンパンを食べるのがルーティンです。もう昔からそれが習慣になっているので。

大橋:実生ちゃん、アップ開始は割とギリギリだよね(笑)。

成田:そうですね。でもレースの招集所に行くのは早いですよ(笑)。会場に着いてからは、チューブトレーニングなど決まったウォームアップのメニューをこなしています。悠依さんのように休憩の時間は取りませんが、そうしたルーティンの中で心を落ち着かせています。

招集所に行ってから自分のレースが回ってくるまで、15分から20分ほどあると思います。その時間は長く感じるものですか?それとも短く(早く)感じるものですか?

大橋:私は早く感じますね。モニターで前の選手のレースなんかを見ていると、「あ、もう自分の番だ」という感じになります。

成田:私は招集所に早く行きすぎて、「まだ呼ばれないな」って思うことがたまにあります(笑)。

プレッシャーを自信に。大舞台の「一瞬」に実力を発揮するためのメンタル

インタビューの様子

成田は、「調子がいいとか悪いとか、余計なことを考えないでいられる時が理想の状態」と自己分析する

写真 落合直哉

全国大会や国際大会などの「一発勝負」の前は緊張しますか?

大橋:緊張はめちゃくちゃします。でも、緊張しないほうがいいかというとそれもまた違いますからね。

成田:そうですよね。緊張感はある程度あったほうがいい結果を出せる気がします。

大橋:過去に言われて確かにそうだなと思ったのが、「しっかり準備してきたから緊張するんだよ」という言葉です。一生懸命に練習を積み重ね、コンディションを整え、そのレースで成し遂げたいことがあるから緊張するわけで、そこが抜け落ちているとたぶん緊張しないんですよね。その言葉を聞いてからは、「緊張は悪くないこと」と思うようになりました。

成田:これまでのレースを振り返ると、結果がよかった時は「緊張すら楽しんでしまおう」というポジティブなマインドになっていた気がします。

自身の当日の調子について、レース前にわかることもあるのでしょうか?

大橋:「今日は大体このくらいかな……」って思うこともありますね。

成田:私は「今日大丈夫かな」って不安になることが時々あります。

大橋:自分の調子って、泳いでみないとわからないものなんです。大会の最初のレースは特に。東京で金メダルを取ったときも、予選を泳ぐまではすごく不安でした。でも予選で自分の感覚とタイムがマッチしていたので、「決勝で自分の描くレースをすれば金メダルのチャンスがあるかもしれない」と感じていました。

成田:その時の悠依さんのインタビュー、すごくよく覚えています。「1本泳いで緊張がとけた」と話していたのが印象的でした。

私は、自分がやってきたことに自信を持てている時は自然といいマインドになっている気がします。「今日はいける!勝てる!」というより、いい意味で何も意識しなくなるというか。調子がいいとか悪いとか、余計なことを考えないでいられる時が理想の状態なのかもしれません。ただ、去年の世界水泳の200m個人メドレーで自己ベストを出した時は、前日の睡眠の質がすごくよくて。その時は、「今日はいいかも」という感覚がありました。過去一いい睡眠でした(笑)。

同じレースでも、長く感じたりあっという間に感じたりすることってありますか?

大橋:コンディションがいい時ほど体が動くので時間は早く感じます。逆にイマイチなレースほど疲れを感じますし、時間も長い気がします。

成田:わかります。時間が遅く感じる時は、ゴールしてからどっと疲れが出るんです(笑)。

「ゾーンに入った時の感覚」は選手によって違うと聞きます。「観客の顔まで見える」という選手もいれば「何も聞こえなくなる」という選手もいますが、大橋さんはどうでしたか?

大橋:銀メダルを取った2017年の世界選手権(ハンガリー)では、ゾーンに入っていたと思います。金メダルを取ったホッスー・カティンカは、地元ハンガリーの人気選手。観客は足で床をドンドンドンドンと鳴らす独特の応援をしていました。その音がすごく大きかったのですが、レース中はまったく気にならなかったんです。それどころか、なぜか自分が応援されているような気分になって(笑)。周りの情報が視覚的にあまり入ってこず、でも自分のレーンだけはくっきりと浮き上がって見えるような不思議な感覚でした。

さらなるステージへ。二人が思い描く、「水泳人生」のビジョン

インタビューの様子

2021年・東京の無観客開催と比較しながらアジア大会への思いを語り、特別対談を締めくくった成田

写真 落合直哉

今後の目標や、これからの水泳人生におけるビジョンをお聞かせください。

大橋:今は大学院でスポーツ栄養学の研究をしています。私自身、大学時代に貧血に悩まされた経験があり、ただ泳ぐ練習をするだけではなく、食事やメンタルを整えて「しっかり実力を発揮できる状態にすること」の大切さを痛感してきました。まだまだ競泳の世界では、食事への関心や理解がすごく高いとは言えません。大学院で学んだことを、今後の競泳界に伝えていけたらと思っています。

成田:もちろん悠依さんみたいに大舞台で2冠を獲りたいという目標もあるのですが、トップアスリートを見ていると、競技にとどまらない「人としての強さ」があると感じています。「人間力」と言いますか、悠依さんのように憧れられるようなかっこいい大人になっていきたいです。

最後に、この記事を読んでくださった方や競泳ファンの方たちにメッセージをお願いします。

大橋:今年9月のアジア大会、競泳は東京アクアティクスセンター(江東区)で行われます。少しでも興味がある方は、ぜひ会場に見に来てください。画面越しでは伝わらない生観戦ならではの楽しみ方もありますし、きっと「競泳って面白い」と感じていただけるはずです。レースの間は水中にいますが、選手には皆さんの声が聞こえています。ぜひ大きな声での応援をよろしくお願いします!

成田:今回は、自国開催の応援を心強く感じています。100分の1秒を競う世界に選手たちがやってきたことのすべてが詰まっているので、ぜひチームジャパン一丸となって頑張っていけたらと思います。応援よろしくお願いします!

大橋:実生ちゃんが活躍する姿を見に来てくれたら嬉しいです!

成田実生

女子競泳選手
成田実生

2006年生まれ、東京都出身。2022年に400m個人メドレーで世界ジュニア記録を樹立。2023年の日本選手権では200m・400mの個人メドレー2冠に輝いた。同年7月の世界水泳選手権に日本代表として出場。9月のアジア大会では400m個人メドレーで3位と好成績を収めている。初の大舞台となった2024年のパリ大会では400m個人メドレーで6位入賞。日本競泳界の未来を担う存在として、今後のさらなる飛躍が期待されるニューヒロイン。

大橋悠依

セイコースマイルアンバサダー(スポーツ担当)
大橋悠依

1995年生まれ、滋賀県出身。2017年の日本選手権・400m個人メドレーで日本新記録を樹立し、同年の世界水泳ブダペスト大会・200m個人メドレーで銀メダルを獲得。2021年の東京では競泳日本女子史上初となる個人メドレー2冠(200m・400m)を達成した。同種目の日本記録保持者。2024年10月に現役生活を引退。現在はセイコースマイルアンバサダー(スポーツ担当)などを務め、次世代の育成や水泳の普及に貢献している。

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