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文 C-NAPS編集部

「金メダルはカビゴンにつけてあげたいと思います。」

2021年夏、世界の大舞台でスケートボード初代王者に輝いた堀米雄斗は、注目の会見で淡々とそう語った。高難易度のトリックを涼しい顔で決めるスケートボード界のキングだが、その一方で見せる純朴さに多くの人が“ギャップ萌え”したことだろう。しかし、あくまで彼は常に自然体であり、その本質は“スケボー小僧”のままだ。

セイコーウオッチ「プロスペックス」のアンバサダーとしても活躍する堀米は、まさにブランドが標榜するブランドフィロソフィー”Keep Going Forwad”の体現者。「いつも楽しむことを意識している。」という堀米のスケートボードに対する価値観や信念について迫った。

初代世界王者が望む”スケボー小僧”としての日常

堀米雄斗選手 写真

驚異的なトリックで見るもの虜にする堀米。しかし、その素顔は純粋にスケートボードを楽しむ”スケボー小僧”だ

「うん似合ってる。」

王者の証しである金メダルをカビゴンの首にかけ、堀米はおちゃめにそうツイートした。するとその投稿には28万件以上のいいね!が寄せられた。世界の大舞台の新競技・スケートボードの初代王者は、偉業を達成してもなお、飾り気のないままだ。むしろ、そうした等身大の22歳の姿に多くの人々が魅了されているのだろう。

「友だちと遊びで滑っている時も、試合や練習で真剣に滑っている時もどっちもありのままの自分。スケートボードをしていることが単純に楽しいですよね。練習も全然苦ではないですし、技を覚えたり、その技を映像に残したり、自分の好きなことをやれている感じです。」

まるでスケートボードを初めて買い与えられた少年のように、無垢な気持ちで滑ることを楽しんでいる堀米。初代世界王者の称号を手にした後も、その考えに変化はない。「米国に戻ったらすぐいつものメンバーと滑りたいですね。スケートボード中心の日常に戻れることが楽しみでしょうがないんです。」と語る堀米は、未だに“スケボー小僧”そのものだ。

堀米雄斗選手 写真

スケートボード中心の毎日を送る堀米。そんな”当たり前”が奪われるケガはもっとも辛い出来事だ。

写真:XFLAG

しかし、誰よりもスケートボードに愛情を注ぐスケボー小僧であっても、時に楽しめない瞬間が訪れると語る。

「正直に言うと、スケートボードをしている時がずっと楽しいわけではないんですよね。すごい痛いこけ方をした時には、ちょっと滑るのが嫌だなと思う時もあります。ケガした時とかはメンタル的にすごく落ちますね。」

人間業とは思えないような驚愕なトリックが魅力のスケートボード。トリックのレベルが境地に達するまでには、血のにじむような努力と壮絶なケガとの戦いが待ち受けている。堀米に関しても多い時で1年間に4回も骨折を経験したくらいだ。

ケガの痛みや恐怖心はスケートボーダーにとって大敵となる。それは堀米にとっても例外ではないが、彼が抱く真の恐怖は別のところにある。「ケガをしてスケートボードができないことがもっとも辛いですね。ギプスをつけてでも滑っていたこともありました。」

並みのスケートボーダーならケガの直後は、しばらく「スケートボードを見たくない。」と思うこともある。しかし、堀米は滑れないことの辛さがケガの痛みや恐怖心を上回ってしまうのだから驚きだ。

堀米雄斗が常に新しいトリックに挑み続けるワケ

堀米雄斗選手 写真

スケートボードには終わりがない。なぜなら新しいトリックが常に生み出されるからだ。

写真:XFLAG

堀米がスケートボーダーとして多くの称賛を浴び、さらに世界王者に君臨できた理由の1つにトリックの難易度や精度が挙げられる。世界の大舞台のベストトリック4回目の試技で9.50点を記録した”ノーリーバックサイド270ノーズスライド”は、大会のハイライトとも言える離れ業だった。

「トリックを習得する時は、自分が納得するまでトライし続けます。特にまだ乗れたことがない新しいトリックの場合は、まず”どうこけたらいいのか””どうしたら乗れるのか”などあらゆるシチュエーションを想定しますね。新しいトリックの場合、ミスり方がまず分からないし、どうコケるかも分からないんですよ。だから恐怖心との戦いですね。」

飄々と高難易度のトリックを繰り出す堀米だが、その習得までの間はとにかく試行錯誤を繰り返しているようだ。そして、未知の技は失敗やケガが常に隣り合わせ。だからこそ、自分が納得できるまでトライし続け、身体に覚え込ませると同時に恐怖心を払しょくしなければならない。華麗なトリックの裏にある涙ぐましい努力が窺い(うかがい)知れる。

堀米雄斗選手 写真

成功したらまた次のトリックを考えるという堀米。スケートボードに対する飽くなき探求心を感じさせる。

苦労の末に習得したトリックを大会で披露する際のマインドも実に印象深い。「トリックが決まったらすごく嬉しいですし、ほっと一安心もします。でも勝ちが確定した場合でなければ、すぐに次のトリックのことだけを考えますね。」

堀米は決して過去の成功に執着しない。そして、“次にどんなトリックを決めようか””もっとカッコよく決めるにはどうすればいいのか”という未来志向で物事を考える。大一番でも守りに入らずに攻め続けるアグレッシブさは、堀米のトリックに対する飽くなき探求心がそうさせるのだろう。

「スケートボードの面白さは、終わりがないところですね。まだ世の中に出てないトリックもいっぱいあるので。そういう新しいトリックにもどんどんチャレンジして、他のスケーターよりも先を行きたいですね。」と無邪気に語る堀米には、次の大会での誰も成し遂げたことがないトリックの成功を期待せずにはいられない。

大切なのは考えるのではなく、”ひたすら楽しむこと”

世界の大舞台などの最高峰の大会では、多くの選手が他のトッププレイヤーの演技に圧倒されたり、普段にはない緊張で実力を出し切れなかったりするだろう。しかし、堀米はそうではなかった。「周囲のことは、実はあんまり気にしてないんですよね。大会の時は自分のことだけに集中しています。あまり考えずに、スケートボードをいつも通り楽しむことだけに。」

大一番で集中力を発揮し、大技を繰り出せる秘訣はここにあるのかもしれない。考えるのではなく、自分なりにひたすら楽しむこと。言葉で言うのは簡単だが、それを実践できる選手は堀米を含め、本当に一握りしかいない。

また、堀米はメダルを争うライバルについても、「別に誰かと競い合っている意識はありません。自分の滑りをコンテストで出し切って、より良くすることだけを考えています。いわば自分自身がライバルですね。なので、自分をライバル視する選手がいたとしても、”あ、そうなんだ”くらいにしか思ないですね(笑)。」と素朴な青年の見かけによらず、ちょっとのことでは到底ブレない芯の強さを兼ね備えている。

堀米雄斗選手 写真

「楽しむことを忘れない。」そんな少年のような心でいられることこそが堀米の魅力だ。

アスリートが競技を続けるうえでは、常に葛藤が存在するものだ。しかし、いろんな感情を度外視にして、ただ楽しむことに没頭できたら、アスリートはもっとハッピーになれるかもしれない。日が暮れるまで夢中になってスケートボードを滑り続けている、どこにでもいるスケボー小僧のように。

「特に昔は何も考えず、ひたすらスケートボードを滑っていましたね。友だちとかとみんなで楽しく過ごしていましたし、お金のことなんかもまったく気にせずに純粋に楽しんでいました。僕は常にスケートボードを楽しんできましたし、そうした初心の部分を忘れないことが一番大事だと思います。」

当たり前のようで、実践するのが難しい”楽しむこと”の重要性。堀米はそれを滑りを通して身を持って教えてくれているのかもしれない。

セイコー プロスペックス×堀米雄斗選手 インタビュー動画
堀米雄斗

スケートボード選手
堀米雄斗

1999年1月7日 生、東京都出身。スケーターだった父親の影響で6歳からスケートボードを始める。10代からは国内の大会では常に上位にランクインすると、高校卒業後に本格的な渡米を果たして才能が開花。2017年にスケートボードで世界最高峰のコンペティションであるストリートリーグで表彰台を連発。2018年に初優勝を果たし、同年の3大会すべてを制するなど瞬く間に世界のトップ選手に君臨した。2019年にはミネアポリスでのX-GAMESを日本人として同種目初制覇。またロサンゼルスでのストリートリーグを制すると、世界選手権でも準優勝を果たした。コロナによるシーズン中断が明けた2021年には世界選手権で初優勝。

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