SEIKO  HEART BEAT Magazine スポーツを通して人生の時を豊かに

文 上田まりえ

世界の大舞台へ出場権を懸け、熾烈を極めるレースが繰り広げられた競泳日本選手権。夏の本番と同じ会場である東京アクアティクスセンターは、選考会独自の異様な緊迫感に包まれていた。

自身2度目の出場が懸かった酒井夏海は、「今までこんなに自分を追い込んで臨んだ大会はない。」とかつてないほどのプレッシャーを感じていたことを吐露した。しかし、世界の大舞台の出場権獲得を目標に掲げる酒井は、重圧をはねのけて100m自由形で54秒32と自己ベストを更新。見事に女子400mリレーの代表に内定した。

初めて世界の大舞台を経験したのは15歳の中学生の時。5年の歳月を経て大学生になった酒井は、2度目の夢舞台に何を思うのか。不安と安堵──激しく感情が揺さぶられた日本選手権を経て、6月19日にはついに成人を迎えた酒井。“大人になった素顔”に迫るとともに、世界の大舞台での目標について聞いた。

「目標」こそが頑張り抜くための原動力

酒井夏海 写真

2大会連続で世界の大舞台への出場を決めた酒井は、代表内定に安心感をにじませていた

写真 フォート・キシモト

女子400mリレーで代表内定を果たし、2度目となる世界の大舞台への出場を決めた酒井。「もちろん嬉しかったんですけど……。」と前置きをしたうえで、次のように答えた。「嬉しさよりも“行けて良かった”という安心感の方が大きかったんです。それと同時に、“安心している自分は何なんだろう”と不思議な気持ちになりました。」

喜びよりも、安心感が勝った理由とは何か。その答えは酒井が築き上げてきた輝かしいキャリアにあった。「5年前に出場歴がありますし、それから何度か代表にも選ばれています。その経験から“代表に入らなければいけない”という思いが強くありました。」

「5年前は“出場できたらいいなぁ”という気持ちでしたが、今回はまったく違う心境でした。“絶対に失敗できない”と意気込んで臨んだ大会だったので、精神的に追い込まれることも多かったんです。本来なら “勝たなきゃいけない”とか“代表に入らなければいけない”というよりも、“勝ちたい”“入りたい”という想いが先立つことが大事だと思います。変に自分を追い込み過ぎた面がありました。」

酒井夏海 写真

大一番で自己ベストを更新した酒井。目標に向けて頑張り抜くことができるのも彼女の才能だ

写真 フォート・キシモト

しかし、酒井はそんなプレッシャーを克服し、大事なレースで見事に自己ベスト更新を果たした。「覚悟を持って挑んだ中で最低限クリアしたいラインを越えられました。“これ以上、しんどいことってあるのかな?”と思うほど練習に取り組んだので、耐え抜けて良かったです。水泳は自分が追求すればするほど、タイムの向上が見込める競技だと思います。頑張った分、はっきりと結果に表れますからね。」

普段はマイペースな酒井だが、競技では自分を律することができる。それはアスリートにとっては大きな強みだ。「小学生の時、5分間走はまったく頑張れませんでしたけど、“校庭2周を目標タイムより速く走る”という明確な目的があった場合は、自然と頑張れた記憶があります。目標もなく、ただガムシャラに何かに取り組むことには目的意識をなかなか持てなくて……。」

幼い頃から目的意識を持つことを原動力にしてきた酒井。それがどんなに困難な目標だとしても、目指すべきものが明確になると自ずと力を発揮できる。「やっぱり目標に向かって努力することはすごく大切なのだと実感しました。頑張って結果が出るのなら、人よりも頑張れる自信があります。」と胸を張った。

20歳で迎える自国開催の夢舞台

20歳で2度目の世界の大舞台に臨む酒井は、当時の日本選手団最年少15歳で迎えた前回との比較を次のように語った。「前回は日本代表になるのも初めてだったので、何もかもわからない状況でした。でも今は経験を積み、代表内での交友関係も広がったので、だいぶリラックスして臨めます。」

若さや勢いで出場権を獲得できた前回とは異なり、きちんと目的意識を持って臨む世界の大舞台。この5年間で得た経験値が、酒井を大人へと成長させたことは間違いない。

「自国開催の大会に出場できるのは、一生に一度あるかのことだと思います。5年前からすでにこの大舞台を見据えていました。出場権を獲得できてすごく嬉しいですし、楽しみに感じています。家族はもちろん、たくさんの方に見てもらいたいです。」と20歳という節目で迎える世界の大舞台に大きな縁を感じるとともに、応援の重要性についても触れた。

酒井夏海 写真

20歳にして2度目の大舞台のスタート台に上がる酒井。5年分の成長を見せられるのか

写真 フォート・キシモト

また、日本選手権で切磋琢磨してタイムを競い合った池江璃花子選手、五十嵐千尋選手、大本里佳選手の3名と、世界の大舞台では400mリレー代表としてチームを組む。酒井は他のメンバーに対して全幅の信頼を寄せている。

「3人の先輩方は頼もしいので、“この4人ならいける”という安心感があります。年齢は一番下なので“私が引っ張る!”という感じではありませんが、“酒井がいて良かった”と思ってもらえるように、アピールしていきたいです。」と意気込んだ。

「リレーは緊張感がありますが、その分結果が出た時の喜びは個人の時とは比べ物になりません。メンバーが力を合わせる競技だからこそ、得るものも大きいですね。日本はいつも決勝に残れるかどうかのラインにいます。“日本の自由形は弱い“と言われているので、そうしたイメージを少しでも払拭したいです。あと、日本記録は必ず更新したいです。」
世界の大舞台での日本記録更新という、明確な目標を設定した酒井。リレーチームの強力な仲間とともに、日本競泳界の新しい歴史を必ずや築いてくれるだろう。

最近のマイブーム!ご褒美は「肉まん」

厳しい勝負の世界に身を置く酒井も、普段は同年代と何ら変わりのないニューノーマル時代の大学生だ。「コロナ禍なので学校で授業を受けることなく、ずっとパソコンに向かっています。これが当たり前の大学生活になっているので、違和感は特にありません。でも叶うのであれば大学に行って、友だちを作りたいですね。」

そんな厳しい情勢下にも文句を言わず、練習と学業を懸命に両立している酒井。その秘訣について尋ねたところ、まさかの答えが返ってきた。

「最近はすごく肉まんに助けられています!」

聞けば半年前からハマっていて、見かけたらとりあえず買ってしまうほど、さまざまな肉まんを食べ比べているという。「自分の中でランキングをつけています! ただ、肉まんを目の前にすると思考が停止しちゃうので、すぐにガブっといっちゃうんですが……(笑)。写真を撮っておけば良かったと後悔することが多々あります。」と満面の笑みでお茶目に語る。

酒井夏海 写真

酒井夏海選手着用時計 セイコー プロスペックス Ref.SBDJ019

写真 近藤 篤

ちなみに、好みのタイプの肉まんは「皮が少し硬めで、ガブっと一気に食べられるタイプが好きです! 中身は肉汁やタケノコの風味をしっかりと感じられるものが好み。」とのこと。

「食べ物の話をすると顔が緩んじゃいます!」と競技の真剣な表情とはまた別の魅力的な素顔を見せる酒井。「持っていけるのなら、持っていきたい!」と豪語するだけに、ご褒美の肉まんが夏の本番のパフォーマンスを引き出してくれるかもしれない。

「チームセイコー」としての誇りと感謝

競泳日本選手権は、セイコーがオフィシャルタイマーを務めた。その大会でセイコーメンバーの一員として世界の大舞台への切符をつかんだことに、酒井は喜びを露わにしている。

「水着やキャップ、ゴールした時のタッチ板にも“SEIKO”のマークが入っています。嬉しさを感じるのと同時に、”頑張らなきゃ“という気持ちが強くなりました。」

さらに、セイコーサポートアスリートであることで1つの夢が叶ったという。それは初めてのCM出演だ。2021年3月に公開された企業CF「TIME IT酒井夏海篇(15秒)」は、YouTubeでの再生回数が125万(2021年7月現在)を超える。

SEIKO企業CF「TIME IT 酒井夏海篇(15秒)」

SEIKO企業CF「TIME IT 酒井夏海篇(15秒)」

「自分じゃないと思っちゃうくらいカッコよく作っていただいて、びっくりしました! 完成動画を見て“うわぁ〜”と思わず声が出てしまったほどです。周囲に自分の映像を見せることはほぼありませんが、この動画はいろんな人に見せちゃいましたね(笑)。」

会場スクリーンにも映ったというこのCMに「ちょっと恥ずかしかった。」とはにかみながらも、「大きなスクリーンに映る選手になることを目標にやってきたので、ありがたい貴重な経験をさせてもらいました。将来子どもができたら、自慢したいと思います。」

酒井夏海 写真

写真 近藤 篤

また、関わる人とのつながりを感じられるのも「チームセイコー」の魅力だ。「佐藤翔馬君とは、同じサポートアスリートになったことで以前よりも話すようになりました。“セイコーの佐藤くんと酒井さん、頑張っているよね”と言ってもらえる活躍をしたいです。」

チームセイコーの一員として臨む初の世界の大舞台――そこでの活躍は、酒井がこの夏に達成すべき目標の1つであることは間違いない。

プロフィール写真

競泳選手
酒井夏海

兄の影響で6歳から競泳を始めるとメキメキと頭角を現し、中学3年生で迎えた2016年リオデジャネイロ五輪にはメドレーリレーに出場。50m、100m、200mで高校記録を持つなど背泳ぎが得意ながら、2大会連続となる東京五輪には自由形400mリレーの代表に選出された。

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