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「瞬間、瞬間の経験が、永遠となる」 世界一から3年、名将が貫く「時間は有限」の生き方――時とアスリート・栗山英樹 「瞬間、瞬間の経験が、永遠となる」 世界一から3年、名将が貫く「時間は有限」の生き方――時とアスリート・栗山英樹

「瞬間、瞬間の経験が、永遠となる」 世界一から3年、名将が貫く「時間は有限」の生き方――時とアスリート・栗山英樹

文 町田利衣(Creative2/Full-Count)
写真 松橋晶子

 誰も真似できないような経験を重ねても、探究心は尽きない。プロ野球・北海道日本ハムファイターズの栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサー(Chief Baseball Officer:以下CBO)にとって、野球と向き合う時間は「人生そのもの」だ。

 連載「時とアスリート」は、アスリートが歩んできた「時間」をひも解く。キャリアの節目に現れた出会い、挫折、栄光――その瞬間を掘り下げ、人生観や哲学を浮かび上がらせる。

 第3回に登場する栗山は、監督として日本一、世界一を経験。さまざまな一瞬を永遠に繋げ、時代を紡ぐ。今後に描く、野球界の未来のための“時間”とは――。(前後編の後編)

【前編】「僕にだけもう1時間ください」 一番の望みに表れる、“常識を疑う”野球人の尽きない情熱――時とアスリート・栗山英樹

 野球史に刻まれるいくつもの瞬間に、栗山は携わってきた。2016年7月3日。「1番・投手」で起用した大谷翔平(現ドジャース)が、日本プロ野球史上初となる投手の先頭打者ホームランを放ち、これまでの常識を覆した。

 2023年WBC決勝。1点リードの9回に守護神を託した大谷が、2死走者なしから当時エンゼルスのチームメートだったマイク・トラウトを三振に斬って世界一を決めた。漫画のようなストーリーに、世界中が釘付けとなった。

 そんな瞬間は、繋がっていく。

「一瞬そこで止まっているんですけど、そこが起点となって、もっとすごいことができる道が広がり始めた。瞬間、瞬間の経験が、永遠となっていく。僕の頭の中で写真としてあって、それが僕の中の永遠ですね。『今はこれが正しいんだ』という感性を与えてくれたり、若い人たちに伝えていいものなんだなっていう、思いが永遠になるわけです」

世の中で平等なのは、時間と命がいつか尽きること

栗山秀樹監督

写真 松橋晶子

 有限である時間の使い方は、「国民教育の師父」と謳われた森信三が残した言葉を実践する。「『2分間本を読まなかったら、人生終わりだと思え』というような言葉を残されているんですけど、つまり2分間何もしないことがないように自分に言い聞かせています。人間は死んだら休めるし、寝ている時だけ休めばいいって」とサラリと言う。

 簡単なことではないだろうが、栗山は「(ボーっとしている時間は)ほとんどないと思います。野球のことを考えたり、本を読んだり」と、どんな時にも考え、1分1秒を無駄にすることなく行動しているのだ。

「世の中で平等であるものは、時間と、命がいつかは尽きるという、本当にこのくらいしかないんじゃないですかね。そういう意味では、時というのは僕にとってはすごく重要なんです」

栗山秀樹監督

写真 松橋晶子

 日常の中で感じる些細な幸せも、やっぱり野球と繋がっている。「もちろんチームが前に進んだり、頑張っている時というのはありますけど、それを除くと、過去に一緒に戦った仲間が社会に出て活躍しているシーンを見ることですね」と優しく微笑む。

 監督として見ていた教え子は、巣立っていっても教え子だ。それはかつて目指した教師と似ているのかもしれない。先日も、グラウンドを訪れた元選手と1時間ほど談笑した。そんな関係が、うれしかった。

「他のスポーツもそうだと思いますけど、教え子の成長ってずっと楽しめますよね。だからずっと気になっています。監督の時は厳しくしないといけないから距離感を保ちますけど、今はいい距離感というか、一緒に苦労した仲間だからこそ話ができる、そんな瞬間はすごく幸せですね」

「野球離れ」が叫ばれる現状に募る危機感

栗山秀樹監督

写真 松橋晶子

 4月に65歳になる。まだまだ野球界のために、成し遂げたいことがある。2023年にWBCで世界一になった後には、「野球が好きになりました」「大会を見て野球を始めました」といった声が多く届いた。スポーツの持つパワーを実感し、「そういう方に出会えたのが一番うれしいことでした」と語る。

 だからこそ、叫ばれる野球人口低下には危機感を隠さない。今後描くのは、事業規模の拡大だ。「野球離れが加速しているというのは、僕の中にはものすごくあります。(プロ野球の試合は)ちょっとお客さんに入っていただいていて、分かりにくくなっていますけど、今のは一過性のものだと思ってやらないと、それこそ気が付いたら遅いみたいな、そういうことが起こりそうな感じがしているので。すごく意識は高く持っています」と警鐘を鳴らす。

 構想の一端として、全47都道府県にチームを置くことを提案。「一番分かりやすい例でいうと、プロ野球のチームを増やすとか。そうなれば子どもたちにとって、どこに住んでいても近くにチームがある。環境って大事だと思うんです。構造が変わるために、今は無力ですけど、そこは絶対に諦めてはいけないと思っています」などと目を輝かせながら説明する姿は、まさに求道者だ。

 野球以外に熱中しているものを尋ねると「ないですね」と即答。そんな人生を送れる人は、なかなかいないだろう。栗山英樹はこれからも、生粋の野球人として時を刻んでいく。

栗山英樹の「時」を知る3つの共通質問

Q1 あなたにとって、時を刻むこととは?

知識ではなく見識が上がっていく、ということですかね。最後の答えは現場にしかないってよく言いますけど、実際に自分がやってみないと何が起こるのかが分からない。僕もいっぱい失敗をしましたけど、その知識が見識に変わり、それが胆識に変わらなきゃいけない。経験を生かすのが時の刻みなのかなと思っています。

Q2 競技と向き合っている時間はどのような意味を持つ?

人生そのものですね。何も他のことを考えないで、そこだけに集中できる。このプレーはどうなのかな、どうしたらもっとうまくいくのかな、この状況でこのサインを出して大丈夫なのかなって、それだけを考えている。その時間は、後から思うと最高に幸せな時間だから。ある意味、そこと向き合っている時間が僕の人生ど真ん中だったんだろうなと思います。

Q3 年を重ねることの価値とは?

次世代を担う人たちの、お手伝いができるようになる可能性が高くなる。年を取って経験して、見識が増えていくことがすべてプラスにはならないですけど、こんなことを失敗した、こんなことをやったというのは、早く分かったほうがいい。やっぱり今、次の世代の選手たちに何か手伝えることがあるということに一番幸せを感じるので、そういうことなんじゃないかなと思います。

栗山英樹

北海道日本ハムファイターズCBO
栗山英樹

1961年4月26日生まれ、東京都出身。東京学芸大から1983年ドラフト外でヤクルトに入団し、右投げ両打ちの外野手として7シーズン計494試合で打率.279、7本塁打、67打点、23盗塁、ゴールデングラブ賞1回(1989年)。1990年限りで現役を引退後は野球解説者やキャスターに転身。2012年から日本ハムの監督を10年間務め、2度のリーグ優勝と1度の日本一に輝いた。2021年からは野球日本代表「侍ジャパン」トップチーム監督に就任し、2023年のWBCで優勝を果たした。2024年から現職。

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