SEIKO  HEART BEAT Magazine スポーツを通して人生の時を豊かに

文 千田靖呂
写真 阿部健太郎
場所 Urban Base Camp 新宿

世界の大舞台の新競技として注目を浴びたスポーツクライミング。世界トップクラスに君臨する日本人選手も多いだけに、観戦を通して「自分もやってみたい」と思った方もいるでしょう。しかし、同時に「ちょっとハードルが高そう」と感じた方もいるかもしれません。

スポーツクライミングに興味はあるけど一歩踏み出せずにいる方に向けて、今回は“クライミングの女王”こと野口啓代さんがアドバイス。スポーツクライミングを始める初心者の方におすすめの種目、道具、場所、コツなどを紹介します。

指先と筋肉だけで壁を登るスポーツクライミング

スポーツクライミングはホールドと呼ばれる突起物に手足を掛けながら、自身の指先と筋肉のみで壁を登る競技です。スピード、リード、ボルダリングの3種目から構成されています。

スピード、リード、ボルダリングって何?

スポーツクライミング 写真

スポーツクライミングには、登る速さを競う「スピード」、十数メートルの壁の到達高度を競う「リード」、複数のコースを順番に登ってそのクリア数を競う「ボルダリング」の3種目があります。「壁を登る」という点は共通するものの、それぞれ特徴が異なります。

わずか6~8秒の「スピード」決着

高さ15mの壁を登る速さを競う種目が「スピード」です。レースは一対一の対戦形式で実施されるので、見ごたえのあるバトルが繰り広げられます。トップ選手は6秒前後で駆け上がるため、勝負はまさに一瞬です。

難攻不落な壁を6分で制覇を目指す「リード」

「リード」は制限時間6分で高さ15mの難コースの到達高度を競う種目です。一度でも壁から落ちてしまうと失格になるため、突起物をつかみながら高みを目指す選手たちの姿には緊張感が漂います。

身体能力で複数の壁に挑む「ボルダリング」

高さ4メートルの複数のコースの壁を登り、そのクリアした数を競うのが「ボルダリング」。すべてのコースで突起物の位置や傾斜が異なるので、並外れた身体能力と優れた判断力を頼りにしたチャレンジが魅力です。


各種目の詳細はこちらで解説しています。

スポーツクライミングの
競技ルール・見どころを知ろう

初心者の方はまず「ボルダリング」から始めよう

ボルタリング 写真

3種目の中でもっともハードルが高いのがスピードです。高さ15mの壁を直線的に登るのはかなり難易度が高く、日本国内でスピードができる場所も5、6ヶ所ほどと限られています。

スピード同様にリードも上級者向けです。身体とロープをつなぐハーネス(安全ベルト)を履いてロープを結んでから登るのでロープワークなどの高度な技術を要します。また、ロープを押さえてクライマーが落ちないよう支え安全確保をする「ビレイヤー」の存在が不可欠。
設備が整った環境でないと体験できない種目と言えるでしょう。

初心者の方におすすめの種目はボルダリングです。ボルダリングが楽しめる施設は全国で急増しており、ジムに絞ると500~600施設、民間も合わせると700~800施設ほどあり、簡単にクライミングを体験できます。初心者の方はまずジムでボルダリングに挑戦してみましょう。

スポーツクライミングが体験できる施設

スポーツクライミング 写真

では、スポーツクライミングが体験できる施設はどこにあるのでしょうか。専門施設はもちろん、身近で楽しめる場所だったり、意外な場所にあったりするなど、ボルダリングを楽しめる場所は増加傾向にあります。

スポーツクライミング専門ジム

ボルダリングを筆頭に専門施設を構えているジムです。本格的に基礎から取り組みたい方に適していて、スポーツクライミングの競技を極める環境が整っています。専門ジムの場合、設置されている壁の難易度も多様です。また、レンタルシューズやレンタルチョークなどのアイテムも充実。スタッフも競技の知識が深いため、分からないことがあれば何でも教えてもらえます。

スポーツジムや公園に併設

近年、スポーツジムや公園などの場所でも、ボルダリングができる壁を併設しているケースが増えています。マシントレーニングや水泳などで普段から身体を鍛えている方が、ボルダリングに気軽にチャレンジできる環境が整備されつつあります。他のトレーニングと併用して楽しめる点も大きな利点です。ただ、スポーツクライミング専門ジムに比べ、レンタル品の充実さ、スタッフの知識は乏しくなる傾向にあります。

市区町村などの地方自治体が運営する公共体育館

ボルダリング用の人工壁は、市区町村など地方自治体が運営する公共の体育館に設置されていることもあります。公共施設にあるメリットは、利用料金の安さです。1回400~500円程度で楽しめます。ただ、公共体育館がある市区町村の住民、または通勤・通学をしている人のみが利用対象になるケースもあるので注意が必要です。また、壁や課題が少なかったり、レンタル品がなかったりする場合があるので、事前に確認しましょう。

カフェやショップに併設

ボルダリング用の人工壁は、カフェやショップにおいて内壁となるケースもあります。登っている人を見たり、アートとして楽しむ側面もあるようです。ボルダリングカフェであれば、カフェエリアとトレーニングエリアに分けられていて、トレーニングエリアでボルダリング用の人工壁や最新のフィットネスマシンで体を動かせます。その後、カフェエリアでコーヒーや紅茶と洋菓子などのスィーツを堪能できます。

初心者向けの壁があるジムを探して無理なく楽しもう!

スポーツクライミング 写真

ジムによって壁の高さや難しさが異なるので、最初にチャレンジする際は4mくらいの低い壁のある施設がおすすめです。難易度の高い壁は、初心者向けの低い壁に慣れてから段階的にチャレンジすると良いでしょう。また、身近なジムにも日本代表クラスのクライマーがトレーニングをしていることもあるので、ジムでの出会いも楽しみの1つです。

施設の使用料は、ジムで1日数千円程度で登り放題のところもあるなど意外とリーズナブル。ボルダリングはちょっとでも興味を持った人が気軽に、長時間楽しめるスポーツです。

クライミング初心者が準備するのは運動着だけでOK

スポーツクライミング 写真

ボルダリングができる施設では、必要な道具はレンタルできることが大半です。そのため、専用シューズや滑り止めのチョークはレンタルで十分でしょう。服装は自宅にある動きやすい半袖・短パン、後はスポーツ用のスパッツなどがあればそれでOK。まずは身1つでボルダリングを楽しむことから始めましょう。

複数回、ジムなどの施設に通うなどボルダリングを楽しめるようになってきたら、少しずつ自分のお気に入りの道具や服装をそろえてみるといいかもしれません。
以下ではクライミング初心者が知っておくといいアイテムとその特徴を紹介します。

専用のシューズ

クライミングでは、壁登り専用のクライミングシューズを使用します。クライミングシューズには「スリップオン」「シューレース」「ベルクロ」の3種類があり、初心者の場合は着脱が簡単なスリップオン、ベルクロがおすすめです。

滑り止めのチョーク

スポーツクライミングでは手で突起物をつかむため、手や指に大きな負担がかかります。負担を軽減し、グリップ力を高めるために滑り止めのチョークを使用します。チョークの種類はさまざまですが、リキッドとパウダーの2タイプが主流です。

チョークバッグ

チョークの保管には、チョークバッグが必要です。バッグの開口部は広いため、中身が見えやすく取り出しやすい点が特徴です。チョークバッグには、床に置く「置き型タイプ」と、腰に付ける「腰付けタイプ」があります。初心者でも始めやすいボルダリングでの使用におすすめなのは、置き型タイプです。

野口選手から初心者の方向けにアドバイスをもらいました

野口啓代 写真

スポーツクライミング入門の内容を押さえたところで、次はよりクライミングを安全に、楽しく始めるためのアドバイスを紹介します。“クライミングの女王”こと野口啓代さんに楽しむコツや上達のコツについてインタビューしました。

楽しむコツについて

野口「私が始めた時は同世代にクライミングをやっている女の子がいなくて、おじさんたちに混ざって練習したりしていましたね(笑)。でもクライミング人口が増えたこともあり、女友だちもできましたし、同世代の子と競い合う機会も増えました。

一歩踏み出すまでは不安に感じることもあるかもしれませんが、ジムに行ったらすぐに仲間やコミュニティもできるはずです。クライミングは自己成長を感じやすいスポーツなので、どんどん登れるようになる感覚が楽しいと思います。ジムにいるクライマーさんにアドバイスをもらいながら、課題をクリアする達成感をぜひ実感してみてください。」

上達のコツについて

野口「クライミングの上達のコツはとにかく登ることですね。筋トレをしたり、イメージトレーニングをしたりすることも大切ですが、まずは登ることに慣れることが一番の近道だと思います。

クライミングすることでしか養われない感覚を研ぎ澄ませることが重要ですね。感覚が身につけば、難しい課題にもどんどんチャレンジできるようになるはずです。たとえば、これまで一日に1時間しか登っていなかったとしたら、次にジムに行った際には3時間登ってみるとか。壁と触れ合う時間を増やすことが上達の最初のステップになるかと思います。」

クライミングを楽しむうえでの注意点

野口「初めての方は壁からの落ち方のレクチャーは受けましょう。下にマットが敷いてありますし、ジムには絶対にインストラクターの人がいるので、落ち方のアドバイスを受けてください。「お尻から落ちる」「膝をクッションのように使って足から落ちる」などの基本をしっかり身体で覚えることが重要ですね。それさえ守ればケガをすることもないと思います。」

クライミングは老若男女誰もが気軽に楽しめるスポーツ!

野口啓代 写真

野口「スポーツクライミングは力だけで壁を登る競技ではないので、体力や筋力に自信がない方でも「実は適性があった!」なんてことも珍しくないんですよ。私も球技とか水泳は苦手ですし、運動が苦手な方でも始めるハードルが低いスポーツだと思います。柔軟性やバランス感覚が必要な競技なので、筋力のある男性よりも女性やお子さんのほうがすぐに上達することもありますし、老若男女問わずどなたでも楽しめるはずです。まだ壁を登った経験がない方は、ぜひ近くのクライミングができる施設を利用してみてください!」


“スポーツクライミング界の第一人者”野口啓代さんのインタビュー記事はこちら

野口啓代が誓うクライミングへの恩返し。
引退後も冷めぬ競技愛

野口啓代

プロフリークライマー
野口啓代

1989年5月30日生まれ。小学5年生の時に家族旅行先のグアムでフリークライミングに出会う。翌年行われた全日本ユース選手権で優勝し、瞬く間に頭角を現す。その後も国内外の大会で輝かしい成績を残し、2008年には日本人としてボルダリングワールドカップで初優勝。W杯年間総合優勝4回、通算優勝21勝の実績を誇る。2021年の東京五輪では銅メダルを獲得し、現役を引退した。


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