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幅広い年代が気軽に楽しめるエクササイズとして「ボルダリング」が人気となり、街にはクライミングを楽しめる施設が登場。
さらに世界大会での日本人選手の活躍から「スポーツクライミングの強豪国」として世界にアピールするまでとなった日本。

しかし、「試合を見てみようかな……」と思いつつ、いまいちルールや楽しみ方が分からない人がいるのでは?そんなあなたに、スポーツクライミングのルール・見どころなどを解説します。

「そもそもスポーツクライミングとは?」といった基本情報は、以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

「スポーツクライミング」とは?
壁を登るボルダリングとは違う?

競技としてのスポーツクライミングとは?

スポーツクライミング 写真

まずは簡単に説明すると、スポーツクライミングには「ボルダリング」「スピード」「リード」という3つの基本種目があり、同じ壁を登る競技でもそれぞれに特徴があります。大会や協会などによって細かい規則が異なる場合もあるので、ここでは一般的なルールや考え方、観戦ポイントを紹介します。

頭を使う「ボルダリング」

日本では趣味として楽しむ方も多い「ボルダリング」は、「登った課題(コース)の数を競う種目」です。選手が登るのは4〜5メートルの壁で、ロープなどの安全器具は使わず、下にはマットが敷いてあります。壁にはさまざまなサイズ、形、配置の「ホールド」と呼ばれる突起物がついており、手足や体全体を使ってそれを利用し、頂上にあるゴールのホールドを目指して登っていきます。ゴールのホールドを両手でつかむことができれば「完登」となり、選手は次の課題(コース)へ。4〜5分間の制限時間内にいくつの課題をクリアできたかによって、勝敗が決まります。

完登数が同じ場合、次に勝敗の指標となるのは「ゾーン」の獲得数です。ゾーンとは、各課題の中間点に設けられているホールドのことで、ここをつかむとゾーンポイントが認められます。

完登数、ゾーンポイントがいずれも並んだ場合は、「アテンプト(トライ)」の数で勝敗が決まります。ボルダリングは、途中で落ちてしまっても、制限時間内なら何度でもチャレンジすることが可能です。ただし、完登までに挑戦した回数を「アテンプト」といい、この数が少ないほど評価が高くなります。つまり、理想は1回のトライで完登するクライミングで、これは「一撃」「フラッシュ」などと呼ばれます。

スポーツクライミング 写真

ボルダリングは「ホールド」と呼ばれる、さまざまな形状の突起物がついた壁を登り頂上を目指します。制限時間内に複数の課題(コース)をクリアした数で勝敗が決します。

◆ ボルダリングの見どころ

ボルダリングの最も面白いところは、体だけでなく“頭”も使う種目であることです。なぜかというと、選手は課題(コース)を競技直前まで見られないからです。他の選手のプレーも見られないため、自分がどんなコースを登るのかを事前に知ることができません。

そのため、スタート直前(もしくはスタート後)の短時間で登り方を考える必要があり、これを「オブザベーション」といいます。そして、このオブザベーションの力が、ボルダリングにおいて非常に重要な要素となるのです。

どのホールドを使って、どのルートで登っていけば完登できるか。最も効率的な方法を、瞬時にシミュレーションする力が求められるため、ボルダリングは「体を使ったチェス」とも言われます。ベストなプランは個々の身体能力によっても変わってきますし、確実に成功できる方法を取るか、失敗を恐れず大胆なトライをするかなど選手の性格もわかります。各選手のアイデアや戦略を感じられるのは、ボルダリングの大きな魅力です。

タイムを競う「スピード」

続いて「スピード」は、その名の通り「壁を登る速さを競う種目」になります。ルールは至ってシンプル。安全確保のためのロープの繋がったハーネスを装着した選手が2人ずつ一対一で対戦し、高さ15メートル、前傾5度、ホールドの位置も世界基準で同一と、まったく同じ条件の壁を登ります。頂上のパネルをタッチするまでのタイムを競うスプリント種目です。

スポーツクライミング 写真

スピードは「ホールド」がついた高さ15メートル前傾5度の壁を、いかに速く登るかタイムを競います。

◆ スピードの見どころ

スピードの見どころは、なんといってもコンマ1秒単位の差で勝負が決する“高速バトル”。陸上競技にも似たスリルを味わえるという点で、観戦初心者にもわかりやすく、観客の瞬間的な盛り上がりも非常に大きな種目となっており、若い世代にも大人気。

驚くのはそのスピード感。現在(2021年7月時点)の世界記録は、男子が「5秒48」(2017年更新)、女子が「6秒96」(2020年更新)で、選手はビルの3階くらいに相当する15メートルの高さをあっという間に上がっていきます。

加えて、陸上や競泳の同じスプリント競技と比べて、絶対優位と見られていた選手がホールドを踏み外して落下する、といったアクシデントが起こりやすく、ドラマや番狂わせが多く見られるのも魅力のひとつ。身体能力や技術だけでなく、選手には本番で失敗しないメンタルの強さも求められます。

高さを競う「リード」

最後の種目は「リード」です。これは「登った高さを競う種目」。12メートル超の壁を、6分間の制限時間内にどの地点まで登ることができたかで、記録が決まります。選手はロープと体を繋げるハーネスを装着し、途中のクイックドローという器具にロープを引っ掛けて安全を確保しながら壁を登り進んでいきます。頂上のクイックドローにロープをかければ完登、途中で落ちた場合はそこまでの高さが記録になります。基本的に、コースは非常に難しいレベルなので、完登者が続出するケースは稀です。頂上までのホールドに番号が振られていて、例えば20番目のホールドまでつかんだ状態で落ちたらスコアは「20」となります。

スコアが同点だった場合は、「カウントバック方式」といって、前のラウンドで上位だった選手が上の順位になります。それも同じだった場合はタイムを指標とし、落下(もしくは完登)までの所要時間が短かった選手が上位となります。

スポーツクライミング 写真

リードは「ホールド」がついた12メートルを超える壁を、制限時間内にどこまで高く登るかを競います。

◆ リードの見どころ

リードはボルダリングと同じく、基本的に「オンサイト(初見)」方式がとられているので、選手はスタートの直前にホールドの位置を知ることになります。そのため、こちらもやはりオブザベーションが重要になり、この判断を見誤ると、うまく先に進めなくなってしまったり余計なパワーを使ってしまったりして、記録がうまく伸びません。ひとつでも上のホールドにたどり着くためには、短時間で効率的なルートを見出さなければならず、そうした駆け引きに注目です。

リードは「より高く登る」というクライミング本来の醍醐味を感じられるダイナミックな種目であると同時に、「落ちたら負け」というプレッシャーも相まって非常に緊張感のある戦いが見られるでしょう。

3つを行う「複合種目」

最後に紹介するのが「複合」です。スピード、ボルダリング、リード、それぞれ種目別に競技が行うのではなく、ひとりで3種目すべてを行い、総合点で優勝を競います。

順位の算出方法は、スピード、ボルダリング、リードの順で3種目を行ってそれぞれの順位を出し、3つの順位を掛け算した数値をその選手のポイントとし、数字が小さい選手がトップになるというものです。

◆ 複合種目の見どころ

「複合」は、クライミングに関わるすべての資質を兼ね備えた選手が勝つ種目。つまりは、真の「最強クライマー」を決める戦いです。これまで大きな国際大会がこのスタイルで争われたことがないので、勝利の行方を読むのが非常に難しく、また1種目、2種目が終わっても3種目で最終順位が大きく変わる可能性もあるため、目が離せない展開が予想されます。

さらに、3種目は同じクライミングでも求められる能力や資質が違うため、どの選手がどの種目で勝負をかけるか、といった駆け引きも面白くなるでしょう。たとえば、日本の選手で言えば、定評があるのはオブザベーション力が問われるボルダリングや、持久力が必要なリードですが、瞬発力が求められるスピードを得意としている選手は少ないなどの特徴があります。

これらを総合的に見て、どの選手が勝利に近づけるのかを考えながら見てみると楽しいかもしれません。

スポーツクライミングを見てみよう!

スポーツクライミング 写真

スポーツクライミングの大会は世界各国で開催されており、現地はもちろんオンラインでも中継される機会もあるので、ルールを知って、興味が湧いたら、ぜひ試合を観戦してみましょう。

ここまで紹介してきたように、同じクライミングでも、ボルダリング、スピード、リード、複合と、種目によって必要な能力や求められる資質が大きく変わってくるなど、スポーツクライミングの世界はとても奥が深いと言えます。まだまだ一般的に知られていないことも多いので、知れば知るほど深みにハマっていくはずです。

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