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text & photograph by Atsushi Kondo

自己最速は先のジャカルタアジア大会で出した9秒997(公式記録は10秒00)、続く全日本実業団でも山縣亮太は10.01のタイムで優勝。日本短距離界のエースに10秒について聞いた。

山縣亮太にとっての10秒

山縣選手にとっての10秒、それは長い時間なのですか?

いわゆる日常の中での10秒という意味なら、僕にとってもあっという間の時間です。没頭するタイプなので、部屋を片付けていたら一時間がすぎていた、なんてこともしょっちゅうです。僕の場合はむしろみなさんよりも短く感じる10秒じゃないですかね。

でもそれが100mの世界になると、異なる意味を持つ時間になる?

そうですね。集中力を欠いてしまっている時は、あっという間に終わることもあるんですが、9秒台というタイムを意識してレースに臨んでいると、10秒という時間は、早く終わって欲しい時間、になります。

早く終わって欲しい?

そうです。誰よりもゴールラインを先に駆け抜けたい、先頭のまま走り抜けたい、って思いますから。スタートからゴールまでわずか10秒、でもその10秒の中にはいろいろな記憶があります。それぞれの瞬間、それぞれの位置で、何を考え、どんな音を聞き、何を見たか、そんなことを鮮明に覚えています。ですから、気づいたら終わっていた、みたいな時間の経過は、100mに関してはないですね。

日常から非日常へと時間が変化してゆく瞬間

山縣亮太 日常から非日常へと時間が変化してゆく瞬間 写真

日常から非日常へと、時間の流れが変わってゆく瞬間ってあるんですか?

だいたいレースの2日前くらいからです。緊張が高まってきて、夜もうまく寝られなくなる。どういう風にレースを運ぼうかとか、どのタイミングで体のケアを入れようか、何を食べようか、ウォーミングアップの時間は何時からにしようか、そういうことしか考えなくなります。

レース以外の世界のことは見えなくなる感じなんですか?

まあ見えなくなるといっても、別に信号無視しちゃったりするわけではないですよ、笑。でもやっぱり走ること以外のことに興味がなくなってきますよね。あんまり緊張しすぎていると、ネットで動画を見たりすることはありますけど。

でも、そういう緊張感も含めて、記録更新を追い求めてゆく楽しさがあるんですよね?

もちろんです!シーズンが始まると、いろいろ我慢しなきゃいけないことはあります。僕は甘いものが好きなんですが、不要な糖分は当然控えなきゃいけないし、キャンプや釣りといった大好きなアクティビティも諦めなきゃいけない。まあそんなことは誰でもやっているんですが、笑。でも、そういうストイックな日々の中、トレーニングや取り組みがしっかり数値として表れ、結果も伴ってくると、今いい感じだなあ、オレっていい人生過ごしてるなあ、って思えますから。

10秒のさらにその先の時間について

山縣亮太 10秒のさらにその先の時間について 写真

先ほど10秒という時間についてお聞きしましたけど、じゃあ0.1秒っていうのは山縣選手にとってどういう時間なんでしょうか?

これも日常生活の中では、あっという間にすぎてゆく時間ですけど、短距離走における0.1秒って、かなり長い時間なんです。距離にすると約1m、100m走で1mの差をつけられるって、結構な大差ですよ。例えば、日本選手権の予選で、ライバルは10秒2、自分は10秒3だった。さあ、ここから巻き返すために、どこをどう変えればいいんだ?これは大変だぞ、って真剣に考え込んじゃう時間差ですよね。

先日のアジア大会、正確には9.997なので、あと7センチ進んでいれば実質9秒99台に突入することができていたわけですよね。

そうですね。でも、10秒1台から10秒0台に縮めようとしているときに0.1秒に抱く感覚と、10秒00から9秒99を目指す時のそれとは、全く別物なんです。自分としては、着実に強くなっている実感はありますし、新しく導入したトレーニングの結果も確実に出てきています。条件さえ整えば、いまの自分の中の力を100%出さなくても、9秒台には乗るなっていう自信がありますね。壁に対する意識が変わってきてる、というか。

山縣亮太 写真

数年前に比べると、体つきも随分とスプリンターらしくなってきました。肩のあたりの筋肉の盛り上がり方とか。

2015年あたりからウェイトトレーニングも始めました。でも、ただウェイトをやっていてもこういう身体にはならなくて、やはりそこには精度の高い技術、身体の使い方、ってものが一緒に積み上がってこないと、スプリンターの身体は出来上がっていかない。走る技術に関しても、僕自身どんどん変化してきています。2016年にリオオリンピックで10秒05という自己ベストを出したときと、2017年に10秒00を出したときの走りは全く違うし、2017年の走りと2018年の走りはまた違う。自分が負けた選手をはじめ国内国外を問わず色んな一流選手のことを自分なりに分析して、この選手の強さの秘密はなんだろう、って探ってゆくと、そこから新たなインスピレーションを受けるんですよ。ここが技術の最終地点なのか、あるいは、いずれ僕自身のオリジナルの走りを生み出すのか、それはまだわかりませんが。

大舞台の決勝レースへのイメージ

山縣亮太 大舞台の決勝レースへのイメージ 写真

2020年はやはり意識しますか?

もちろん意識はします。でも、開催が決まったとき、そこから四年かけて準備してゆく、というイメージはなかったですね。選手によって自分の調子をピークに持って行くための波の作り方は異なりますが、僕はもともとあまり波を作るのが好きではありません。できれば少しずつ右肩上がりで、2020年は自分のキャリアのベストを尽くしたいと考えています。

そこに向かうためにも、来年のドーハでの世界陸上は自分にとって大きな意味を持っているので、来年の世界陸上でしっかり結果を残したいとも思っています。

山縣亮太 写真

100m決勝に残った8人の1人としてトラックに立っているイメージはありますか?

今はまだないですね。僕にはもう少し根拠を持てて、確かな自信を持つ必要がありますね。

山縣選手はどんな根拠が必要なんですか?

やはり、自分が9秒台の記録を出せてない間は、そのイメージを持つことは難しいです。でも逆に言えば、もし9秒台を出せれば、決勝のトラックに立っている自分というイメージは自然と湧いてくるはずです。そこに立ちたい、立てると思っている、その時の僕はすでに100mを9秒台で走っているんじゃないでしょうか。

山縣亮太 写真

山縣選手って『時の記念日』が誕生日なんですよね?そんな人が、セイコーという組織に身をおいて、コンマ何秒の世界に挑んでいる、なんだか不思議でもあり、必然のようでもあります。

確かに、僕の周りには時間にまつわるエピソードがいっぱいありますね。でも実をいうと、自分の誕生日が『時の記念日』だったことは、セイコーに入社してから知ったんですけどね、笑。

※時の記念日:毎年6月10日

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