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宮原知子にとって思い出深いNHK杯。「一番いい試合」と語る、その魅力と楽しみ方 宮原知子にとって思い出深いNHK杯。「一番いい試合」と語る、その魅力と楽しみ方

宮原知子にとって思い出深いNHK杯。「一番いい試合」と語る、その魅力と楽しみ方

文 沢田聡子
写真 落合直哉
ヘアメイク 長谷川真美
スタイリスト 田村和之

2025年の11月7日(金)から9日(日)にかけて大阪で開催される、NHK杯国際フィギュアスケート競技大会(以下、NHK杯)。男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンスの全4種目でそれぞれ覇を競い合うこの大会に、熱い視線を向けているのが宮原知子だ。

現役時代にさまざまな大会で好成績を収め、フィギュアスケート日本女子のエースとして一時代を築いた宮原。NHK杯には6度出場し、2015年大会では表彰台の頂点に立った。2022年の現役引退後も本大会との関わりは深く、2022年から3年連続で大会公式アンバサダーを務めている。そんな彼女に、NHK杯に出場した時の思い出や今大会の見どころを聞いた。

前編はこちら

「全然パーフェクトじゃない」。“ミス・パーフェクト”宮原知子、悔いなきスケート人生を振り返る

NHK杯はひときわ大きな歓声が聞こえてくる大会

2017年大会の様子

約11か月ぶりの復帰戦として臨んだ2017年大会は、「自分の中の戦い」だったと振り返る

写真:フォート・キシモト

2013年から2018年にかけてNHK杯に6度出場、2015年大会の優勝を含め、表彰台へ4度上った宮原。そんな宮原にとって、特に記憶に残る大会はあるのだろうか。

「初めて出場した2013年大会と、平昌の直前に行われた2017年大会が特に印象に残っています。2013年のNHK杯は、シニアスケーターとして初めて出場するグランプリシリーズでした。その時は浅田真央さんや鈴木明子さんがいらっしゃって、リンクを見ながら先輩たちの演技のすごさをありのままに感じた記憶があります。

2017年大会は平昌に向けたシーズンだったので、もちろんとても大事な試合ではありました。ただ、左股関節の疲労骨折から約11か月ぶりに復帰してまだ間もないこともあり、とにかく順位よりも自分の状況を正確に把握し、『できることをやる』というのを目標にしていたので、正直なところ『何位でもいい』という気持ちで挑んでいました(結果は5位)。相手がどうこうというよりも自分の中の戦いという捉え方が強かったので、とても印象に残っています」

NHK杯は、世界を代表するスケーターが出場するグランプリシリーズの中でも特に選手たちから人気がある大会だ。宮原が、「理由はいくつかあると思う」と教えてくれた。

宮原知子 画像

同じNHK杯でも、参加する選手と運営側のアンバサダーでは見える景色が全然違うという

写真 落合直哉

「そうですね。選手たちにとっては『一番いい試合』なんじゃないかなと思います。基本的な部分ではあるのですが、バスの時間や運営のタイムスケジュールなどがきちんとしていますね(笑)。つまり、演技に集中しやすい環境があるということです。公式練習の際もリンクに入った時の雰囲気が本番に近く、観客などいろいろな方が見ている中で滑ることができます。

フィギュアスケートの試合では、本番前に実際のリンクで最終調整を行う時間があります(6分間練習)。この時に『頑張れ!』と叫ぶ声が聞こえたり、ジャンプがうまくいって拍手をもらったりすると、自分の中でも『よし』という気持ちになりますね。日本のファンの方はどの国の選手にも温かい声をかけてくれますが、日本で開催されるNHK杯ではひときわ大きな歓声を上げてくれるので嬉しいです」

宮原は2022年に現役を引退してから3年連続で、NHK杯の公式アンバサダーとして活動してきた。選手とアンバサダーでは、見える景色がまったく違うという。

「選手としても出場しましたが、裏側から大会を見るアンバサダーは全然違いますね。試合に出ていた当時は精神的にすごく張り詰めている状態だったこともあり、あらためて自分のことしか見えていなかったんだなと思いました(笑)。外から見ていると、周りの関係者は意外にみんなリラックスしているように感じます。選手たちも、公式練習や試合本番など集中するべきところでは集中していますが、それが終われば落ち着いた表情や笑顔も見られますね」

今大会の見どころと期待したい注目選手

宮原知子 画像

選手たちに対し、どんな結果になっても納得できるよう「ベストを尽くしてほしい」と話す宮原

写真 落合直哉

今年のNHK杯には、女子シングルでは日本から坂本花織、樋口新葉、青木祐奈の3選手が出場する。もし彼女たちに対して声をかけるとするなら――。宮原は、ゆっくり言葉を紡いだ。

「これはどの選手にも言えることですが、自分のベストを尽くしてほしいです。自分の演技に納得できてもできなくても、次につながる大会になる。それがNHK杯だと思っています。試合では本当に何が起こるかわかりませんが、自分のパフォーマンスに集中し、『やりたいこと』や『やるべきこと』をやり切ったと思えるような時間を過ごしてほしいですね。

日本人選手にはもちろん頑張ってほしいですが、注目選手は他にもいます。今大会のメダリスト候補として私が注目しているのは、ルナ・ヘンドリックス(ベルギー)。ルナは昨シーズン怪我をしていましたが、今大会に向けてしっかり準備をしてくると予想しています。試合に出られていなかった分、『やってやるぞ』という気持ちは強いと思うので、そこも楽しみです。彼女にもベストを尽くしてほしいですね」

男子シングルでは、日本から鍵山優真、佐藤駿、垣内珀琉の3選手が出場。特に鍵山と佐藤については、ミラノ・コルティナの代表候補としても注目度が高まっている。

「『自分の状態を知るため』というと少し抽象的ですが、最終のゴールに向けて現段階の演技はどうなのかを把握し、学ぶための試合にしてほしいですね。他にも、チャ・ジュンファン選手(韓国)、ボーヤン・ジン選手(中国)、アンドリュー・トルガシェフ選手(アメリカ)、ルーカス・ブリッチギー選手(スイス)など男子は実力のある選手がぎゅっと集まっており、とても見どころが多いなと思います」

ペアでは、日本から長岡柚奈・森口澄士が出場する。ミラノ・コルティナへ向けた最終予選で二つ目となる日本の出場枠を勝ち取った二人に対して、宮原はどんな演技を期待するのか。

「二人とも本当に明るいので、NHK杯の雰囲気を楽しんでほしいなと思います。『楽しんだもの勝ち』ですから。ここまでいい流れで来ていますし、充実した期間を過ごしてほしいです。また、今季復帰した北京の金メダリスト、ウェンジン・スイ選手とコン・ハン選手のペア(中国)にも注目しています。彼らは本当になんでもできるイメージなので、またすごい伝説を残してくれそうな期待感があります」

日本勢としてアイスダンスに出場するのは、吉田唄菜と森田真沙也。ミラノ行きを懸けた最終予選では個人での出場枠獲得は叶わなかったものの、団体での五輪出場に向けてエールを送った。

「組んでから時を経て、ユニゾン(二人の調和)もだんだん良くなっているんじゃないかなと思います。世界観をもっともっと出していけるように、2人で滑ることを楽しんでほしいです。平昌で銅メダリストとなった日系アメリカ人のマイア・シブタニ選手とアレックス・シブタニ選手がどんな演技を披露してくれるのかとても楽しみですし、日本のファンの方々も嬉しいんじゃないかなと思います」

ジャンプにも違いがあり、演技には性格が出る

宮原知子 画像

演技中は点数について考えず、「自分のやるべきことをやるだけ」と考えていたという

写真 落合直哉

フィギュアスケートの採点は非常に複雑で、いろいろな意見が出ることもある。選手として採点を受ける側だった宮原はこの点について何を思うのか。

「ジャッジの主観も入りますし、表現に関しては正解がないのが採点競技の一番難しいところですね。ただ、スポーツなのでジャンプやスピン、ステップのレベルといった技術面に関しては明確な基準が必要だと思います。選手としては、しっかり技術力を高め、構成に落とし込んでいかに表現と融合させられるかが重要です」

この複雑な採点をオペレーション面で支えているのが、Seikoの「フィギュアスケート競技システム」だ。

「私は演技をすごく集中して見てしまうので、常に採点のことを考えてディテールを見ながら全体感を捉えるというのは難しいだろうなと想像します。脳内が相当忙しくなりそうです(笑)。技術を正しく評価するという意味でも、演技を映像ですぐに振り返れるシステムは絶対に必要だと思います」

宮原には、「フィギュアスケートの魅力を伝えてファンを増やしたい」という思いがある。「ルールが難しい」「楽しむまでのハードルが高い」という声もある中で、フィギュアスケートを初めて見に行こうと思っている方にはどのような見方を勧めるのだろうか。

「一番はやはりジャンプです。生で見てもらえれば、きっとテンションが上がるんじゃないかと思います。ただ、ジャンプにもいろんな特徴があって。『この選手は高さがある』『こんなに飛距離が出るんだ』『スピードに乗ってダイナミックに跳ぶ選手だな』といったように、それぞれのジャンプの特徴を見ていただけると面白いかなと。あと、演技にはその選手の個性がにじみ出るものだと思います。見ていて、表現方法や性格を少しでも感じられたら面白いかもしれません。

オン(氷上)とオフ(陸上)、性格のギャップは少なからずあるのかもしれませんが、それでもやはり根本の性格は演技に表れると思います。わかりやすいところで言うと、普段から明るくて面白い選手は動きがあってユニークなプログラムを、比較的おしとやかな選手はきれいな音楽を得意とする、といった傾向はあると感じますね」

インタビューの最後、「選手時代から応援してくれているファンに伝えたいこと」として、宮原はこう締めくくった。

「現役時代から競技を引退した現在に至るまで、本当に長く応援してくださっていることに感謝を伝えたいです。これからどういう道を歩むのか自分でも明確にイメージできていませんが、プロスケーター、日本スケート連盟の理事、振付師などさまざまなお仕事に携わり始めており、これからさらにいろいろなことに挑戦したいと思っています。そんな自分を、これからも応援してください。よろしくお願いします」

宮原知子

プロスケーター
宮原知子

1998年3月26日生まれ、京都府出身。
ジュニア時代には、2011から2012年にかけて全日本ジュニア選手権を2連覇。シニア転向後は、2014年から2017年にかけて全日本選手権で4連覇を達成した。
主な国際大会では、2015年世界選手権2位、2016年四大陸選手権で優勝、2018年世界選手権3位などの成績を収めており、その安定した演技から「ミス・パーフェクト」の異名を持つ。
2022年現役引退を表明し、プロスケーターに転向。
現在は国内外のアイスショーに出演するほか、解説者、そして日本スケート連盟理事としても活躍の場を広げている。

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