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【澤野大地さん監修】棒高跳の5m超のバーはどう計測する?ポールの運搬事情も解説! 【澤野大地さん監修】棒高跳の5m超のバーはどう計測する?ポールの運搬事情も解説!

【澤野大地さん監修】棒高跳の5m超のバーはどう計測する?ポールの運搬事情も解説!

文 堀部真由美

陸上競技の中でも、空高く舞い上がるダイナミックな跳躍で観客を魅了する種目が棒高跳です。人間の跳躍力によって高さを競う走高跳とは異なり、ポールと呼ばれる長い棒をしならせて大ジャンプを実現する点が棒高跳の特徴と言えます。人間の肉体とポールを融合させることによって、男子は6m28、女子は5m06という驚異的な世界記録が生まれています。

こうした生身の人間だけの力では到達できない“異次元の高さ”を競う棒高跳において、「バーの高さはどうやって測るの?」「あの長い棒はどうやって運んでいるの?」といった疑問を抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。棒高跳のバーの計測方法やポールの運搬事情について詳しく解説し、陸上競技での最大の「高さ」を誇る種目の裏側に迫ります。

棒高跳のバーはどう測る?信号機級の高さを正確に計測する方法とは

棒高跳の男子の世界トップレベルにもなると、6m以上の高さの跳躍を成功させます。その高さを身の周りの物でたとえるなら車両用信号機を優に超える高さであり、スケールの大きさに驚かされます。では、その高さに位置するバーを、どのように正確に計測しているのでしょうか。棒高跳の基本ルールとともに、計測方法や計測員の役割について紹介します。

棒高跳の基本ルールをおさらい

棒高跳は、しなるポールを使ってバーを跳び越える種目です。仮に体がバーに触れても、バーが落下しなければ、試技は成功となります。1つの高さにつき3回までチャレンジができ、成功すればより高い跳躍に挑めますが、3回連続で失敗するとその時点で終了です。

棒高跳では、すべての高さに挑戦する必要はありません。体力の温存や戦術的な判断により、低い高さを「パス」して、自分の好きな高さから試技を始めることが可能です。そのため、トップ選手は終盤戦から登場することも珍しくありません。

「主審」と「高さ計測員」の役割

棒高跳には、主審と高さ計測員を含む数名の審判員がいます。主審は試技の開始・終了の合図を出し、跳躍の成否をジャッジします(白旗は成功、赤旗は失敗)。

高さ計測員は、バーの高さが規定通りであるかを都度確認する役割を担います。バーの高さが上がるたびに正確な高さを計測し、競技の公平性を担保する重要な存在です。なお、バーが落ちただけで支柱に変化がなければ再計測を行いません。一方、支柱がずれたり、バーが交換されたりした場合は再計測が実施されます。

高さを正確に計測する方法

バーの高さは、地面から垂直線上の、バーのたわみを考慮し、バー上部のもっとも低い箇所を1cm刻みで測定します。世界陸上などの国際大会の計測には、光波距離計(EDM-Electronic Distance Measurement)が使用されます。

棒高跳びでセイコーが実践する計測方法

5m以上の跳躍を可能にするポールの運搬方法とは

ポール 画像

選手たちを5m以上の高さへ導くポールは、その長さも5mほどあります。そのため、大会の開催場所が遠方の場合など、移動の際の運搬に難航することでも知られています。棒高跳という種目特有の道具に関する工夫や悩みについても掘下げてみましょう。

居住エリアなど近場への移動なら車で運搬

大会開催場所が居住エリアの近くなどの場合は、多くの選手が自身や家族が運転する自家用車でポールを運びます。基本的には、スキー板を運ぶのと同じようにルーフキャリアを利用し、走行中の風で動いてしまわないようベルトやロープでしっかり固定するなど、安全な運搬のための工夫が欠かせません。

また、宅配便を利用する選手もいますが、長尺物に対応できる運送会社は限られており、送料も高額になるパターンが多いと言えます。大会によっては、主催者が輸送を斡旋するケースもあります。

国際大会など海外遠征時には空輸することも

国際大会などの海外遠征時には、「大型手荷物」としてスーツケースなどと一緒にポールを預けます。ただし、事前に航空会社へポールの長さや重さを伝え、搭載の可否や費用を確認しなければなりません。便によっては搭載できない場合もあるため、早めの調整が必須です。

海外遠征では、ロストバゲージと同様に、ポールが目的地に届かないトラブルも頻発します。このため、最近ではポールにGPSを取り付ける選手も増えてきました。破損や紛失リスクに備えた運送保険加入も一般的です。

運搬に必須のポールケース

運搬に欠かせない道具が「ポールケース」です。5m以上のポールを収納できる巨大な筒状のケースで、競技場では数人がかりで担いで運ぶ姿を目にしたことがある方もいるでしょう。

ポールケースには通常5~8本のポールをまとめて収納できます。ポールは1本数十万円と高価なうえに、傷が入ると折れてしまう恐れがあるため、ポールケースで保護することが不可欠です。

では、なぜ選手たちはこれほどの手間をかけて自分のポールを試合会場まで運ぶのでしょうか。それは、自分に合った長さ・硬さのポールでなければ、狙い通りの跳躍を実現しにくいからです。風の向きや強さ、自身のコンディション、勝負の局面などに応じて使い分けるため、1試合で7本前後、多い場合は10本以上のポールを持参することもあります。

空高く舞い上がる棒高跳の選手にとって、ポールはまさに体の一部とも言える大切な道具。選手たちは試合前から細心の注意を払い、時間と労力を惜しまず、万全の準備でさらなる高さへ挑んでいるのです。

澤野大地

元・陸上競技選手(棒高跳)
澤野大地

男子棒高跳の日本記録保持者(5m83)。2004年アテネ大会では日本人として20年ぶりに棒高跳で決勝進出し、翌年のヘルシンキ世界陸上では、跳躍種目日本人初となる8位入賞を果たした。2008年北京大会にも出場し世界の大舞台に連続出場を果たし、2009年世界陸上ベルリン大会、2011年世界陸上テグ大会と2大会連続で決勝進出。3度目の2016年リオデジャネイロ大会では、7位入賞を果たすなど世界のトップ選手として長きに渡り活躍した。また現役中にはJOCのアスリート委員会委員長、JOC理事を務めた。2021年9月に現役を引退し、現在は母校・日本大学スポーツ科学部で准教授として教鞭をとりながら、様々な競技アスリートのトレーニング指導にあたっている。また2022年からは、世界陸上やダイヤモンドリーグなどの解説者としても活動。

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