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文 田中凌平
写真 落合直哉

パリで開催される世界の大舞台の正式競技に採用されたことで注目度が高まっているブレイキン。DJが流す音楽に合わせて、ブレイカー(ダンサー)たちがお互いのダンススタイルでトリックを見せ合いながらバトルする様子が他のスポーツとは異なる魅力です。

一方でブレイキンには、一競技としては語り尽くせないほどのカルチャー(文化)があります。ブレイクダンスとブレイキンの呼び方の違い、基本的な技から大技も含めたトリック、ブレイキンで大切にされているカルチャーなどについて、ブレイキンイベント「Seiko 5 Sports Showdown」の写真とともに余すことなくその魅力を解説します。

※本記事は、セイコー初のブレイキンイベント「Seiko 5 Sports Showdown」においてMCを務めたKENTARAWさん、KENTARAWさんと同じTHE FLOORRIORZのメンバーで当日のベストバトルに選ばれた・ブレイカーのTAISUKEさんへのインタビュー内容を踏まえて構成しています

ブレイキンイベント「Seiko 5 Sports Showdown」が大阪・堺に上陸!最高峰のダンスバトルに熱狂

意外と知らない?ブレイクダンスとブレイキンの違い

ブレイキンの様子 画像

話題のブレイキンと日本で呼び名が広まっているブレイクダンスにはどんな違いがあるのか

写真 落合直哉

ブレイキンについてよく知らない方でも、ブレイクダンスという名称は見聞きしたことがあるでしょう。ではブレイクダンスとブレイキンは何が異なるのでしょうか。呼ばれ方が異なる理由、基本ルールやバトルの仕方について解説します。

ブレイクダンスとブレイキンの違い

ブレイクダンスとブレイキンは、実は同じダンスを指します。もともとのダンスの名称は「ブレイキン(Breaking)」が本家です。しかし、日本ではその文化を広めたと言われる映画の邦画タイトルが「ブレイクダンス(Break Dance)」だったため、その和製英語がメディアを通して定着。本家とは異なる呼び方が浸透しているのにはそうした背景があります。

同様に、日本ではブレイキンを踊る人をブレイクダンサーと呼びますが、こちらも正式名称ではありません。正しくはブレイキンを踊る男性をBボーイ、女性をBガール、性別問わずダンサーの総称をブレイカーと呼びます。なお、BボーイやBガールの「B」は「Break(ブレイク)」を示していますが、ブレイキン発祥の地である「Bronx(ブロンクス)」を意味しているとの説もあります。

ブレイキンのルール

ブレイキンの様子 画像

お互いに即興で繰り出すムーブを披露し合うのがブレイキンのバトル形式だ

写真 落合直哉

ブレイキンの対戦はバトルと呼ばれ、ブレイカー以外にも音楽を流すDJや、進行役を務めるMC、ジャッジを行う3〜5名の審査員によって進められます。

ブレイカーはそれぞれのムーブ(ダンス)を交互に披露しますが、ムーブの最中にお互いに触れてはいけません。先攻と後攻はお互いの雰囲気や会場のボルテージに合わせて決めたり、ペットボトルを回してキャップが向いた方が先攻となるボトルスピンで決めたりとさまざまです。ブレイキンは相手のムーブを上回るパフォーマンスが必要なので、以前は後攻が有利と言われていましたが、現在は先攻と後攻の優劣はあまりないと言われています。

ブレイカーのムーブの回数やワンムーブの時間は大会によって異なり、制限時間がないバトルもあります。バトルの勝敗を決めるのは、そのバトルの審査員です。“スポーツ”としてのブレイキンであれば、技術や表現、独創性などを定量的に評価することで勝敗を決めます。一方で“カルチャー”としてのブレイキンであれば、それぞれの審査員が思うスタイルやカッコ良さで判定します。

そのためバトルを見た人が思っていたのとは異なる勝敗結果になることも珍しくありません。お互いの意見を共有して、それぞれのスタイルを称え合って盛り上がるのもブレイキンの醍醐味だと言えるでしょう。

ブレイキンのバトル形式

健闘を称え合う様子 画像

バトルが終わると、お互いのスタイルや健闘を称え合う姿もブレイキンの魅力の1つだ

写真 落合直哉

ブレイキンは、大会によってさまざまなバトル形式が存在します。チーム戦から1on1など、さまざまな対戦が見られるのもブレイキンの面白さの1つと言えます。主なバトル形式は下記の通りです。

・チーム戦:チームごとの対抗戦
・1on1:個人戦
・ボニー&クライド:BボーイとBガール混合の2on2
・チェックメイトバトル:5人チーム制のノックアウトバトル

他にもトップロック限定のトップロックバトルや、フットワーク限定のフットワークバトルなど、トリックが限定されたバトル形式もあります。

ブレイカーにはそれぞれのスタイルがある

ブレイキンの様子 画像

ブレイキンのスタイルとは、いわば“自己表現”。ムーブを通して自分が何者であるかを表現する(写真はTAISUKEさん)

写真 落合直哉

それぞれのブレイカーには固有のスタイルがあります。たとえば、1970〜1980年代に流行した「LOCK(ロック)」「SOUL(ソウル)」「POP(ポップ)」などのオールドスクールが得意なブレイカーもいれば、1990年代以降に流行した「HIPHOP(ヒップホップ)」「HOUSE(ハウス)」などのニュースクールが得意なブレイカーもいるなど多士済々。ここでのスクールは学校というよりは一派を指す語句であり、尊重するスタイルの違いからオールドやニュー、あるいはミドルなどに分類されます。

ブレイカーの大まかなスタイルはある程度カテゴライズできますが、特定のスタイルを持たずにオールラウンドにムーブを行うブレイカーも存在します。近年は長くムーブを行うのが一般的となっていますが、バシッと大技を一発で決めて終えるブレイカーもいるなど、それぞれのスタイルの違いは間違いなくブレイキンの見どころの1つです。

ブレイカーによってスタイルが異なるため、ブレイキンにはその人がどのように生きてきて、何を大切にしているのかといったパーソナルな部分をアピールする“自己表現”の側面があります。たとえ人となりを知らなかったとしても、そのスタイルに一貫性が見えたりすると、一気にブレイカーの虜になることも多いでしょう。

ブレイキンの技(トリック)の種類

ブレイキンの様子 画像

観衆を沸かせる技(トリック)はブレイキンにおける重要なファクターだ

写真 落合直哉

ブレイキンの見せ場とも言えるトリック。見ただけで「すごい!」と叫んでしまう大技もあれば、基本に忠実なトリックまでその種類はさまざまです。ブレイキンの主な動きとしては、トップロック、フットワーク、パワームーブ、フリーズの4つ。それぞれの代表的なトリック、スタイルについて起承転結の流れで紹介します。

トップロック

トップロック 画像

ブレイキンのムーブの『起』に当たるのがトップロック。全体の流れをつかむうえでも重要な序盤のムーブだ

写真 落合直哉

トップロックは立って踊るダンスであり、フロア系のムーブへつなぐ導入です。起承転結の『起』の部分に該当します。ブレイカーは8カウント、1〜2セットをトップロックに費やすことが多いでしょう。流れる音楽に合わせて即興で、あらゆるリズムに乗ってトップロックで表現します。代表的なトリックはアップロックやブロンクスステップです。

フットワーク

フットワーク 画像

ブレイキンのムーブの『承』に当たるのがフットワークだ。華麗な足さばきで観衆の視線を一気に引き寄せる

写真 落合直哉

フットワークは手を床について、華麗な足さばきを行うトリックです。回転系のトリックがメインですが、ブレイカーによってはフロアを横切る直線的なトリックや、複雑なパターンが組み合わさったトリックを行うこともあります。代表的なトリックはシックスステップやベビースワイプスです。

パワームーブ

パワームーブ 画像

ブレイキンのムーブの『転』に当たるパワームーブは、激しい回転技などの大技が特徴。醍醐味とも言えるダイナミックなトリックに期待だ

写真 落合直哉

パワームーブは頭や手、背中で回転するトリックであり、アクロバティックな動きが特徴です。1つのパワームーブを行ってからフリーズで決めることもあれば、複数のパワームーブを組み合わせてダイナミックさを演出することもあります。代表的なトリックはヘッドスピンやウィンドミル、スワイプスです。

フリーズ

フリーズ 画像

ブレイキンのムーブの『結』に当たるのがフリーズ。ダイナミックなパワームーブからいきなりフリーズする動きは、ブレイキンのもっともクールな一面だ

写真 落合直哉

フリーズは、一連のムーブを締めくくるピタッと動きを止めるトリックです。流れている音楽のブレイク部分で合わせることもあり、ムーブにおいてもっとも盛り上がるポイントと言えるでしょう。代表的なトリックはチェアーやアローバック、ショーグンです。

ブレイキンのルーツ・カルチャー・ヒストリー

ブレイキンの様子 画像

ブレイキンをより楽しむためには、その根幹であるルーツ・カルチャー・ヒストリーの理解が重要だ

写真 落合直哉

ブレイキンの基本を押さえたうえで、より深く知るためにはストリート・カルチャーに関する理解を深めることが欠かせません。バックボーンとなるカルチャーを知ることで、よりその魅力を深堀できることでしょう。ブレイキンのルーツや、MCとDJの重要性などについても紹介します。

ブレイキンのルーツはギャングの抗争!?

ブレイキンの様子 画像

ブレイキンはギャングの抗争がルーツで、ケンカを平和的に解決する手段としてダンスが用いられたと言われている

写真 落合直哉

ブレイキンのルーツは、ギャングの抗争が激化していた1970年代のニューヨーク・ブロンクスにあると言われています。ブロンクスのミュージシャンであるアフリカ・バンバータによって、銃撃戦や殴り合いではなく平和的に抗争を解決するための手段としてダンスバトルが提案されたと考えられています。

そのため、ブレイカーはクルーに所属しているのが基本です。1対1のバトルであれば、それぞれのブレイカーがクルーをレペゼン(代表)してバトルを行います。現代ではクルーに所属していないブレイカーも見られますが、一昔前までは一般的ではありませんでした。しかし、近年は「純粋な1対1のダンスバトルも面白い!」という風潮も出てきています。

バトルを盛り上げるMCとDJも不可欠な存在!

MCの様子 画像

ブレイキンのバトルを盛り上げるMCの存在は不可欠。そのマイクロフォンで観衆のボルテージを最高潮に引き上げる(写真はKENTARAWさん)

写真 落合直哉

バトルを盛り上げるのはブレイカーだけではありません。MCとDJも重要な役割を担っています。MCはバトル全体の進行役です。その場の雰囲気作りを行うため、大会のかっこよさや空気感を作り出すのはMCにかかっています。

DJの様子 画像

バトルを引き立てるのは音楽であり、DJがいなければブレイキンは成り立たない。軽快なビートを会場に響き渡らせる

写真 落合直哉

音楽を流すDJも重要です。それぞれのDJはこだわりを持って音楽をかけるパートやループを考えています。また、バトル時に流す音楽はDJによって決められており、ブレイカーは実際に音楽が流れるまでどんな曲が流れるのかを知りません。ブレイカーは流れる音楽に合わせてダンスの表現を考えます。DJが流す音楽のジャンルが勝敗を左右すると言っても過言ではありません。

ブレイキンの文化を醸成したサイファー

サイファーの様子 画像

ブレイカーが数人集まると、輪になって即興でダンスを始める。サイファーはブレイキンの自由さをよく表しているカルチャーだ

写真 落合直哉

ブレイキンの文化的な側面としてサイファーが挙げられます。サイファーは複数人が輪になってお互いのダンスを見せ合う独自のカルチャーを指しますが、ウォームアップとして活用したり、バトルが始まったりすることもあります。サイファーでは年齢や性別などは問われません。バトルでなければ失敗しても問題ないため、自分の力を試す場として果敢なパフォーマンスが行われます。時にはサイファーで実力が認められて、他のクルーからスカウトを受けることもあります。

優勝のためにダンスを行うのではなく、より自身のスタイルを示す自己表現の場であるサイファーは、ブレイキンの自由さが表れる場です。こうしたカルチャー部分を知ると、よりブレイキンについての面白さが増すでしょう。

2024年、ブレイキンは世界の大舞台のスポーツへ

VICTOR 画像

「Seiko 5 Sports Showdown」でベストブレイカーに輝いたVICTOR(左)は、2024年の世界の大舞台のアメリカ代表に内定している

写真 落合直哉

ギャングの抗争から始まったとされるブレイキンは世界中に広まり、今では数多くのブレイカーたちが大会での優勝を目指して自身のダンスに磨きをかけています。2024年にパリで行われる世界の大舞台では「スポーツ」として正式競技に認定されました。今後もより多くの国と人に広がることが期待されるでしょう。

セイコーが行うブレイキンを筆頭としたスポーツ支援

セイコーでは「Seiko 5 Sports Showdown」のイベントを開催するなどブレイキンの競技もサポートしています。その他、陸上や水泳などあらゆる競技やアスリートの支援も行ってきました。これからもSeiko 5 Sportsの「Show Your Style」のコンセプトのもと、世の中の常識に囚われることなく、日々進化を続けて新たなスタイルを支援していきます。

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