文 田中凌平
写真 落合直哉
DJがかける音楽に合わせて自身のスタイルを即興で表現し、激しくアクロバティックなダンスを繰り広げるブレイキン。2024年にパリで行われる世界の大舞台の新競技にも選ばれるなど、注目度が高まっている。
そんな最中、2023年12月3日(日)に大阪・ららぽーと堺でセイコー初のブレイキンイベント「Seiko 5 Sports Showdown」が開催された。世界中からトップダンサーが集結し、オーディエンス投票形式で実施された今イベント。目の肥えたファンも初めて観る人も熱狂に包まれた白熱のバトルを、MCのKENTARAWさんに振り返ってもらった。
目次
もはや“お腹いっぱい”の豪華絢爛なマッチアップ
写真 落合直哉
「海外でも観られない激アツのマッチアップばかりでお腹いっぱいです。」――こう語るのは日本発の世界的なダンスグループ・THE FLOORRIORZに所属するクルーであり、この日のMCを務めたKENTARAWさんだ。
出場者は日本やアメリカ、フランス、イギリスなど総勢8ヶ国、10人。世界中で活躍するブレイキンのトップダンサーたちが集結した。会場のららぽーと堺には特設ステージが設置され、ダンサーたちはバトル開始2時間ほど前からステージでウォーミングアップを開始する。
写真 落合直哉
「シンプルにウォーミングアップを始める人はもちろん、寝ている人もいれば食事をとる人、上着を脱ぎ始める人、レスリングで遊びながら体を動かす人などさまざまです。バトル前のウォーミングアップはダンサーのスタイルが見えて面白いですね。」
バトル前からお互いの華麗なトリックを見せ合う姿に、買い物に来た人たちも思わず足を止める。イベント開始が近づくにつれて、徐々に会場が埋まっていく。
写真 落合直哉
会場が沸騰する白熱のバトルがいよいよ開戦
写真 落合直哉
イベントが始まるとKENTARAWさんが全5バトルのマッチアップを紹介。この時点ですでに会場は3階まで老若男女問わずオーディエンスでいっぱいだ。
今回は1on1の2ラウンド制。全世界にライブストリーム配信され、バトル後にオーディエンスの投票でベストブレイカーとベストバトルが決定する。「通常は審査員がその場でジャッジしますが、今回は多くの人を巻き込んでジャッジするので、ブレイキンにのめり込むきっかけとなる大会になりますね。」と、KENTARAWさんはブレイキンの広まりに期待した。
世界を揺るがしたベストバトルが堺の地で再戦
写真 落合直哉
KENTARAWさん注目のバトルは、1stバトルの「LIL KEV(フランス) vs KID COLOMBIA(オランダ)」だという。
「今日の1バトル目は、YouTubeで1000万回近く再生されるなど過去に世界を揺るがしたベストバトルを繰り広げたマッチアップなんです。2人ともバチバチで手が出るんじゃないかというくらいの雰囲気のなか、ベストなムーブが続出して目が離せませんでした。」
写真 落合直哉
今回は先攻と後攻を決めずにダンサーたちが各々のタイミングと駆け引きでバトルが始まるのだが、LIL KEVとKID COLOMBIAはどちらもお互いを牽制してなかなか始まらない。
「どちらも出ない感じも良かったです。過去のベストバトルの再戦なので、お互いに想いがあって牽制し合っていました。途中でボトルスピン(ペットボトルを回し、キャップが向いた方が先攻という決め方)が行われそうになったのですが、ここはLIL KEVとKID COLOMBIAたちに決めてほしかったので思わず止めました。」
時を動かしたのはLIL KEV。勢いよく滑り込み、壮絶なバトルがついに開戦した。
レジェンド・TAISUKE登場!ベストバウト選出の白熱バトル
写真 落合直哉
KENTARAWさんは4thバトルの「TAISUKE(日本)vs LIL ZOO(オーストリア/モロッコ)」にも注目した。
TAISUKEさんは、KENTARAWさんと同じTHE FLOORRIORZのメンバー。「久々にTAISUKEのバトルが見られるので楽しみでしたね。LIL ZOOも2018年のBC One(世界最高峰の1on1ブレイキンバトルイベント)のチャンピオン。世界で活躍しているダンサーなので面白いマッチアップでした。」とチームメイトのバトルに気持ちが入る。
写真 落合直哉
日本人ダンサーの登場と茶目っ気とサービス精神旺盛のLIL ZOOのパフォーマンスによって会場の熱気が最高潮に達し、見事今回のベストバトルに選出された。
2度世界王者に輝いたVICTORがベストブレイキンに
写真 落合直哉
5thバトルの「VICTOR(アメリカ)vs BRUCE ALMIGHTY(ポルトガル)」はオーディエンスも待ち望んだマッチアップだった。
このバトルは2015年のBC Oneの決勝の再戦。今イベント最後の5thバトルということもあり、オーディエンスも噛みしめるかのごとくステージ上のパフォーマンスを見守る。コミカルな動きで会場を沸かすBRUCE ALMIGHTYに対し、VICTORは王者の風格を漂わせる圧巻のクオリティを見せるなど白熱のバトルを演じた。
写真 落合直哉
ウォーミングアップの際、他のダンサーがトリックの練習をしたり、レスリングで遊んだりするなどアクティブに活動する中、優勝を勝ち取ったVICTORはまさかのお昼寝。体力温存が功を奏したのか、バトルではキレのあるトリックでオーディエンスの票を集めた。
これからもブレイキンの魅力を正しく伝えていきたい
写真 落合直哉
2022年11月にグランドオープンした新設のショッピングモール・ららぽーと堺で開催された「Seiko 5 Sports Showdown。」――KENTARAWさんは「最初に声を出したときに拍手してくれたり、声を出してくれたりする人もいて、あたたかい雰囲気で盛り上げてくれるなと感じました。お客さんも最初から最後まで見てくれて、いい雰囲気で終えられたと思います。」と大盛況に終わったイベントを振り返る。
ブレイキンは2024年のパリで行われる世界の大舞台の新競技に選ばれており、注目の高まりを感じているという。
しかし、KENTARAWさんは「正式競技になろうが見方や感覚は変わりません。若い人にとっては、それによって上手になるスピードが上がったり、何かに向かう心を感じられたりと必ず得るものはあります。ただ、僕はブレイキンの泥臭さや背景もしっかり伝えていきたいと思います。」と語るなど今後を見据えている。
自身が貫くスタイル、背景や想い、それぞれの正義など、あらゆる要素が混ざり合って生まれる華麗なダンスバトルにこれからも目が離せない。
ベストダンサー・ベストバトル選出の3人のメッセージ
写真 落合直哉
全バトル終了後、オーディエンスによる投票を実施。結果はベストダンサーにVICTOR(アメリカ)、ベストバトルは「TAISUKE(日本)vs LIL ZOO(オーストリア/モロッコ)」が選ばれた。激闘を終えたダンサーに「Seiko 5 Sports Showdown」の感想や、ブレイキンにかける想いなどを伺った。
本日のバトルはいかがでしたか。
VICTOR:日本では10回以上バトルをしているけど、今回も楽しかったね。練習してきたことを出せたし、とてもいい時間を過ごせたよ。
LIL ZOO:僕は日本にはたくさん来てるけど、バトルは2回目かな。ブレイキンを披露できてとても幸せだね。しかも賞まで獲得できて最高だよ。次もぜひ出場したいと思ってる。
TAISUKE:楽しかったです。大阪では何度もバトルを行ってますが、ショッピングモールでやるのは初めてですかね。
写真 落合直哉
普段はいろいろな国を飛び回っているのですか。
LIL ZOO:そうだね、毎週のように国を移っているよ。時差ボケもあるけど、今回は1週間以上前に日本に来たから元気だよ!
VICTOR:僕は2日前にロサンゼルスから日本に来たばかりだ。時差ボケでおかしくなりそうだよ(笑)
LIL ZOO:日本は食べ物が最高だね。料理名は分からないけど、何を食べても美味しいんだ!
VICTOR:お好み焼きは最高だね!
TAISUKE 僕も世界中を飛び回ってます。先週は大阪でクルーバトル(チーム同士で戦う団体戦のバトル)の世界大会のオーガナイズをしていたのですが、その前は上海、さらにその前はロサンゼルスでしたね。実はこのメンバーはロサンゼルスで一緒だったんですよ。
写真 落合直哉
みなさんのブレイキンでのスタイルを教えてください。
VICTOR:僕はオールラウンドかな。オールドスクール(1970〜80年代にかけて流行したストリートダンスの総称。主にロックダンス、ポップダンス、ブレイクダンスが該当)もニュースクール(80年代を中心に流行ったストリートダンスの総称。主にブレイキン・ポッピン・ロッキンが該当)も踊るよ。オールドスクールの基礎の部分はとてもリスペクトしているし、そこに自分のスタイルを落とし込むんだ。今日の音楽は聴いたことがなくて難しかったけど、それはよくあることだ。僕たちはプロフェッショナルだから、その状況でもかっこよく踊らないといけない。
LIL ZOO:僕はダイナミックなスタイルが持ち味だね。今日の音楽は最高だったよ。自分のスタイルにぴったりだ。
TAISUKE:僕はオールマイティなので何でもできます。“何でも屋さん”ですね。今日の音楽も聴いたことなかったですが、そこもオールマイティなので合わせられます。意外と音楽はすぐ覚えられるんですよ。
写真 落合直哉
今日のマッチアップを知ったときはどう感じましたか。
TAISUKE:LIL ZOOとは6〜7年前に戦ったことがあると聞いて、確かにそんなこともあったなと。その時は僕が勝ったんですが、LIL ZOOが納得してなさそうにしてたのを思い出しました。ただ、僕たち結構会ってるんですよ。
LIL ZOO:一緒にいすぎて疲れるよ(笑)。
TAISUKE:海外でもアフターパーティーに一緒に行ったり、先週も自分の大会のアフターパーティーに連れて行ってワイワイしたりするくらいの仲です。
LIL ZOO:僕は今日のマッチアップを知って嬉しかったね。TAISUKEとバトルできるのは光栄だし、何回でもバトルしたいと思う。(目をそらすTAISUKEを見て)もし彼が望めばね(笑)。
VICTOR:BRUCEとのマッチアップは面白かったよ。2015年のバトルでは僕が勝って、次にバトルしたときはBRUCEが勝ったから、また戦いたかったんだ。
写真 落合直哉
ブレイキンの魅力を教えてください。
VICTOR:クリエイティブなところかな。RPGゲームみたいに自分のスタイルを自分で作り上げていくんだ。
LIL ZOO:自由なところだね。本当に楽しい場所だし、自分が自由でいられるかけがえのない場所なんだ。僕の人生そのものだね。
TAISUKE:人を動かす力があることが一番の魅力です。言葉ではなく、自分の踊りにどんな気持ちを乗せて踊るのかによって人への伝わり方は変わります。今日も初めてダンスを見にきてくれた人が「かっこよかったです」と写真を撮ってくれましたし、それはその人たちの何かを動かしたからこそだと思います。自分の気持ちを対戦相手にぶつけて、それを見てくれた人が何かを感じ取ってくれるところは魅力ですね。
写真 落合直哉
パリで行われる世界の大舞台でも採用されるなど注目を集めているブレイキンですが、今後に向けて一言お願いします。
VICTOR:僕はいいことだと思う。これまで知らなかった人にもブレイキンが広まるきっかけになるしね。
LIL ZOO:いいことだね。僕たちにとってブレイキンは多くの意味を持っているし、それは変わらないけど、見る人の考えを変えられると思うんだ。
TAISUKE:パリで行われるのはあくまで“競技”なので、スポーツとしてしか見ていないです。ただ、僕がいるフィールドは“カルチャー”であり、その本質を知らないといけないんですよ。
夢の舞台になると流される人がたくさんいます。昔は「ブレイキンは競技とは言えない。」とか「メジャースポーツじゃない。」と言ってた人も急に態度を変えます。メジャーになるまでの過程がすごく大事なんですけど、みんなそれを飛ばしちゃうんですよ。それは違うよと伝えるのは僕の義務だとも思っています。
この義務は僕にしかできないことだと思ってますし、ずっと背負ってきたものです。亡くなった大御所の人たちからも「お前がやれ!」と言われるくらいやってきたので自信もあります。だから僕は嬉しいけど、世界の大舞台には出ないです。カルチャーをもっと盛り上げられるように、何かを残していくのが一番の僕の役目と思ってやっていきます。
写真 落合直哉
最後に、ブレイキンを応援してくれるファンにも一言お願いします。
TAISUKE:自分の好きなダンサーを探して、その人のバックグラウンドや昔のダンスを見て興味を持って調べて欲しいです。ダンサーだけじゃなくて、DJとかも含めてどんどんブレイキンを掘り下げて行って欲しいです。
イベントにも足を運んでもらって、生でブレイキンを見てその温度感を楽しんでほしいですね。いつも応援してくださる人には感謝の気持ちでいっぱいです。これからも頑張るんで応援よろしくお願います。
VICTOR:とにかくブレイキンは自由だと感じて欲しいね。
LIL ZOO:ブレイキンは本当に自由だね。僕だって最初は何もできなかったけど、ただただ楽しかった。それがブレイキンで、それが面白いところだ。恐れずに一生懸命やる!そして楽しむことが大事!
セイコーが行うスポーツ支援
Seiko 5 Sportsは「Show Your Style」のコンセプトのもと、世の中の常識に囚われることなく、日々進化を続けている。それはブレイキンも同じ。決して誰の真似をすることもなく、自分のスタイルを追求し、相手を圧倒する。セイコーはこれからもストリートカルチャーとともに、新たなスタイルを発信していく――。