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文 沢田聡子
写真 落合直哉

2023年のNHK杯国際フィギュアスケート競技大会(NHK杯)は11月24日~26日の3日間で開催されます。ISU(国際スケート連盟)グランプリシリーズに位置づけされる国内の試合であり、世界トップのスケーターが集うフィギュアファンにとって見逃せない大会です。

同年5月に引退した村元哉中さんも、NHK杯で印象的な滑りを披露し続けたアイスダンサーの一人と言えるでしょう。そんな村元さんにNHK杯の魅力、かなだい(村元哉中&高橋大輔)として出場した際の思い出を聞きました。また、振付の才能も発揮する村元さんに、現役引退後の活動についても語っていただきました。

前編はこちら

村元哉中が語るフィギュアスケートと音楽。“かなだい”のアイスダンスでの選曲方法

NHK杯は特別!世界のトップが集う日本開催の国際試合

村元哉中

NHK杯の注目選手について語る村元さん。世界のトップスケーターが集う日本開催の国際試合だけに注目選手も多い

写真 落合直哉

2023年NHK杯についてお聞きします。アイスダンスでは、シャルレーヌ・ギニャール&マルコ・ファブリ(イタリア)が優勝候補でしょうか。

“ベテラン”のカップルですよね。つなぎがスムーズでプログラム全体が途切れないため、どこにエレメンツ(ジャンプ・スピン・ステップなどの演技を構成する要素)が入っているか分からないのが、あのチームのすごいところです。男性のリフトの技術も素晴らしく、本当に「これこそがアイスダンスだな!」と思います。

日本でも人気があるライラ・フィアー&ルイス・ギブソン(イギリス)も出場します。

ライラ&ギブソンは、いつも彼らにしかできない個性的なプログラムを披露します。今シーズンのフリーダンスは、『ロッキー』の音楽を使っていますよね。「それを持ってくるんだ!」という選曲が、本当に彼ららしいと思います。彼らのプログラムはエンターテインメント性があるので、ミュージカルを観ているような気分になりますね。

アリソン・リード&サウリュス・アンブルレヴィチウス(リトアニア)は、今勢いに乗っていますね。

アリソンとは、クリス(・リード)と組んでいた時に、同じ先生のもとでトレーニングも一緒にしていました(アリソンは村元さんのパートナーだった故クリス・リードさんの妹)。アリソンとサウリュスは初めて組んだ時から技術がマッチしていたので、「パートナーシップが続いたら、このチームは上位に来るな!」と感じていました。力強さが見どころで、エッジが深くパワフルなスケーティングをするチームです。

どのチームもタイプが違うので面白く、みどころがたくさんある試合になりそうですね。NHK杯は選手に人気があるので、世界のトップスケーターが集まります。日本開催での国際試合は日本独自のおもてなしがあって雰囲気も良く、海外の選手はみんな「日本で試合したい」と強く思っているようですね。

ペアには、日本から長岡柚奈&森口澄士が出場します。

二人が練習している木下アカデミー京都アイスアリーナ (京都宇治アイスアリーナ)でお手伝いをしていて時々アドバイスを求められたり、話すこともあるので、「頑張ってほしいな。」という気持ちです。少し前、カナダ合宿から帰ってきた時に森口くんの体が大きくなっていて、「ペアの体になったな。」とびっくりしました。柚奈ちゃんはペアを始めて数ヶ月なのですが、二人とも頑張っているので、いいペアになってきているなと。すごく楽しみです。

かなだいにとってもNHK杯は印象深い大会

NHK杯の様子

かなだいのデビュー戦となった2020年のNHK杯ではいきなり3位に輝いた

写真:フォート・キシモト

“かなだい”のデビュー戦は、2020年NHK杯でした。

リズムダンス『マスク』は、ぎりぎりのタイミングで作りました。デビュー戦ではあったのですが、当時はコロナ禍で出場は日本人選手が中心だったため、あまり国際試合という感覚がなく、どちらかというと全日本選手権みたいな感じでした。「やっとここまで来たか。」という感慨と、「ここからどうなっていくのかな~。」という思いがありました。

久しぶりにNHK杯に戻ってこられて、すごく嬉しかったです。2006年NHK杯では、大ちゃん(パートナーだった高橋大輔さん)が『オペラ座の怪人』を滑って優勝しているんですよね。それもテレビで観ているので「大ちゃんと、まずはここからがスタートなんだ!」という思いもあって、NHK杯はやはり特別な試合という感じがあります。

北京シーズンである翌季、2021年NHK杯では『Soran Bushi & Koto』を演じました。

そのシーズン、NHK杯で滑ったリズムダンスが一番良かったんです。NHK杯は、自分たちに合った試合なのかなと感じました。

2022年NHK杯ではフリーダンスで後半グループに入り、2023年世界選手権で優勝することになるマジソン・チョック&エバン・ベイツ(アメリカ)ら、世界のトップチームと同じ組で滑りました。

みんなが「哉中ちゃん、久しぶり!」と言ってくれたのも嬉しかったですし、やはり長年滑っているベテランのチームは無駄がなく、練習中も勉強になることばかりでしたね。

引退後は「振付師を目指してみたい!」

村元哉中

引退後もアイスショーでパートナーを組む高橋大輔さんに対しては、将来的に振付も担当したいと語る村元さん

写真 落合直哉

引退発表後も忙しいと思いますが、改めて心境をお聞かせください。

5月に、大ちゃんにとっては2回目、私にとっては初めての引退を発表しました。最初に大ちゃんから「今季が最後。」と聞いた時にも、あまりびっくりはしなかったんです。世界選手権と国別対抗戦に出てシーズンが終わり、「これ以上の終わり方はないな。」と実感できました。正直「まだいけた!」とは思いますが、やり残したことはなくて。本当に幸せで最高な終わり方だったので、引退発表した時も「やっとみんなに発表できる。」とすっきりした思いがありました。

その後はありがたいことにアイスショーやイベントがたくさんあって、結構忙しくしていたので、未だに引退の実感がないというか…。ただ、試合がないので、スケジュールが決まっていないのがちょっと変な感じですね。でも、引退から約5ヶ月経って、自分が何をやっていきたいかはクリアになってきたので、充実した5ヶ月間だったと思います。

「振付師を目指したい!」という気持ちはあります。今まではぼんやりと描いていた気持ちだったのですが、いろいろなスケーターを見たり、ブラッシュアップをお手伝いしたりすると「もっとこういう振りで音楽を表現できるかも。」と思うところがたくさんあって。「自分が創り上げたら、どんなプログラムにできるんだろう。」という気持ちがありました。振付師は、自分にとってはやりがいのある仕事になるのかなという思いはあります。

アイスショー「フレンズオンアイス」で荒川静香さんが滑った『歌よ』(映画『竜とそばかすの姫』の楽曲)の振付を担当されていましたが、コンテンポラリーな雰囲気が素敵でした。

荒川さんのプログラムで、あまりコンテンポラリーな作品は観たことがなかったんです。『歌よ』の曲は歌詞とメロディだけで余分な音がなく、それをいかに動きでみせるかという点で、振付していて楽しかったです。

『歌よ』の曲は、織田信成くんが荒川さんに「これで滑ったら合うよ!」と提案したようです。練習で一緒に氷に乗っていた時に、荒川さんが『歌よ』の曲を流していて。私も『竜とそばかすの姫』が大好きなので「いい曲だなあ~。」と思っていたら、荒川さんから「哉中ちゃん、振付してくれる?」と言われ「私でいいんですか?」と。そんな流れで決まりました。

初めて、ちゃんとした振付を荒川さんの「フレンズオンアイス」のプログラムで作らせていただいて、本当に荒川さんには感謝しかないです。今回の「フレンズオンアイス」でソロのパートをいただけたことにも荒川さんの思いがあったみたいで、本当に荒川さんにはすごく大切に思っていただけているのかなと感じます。

高橋さんの振付をしたいと言っていましたが、ご予定はありますか。

まだ、できないです。自分がそれをやるのは、まだ許せないというか、もうちょっといろいろな経験を積んでインプットしてから、大ちゃんの振りを創ってみたいなと。今は小さなノービス(ジュニア年齢に達する前のクラス。日本では6月30日時点で9歳、10歳に達する選手をノービスB、11歳、12歳をノービスAに分類)の子たちのプログラムを創ったりしています。ジュニア・シニアの競技プログラムはまだですね。

これからが楽しみですね。アイスダンサーはいい振付をされる方が多いですが、なぜでしょうか。

アイスダンスではメロディやビートを競技性から本当に大事にしないといけないので、シングルとは若干違う部分に集中しないといけません。アイスダンサーの多くは、音楽を聴く力があるのかなと思います。音楽を表現することをより時間をかけて長年やってきているので、振付師に向いているのかもしれません。

高橋さんも村元さんにソロをやってほしいと言っていましたが、ご予定はありますか。

実は、曲はもう決まっていて。大ちゃんに、「これで哉中ちゃんに滑ってほしい!」という曲が一つあるみたいです。ちょっとミステリアスでダーク、大人な感じの曲になります。本当に細かい音がいっぱいあって、「これは哉中ちゃんにしかできない!」と言ってもらえたので、「やるしかない!」と思っています。

振付は、誰にお願いするかまだ分からないです。自分で自分のプログラムを振付することはしたくなくて、誰かにお願いしたいのですが…「大ちゃんに振付してほしいな。」という自分の思いが強くて、猛プッシュしています(笑)。もしかしたら、大ちゃんの振付で見られるかもしれないですね。お披露目がどこになるかはまだ分からないですが、とにかく準備はしておくつもりです。

これからは“新しい村元哉中”を見せるための日々

村元哉中

今後について熱く語る村元さん。“新しい村元哉中”はどんな活躍を見せてくれるのか

写真 落合直哉

アイスダンスは洋の要素が多い伝統がありますが、和を意識するうえでどんなポイントがありますか。

体や首の角度といった形で、和を表現するやり方があります。加えて、私が意識しているのは、目線ですね。いろいろなところで音楽を表現できるので、結構深いところです。それこそメイクやヘアスタイルでもジャンルを表現するので、エンドレスなんです。和の美しさって、どこかシンプルじゃないですか。アイスダンスでは「いかに派手にみせるか。」が、すごく難しいところですね。

村元さんには振付師としても、和の良さを伝えられるスケーターを育てていただきたいと思ってしまいます。

それは、まだまだ研究しないと駄目だなと思います。曲のバックグラウンドをちゃんと理解するのも大事ですし、和の歴史もちゃんと理解していないと表現できません。決まりはないので、いかに自分がその音を感じて内から出すか、というのが表現につながります。音楽を理解する必要は絶対にあるのかなと思います。

最後に、引退後のこれからについて、改めてファンの方へのメッセージをお願いします。

シングルの時から応援していただいているファンの方もいらっしゃいますし、“かなだい”となって3シーズン応援していただいている方にも感謝しかありません。ファンの方々の応援と声援は絶対に力になっていて、その力がなかったらここまで来られていないので、本当にありがたく思っています。

これから個人としても“かなだい”としても、いろいろなチャレンジをしていきたいと、私も大ちゃんも思っています。新しいページを開いて、常に自分たちも進化していかないといけない時代なので、引き続き見守っていただけたら。「“新しい村元哉中”を見せたい!」と思いますので、引き続き応援よろしくお願いいたします。

セイコーが行うスポーツ支援

セイコーでは、選手たちが氷上に舞う華麗な競技・フィギュアスケートの支援も行っています。精密な採点が求められるフィギュアスケートの大会運営を「フィギュアスケート競技システム」でサポート。

演技の美しさを競うフィギュアスケートのスコアを正確に計測することで、競技貢献を果たしています。

村元哉中
© Yumiko Inoue

プロスケーター
村元哉中

1993年3月3日生まれ。5歳からスケートをはじめる。シングルスケーターとして鍛錬を積み、14歳で初出場を果たした全日本ジュニア選手権では8位となる。
2014~2015年、野口博一をパートナーとし、アイスダンスに転向。平昌五輪を目指すことを明言した。初の国際大会タリントロフィーで4位となり、全日本選手権では3位入賞を果たすが、その後カップルを解消。2015年6月、クリス・リードと新たにカップルを結成し、2015年から2017年の全日本選手権で3連覇を果たす。2016年、初出場となる世界選手権では15位に入った。2018年、四大陸選手権で日本アイスダンス史上初となる銅メダルを獲得。同年、目標としていた平昌オリンピック代表に選出され、日本アイスダンス最高位タイとなる15位を記録。
2020年1月、シングルからアイスダンスへの転向を発表した髙橋大輔と新たにカップルを結成。同年11月に開催されたNHK杯でデビュー。
翌月の全日本選手権では2位入賞を果たし、結成一年目とは思えぬ急成長を見せた。
結成2年目にして2022年1月に開催の四大陸選手権銀メダルを獲得。2023年の世界選手権では日本歴代タイの11位。同年5月に競技会より引退し、今後、ソロ及び高橋大輔とカップル、二足の草鞋でショースケーターとして活躍していく。

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