SEIKO  HEART BEAT Magazine 感動の「時」を届けるスポーツメディア

検索

文 沢田聡子
写真 落合直哉

華やかな表現と確かな技術を併せ持ち、日本のフィギュアスケート界を代表するアイスダンサーとして眩い輝きを放ってきた村元哉中さん。2023年5月、パートナーの高橋大輔さんと共に現役引退を発表し、現在はアイスショーを中心に多方面で活躍しています。

フィギュアスケートを語るうえで欠かせないのが音楽との融合ですが、村元さんはプログラムの編曲もするなど、特にこだわりを持っているアイスダンサーとしても有名です。「音楽がなければ、フィギュアスケートではないんです。」と語る胸中には、どんな世界観を秘めているのでしょうか。村元さんがイメージするフィギュアスケートと音楽の関係性、かなだいのペアでの選曲方法について聞きました。

選曲・編曲を自ら担当するなど音楽に強いこだわり

村元哉中

アイスダンスでの選曲のポイントやこだわりについて語ってくれた村元さん

写真 落合直哉

村元さんはプログラムの選曲だけではなく、編曲もされていますね。

編曲はアイスダンスを始めてからずっと手がけています。通っていたインターナショナルスクールで編曲の授業があり、パソコン操作も教わったのでできるようになりました。

アイスダンサーは、自分で編曲をされる方が多いかもしれません。私も最終的にはプロの方に綺麗に整えてもらうのですが、ベースの編曲は自分で行っていて、結構こだわっていますよ!プログラムで流す音楽では歌詞の流れがつながらないとおかしいですし、別の曲と編曲された時にビートが合わないと流れが途切れてしまうこともありますから。

リズムダンス(指定のリズムやテーマの音楽に合わせ、ステップ、リフトなどA~Dの中の5つの要素を含めて演技するアイスダンスの種目の1つ)
ではテーマが決まっていますが、選曲のポイントは何でしょうか。

リズムダンスでは毎シーズン、ワルツやラテンなど課題がある中で、同じワルツでもビートに合うリズムを決めないといけなくて(各シーズン、テンポとビートが決まっているので、そのテンポで滑ることが求められる)。一番大事にしていたのは、氷に乗った時にそのテンポで滑りやすいかどうか。大ちゃん(高橋大輔さん)とは、お互い滑りやすいテンポを探すことからスタートしましたね。

2021-22シーズンのリズムダンスで使った『Soran Bushi』も、オリジナルの曲は速過ぎてブルースの規定にあてはまらなかったんです。だから少しだけテンポを下げて、また「ステップに合わせてレベルがとれるように…。」とも考えて、すごく細かい作業で編曲していました。

和の魅力を表現して世界を魅了した『Soran Bushi & Koto』

アイスダンスの様子

世界中を魅了した『Soran Bushi & Koto』。村元さんは選曲秘話を惜しみなく語ってくれた

写真:フォート・キシモト

『Soran Bushi』については、村元さんが探していた曲の中から高橋さんと一緒に選んだそうですね。

『Soran Bushi』を滑った2021-22シーズンのリズムダンスは、アーバンヒップホップとブルースがテーマとして決められていました。後半のヒップホップについては自分の中でやりたい曲(『Koto』)が決まっていましたが、前半のブルースの曲を決めるのには結構時間がかかりました。

なかなか和のテイストに合うブルースが見つからない中で、候補曲として出てきたのが『Soran Bushi』でした。大ちゃんに提案する時には「『Soran Bushi』はちょっとどうかな…。」と思ったのですが、聴いてもらうと「すごくいいじゃん!」と気に入ってくれたので本当に良かったです。

とても斬新なプログラムに世界中が魅了されましたが、和のヒップホップを滑ろうと思ったのは『Koto』の曲があったからでしょうか。

もともと『Koto』は競技に関係なく好きな曲だったのですが、22年の北京シーズン、リズムダンスの課題がヒップホップになったんです。他のチームとちょっと違うテイストでいきたいと思った時に、和風なら印象に残るのではないかと考えました。

そこで、大ちゃんが『氷艶 hyoen2017-破沙羅-』で踊った和の動きの陸ダンスがパッと思い浮かびました。「その感じをヒップホップテイストの音楽に乗せて演じたら面白いのでは!?」というインスピレーションがあったんです。「これを表現できるのは、高橋大輔だけなんじゃないか!」と。私自身はヒップホップというジャンルをやったことがなかったのでプレッシャーはありましたが、滑るのは楽しかったですね。

運命に導かれていた“かなだい”の『オペラ座の怪人』

村元哉中

写真 落合直哉

2022-23シーズンのフリーダンス『オペラ座の怪人』は、マリーナ・ズエワコーチが提案されたと伺っています。

結成2シーズン目の2022年世界選手権に出発する前に、同じリンクで練習しているジュニアチームが新しいフリーダンスの曲を探していて、候補曲として『オペラ座の怪人』をかけていました。

大ちゃんと二人で「やっぱりいい曲だよね」という話をしていたら、急にマリーナコーチが来て「この曲来年使う?使うんだったら置いておくよ!」と言ってきたんです。来シーズンも競技を続けるかどうかまだ決まっていなかったので、大ちゃんが「来年やるかはまだ分からないよ。」と笑って、いったんその話は流れました。

でもその後、2022-23シーズンも続けると決めた時に、大ちゃんのほうから「マリーナが言っていた『オペラ座』はどう?」と提案してくれました。私は、シングルスケーター・高橋大輔の『オペラ座の怪人』の印象が強く、大ちゃんには抵抗感があるのではないかなと思っていたんです。でも歌詞入りの曲が当時のルールでは使えなかったので(歌詞入りの音楽が解禁されたのは2014/15シーズンから)、大ちゃんも「歌詞入りの曲でやってみたい!」という希望があったみたいですね。「じゃあ、やろう!」と返事してやることになりました。

2023年世界選手権で“かなだい”が『オペラ座の怪人』を披露したさいたまスーパーアリーナは、高橋さんがシングル時代にケガのため出場できなかった2014年世界選手権の会場でした。また2023年国別対抗戦は、高橋さんが『オペラ座』を滑って男子銀メダリストとなった2007年世界選手選手権の会場・東京体育館で行われました。2023年国別対抗戦で滑った『オペラ座』が、“かなだい”の競技会での最後の演技になりましたね。

「そのために『オペラ座』をやったのかな!?」というぐらい全部がつながったので、その不思議さに鳥肌が立ちました。何か運命的なものに導かれていた面があったのかもしれませんね。

自分たちが音楽を奏でる『指揮者としての滑り』が理想

村元哉中

音楽に合わせるのではなく、自分たちが奏でる『指揮者の滑り』が理想と語る村元さん

写真 落合直哉

フィギュアスケートにおいて、音楽はどんな役割を果たしていますか。

フィギュアスケートの表現には、言葉がないじゃないですか。芸術とスポーツが絶妙に融合したのがフィギュアスケートですが、「音楽がないとフィギュアスケートは成り立たない。」。だからこそ、自分に合った曲、自分が感じられる曲を選ぶのは本当に大事なことだと思います。そのうえで、最初から終わりまでの流れを作るのもすごく大事です。点数につながらなくなってしまうので、絶対選曲ミスをしてはいけない――。音楽は必要不可欠で、重要なキーポイントだと思います。

人それぞれ、自分の心に刺さって「かっこいい!」と思う曲と、あまり感じられない曲がありますよね。心に響く曲をかけて滑ると勝手にエモーショナルになり、表現につながる部分があります。大ちゃんにも私にもあるその自然な感性が、表現者としてマッチした部分があったのかなと。

流れている音楽に単に合わせるのではなく、自分たちが音楽の魅力を表現する演技ができたらなと思います。そういう意味では『指揮者のような滑り』を目指しています。滑っている自分たちが指揮者で音楽を奏でさせるような演技ができたら、理想ですね。

セイコーが行うスポーツ支援

セイコーでは、選手たちが氷上に舞う華麗な競技・フィギュアスケートの支援も行っています。精密な採点が求められるフィギュアスケートの大会運営を「フィギュアスケート競技システム」でサポート。

演技の美しさを競うフィギュアスケートのスコアを正確に計測することで、競技貢献を果たしています。

後編はこちら

村元哉中にとってのNHK杯とは?引退後のこれからと振付師としての可能性

村元哉中
© Yumiko Inoue

プロスケーター
村元哉中

1993年3月3日生まれ。5歳からスケートをはじめる。シングルスケーターとして鍛錬を積み、14歳で初出場を果たした全日本ジュニア選手権では8位となる。
2014~2015年、野口博一をパートナーとし、アイスダンスに転向。平昌五輪を目指すことを明言した。初の国際大会タリントロフィーで4位となり、全日本選手権では3位入賞を果たすが、その後カップルを解消。2015年6月、クリス・リードと新たにカップルを結成し、2015年から2017年の全日本選手権で3連覇を果たす。2016年、初出場となる世界選手権では15位に入った。2018年、四大陸選手権で日本アイスダンス史上初となる銅メダルを獲得。同年、目標としていた平昌オリンピック代表に選出され、日本アイスダンス最高位タイとなる15位を記録。
2020年1月、シングルからアイスダンスへの転向を発表した髙橋大輔と新たにカップルを結成。同年11月に開催されたNHK杯でデビュー。
翌月の全日本選手権では2位入賞を果たし、結成一年目とは思えぬ急成長を見せた。
結成2年目にして2022年1月に開催の四大陸選手権銀メダルを獲得。2023年の世界選手権では日本歴代タイの11位。同年5月に競技会より引退し、今後、ソロ及び高橋大輔とカップル、二足の草鞋でショースケーターとして活躍していく。

RECOMMENDあなたにオススメの記事

Seiko HEART BEAT Magazine

夢中になれるスポーツがある、
アスリートの熱い意志と躍動感を。
あなたの人生の「時」を豊かにしていく
ワクワクドキドキするストーリーを届けます。

HEART BEAT Magazneトップ