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文 大西マリコ
写真 落合直哉

豊田兼選手着用時計 セイコー プロスペックス SBDN075

スポーツを通して人々に感動を届け、“世界中が笑顔であふれる未来づくり”を体現するアスリートチーム「Team Seiko」。陸上男子100m日本記録保持者の山縣亮太らが所属する少数精鋭のチームに、新メンバーが加入した。慶應義塾大学に在学する、110m、400mの“二刀流ハードラー”として活躍する豊田兼だ。195cmの長身ならではの長い手足と、努力家で粘り強い性格。恵まれた体格と強固な精神力によって右肩上がりに記録を更新し続けている、陸上競技界期待のニュースターである。

特に2023年の急成長ぶりは目覚ましく、8月に行われたFISUワールドユニバーシティゲームズでは110mHで日本勢初となる金メダルを獲得。9月には日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)・400mHにて自己記録の48秒91で優勝すると、さらに10月のアスレチックスチャレンジカップでは日本歴代6位となる48秒47を叩き出し、世界の大舞台の参加標準記録である48秒70を突破した。特大のポテンシャルを秘める豊田だが、その飾らない性格もあり、メディアでもその素顔が語られたことはまだあまりない。日本の未来を担う二刀流ハードラーの等身大の姿に迫った。

110mHと400mHの2種目の両立が自分のスタイル

インタビューを受ける豊田選手 写真

インタビューはまだ慣れないと語る豊田だが、競技に対する真面目な姿勢を熱く語ってくれた    

写真 落合直哉

まずは陸上競技を始めたきっかけと、ハードル種目を専門とするようになった経緯を教えてください。

小学5年生でスポーツクラブに入りました。きっかけとしては、幼稚園や小学校で足が速いことをよく褒められていたことと、1学年上に勝てない先輩がいたことです。小学校では100mや走幅跳をやっていて、中学2年生の時に先生から勧められた四種競技(男子は400m・110mH・走高跳・砲丸投の四種)を専門にしていました。

ハードルを本格的に始めたのは高校1年生の時です。当時は今より身長が低くて細かったのですが、それでもそこそこ足が長くてハードルを跳ぶには有利でした。また、短距離種目の中では距離がある400mをしっかり走ることができましたし、ハードル間も楽に走れると感じていたので、自他共に「四種競技の中ではハードルが向いている。」と考えるようになりましたね。そうした経緯もあり、400mHと110mHに力を入れるようになりました。

恵まれた体格とハードル種目への適正が備わっていたのですね。豊田選手から見て、ハードル種目の魅力はどんなところにありますか?

10台ハードルがある中で1台も気を抜けない競技性ですね。最初から最後まで集中して乗り越えないといけない感じが好きです。途中まで上手くいっていてトップを独走していたとしても、最後の最後に足を引っ掛けてしまうとすべてが水の泡になってしまうので、本当に何が起きるか分からない。そういうヒリヒリした競技性に魅力を感じています。

競技中の豊田選手 写真

長い手足の恵まれた豊田の体格はハードル種目において大きなアドバンテージとなる

写真 フォート・キシモト

110mHと400mHの両方で結果を残し、「二刀流ハードラー」として活躍する豊田選手。豊田選手にとって、それぞれの種目についてはどんな印象をお持ちですか?

一言で表現するのは難しいですが、よりスプリントが求められる110mHは一瞬なので楽しくて、距離が長い400mHは体力的にキツイという印象です。でも、やりがいや達成感は400mHのほうがありますね。どちらも同じハードル種目ですが、僕は似て非なるものだと思っています。

そのため、2つのハードル種目を両方専門としている選手はそこまで多くないですが、自分は両立することに意味があると考えています。110mHがうまくいかない時に400mHを練習すると気分転換にもなるんです。切り替えができて110mHに戻った時に上手くいった経験が何度もありました。そうやって両立しながらやることで上手くこなせていますし、それが好きなので自分には合ったスタイルなのだと思います。

2023年8月に行われたワールドユニバーシティゲームズでは110mHで金メダル獲得。9月には日本インカレ・400mHにて自己新記録の48秒91で優勝しました。まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」の大活躍ですが、現在の強さの秘訣はどこにあると思われますか?

現在のコーチの指導法が合っていることと、食事改善が効果的なのかもしれません。練習は大会に合わせて変えているのですが、これが結構上手くいっていると感じています。例えば、今回のインカレの場合だと、8月に中国で110mHを走ったばかりで400mHに切り替える必要がありました。1ヶ月のうち前半は、異なるリズムと距離に慣れることに注力し、後半は課題解決に充てました。

食事改善は、食べる頻度と量を見直しました。カロリー摂取を意識したり、プロテインを飲むようにしたりして体重や筋肉の増量を行っています。そうした成果が徐々に出てきた印象です。

Team Seiko加入は「楽しみであり、身が引き締まる思い。」

インタビューを受ける豊田選手 写真

写真 落合直哉

豊田選手は新たにTeam Seikoの一員となりました。同大学(慶應義塾大学)出身で男子100m日本記録保持者の山縣亮太選手や、女子100m・200mの日本記録保持者である福島千里さんら錚々たるメンバーが所属していますが、チーム加入の話を聞いた時はいかがでしたか?

まさか想像もしていなかった光栄なお話で、すごく驚きました。と同時に、最初にお話をいただいたのが2023年の春頃だったのですが、その時は「まだまだ実績が足りていない。」と思っていたので、すぐにはお引き受けすることができませんでした。企業からそうしたお話をいただいたのも初めてのことでしたし。

でも、夏のワールドユニバーシティゲームズや、インカレで結果を残すことができたので少し自信がつきましたね。今はTeam Seikoの一員として偉大な先輩方のように飛躍したいと思っています。

Team Seikoや、セイコーという会社に対してはどのようなイメージをもっていましたか?

セイコーは時計をつくっている会社として有名ですし、世界陸上などの大会で目にする「SEIKO」の文字が刻まれた計測機は、陸上競技者としては身近な存在です。また、山縣選手を始め、Team Seikoのみなさん1人ひとりが活躍されていて「カッコいいな。」という印象を持っていました。

豊田選手 写真

10月のアスレチックスチャレンジカップでは日本歴代6位となる48秒47を叩き出し、世界の大舞台の参加標準記録である48秒70を突破した

写真 フォート・キシモト

豊田選手が加入することで、ますますパワーアップが期待できそうなTeam Seiko。 Team Seikoはアスリートの活動に加え、次世代育成にも力を入れているのですが、その点についてはどのような印象ですか?

僕自身も幼い頃からそういったスポーツ教室に参加した経験があるからこそ、今成長できているという実感があります。なので恩返しではないですが、今度は自分が還元する番だと思っています。

昨年には、慶應競走部が主催している大会で「セイコーわくわくスポーツ教室」を行い、僕も参加させていただきました。専門的なことを伝えるという気持ちはあまりなくて、とにかく走ることを楽しんでほしいと思いながら指導をしたのを覚えています。

豊田選手の素顔に迫る。一問一答インタビュー

豊田選手 写真

陸上競技ではすでにトップレベルの成績を残す豊田だが、10月に21歳になる若者だ。現役大学生でもある豊田の素顔に迫る

写真 落合直哉

ハードラーとして世界と伍して戦える恵まれた体格と、飛ぶ鳥を落とす勢いで残している実績。現役大学生ながらすでに完全無欠の競技者として人気・実力ともにさらに高まることが予想される豊田。今後さらに名前を世界に轟かせてくれるはずだが、そんな新進気鋭の“豊田の素顔”に迫るべく、一問一答インタビューを実施。陸上競技編とプライベート編という2つのテーマで今思うことを答えてもらった。

【陸上競技編】

ハードル種目をやっていて、楽しい瞬間と辛いと感じる瞬間はどんな時ですか?

楽しいのは、過去の自分を超えた時。練習でも試合でも「昨日の自分より強い。」という実感が湧くと楽しさを感じます。辛いのは結果が出ない時です。

ハードラーとして競技を続けるうえでもっとも大切にしていることは何ですか?

あまりハードルを跳びすぎないこと。練習で跳びすぎると、ただただ疲れるだけなので回数を絞るようにしています。

メンタル面で大切にしていることはありますか?

ハードルに引っかかって転んでもめげないこと。ぶつかっても、痛くても「ハードルをなぎ倒していく。」という勢いで突っ込むという気持ちを大切にしています。

豊田選手 写真

指でハードルの間の歩数を数えるのが癖として定着し、今ではルーティンのようになっているという

写真 落合直哉

試合前のルーティンや、験担ぎなどはありますか?

験担ぎはしないほうですが、ルーティンはあります。走る直前にハードルを1本走るのですが、スタート地点に帰ってくる時に指をリズミカルに動かしています。指でハードルの間の歩数を数えているのですが、目視で1周全部のハードルを確認できたら少し安心できるんですよね。

尊敬している選手、目標としている選手はいますか?

尊敬しているのは、やはり山縣亮太選手です。高校3年生でセイコーGGPに出場した時に山縣選手も出場していて、すごくカッコよかったです。大学に入って初めてお話した時は「自分が話しても良いのだろうか……。」と緊張しましたが、とても優しく、ずっと憧れて尊敬しています。

目標としているのは、幼い頃に陸上に興味を持ったきっかけになったフランスのクリストフ・ルメートル選手です。白人で初めて100mで10秒の壁を突破した姿はすごく印象的でした。

ライバルだと思う選手はいますか?

ハードル種目では2人います。110mHの村竹ラシッド選手、400mHの黒川和樹選手です。みなさん1学年上で世界陸上に出場しているという共通点があります。名前を挙げた選手は本当に素晴らしい方ばかりですが、本当のライバルは自分自身です。周りのことを気にするよりも自分の走りに集中することを心がけています。

豊田選手 写真

大学生としての豊田は非常に勤勉な学生だ。キャンパスライフでは根っからの真面目な一面を覗かせる

写真 落合直哉

【プライベート編】

大学3年生の豊田選手。学生として、普段はどんな大学生活を送っていますか?

夕方まで湘南藤沢キャンパスで授業を受けています。放課後は日吉キャンパスに移動してハードルの練習をして、練習が終わったら家に帰ります。とにかく移動時間が長くて1日があっという間に終わります。

勉強は好きなタイプですか?

好きなほうだと思います。みんなが嫌がるような取得が難しい単位、いわゆる“エグ単”と呼ばれる授業を取るのが好きです。

アウトドア派ですか?それともインドア派ですか?

インドア派です。大勢でどこかに遊びに行くというのはあまりなく、家でゆっくり過ごすのが好きです。

豊田選手 写真

規格外のポテンシャルを秘めながら、飾らない真面目な性格。そんないい意味でのアンバランスさが豊田の魅力といえる

写真 落合直哉

家では何をして過ごすことが好きですか?

漫画を読んだり映画を観たりする時間が楽しいです。後は授業と練習で睡眠不足になることが多いので、まずはきちんと寝るようにしています。

大会前や身体作りのために意識して食べているものはありますか?

特別意識をして食べるものはないのですが、定食を結構食べます。あと味噌汁が好きなので、よく飲みます。具材は豆腐が好きです。

好きな食べ物は何ですか?

麺類が大好きです。特にうどんが好きで、行きつけのうどん屋さんもあります。お気に入りメニューは「肉冷玉」です。

陸上競技以外で得意なスポーツはありますか?

やっていたのは水泳ですね。よく意外だと言われるのですが、球技は苦手です。

たくさんの質問に答えていただき、ありがとうございました!読者のみなさんにも豊田選手のことを知っていただけたのではないでしょうか。最後に、今後の目標について教えてください。

直近の目標としては、2024年のパリでの大舞台への切符を手にすることです(※400mHではすでに参加標準記録を突破)。幼い頃からの憧れである大会にぜひ出場したいです。

また、2025年には東京で世界陸上が開催されますよね。大学卒業の翌年なので、どういう進路を歩んでいるかは分かりませんが、東京で開催される特別な世界大会であり、セイコーがオフィシャルタイマーを務める大会にぜひ出場したいと思っています。Team Seikoの看板を背負って、世界で輝ける選手になりたいです。

プロフィール写真

陸上短距離選手
豊田兼

身長195cmの恵まれた体格を活かし、400m/110mH/400mHの3種目をこなすマルチハードラー。2023年8月に中国で行われた第31回FISUワールドユニバーシティゲームズの男子110mHで学生世界一に輝き、同年10月のアスレチックスチャレンジカップでは日本歴代6位となる48秒47を記録し、世界の大舞台の標準記録を突破した。陸上競技界の未来を担うホープ。

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