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佐藤翔馬が取り戻した代表の座 “22年ぶり自国開催の世界選手権”に燃やす闘志 佐藤翔馬が取り戻した代表の座 “22年ぶり自国開催の世界選手権”に燃やす闘志

佐藤翔馬が取り戻した代表の座 “22年ぶり自国開催の世界選手権”に燃やす闘志

文 久下真以子
写真 フォート・キシモト

2023年7月、競泳の世界選手権が福岡で開催される。自国開催となるのは、2001年以来で実に“22年ぶり”。当時の大会ではオーストラリア代表のイアン・ソープが6個の金メダルを獲得して日本国内でも一躍時の人となるなど、スターの活躍により大いに盛り上がりを見せた。そんな競泳界にとって思い出深い年に生まれ、今や男子200m平泳ぎの日本記録保持者となった男がいる――佐藤翔馬、“22歳”だ。

2021年に東京で世界の大舞台を経験した大学生の佐藤。2022年はケガによる不調に苦しんだが、2023年4月に行われた日本選手権では男子200m平泳ぎで2位に入り、見事復活。世界選手権の切符を初めてつかんだ。「自国の応援を力にしたい。」と意気込む佐藤に、代表への想いや胸のうちを聞いた。

レースプランを実行してつかんだ世界選手権出場

佐藤翔馬さん 画像

接戦を制して2位で世界選手権への切符を手にした佐藤。レース展開はしびれる内容だった

写真 フォート・キシモト

佐藤は2001年2月生まれの22歳。産声をあげた年の夏に、しかも2023年大会と同じ福岡の地で競泳の世界選手権が開催された。

佐藤「当時は0歳だったので、もちろんリアルタイムでの記憶はないですね(笑)。また、僕が選手として臨むシニアの世界大会は、2021年に続いて2回目です。実はどちらも自国開催になります。国際大会という実感がピンとこない面もありますね(笑)。自国開催では応援してくれる方が多く、ホームの雰囲気でレースに臨めるのは非常にありがたいですね。声援は絶対に選手の力になります!

日本選手権後に代表合宿を行いましたが、選手同士の雰囲気もいいですよ。特に同じ種目の選手はライバルではありますけど、普段は一緒にご飯を食べることもあります。レクリエーションとしてバスケットボールのフリースロー対決をして盛り上がりましたね。みんなで切磋琢磨して、お互いを高め合いながら本番までの準備をしているところです。」

日本選手権では、自身が日本記録を保持する男子200m平泳ぎで結果を出した。惜しくも1位は逃したが、2位でフィニッシュし世界選手権の出場権を得た。この日の自己採点は、“60点”だという。

佐藤「すごく調子が良いというわけではなかったのですが、練習はしっかり積めていたので、自信を持って泳げました。結果は2位だったのでうれしいというよりは悔しい気持ちがありますが、世界選手権の出場権をつかめて、まずはホッとした気持ちですね。世界選手権が自国開催ということもあって、すごく強い気持ちでレースに臨みました。」

佐藤翔馬さん 画像

男子200m平泳ぎは実力者がひしめく種目。佐藤はセイコーの大型表示盤で2位を確認して安堵の表情を浮かべた

写真 フォート・キシモト

この日のレースでは、100m折り返しでトップに出るなど、ケガをしていた時には見られなかった佐藤らしいダイナミックな泳ぎが戻ってきていた。

佐藤「僕が5コースで、優勝した渡辺一平選手が3コース。花車優選手が1コースで、武良竜也選手が7コースでした。有力と言われる4人が隣り合わせではなくバラけていたので、最後まで自分がどの位置にいるかは分からなかったんですよ。フィニッシュして大型表示盤で2着の表示を見て、初めて一安心しました。

花車選手と武良選手は後半型で、渡辺選手が前半から仕掛けてくることは分かっていましたね。自分も前半から差をつけて、150m時点で後半型の2人に“この差は無理だ……。”と思わせるレースプランでした。しっかりその差をつけられた点は、プラン通りにできて良かったと思っています。」

自らの理想を追求する「200m平泳ぎの濃密な2分間」

佐藤翔馬さん 画像

世界選手権の出場権を獲得し、代表復帰も果たした佐藤。ケガに悩まされたが、現在は復調傾向にある

写真 フォート・キシモト

2022年の世界選手権では、悔しい代表落選も経験した。2021年の世界の大舞台の前に発症した腰のケガの影響で調子を落としていたのだ。

佐藤「2023年はしっかりと海外レースの経験を積んでいきたい気持ちがあります。というのも、せっかく出場した東京での世界の大舞台では準決勝敗退だったので、“失敗に終わった。”という気持ちが強いんです。だから、“どうしたら世界のトップスイマーたちを相手に結果を残していけるのか。”をまずは世界選手権で実践してみて、来年のパリにつなげたいですね。

世界選手権では結果を残すことも重要ですが、パリの前年の時点で選手たちのレベルや大会の雰囲気がつかめる点で非常に有意義な大会だと思っています。」

パリの前哨戦とも言える自国開催の世界選手権。佐藤はどんなレースを目指しているのだろうか。

佐藤「世界選手権はタイムを競う記録会ではなく、メダルを争う勝負の大会です。日本選手権に関しても、タイムは満足できるものではありませんでしたが、2位以内に入ることが大事でした。海外勢は後半にペースを上げてくる選手がかなり多いと予想しています。だから渡辺選手と2人でしっかり前半から上げていって、周りを乱す!乱した中で自分の泳ぎをして表彰台に食い込んでいきたいですね。

4月の日本選手権では2分7秒台を出せなかった(結果は2分8秒21)ので、今度こそ7秒台に乗せたいですね。自分の日本記録は2分6秒台ですが、まずは一段ずつステップアップしていきたいです。7秒台、6秒台と徐々に上がっていけたらなと思っています。」

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佐藤は「いかに消耗せずに前半を速く泳げるか。」をテーマに世界選手権までに泳ぎの精度を高める

写真 フォート・キシモト

22年ぶりに福岡で開催される世界選手権を前に、佐藤が追求するのは「いかに消耗せずに前半を速く泳げるか。」だ。

佐藤「他の種目はパワーが重要ですが、平泳ぎは水の抵抗が多い種目です。もちろんパワーも必要ですが、抵抗を減らすだけでもスピードが上がるんですよ。手の角度や開き方、脚の開き方……さまざまなところで抵抗が生まれるので、少しずつ抵抗を削ればタイムアップが期待できます。そういうディティールを追求していきたいです。平泳ぎはやってみると本当に奥が深い種目で、見た目以上にキツい種目なんですよね(笑)。

練習も本当にキツくて、“なんで本番のたった2分のレースのためにこんなに頑張ってるんだろう……。”と思うこともあります。練習と本番もどちらもキツいですが、同じ2分でも時間の感覚は不思議と違うんですよ。練習では長く感じるのですが、本番は本当に一瞬。体感的には1分くらいです。」

自国開催の応援とサポートを受けて臨む「世界選手権」

佐藤翔馬さん 画像

入場した際に「SEIKO」の文字が見えることに喜びを感じる佐藤。サポートには常に感謝している

写真 フォート・キシモト

世界選手権での活躍が期待される佐藤だが、常々サポートしてくれるセイコーへは感謝の意を示した。

佐藤「日本選手権ではセイコーがオフィシャルタイマーだったので、大型表示盤やタッチ板、スターティングブロックもすべてセイコー製品でしたね。入場した際に、観客席にセイコーの社員のみなさんがセイコーのタオルを出してくれて、黄色と黒が目立ってすごく嬉しかったです。応援してもらえているのをすごく実感できました。」

そんな愛着のあるセイコーだが、佐藤にとってよりうれしいことがあった。2022年3月からTeam Seikoのメンバーに大橋悠依が加わったのだ。もともと仲が良かったという2人だが、世界選手権にも共に出場する偉大な先輩との間柄についても語ってくれた。

佐藤「大橋選手はいつも僕に対してフレンドリーに接してくれるんですよね。代表合宿とかで会った際は砕けた挨拶から始まり、実は一緒にいる時はあまり競泳の話はしません(笑)。でも真面目な時は真面目で、オンオフがしっかりしています。優しくて、カッコ良くて、真面目なお姉さん。Team Seikoに入ってくれて本当に良かったです。」

世界選手権ではTeam Seikoの仲良しな2人が、そろって活躍してくれることを期待せずにいられない。

佐藤翔馬さん 画像

2023年のビジョンを語る佐藤。学生最後の夏に福岡の表彰台に立ち、花火を堪能することはできるのか

写真 フォート・キシモト

世界選手権が終わったらやってみたいことを聞いてみると、何とも大学生らしい答えが返ってきた。

佐藤「僕、花火を見に行きたいんですよ。高校・大学と、夏の全国大会が終わるのは8月から9月にかけてだったので、落ち着いたころには花火シーズンも終わってしまっていて、全然行けなかったんです。今年は世界選手権が終わるのが7月末なので、8月の頭に行けたらいいなと思っています。ちなみに屋台で好きな食べ物は、たこ焼きか焼きそば。浴衣を着て食べながら花火を見る……最高ですよね!」

大学生4年生の夏に挑む、福岡での大舞台。改めて意気込みを聞いた。

佐藤「予選と準決勝で温存するのではなく、明確な目的を持って泳いだうえで決勝にピークを持っていきたいです。僕も渡辺選手も、実力的には決勝には残れると思います。日本人2人が前半から飛ばして、後半の粘りを見せるレースを見てほしいです。僕にとって有観客での世界の舞台は初めてのことなので、日本のみなさんの応援をとても楽しみにしています。平泳ぎはプールサイドについてからスイッチが入る選手が多いので、結構スタンドの景色は落ち着いて見えているんですよ。

まずは福岡でしっかりメダルを獲得します。世界のレベルを把握しながら、トップスイマーたちとのレース展開について経験を積み、パリで金メダルがとれるように頑張ります!」

佐藤翔馬 写真

SHOMA SATO

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佐藤翔馬

競泳選手
佐藤翔馬

0歳から水泳に親しみ、小学3年時に現在の所属先である東京スイミングセンターに移籍。大学1年時に世界ジュニア選手権に出場し200m平泳ぎで銀メダルを獲得した。2021年の日本選手権で200m平泳ぎで2分6秒40の日本新記録をマークした“日本男子平泳ぎの顔”。

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