セイコー時間白書2023

「日常の時間」の使い方 9割がさまざまなシーンで「タイパを重視」
タイパ重視したい時間も、生まれた時間の使い道も「睡眠」がトップに

まず「日常における時間の使い方」について、現代社会で重視されるタイムパフォーマンス(タイパ)を軸に調査を行いました。調査結果から、日常のさまざまな場面でタイパを重視し、タイパのためにツールやライフハックを活用している実態が明らかになるとともに、タイパに捉われずゆったりとした時間を使う意識も見られました。

本調査において「タイムパフォーマンス」(タイパ)は、「生活のさまざまなシーンにおける時間対効果のこと(時短や時間効率のよさだけでなく、自身が豊かだと感じる時間の使い方も含む)」と定義しています。

日常生活のさまざまなシーンで、約9割が「タイパを重視」
タイパを重視する時間TOP3は「睡眠」「料理」「掃除」 一方、「仕事」に関するタイパ意識は低め?

タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する時間について聞きました[図1]。
全体の87.4%がタイパを重視する時間が「ある」と答え、具体的には「睡眠」(39.3%)、「料理」(37.0%)、「掃除」(34.2%)、「買い物」(34.2%)が上位に挙げられました。これをカテゴリー別に見ると、「日常(食事・睡眠など)」(61.2%)、「家事・育児」(55.0%)、「趣味・コンテンツ消費」(47.8%)が高く、「仕事」(29.7%)が最も低くなっています。

タイパを重視する時間 グラフ タイパを重視する時間 グラフ

タイパ重視で生まれた時間の使い道も、半数以上が選んだ1位は「睡眠」!
「睡眠の質アップ」「睡眠時間確保」など、“睡眠のタイパ向上”の工夫もさまざま

タイパを重視する時間があると答えた人に、タイパを重視して生まれた時間で何をするのか聞きました。すると、「睡眠」(54.4%)、「動画視聴」(40.1%)、「家族とのコミュニケーション」(33.1%)の順となりました[図2]。図1の通り、「睡眠」はタイパを重視する時間でも1位でした。睡眠のタイパを意識するだけでなく、そこで生まれた時間も睡眠に充てたいようです。また、自由回答からは、「睡眠のタイパを高める」ための工夫も寄せられました。単純に睡眠時間を削るだけではなく、睡眠時間の確保や睡眠の質のアップに努めることで、他のタスクの効率やパフォーマンスを高めることにもつながっているようです。

タイパ重視で生まれた時間の使い方 タイパ重視のためにやっていることと実感した効果 画像 タイパ重視で生まれた時間の使い方 グラフ
タイパ重視のためにやっていることと実感した効果 画像

日常のタイパのために、7割がツールやライフハックを活用中
若い世代を中心に、コンテンツ消費もタイパ重視の傾向が

タイパ重視の現代人、約7割がツールやライフハックを活用
タイパ向上のために利用しているツールは「冷凍食品」「オンライン決済」など

図1でタイパを重視する時間があると答えた1,049人にタイパを高めるために利用しているツールについて聞きました。すると69.1%が何らかのツールやライフハックを活用していると答え、「冷凍食品」(23.6%)や「オンライン決済」(22.9%)を利用する人が多くなっています。家事や買い物などさまざまな場面でツールやライフハックを活用してタイパを高める動きが見られます。

年代による違いも出ており、10代は「SNSの情報アカウント」(13.1%)を使う人が多く、30代と50代は「食洗機」を活用する割合が高くなっています[図3]。

タイパ向上のためのツール グラフ タイパ向上のためのツール グラフ

「ながら見」「まとめサイト活用」は6割が実践、「ネタバレ消費」「イントロスキップ」率は低め
若い世代ほど、コンテンツ消費もタイパを重視する傾向に

コンテンツ消費のシーンで、タイムパフォーマンスを高めるためにどんな行動が取られているか、詳しく見てみました。
「ほかのタスクと並行して「ながら見」をすることがある」(65.7%)、「調べ物をするときにまとめサイトを活用する」(61.6%)と答えた人は6割を超え、多くの人が実践しています。一方、「本を読んだり映画を観たりする前に結末を調べる」(33.8%)、「曲のイントロを飛ばす」(24.0%)といった時間を早送りする行為は実践率が低くなっています。それぞれ年代別に見ると、10代・20代の若い世代で実践している割合が高く、40代以降では低い傾向にあります[図4]。

タイパ重視行動の実態 グラフ タイパ重視行動の実態 グラフ

タイパ重視も、「時短」だけが目的ではない!
タイムマネジメントで生み出す、「人生を豊かにする時間」

タイパを重視する目的は「効率的な情報収集」「無駄を省く」、4割が「作った時間でやりたいことがある」

タイパを重視すると答えた人に、重視する目的を聞きました。すると、「効率よく情報を得たいから」(57.4%)、「無駄なことに時間を割きたくないから」(57.3%)が上位に挙げられました。年代別で見ると、10代・20代は「効率よく」、50代・60代は「無駄を省く」を重視する傾向が見られました。

また、効率や無駄だけでなく、全体の4割が「空いた時間・作った時間でやりたいことがあるから」(43.9%)と答えています。年代別に見てもあまり差がなく、やりたいことをするためにタイパを重視する、という時間の使い方が実践されているようです[図5]。

「時短」や「時間の効率化」そのものを目的とするのではなく、効率化により生まれた時間を有効活用し、豊かな時間を過ごすためにタイパを重視する人も多いことが分かりました。

タイパを重視する理由 グラフ タイパを重視する理由 グラフ

タイパ重視で生まれた時間で、自分磨きしたり、コミュニケーションを楽しんだり、のんびりしたり…
人生を豊かにする時間を楽しんでいる

タイパを重視して生まれた時間を自分を豊かにする時間に活用する傾向は、具体的なエピソードからも読み取れました。タイパを重視して得られた時間をどのようなことに使っているかと聞くと、「リラックスタイム」(女性30代)と癒やしのために使う人もいれば、「将来を考えスキルアップになるように過ごす」(男性10代)と自分磨きのために使う人、「友人と会ったり家族と過ごす時間」(女性50代)のようにコミュニケーションに使う人もいれば、「読書や音楽鑑賞などの心の豊かさを感じられることに使いたい」(女性 60代)と心の余裕やゆとりを持つために使う人もいます。

効率よく時間を使う「使い方」だけでなく、そこで生まれた時間をどう豊かに使うかという「目的」も多様化しています。

タイパを重視して生まれた時間の使い方 画像 タイパを重視して生まれた時間の使い方 画像

タイパに捉われず「何もしない」時間も約8割が必要
「効率重視」と「じっくり没入」時間の使い方にメリハリが

約8割が「何もしない時間は必要」と回答 半数近くが「タイパより大切なものがある」と感じている

全員に時間の使い方の意識について改めて聞きました[図6]。

まず、何もしない時間は必要か/不必要かと聞くと、78.4%が「必要だと思う」と答えました。

また、タイパが最重要課題である/タイパよりも大切なものがあるどちらの考えに近いかと聞くと、48.2%が「タイパよりも大切なものがある」と答え、「タイパが最重要課題」と答えた人は19.4%でした。

現代人はタイパを重視してはいるものの、何事においてもタイパを最優先するわけではないようです。時間効率を意識して行動することもあれば、時間を忘れて過ごすことも大切、そんなメリハリのある時間の使い方が志向されているようです。

時間の使い方意識 グラフ 時間の使い方意識 グラフ

タイパ重視の10代・20代だが、「趣味への没頭」「雑談」「行列」では意外と時間を気にしない?
若い世代を中心に「効率重視」「じっくり没入」と時間の使い方にもメリハリがみられる

次に時間の使い方や行動について聞くと、70.1%が「じっくりと考え事をするのが好き」、73.3%が「映画やドラマなどは飛ばさずに最初から最後まで観る」と答えており、どの世代でも共通して高くなっています。一方、「時間を気にせずに没頭できる趣味がある」は10代が77.0%、「目的もなく雑談をするのが好き」も10代が72.0%と、全体に比べて10代が高くなっています。また、「好きなお店に並ぶ時間は気にならない」は10代では70.0%と高いものの、年代が上がるとともに少なくなっています[図7]。

効率を重視し(図5)、ながら見などのタイパ重視行動をとる(図4)若い世代が、好きなことにはとことん時間をかけるという傾向が見られました。メリハリのある時間の使い方をしているようです。

時間の使い方・行動 グラフ 時間の使い方・行動 グラフ

「学び」「仕事」「結婚」の年齢に対する固定観念が明らかに
一方、ライフイベントに「何歳でも挑戦できる」という前向きな声も

次に、「人生という時間の捉え方」について、ライフイベントを経験する年代への「価値観や固定観念」を聴取しました。また、「若さ」や「生き方」についての意識の違いを聴取し、年代差を分析しました。その結果、年齢に関する固定観念が残る一方、「人生という時間の捉え方」に対し、世代間で多様な意見が見られました。

「学校での学び」…年代の圧を感じやすい10代、世間の圧だけでなく自身での挑戦にも年齢制限あり

人生には就職、結婚などさまざまなライフイベントがあります。各ライフイベントに対し、世間の常識としてこの年代までに済ませたほうがよいという圧力を感じる上限の年代と、自分自身が「この年代でも経験・挑戦してもよい」と思う上限の年代を聞きました[図8]。

学校での学びは、世間の常識では「20代」以下の年代を答えた人が合計63.5%と多く、10代では72.5%と高くなっています。自身の考えでは「30代」以下の年代を答えた人が合計45.6%、「何歳でも挑戦できる」と答えた人が28.3%と、世間の常識に捉われず学びたい人が多いようです。しかし10代は合わせて半数が「20代」以下(51.0%)の年代を答えています。

ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ

「仕事を続ける」…世間的には「70代まで」が多数派だが、自分の理想は「何歳でもいい」派が増加

仕事を続ける上限について、世間的な圧力としては「70代」以下の年代を答えた人が合計68.4%と多くなっています。特に、「60代まで」と答えた割合が最も多く30.8%いました。自分で挑戦できると思う上限の年代では、合わせて約半数(52.4%)の人が「70代」以下と答えた一方、3人に1人(32.7%)は「何歳でも」と答えています。働くことへの向き合い方の違いで意識は全く異なりますが、世間の圧力に対して長く働きたいと思う人もいるようです。

ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ

「結婚」…半数が「30代まで」の圧力を感じるが、「何歳でも挑戦」と年代の壁を作らない人も
一方、10代は、世間の圧力だけでなく、自分で年代のリミットをかける傾向に

結婚に関して世間からの圧力を感じる年代は、合わせて半数が「30代」以下(53.1%)と答えています。10代は67.5%と高くなっていますが、年代が上がるにつれその割合は低下し、「圧力を感じない」と答えた人が増えています。

自分自身の考えを聞くと、「30代」以下の年代を答えた人は合計35.2%と少なく、「何歳でもよい」と答えた人が多くなっています。しかし、10代は「圧力を感じない」(19.0%)、「何歳でもよい」(18.5%)と答えた割合が低く、他の世代に比べ年齢に縛られる傾向が強いようです。

ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ

「リスキリング」…世間の圧力が少ない「学び直し」 とはいえ、10代は3割が「30代まで」と制限

最近耳にするようになったリスキリングについては、上限の年代に関して「圧力を感じない」(49.5%)と答えた人が半数を占めています。しかし10代は、「圧力を感じない」と答えた人が39.0%と他の世代に比べ低く、合計34.5%が「30代」以下の年代を答えています。

また、自分自身の考えを聞くと、リスキリングに挑戦するのは「何歳でもよい」(40.6%)と答える人が多くなっていますが、10代では合計31.0%が「30代」以下の年代を答え、制限をかけています。

ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ ライフイベント別世間から圧力を感じる上限の年代、自分自身で挑戦してもよいと感じる年代の上限 グラフ

7割以上が、年齢に対するステレオタイプな圧力を感じた経験あり
若者は将来への不安で焦るも、60代は「心配していたより今が充実」

社会通念と年齢ギャップに言及された経験は7割以上にも
結婚や働き方など、年齢による決めつけがまだまだ多い

他人から、「○歳なのに」「○歳なんだから」といった年齢に関する社会通念とのギャップを言及された経験について聞くと、71.8%が「経験がある」と答えました[図9]。具体的に聞くと、ネガティブな指摘からポジティブな応援まで、さまざまなエピソードが寄せられました。

年齢ギャップを指摘された経験 グラフ 年齢ギャップを指摘された経験 グラフ
年齢ギャップを指摘されたエピソード 画像 年齢ギャップを指摘されたエピソード 画像

「他人と自分を比較」「若くないと価値がない」 先行き不安で焦る若者たち
一方、上の世代は「心配していたよりも今が充実」とポジティブ

人生に対する考え方を聞くと、若い世代では特に不安度が高く他人の目を気にする傾向が見られました[図10]。全体の68.4%が「将来の先行きが見えず不安だ」と感じていますが、10代は82.0%、20代は77.0%と不安を感じる割合が高くなっています。また、「他人の人生と自分の人生を比較してしまう」と答えた人は全体43.6%に対し、10代は66.5%、20代は56.5%と半数を超えています。さらに、10代は39.0%、20代36.5%が「若くないと価値がない」と答え、全体(27.5%)より10ポイント以上もスコアが高くなっています。世間の年齢に対する圧力を感じながら、自分自身も捉われているようです。

一方、図10からも分かるとおり、年を重ねることで不安は小さく、解消されていくようです。実際に60代の72.5%が「昔よりも他人の生き方を気にしなくなった」、59.0%が「昔心配していたよりも今が充実している」と答えており、人生における時間や経験が、人生への不安や焦りを低減してくれることがうかがえます[図11]。

年代別人生に対する考え方 60代の人生に対する考え方 グラフ
年代別人生に対する考え方 グラフ
60代の人生に対する考え方 グラフ

コロナ禍を経た2023年、時間に対する意識に変化の兆し
動き出す時間に戸惑いながらも、人々の気持ちは解放ムードに?

2020年より流行している新型コロナウイルス感染症ですが、2023年に入り、各種制限の緩和とともに、感染症法上の位置づけが「5類」に移行するなどの動きがありました。コロナ禍のただ中にあった2022年との比較を行うことにより、人々の行動や生活様式の変化・回帰に伴う「時間に対する意識」の変容を浮き彫りにします。

依然として多忙な現代人 6割が「時間に追われ」、半数が「1日24時間では足りない」と感じている

時間の感覚について、普段どの程度時間に追われていると感じるか聞くと、全体の64.5%が「時間に追われている」と答え、昨年(66.3%)から大きな変化はないようです。時間に追われる感覚の変化を聞くと、49.2%が「強くなった」と答えており、昨年(48.0%)からやや増加傾向でした。1日24時間であることに対しては55.3%が「足りない」と答え、昨年(57.2%)から大きな変化はありません。依然として時間に追われ、1日24時間では足りないと感じる人が多いようです[図12]。

普段の時間の感覚 グラフ 普段の時間の感覚 グラフ

コロナ禍真っただ中に比べると「時間について考える」割合が減少、深刻度が緩和されたから?

時間の使い方を考えたかどうかについて、22年の調査結果と比較してみました。今回は「制限緩和を受けての時間の使い方」の変化、22年は「コロナ禍による生活変化による時間の使い方」と聞き方が異なりますが、時間の使い方を「考えた」がいずれも減少しています[図13]。制限緩和により考える深刻度もやや緩和されたようです。

コロナとの関係で時間の使い方について考えた経験 グラフ コロナとの関係で時間の使い方について考えた経験 グラフ

制限緩和で逆に困ったこと、10代の半数がリアルなコミュニケーションに戸惑い

現在時間の使い方で困っていることを聞くと、「コロナ前の生活に戻すことができない」(32.4%)、「相手との時間調整で忙しい」(30.8%)、出社が増え「移動時間の考慮ができない」(24.0%)など、制限緩和による困りごとも垣間見えます。10代では困っている割合が高く、約半数が「相手との時間調整で忙しい」(45.5%)と答えています[図14]。

現在時間の使い方で困っていること グラフ 現在時間の使い方で困っていること グラフ

2023年、現在の生活を象徴する言葉は「ばたばた」
これまでの「粛々」とした生活から、時間も日常も「ばたばた」と動き始めている

行動制限やマスク着用などの各種制限が緩和された最近3か月の生活を象徴するのにふさわしい言葉を、時間にまつわる言葉の中からひとつだけ選んでもらいました。その結果、「ばたばた」(16.7%)が1位に選ばれました。21年・22年はコロナ禍生活を象徴する言葉として「粛々」がトップでしたが、今回「粛々」(9.1%)は5番目に[図15]。

コロナ禍で「粛々」と過ごしていた日常が、制限緩和により「ばたばた」と音を立てて動き始めたようです。

最近の生活を象徴する言葉 表 最近の生活を象徴する言葉 表

これまでの「イライラ」から一転、現在の生活を象徴する心情を表す言葉は「ほっと」
21年・22年の「コロナ収束後」の心情ワードとして予想済み

同様に、最近の生活を象徴する心情にまつわる言葉から選んでもらうと、「ほっと」(15.1%)が1位、次いで「ぼうっと」(12.6%)が選ばれました。
21年も22年も「イライラ」がトップに選ばれていましたが、制限緩和によりちょっとひと息つきたい、そんな気持ちが表れているようです[図16]。
ちなみに、コロナ収束後の生活を予想して選ばれた言葉は、21年の1位「ほっと」(24.8%)、4位「ぼうっと」(6.3%)、22年の2位「ほっと」(24.4%)、4位「ぼうっと」(6.4%)でした[図17]。
新型コロナは収束したわけではありませんが、ちょっとほっとできる今の生活が、2年も前から望まれていたようです。

最近の生活を象徴する言葉(心情) 表 最近の生活を象徴する言葉(心情) 表

今回の調査結果について、「時間学」が専門の一川誠先生にお話を伺いました。

タイパを意識することで時間の使い方に注目 時間の使い方が多様化している

「タイムパフォーマンス」という言葉の登場からも分かる通り、現代では時間の使い方が注目されています。この言葉が使われ出した当初はタイパ=時間効率でしたが、調査結果からも分かるように、何かを楽しむ時間を得るためにタイパを重視して時間を作る動きもあります。タイパの意味が広がるとともに、目的も「趣味」「学び」「寝る」「何もしない」など多様化しています。年齢によってもタイパ実態に違いが見られます。その理由として、基本的には年齢が上がるとともに時間の使い方が固定化するのに対し、若い世代は試行錯誤の最中で、便利なツールも積極的に取り入れる傾向があるからだと考えられます。

「睡眠のタイパを上げて睡眠をとる」 日本人の睡眠課題が顕著に

タイパを重視する時間として「睡眠」が多く選ばれた一方、空いた時間でやりたいことの1位も「睡眠」という結果が出ています。日本人は世界的にも睡眠時間が短く、睡眠に悩む人が多いと推察されます。睡眠のタイパを重視したい人の中には、食品やサプリ、アプリなどのツールを活用して短時間でいい睡眠を取ろうとする人もいれば、睡眠時間を確保することでほかのタスクのパフォーマンスを高める人もいます。やむなく睡眠時間を削る人、睡眠の質を高めることでタイパを高める人、睡眠時間を確保して日常のパフォーマンスを高める人、さまざまな存在がこの不思議な結果につながったと考えられます。いずれにせよ、睡眠を重視する人がそれだけ多いということで、睡眠に悩む日本の課題が垣間見えました。

なぜ若者は不安を感じやすいのか 人生経験に伴い、自信も安心感も生まれるはず

ライフイベントへの意識からは、10代の「前のめりさ」が感じられます。何歳でも挑戦できると柔軟に考えられず、「○歳までに○○を済ませねば」とステレオタイプに捉われがちで、人生を他人と比較したり、将来に不安を感じたりする割合も高い傾向に。これらは日本における10代の特徴として、青年心理学の研究でも同様の傾向が認められています。彼らが不安を感じるのは、人生経験の少なさ故です。人と比べることで自分の立ち位置を認識し、不安を拭いたがり、前のめりになりやすい。自尊心を維持するために、何者かになりたい、他者や社会から認められたいと承認欲求が強くなる。こういった傾向は、まだ自己に対する評価が定められないために生じます。ですから、年齢とともに経験も増え自身で判断ができるようになり、さらには、失敗した経験も記憶の中で成功体験に書き換えられやすくなります。従って年を重ねることで自信が生まれ、他者と自分を比べることも減り、「今が充実している」と堂々と言えるようになるのです。ですから、若い人たちには、将来が不安でも、他人のことが気になっても、SNSでの「いいね!」が少なくても、「きっと大丈夫」と声をかけてあげたいですね。

多様性の時代は選択肢が増え可能性も広がる 今の揺り戻しに焦らずに広い視野を持とう

コロナ規制が緩和され「ばたばた」と動き出した今、困ったと感じている人も若い世代に多くなっています。便利なアプリがあるのに会社では使えない、オンラインで済むのに出社が求められたり…。新しい生活様式にいち早くフィットすることができた若い世代ほど、コロナ前に戻ることに不自由さを感じてしまいます。逆に、以前のままのツールを使い続けた上の世代は、そんな揺り戻しの影響が少なく、元の生活に戻っただけと思えるので、困ったと感じることは少ないわけです。 過渡期の今は、新しい便利な道具があるのに、古い生活様式に戻ろうとする動きもあるので、窮屈に感じることが多いかもしれません。しかし、コロナ禍の経験で選択肢が増え、多様性が認められるようになったことは紛れもない事実です。苦しい時期を経験したからこそ、社会的な学習ができたという側面もあります。今はない選択肢も、これから増えてくるでしょう。多様性の時代は可能性も広がります。目の前のことだけを見て焦るのではなく、広い視野を持って、人生という大きな時間軸を捉えたいものです。

一川 誠(いちかわ・まこと)先生

一川 誠(いちかわ・まこと)先生

千葉大学大学院 人文科学研究院教授
専門は実験心理学。実験的手法により、人間が体験する時間や空間の特性、知覚、認知、感性の研究に従事。
現在は、視覚や聴覚に対して与えられた時空間情報の知覚認知処理の特性の検討を行っている。「大人の時間はなぜ短いのか」(集英社新書)、「時計の時間、心の時間-退屈な時間はナゼ長くなるのか?」(教育評論社)など著書多数。

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コミュニティ活動

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