時間との付き合い方がより自己主体的に
“新しい生活様式”に取り組み始めた現代人
コロナ禍により新しいライフスタイルを体験している今、私たちの「時間価値」にはどのような変化が起きているのでしょうか? 時間の価値について、2017年から行っている『セイコー時間白書』の過去の結果と比較してみました。
新しい生活様式で「時間に追われている」感覚はやや緩和 しかしリモートワーカーでは逆に強まる
時間を意識して行動するかと聞くと、85.1%が「意識して行動する」と答え、昨年(87.5%)よりは少し減少しましたが、高い時間意識を持っていることが分かります[図1]。1日24時間について聞くと、「少ない・足りない」と答えた人が51.2%と半数を占めるものの、昨年(56.8%)より少なく[図2]、「時間に追われている」意識も60.7%と昨年(67.8%)より少なくなっています[図3-1]。時間意識は引き続き高いものの、時間に追われる意識がやや緩和されているようです。
働いている746人に時間に追われている意識を聞くと、66.0%が「時間に追われている」と答え平均よりもやや高くなっています。
リモートワークの有無で見ると、リモートワークしている237人では73.0%が「時間に追われている」と答え、していない人(62.7%)よりも10ポイントも高くなっています[図3-2]。会社という「場」の規律がない分、「時間」の規律を感じる人が多いのかもしれません。
[図1][図2][図3]のスコアは7段階で聴取し、前後3段階(とても+普通+やや)をまとめて数値化
時間を効率的に使う“時間マネジメント”に変化あり 時間マネジメントにセルフマネジメント要素も付加
時間に関する具体的な意識や行動について聞くと、「物事を始める前におおよその目安の時間を計算して行動」(64.8%)、「何事も効率的に進められるよう工夫」(63.8%)などのスコアが高く、時間マネジメント意識は高めです。しかし、昨年と比べるとやや低下傾向を示しています[図4-1]。昨年と比べ意識が高くなっているのが、「時間が制限された方が頑張れる」(19年47.7%→20年50.6%)、「1日を有意義に過ごすために朝の時間を大切に」(19年43.6%→20年46.3%)、「朝活に取り組んでいる」(19年26.6%→20年28.4%)です[図4-2]。
自主性がより求められるようになったことで、時間の制約がゴールとしての目標となり、自身のやる気の醸成にもつながっているようです。また、コロナ禍による自粛や在宅で朝時間に余裕ができたのか、朝活が見直されているようです。
[図4]のスコアは、「とてもあてはまる」+「あてはまる」+「ややあてはまる」の合計値
現代人の時間価値はオンタイム4,443円、オフタイム8,346円
“時価”上昇はいったんひと休み
新しい生活様式の切り替えに合わせて、上昇傾向の“時価”も見直しのタイミングに
時間意識の変化の兆しが見られる2020年。自分の1時間の価値を値付けしてもらうと、仕事や家事・勉強をするオンタイムは1時間4,443円となり、昨年(4,427円)とほぼ同額ですが、男性は5,158円と昨年(5,552円)よりも393円値下がりし、女性は3,728円と昨年(3,303円)より425円高くなっています[図5-1]。プライベートなオフタイムは1時間8,346円と昨年(9,632円)より1,286円も低くなり、男性は9,682円と昨年(12,979円)より3,297円も安くなっています。一方女性は7,010円と昨年(6,285円)から725円高くなっています[図5-2]。
オンタイムもオフタイムもこれまで年々上昇してきましたが、2020年は時価上昇もひと休みとなりました。コロナ禍により生活を見直すことに合わせて、時間の価値についても再考するタイミングを迎えているようです。
オンオフが曖昧になりがちなリモートワーカーのオフタイムは1時間16,329円と最高値
オフタイム充実の願いが込められている?
1時間の価格をリモートワークの有無で見てみました。まず有職者全体を見ると、オンタイムは4,633円と全体の平均(4,443円)とあまり変わりませんが、オフタイムは10,689円と全体の平均(8,346円)より2,343円も高くなっています。リモートワークする人ではオフタイムの価格が16,329円とずば抜けて高く、リモートワークしない人(8,063円)の倍以上の価値を認めています[図5-3]。
期せずしてリモートワーク元年となりそうな2020年。リモートワーカーはオン・オフの区切りが曖昧になりがちなことから、しっかりとしたオフタイムを求めて価値を高く感じていると考えられそうです。
最も大切にしている時間帯は、「月曜の朝」と「金曜の夜」
コロナ禍でも生活リズムは変えたくない
最も大切な時間帯「月曜7時」「金曜21時」「土曜22時」で概ね例年通りの傾向。
コロナ禍でも生活リズムを変えたくない、そんな意識の現れかも
時間の価値が見直される2020年。1週間の中でどの時間をいちばん大切にしているのか?
[図6-1]は、最も大切にしている時間帯を選んでもらった結果をヒートマップ化したものです。最も大切にしている時間帯に選ばれたのは、「月曜7時台」「金曜21時台」で、月曜の朝と金土の夜、次いで土曜の朝と日曜全般が大切な時間帯となっています。
[図6-2]の2019年の結果と比べると、土曜日の21時台~23時台が昨年よりアップしていますが、ほぼ同様の傾向です。コロナ禍の厳しい状況下にはあるものの、生活リズムはできるだけ変えないよう、意識的に心掛けている様子がうかがえます。
時間の使い方で重視されること、『時の記念日』制定時の
「時間を守ること」から「自分に合った時間の使い方」へとシフトチェンジ
毎年6月10日の『時の記念日』は、1920(大正9)年に制定され、2020年で誕生100周年を迎えます。『時の記念日』は、日本国民に「時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図ろう」と呼び掛け、時間の大切さを尊重する意識を広めるために設けられたものです。時間を守り、時間の大切さを尊重する意識は、私たちにどのように根付いているのでしょうか。今年の「セイコー時間白書」では、『時の記念日』100年の成果を洗い出します。
『時の記念日』が提唱した“時間を守る”生活行動、100年を経て日本の国民性としてしっかり定着
まず、時間を守る生活行動について聞いてみました。『時の記念日』制定時にうたわれた時間を守るための項目を提示し、当てはまるかどうか聞いたところ、「誰かを訪ねる際は、あらかじめ時間を調整する」は80.3%が実践し、「来客を待たせない」(72.8%)、「仕事において出勤・退勤の時間を守る」(72.3%)、「仕事において期日を守る」(71.3%)なども7割が実践しています[図7]。大正時代の「時間を守ろう」との呼び掛けは、100年を経た今、しっかりと日本人の国民性として根付いてるようです。
時間の使いこなしは60点!もっとうまく時間を使えそう 伸びしろたっぷりで工夫の余地あり
一方、時間をうまく使いこなしているかどうかを自己採点してもらうと、60.7点と辛口の評価となり[図8-1]、自身の時間の使い方の合理化について聞くと、71.0%が「合理化の余地がまだまだある」と答えました[図8-2]。また、時間の使い方についての意見を2018年の結果と比較すると、「時間は効率的に使わないといけない」という意見が60.8%から70.0%に伸び、「時間を贅沢に使うという表現にとても共感できる」という意見も48.3%から55.4%と高くなり半数を超えています[図8-3]。
大正時代から培われ日本人の共通認識となった「時間を守る」生活行動ですが、令和の時代を迎え「時間を効率的に使う」ことで、自分の時間を「贅沢に使う」ことを求めているようです。1日24時間という決められた時間を効率化することで、自分が自由に使える可処分時間の充実を目指しているのではないでしょうか。
時間コラム①
自分軸の時間意識の拡大 リモートワーカーの仕事の裁量度76%
働いている人746人に自身の仕事の進め方について聞くと、62.3%が「ある程度自分で決められる」と答え、リモートワーカーでは76.4%と自身の裁量度が高くなります。
リモートワークなしでも55.8%と半数を超え、自分軸の時間意識が拡大していることがうかがえます。
待ち合わせ方法、若い世代から変化の兆し
昼休みもマルチタスクが当たり前に
友人との待ち合わせ、場所・時間を決めて集合する“きっちり派”が主流
若い世代では、なんとなく決めてその場で調整する“現場合わせ派”が増加
時間を守る生活行動の一つに、他人との待ち合わせがあります。友人との待ち合わせをどうするかと聞くと、「前もって時間、場所をきっちり決めて集合する」が68.9%と最も多く、時間を守る日本人らしい行動が実践されています。これを年代別に見ると、どの世代でも「きっちり決めて集合」が主流ですが、若い世代では「大体の時間と場所を決めて、移動しながらLINE等で調整する」を選択する人が多く、20代では39.0%と5人に2人が現場合わせ派です[図9]。
先のことを詳細に決めるよりも、現場に合わせて臨機応変にという方がこれからの時間の合理化・効率化に即しているのかもしれません。技術の進化とともに時間の使い方も変わっていくようです。
平日の昼休みは平均50分、なのにすることは89分も 同時並行で過ごすマルチタスクの休み時間
平日の休み時間の長さを聞くと、1日平均49.9分でした。次に昼休みにすることとそれにかける時間を聞くと、「食事」20.7分、「テレビ」15.7分、「メール・SNS確認」10.2分となり、すべての項目を合計すると88.7分になりました[図10]。つまり、50分の時間の中で90分の行動が実行できるよう、あれこれ同時に行うマルチタスク型の昼休みが一般的となっていることがうかがえます。時間の合理化・効率化が昼休みにもマルチタスク化を促進しているようです。
時間コラム②
100年前の大正女子と令和女子 身支度にかける時間は約3倍も!
『時の記念日』が制定された1920年に開催された『時の展覧会』の集録本には、「婦人一生のお化粧時間」として女性の身支度にかかる時間が紹介されています。それによると朝の洗面、化粧、髪結いにかかる時間は「一時間丗分」(1時間30分)、入浴時間は「一時間廿分」(1時間20分)と書かれています。それから100年後、現代女性の身支度にかかる時間を今回の調査対象者の女性600人に聞くと、朝の身支度は33.7分、入浴は31.4分でした(下図)。
マルチタスクで昼休みものんびりできない現代人からすれば、うらやましい時間の使い方ともいえそうです。
コロナ禍とリモートワーク
リモートワーカーの4人に3人(約75%)が時間のメリハリが曖昧に
コロナ禍により、リモートワークという新しい働き方が定着しつつあります。リモートワーク元年になりそうな2020年。働き方の違いによる時間価値の変化について、さらに詳しく見てみます。
生活者の8割がコロナ禍による生活変化を実感。リモートワーカーは変化度94%と影響最大
まず、新型コロナウイルス問題の発生以降、仕事や生活などに変化があったかと聞くと、全体の83.1%が「変化があった」と答えました。
仕事をしている人(83.4%)もしていない人(82.6%)もほぼ同数が変化を感じていますが、仕事をしている人のうちリモートワークをしている人では「変化があった」と答えた人が94.1%と多く、リモートワークしていない人(78.4%)より15ポイントも多くなっています[図11]。
リモートワークしている人はしていない人に比べ、変化の度合いが大きいことが分かりました。そこで、リモートワークの有無で時間価値の変化を見てみました。
リモートワーカーの4人に3人は時間の「メリハリのなさ」を、2人に1人は仕事「時間が速い」と実感
最近の時間のメリハリについて聞くと、全体の68.8%が「時間のメリハリをつけにくくなっている」と答えています。コロナ禍により自宅にこもる生活で時間のメリハリがつけづらくなっているようです。これをリモートワークの有無で見ると、リモートワーカーは74.7%が「メリハリをつけにくい」と感じており、リモートワークしない人(59.3%)より15ポイントも高くなっています[図12]。
仕事に関する時間がたつ速度について聞くと、「速く感じる」と答えたのは全体の30.7%で、「遅く感じる」(22.0%)と答えた人よりも多くなっています。リモートワーカーでは「速く感じる」と答えた人が43.5%と多く、リモートワークしない人(23.6%)より20ポイントも高くなっています[図13-1]。
また、生活に関する時間でも、リモートワーカーの43.0%が「速く感じる」と答えており、全体平均(35.6%)やリモートワークしない人(31.8%)より高くなっています[図13-2]。
リモートワークする人は、自宅で仕事をすることで、オンオフの切り替えや時間のメリハリが曖昧になり、区切りがないまま時間が過ぎてしまう、と感じているようです。
コロナ禍とオンラインコミュニケーション
64%がオンラインコミュニケーションを経験
SNSからオンライン飲み会まで、64%が何らかのオンラインコミュニケーションに参加経験アリ
コロナ禍により、リモートワークだけでなく、テレカン(遠隔会議)やオンライン飲み会などのオンラインを使った新しいコミュニケーションを始める人が増えています。オンラインコミュニケーションの実施状況を聞くと、最も多いのがこれまでも実践されていた「SNSでのコミュニケーション」(52.4%)で、半数以上が実践しています。次に多いのが「リモートワーク」(25.5%)や「テレカン」(18.3%)となっています。[図14-1]。これらのオンラインコミュニケーションのうちいずれか1つでも参加したことがあるのは、全体の64.1%にも上ります[図14-2]。
リモートワーカーの4割は、テレカンなしでリモートワークを実践中
オンラインコミュニケーションの実践状況を職業別に見ると、「リモートワーク」は有職者の31.8%、学生の27.6%が実践し[図15-1]、「テレカン」は有職者の24.0%、学生の17.1%が実践しています[図15-2]。リモートワークする人のテレカン実施率を見ると、有職者でリモートワークしている人の39.2%、学生などを含むリモートワーカー全体では43.5%がテレカンを「実践していない」と答えています[図15-3]。
テレカンは電話やテレビを使った遠隔会議のことです。最近はインターネットを通じてのweb会議が一般的で、より手軽に始められるようになっていますが、リモートワークを行いながらも、テレカンを実施していない人が4割もいることが分かりました。
時間コラム③
コロナ禍による変化を痛感、焦燥感から時間を速く感じる学生
[図11]のコロナ禍による生活変化で「変化があった」と答えた人を職業別に見ると、右のグラフの通り、割合が最も高かったのは「学生」(92.5%)でした。また、[図13-2]の生活速度が「速く感じる」と答えた割合が最も高かったのも「学生」(48.9%)でした。
今回の調査は15歳以上を対象としていますが、学校や授業のことだけでなく、学費や進学、就活などさまざまな問題に直面する今の学生たち。この不安な状況からいち早く抜け出したいという焦燥感が、時間の速さを感じさせるのかもしれません。
コロナ禍における生活の時間経過を表す言葉
1位「粛々」
コロナ禍生活真っ最中、時間を表す擬音(態)語で今の生活を表現すると「粛々」、気持ちは「イライラ」
アフターコロナに望むのは、「のびのび」生活、気持ちは「ほっと」
4月7日に発令された緊急事態宣言も解除され、経済活動と感染抑制の両立のための新しい生活様式へのシフトが求められています。そこで、これまでのコロナ禍生活とこれからのコロナ後生活を、時間を表す擬音(態)語の中から選んでもらいました。
コロナ禍真っ最中の生活を表す擬音(態)語は「粛々」(19.1%)、「だらだら」(15.3%)、「のんびり」(12.5%)が上位となりました[図16-1]。必要以上に恐れることなく、しかし気を引き締めて取り組んでいく、静かな決意が感じられます。一方、コロナ収束後は、「のびのび」(20.5%)、「てきぱき」(13.3%)、「ばたばた」(13.1%)が上位となり、コロナを心配することのない日常を楽しむ気分が感じられます。
次に、これまでのコロナ生活とコロナ後の生活を心情を表す擬音(態)語で表現してもらうと、コロナ真っ最中の生活は、「イライラ」(18.5%)、「ヒヤヒヤ」(17.9%)、「ハラハラ」(13.9%)が上位となり、コロナ禍によりままならない日常へのいら立ちが感じられます[図16-2]。コロナ収束後は、「ほっと」(31.9%)がダントツに多く、収束した事による安心感がトップとなり、次いで「すっきり」(18.6%)や「わくわく」(18.3%)が続き、コロナのない日常をより積極的に楽しみたい、そんな気分が感じられる結果となりました。
時間コラム④
2003年、SARS流行後の生活擬音(態)語は「ばたばた」が1位
2003(平成15)年、当社が行った「今の生活を時に関する言葉で表現すると?」という調査では、「ばたばた」が第1位に選ばれました。[図16-1]の2020年コロナ収束後を意識した擬音(態)語と比較すると、「ばたばた」「てきぱき」が共通しています。
2003年は、前年11月から重症急性呼吸器症候群(SARS)が世界的に流行し、7月に終息宣言がなされています。当時、日本国内では感染者が発生せず、今回のような影響はなかったことから、共通する「ばたばた」「てきぱき」は日本人の変わらぬ国民性を表現していると考えられます。逆に考えれば、2020年の擬音(態)語には、普段の生活は「のびのび」「のんびり」したいというホンネがコロナ禍をきっかけに吐露したのかもしれません。
特別インタビュー
「時間学」の一川誠先生に聞く、”新しい生活様式時間”の付き合い方
2020年6月10日は、制定100周年を迎える『時の記念日』です。今回の調査結果を基に、時間の使い方の変化やコロナ禍の影響について、心理的なアプローチによる「時間学」を提唱する一川誠先生にお話をうかがいました。
『時の記念日』制定から100年 画一的な時間の使い方から、時間の使い方が多様化する社会へ
時間には、時計の時間に従う公共の時間(みんなの時間)と、各自の生活リズムに基づく個人の時間(自分の時間)があります。公共の時間と個人の時間、2つの時間軸とどう折り合いをつけるかは、個人にとってだけでなく、社会にとっての普遍の課題です。
時の記念日が制定された100年前は、画一的な公共の時間に個人の時間を合わせることで、合理化・効率化を図り生産性を高めることを目指したわけです。それから100年たった今、時間の使い方は多様化しています。昼働く人もいれば夜働く人もいて、生活リズムは人それぞれ異なります。生活リズムによって「あの人は朝型だ」「私は夜型だ」と言うことがありますが、「朝型」「夜型」はただの生活習慣の違いではなく、実は、遺伝子レベルで決まっています。最近の時間生物学の研究で、人の体内時計を調べて判明したことですが、どんなに努力しても夜型は朝型に変えられないのだそうです。
人は遺伝子のレベルから多様な生物です。社会に多様性が求められるように、時間の使い方も多様化するのが自然の流れです。多様性を受け入れないことで不自由を感じる人は多く、社会的なストレスも大きいと考えられています。
リモートワークで陥りやすいメリハリ不足 リズムは人それぞれであることを理解し、
まずは、いろいろと試してみて、自分なりのリズムの作り方をつかむこと
新型コロナの影響で、新しい生活様式へのシフトが求められています。その一つがリモートワークという働き方です。今回の調査では、リモートワークする人は仕事時間がたつのが「速い」と感じ、「時間に追われている」と感じる人が多くなっています。仕事時間が速いと感じるのは、人と話すなどのイベントが少なく、自分の仕事に集中していることの表れです。時間に追われていると感じるのは、リモートワーク中の管理方法にもよりますが、時間管理が目に見える形で数字できっちりと表示されることから、「規定の時間までに終わらせなきゃ」と焦り、時間に追われている感覚につながるからです。
また、リモートワーカーの多くが「時間のメリハリがつけにくくなった」と感じています。自宅にひきこもった生活を続けると、ダラダラしがちでメリハリは感じづらくなるようです。web会議など、ほかの人との共同作業の時間を作ったり、疲れたらお茶を飲んできちんと休憩したり、好きな音楽を聞いて作業を区切ってみるなど、作業内容の濃淡をつける工夫をしてみてください。どこで区切りをつけるのが有効かは人それぞれです。疲れたら休憩というような自分時間でのリズムがつかみづらい場合、公共の時間を軸に○時間働いたら休憩、というルールでやってみるのもいいでしょう。いろいろ試してみることで、自分なりのリズムがつかめるようになり、リズムをつけることでメリハリが生まれ、心理的負担の軽減にもつながります。眠くなったら仮眠しやすいのも、リモートワークならではのメリットです。ただし、夜の睡眠に影響しないよう30分以内にしてくださいね。
コロナ禍を契機に 自分の時間とみんなの時間について考えてみる
今回のコロナ禍で、私たちは公共の時間と個人の時間という、2つの時間軸の存在に改めて気付かされることになりました。リモートワークで通勤・通学しなくなった分、「朝の時間」を活用する人が増えたり、一人でダラダラ仕事をするより「時間が制限された方が頑張れる」と実感したり、リモートでもできることが案外あると気づき「もっと合理化できる」と実感したり、今回の調査結果からも2つの時間軸をもっとうまく使いこなせる、そんな兆しが感じられました。LINEを使った現場合わせの待ち合わせや、参加も退室も気ままなオンライン飲みなど、発展するテクノロジーによって私たちの生活の様式を変えるさまざまなデバイスは、自分の時間とみんなの時間の緩やかな連携を推進してくれる、頼もしい相棒となっています。
コロナ禍で迎える制定100周年の『時の記念日』。今回の災禍を契機として何ができるのか、アフターコロナは公共の時間と個人の時間がどのように変わるのか、時間の観点からあれこれ考えてみるいい機会かもしれませんね。
一川 誠(いちかわ・まこと)先生
千葉大学大学院人文科学研究院教授/日本時間学会会長。
専門は実験心理学。実験的手法により人間が体験する時間や空間の特性、知覚、認知、感性の研究に従事。
現在は、視覚や聴覚に対して与えられた時空間情報の知覚認知処理の特性の検討を行っている。「大人の時間はなぜ短いのか」(集英社新書)、「時計の時間、心の時間-退屈な時間はナゼ長くなるのか?」(教育評論社)など著書多数。
バックナンバー
これまでのセイコー時間白書を閲覧することが出来ます。
コミュニティ活動
課題解決に向けたこれまでの活動記録を発信しています。
様々な価値観にさらされ、自分の軸を見失っている若者たちの問題を、「時」の視点で解決できないだろうか。セイコー若手社員によるアクションを、年度別にまとめています。