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【サッカージャーナリスト・小澤一郎さんに聞く】なぜサッカーにはタイムアウトがないの?システムや配置の変更はどのように行っている? 【サッカージャーナリスト・小澤一郎さんに聞く】なぜサッカーにはタイムアウトがないの?システムや配置の変更はどのように行っている?

【サッカージャーナリスト・小澤一郎さんに聞く】なぜサッカーにはタイムアウトがないの?システムや配置の変更はどのように行っている?

文 小澤一郎

バスケットボールやバレーボール、アメリカンフットボールなどの試合を観戦していると、試合の流れが大きく変わりそうな場面で「タイムアウト」のコールをよく耳にします。タブレットや作戦盤を抱えた監督の周りに選手たちが集まり、息を整えながら瞬時に戦術を確認する――。タイムアウトはアメリカ発祥のスポーツを中心によく見られる、戦術的な「試合の中断」です。

しかし、サッカーのピッチ(フィールド)においてその時間は存在しません。前半・後半それぞれ45分間、一度キックオフのホイッスルが鳴り響いてしまえば、監督が自らの判断で時計を止めたり、選手たちをベンチに集めて作戦会議を開いたりすることはできません。どれほど試合の流れが悪くなっても、プレーは基本的に途切れることなく続いていきます。

では、なぜサッカーにはタイムアウトが存在しないのでしょうか。そして、激しく変化するノンストップかつシームレスな戦いの中で、選手たちはどのように自らの立ち位置を修正しているのでしょうか。今回は、ボールも思考も絶え間なく動き続けるサッカーの試合における時間術に迫ります。

サッカーは「いかに選手たちが自律的に問題を解決するか」を競うスポーツ

各スポーツのタイムアウト※国際ルール イラスト

サッカーにタイムアウトがない大きな理由のひとつは、その歴史と「ゲーム(プレー)の継続性」を重んじる哲学にあります。

19世紀にイギリスで近代フットボールのルールが整備された際、サッカーは「一度始まったら、あるがままに時間が流れ続ける競技」として発展してきました。ボールがタッチラインを割ってスローインになったり、ファウルがあってフリーキックになったりしても、基本的に主審の時計は止まりません。

また、サッカーにおいては「プレーヤーズファースト」という言葉が浸透しており、監督がプレーごとに細かく指示をするのではなく、ピッチ上の選手たちが状況を見極め、その場で最適な判断を下すことが求められます。

イングランドで生まれたサッカーは、欧州人における人生観を投影させやすいスポーツと言えるかもしれません。というのも、彼らは人生を「自らの意思で行動する時間の積み重ね」と考え、どのような局面であっても「自分が決断を下すこと(主体性)」を何よりも大事にします。サッカーにおいても、監督の指示ではなく自らが「これだ」と思って選んだプレーを責任持って判断・実行することが本質であり醍醐味だと理解しているのです。

これに対し、アメリカで発展したバスケットボールやアメリカンフットボールなどのスポーツでは、試合時間を細かく管理する「ストップクロック」が採用されています。また、戦術の確認や選手のコンディション調整に加え、テレビ中継でCMを挿入するための時間を確保する目的から、「タイムアウト」の制度も発展してきました。

サッカーにおける「時間が止まらない」という特徴は、単なるルールの違いではありません。刻々と変化する状況の中で、選手たちが自ら考え、仲間と連携しながら課題を解決していく――。それ自体が、「混沌とした状況の中でいかに選手たちが自律的に問題を解決するか」を競う、このスポーツの本質的な魅力そのものなのです。

プレーが途切れたわずかな瞬間に指示・伝達が行われる

サッカーボール 画像

では、試合を中断できないという過酷なルールの下で、サッカーのチームはどのように「システムや選手の配置の変更」を行っているのでしょうか。そこには秒単位で展開される高度なコミュニケーション技術が存在します。

試合中にシステムや選手の配置を大きく修正する最大のチャンスは、皮肉にも「ボールがピッチの外に出てプレーが止まった瞬間」です。特にゴールキック(※1)、コーナーキック(※2)、負傷者の治療などで試合が中断したタイミングは、サッカーにおける「疑似的なタイムアウト」とも言えるでしょう。

監督が指示を伝えたい場合は、プレーが止まったわずかな時間を利用して、近くにいる選手やキャプテン、あるいはそれに準ずるリーダー役を担う選手にベンチ前のテクニカルエリア(※3)で声をかけます。ただし、現代サッカーの試合では屋根付きスタジアムが一般的となっているため、ファン・サポーターの声援が反響して監督の指示が選手に伝わるとは限りません。

また、プレースピードが極めて速い現代サッカーにおいては、ボールから遠くにいる選手ほど集中力と「先の展開」を予測した適切なポジショニングを求められます。一昔前はプロの試合でもボールから遠い位置の選手に監督が指示を出し、その選手がボールから目を離して監督の話を聞くという光景もありましたが、今ではそうした“牧歌的なシーン”も見なくなりました。

(※1)攻撃側がボールに触れて守備側のゴールラインを割ったとき、ゴールエリア内から守備側のキックによって試合を再開させる行為
(※2)守備側がボールに触れて守備側のゴールラインを割ったとき、ピッチの角から攻撃側のキックによって試合を再開させる行為
(※3)監督やコーチが試合中に選手へ指示を出せるエリア

タイムアウトがないスポーツだからこそ、決定的なドラマが生まれやすい

現代サッカーにおいて年々重要度が高まっているのが、選手個人の「インテリジェンス(戦術的知性)」です。相手のシステムやマークする選手の配置が事前の予想と異なっていた場合、キックオフ直後であっても素早く対応しなければなりません。対応が遅れればわずかな隙が失点につながることもあるため、ベンチからの指示を待っている余裕はないのです。

そのため、トップレベルの選手たちは試合開始直後から相手の戦い方を観察し、状況を分析しています。そして、「このスペースが空きやすい」「ここは味方のサポートが必要だ」と判断すれば、自ら立ち位置を変えたり、役割を調整したりしながら試合に適応していきます。

時間を止め、作戦盤通りの完璧な配置を再現しようとするスポーツを「計算されつくしたオーケストラ」とするならば、時間も局面も止まらないシームレスなサッカーというスポーツは、選手たちがその場で紡ぎ出す「即興のジャズセッション」のようなものかもしれません。プレーが止まらないからこそ、一瞬の判断や認知のギャップが試合の流れを変え、ときには決定的なドラマを生み出します。

サッカーの試合を観戦するときは、ボールの動きだけでなく、リアルタイムに監督や選手の頭の中を想像してみてはいかがでしょうか。タイマーが時を刻み続けるその裏側で、主体性を持つ選手たちは止まることのない頭脳戦を繰り広げ、ピッチ上の幾何学模様を刹那に書き換えているのです。

小澤一郎

サッカージャーナリスト
小澤一郎

1977年、京都府生まれ。大学卒業後、社会人経験を経てスペインに渡り、5年間活動した後に帰国。2024年6月から再びスペインへ移住し、ジャーナリストとしてスペインサッカーを中心にさまざまな情報を発信している。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在はサッカー関連のイベントや番組への出演を精力的にこなし、U-NEXTではスペインリーグ中継の解説を務める。著書20冊。自身のYouTubeチャンネル「小澤一郎Periodista」はチャンネル登録者数約15万人(2026年5月時点)。

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