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【【元審判・上川徹さん監修】サッカーのアディショナルタイムの決め方とは?計算方法などを解説 【【元審判・上川徹さん監修】サッカーのアディショナルタイムの決め方とは?計算方法などを解説

【元審判・上川徹さん監修】サッカーのアディショナルタイムの決め方とは?計算方法などを解説

文 寺沢薫

世界中の人々が、サッカーという競技に熱狂する理由はいったいなんでしょうか?
それは、「相手ゴールにボールを入れ、より多く得点したチームが勝つ」というシンプルなルールにあります。また、ゴールキーパーを除く20名の選手たちが足でボールを扱うという不確定さがあるからこそ、ゴールが生まれた瞬間にボルテージが一気に上がり、観る者の心をつかむのだとよく言われます。

得点が少ないスポーツだからこそ、試合終了間際の土壇場で決勝ゴールが生まれれば、そこには想像を絶する熱狂が渦巻くでしょう。そして、そうしたドラマが決して珍しくない形で生まれるのが、「アディショナルタイム」です。前後半それぞれ、時計の針が規定の45分を回った後に追加される“魔法の時間”について、解説します。

アディショナルタイムとは?計算方法やロスタイムとの違い

アディショナルタイムとは?

サッカーのルールを制定する機関である国際サッカー評議会(IFAB)の競技規則によると、アディショナルタイムとは、選手交代、負傷、懲戒処置、得点後の喜びなどにより「空費された」分を試合の前半、後半の終了時に延長する時間のことを指します

この「空費された」時間の定義には、ボールがラインを割った(ボールがゴールラインやサイドラインを越えてフィールド外に出た)後のスローインやゴールキック、フリーキックなどによるセットプレーによる中断時間は含まれません。これは意外と知られていないポイントです。アディショナルタイムは、あくまで“競技以外”の理由で空費された時間を対象としており、競技規則によれば以下のように定義されています。

  • 競技者の交代
  • 負傷した競技者の負傷の程度の判断や競技のフィールドからの退出
  • 時間の浪費
  • 懲戒の罰則
  • 「飲水」タイム(1分間を超えるべきではない)や「クーリング」ブレイク(90秒間から3分間で)など、競技会規定で認められる医療上の理由による停止
  • VARのチェックやレビューに関わる遅延
  • 得点の喜び
  • プレーの再開を著しく遅らせる行為(例えば、外的要因による妨害)を含む、その他の理由

(競技規則日本語訳:公益財団法人 日本サッカー協会 lawsofthegame_202425.pdf より引用)

アディショナルタイムは誰がどうやって決める?

アディショナルタイムを決めるのは、その試合の主審です。
主審は、自身の時計で試合が中断した時間を計測し、前後半それぞれ45分間が終了する前に、身につけているマイクを通してピッチ外にいる第4の審判員にアディショナルタイムの時間を知らせます。近年では、VARの確認などで時間が掛かるケースもあり、どのくらいの時間の追加が必要か、VARからの情報も参考にしながら、追加すべき時間を判断することもあります。

アディショナルタイムの計測方法が審判員によって異なるのは面白いところです。両腕に時計を身につけて2本で測る方法や、デジタルウオッチのカウントダウンタイマーとストップウオッチ機能を切り替えながら計測する方法などがあります。

主審によって決定された最小限のアディショナルタイムが、第4の審判員が掲げる電子ボードで選手や観客に伝えられます。この時間は「最小限の追加時間」を意味しており、たとえば「3分」と表示された場合は、3分00秒から3分59秒までの範囲を指します。主審はアディショナルタイムを試合状況に応じてさらに追加することありますが、短縮することはないので、掲示された数字が「最低限」の追加時間となるわけです。

アディショナルタイムとロスタイムとの違い

日本では、長らく「アディショナルタイム」のことを「ロスタイム」と呼んでいました。Jリーグが始まった1990年代から、この呼称がお馴染みという方も多いでしょう。しかし、2010年からは世界で一般的な「アディショナル(追加)タイム」という呼び名で統一されるようになり、現在はこちらが用いられています。

アディショナルタイムの平均と最長記録

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日本で「ロスタイム」と呼ばれていた1990年代を振り返れば、当時の追加時間は平均して2〜3分程度と短く、かつ審判のみがその時間を把握していたため、選手や観客はどのくらい残り時間があるのかを知る由がありませんでした

南米などでは主審が指で目安の分数を示すといった習慣はありましたが、審判団によって場内に分数を表示する方式が採用されたのは、1998年にフランスで開催されたFIFA(国際サッカー連盟)主催の国際大会が最初です。

それ以降、アディショナルタイムの平均は4〜5分程度と言われています。しかし近年では、VARによる映像判定の導入などの影響もあり、平均で7〜8分、さらに10分を超えるケースも珍しくありません。

2026年のFIFA(国際サッカー連盟)主催の国際大会に向けた予選のイラン対UAEでは、照明トラブルによる中断の影響で、なんと前半に29分のアディショナルタイムが表示されるという異例の事態が発生しました。また、ボリビアのクラブチーム同士の対戦では42分が追加され、非公式ながらこれが世界最長記録ではないかと囁かれています。

もちろん、こうした例は特殊ですが、極端に長くなったアディショナルタイムを見直す動きも始まっています。最近では、イングランドの国内リーグで新たな計算方法が導入されました。世界的にアディショナルタイムの短縮化が図られているように、サッカーのルールも時代や技術の進化に応じて変化を続けているのです。

上川徹
©JFA

元国際審判員
上川徹

1963年生まれ、鹿児島県出身。1994年に日本サッカー協会(JFA)認定の「1級審判員」資格を取得すると、1998年には国際サッカー連盟(FIFA)の「国際主審」として登録。2002年に韓国/日本で行われたFIFAの国際大会、続く2006年ドイツ大会の審判員に2大会連続で選出され、世界の舞台で活躍した。引退後は、JFA審判委員長を務め、現在は審判インストラクターとして後進の指導にあたりながら日本およびアジアにおける審判界のレベル向上に尽力している。

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