文 寺沢薫
世界でもっとも人気があるスポーツと言われるサッカー。
世界各国でプロリーグが行われ、さまざまな国際大会も含めると、多くのファンが日々試合観戦を楽しんでいます。Jリーグや海外のプロリーグ、FIFA(国際サッカー連盟)主催の国際大会では基本的に「90分(前半45分+後半45分)」の試合時間が定められており、観客はその間、熱狂のひとときを過ごします。
ただ、実際にキックオフからタイムアップまでにかかる時間は、正確に90分とは限りません。前後半の間にある「ハーフタイム」、前後半それぞれの終わりに追加される「アディショナルタイム」、さらに、大会によっては「延長戦」や「PK戦」が実施されるため、1試合にかかる時間はまちまちです。
サッカーの1試合における“いろいろな時間”について紹介します。
サッカーの試合時間をおさらい!意外と知られていないインターバルとは?
高校生までの育成年代を除けば「1試合=90分」というイメージが強いサッカーですが、実際にかかる所要時間は90分を超えることが一般的です。まず、前半45分と後半45分の間には、15分間のインターバル(ハーフタイム)が設けられています。サッカーは、選手たちが試合中に常にピッチを走り回る、運動量が激しいスポーツ。きちんと休憩時間を確保し、プレーのクオリティーを保つためにも、また監督が試合の流れを変えるためにチームへ戦術的な指示を授けるためにも、この15分間は非常に重要です。
さらに、前後半それぞれの終わりにはアディショナルタイムがあります。サッカーはバスケットボールなどとは違い、ストップタイムがありません。つまり、反則や選手交代、負傷者の治療、夏場の飲水タイムなどでプレーが中断していても、時計の針は止まらず進み続けるのです。
そうして生まれた中断時間を主審が計測し、前半・後半の終了時にアディショナルタイムが追加されます。追加される時間は平均して3〜5分程度ですが、VAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)による映像での判定チェックや、負傷者の治療に時間がかかった場合などには10分を超えることもあり、試合内容により大きく変わります。この時間帯に劇的なゴールが生まれて試合の勝敗が左右されることも多いため、アディショナルタイムはサッカーの熱狂を生み出す1つの要素となっています。
上記の2点を加味すると、キックオフからタイムアップまで実際にかかる所要時間は、45分(前半)+15分(ハーフタイム)+45分(後半)=105分に、前後半のアディショナルタイムを加えた時間となります。
VARが導入されている試合などでは、120分前後になることも一般的です。
では、90分+アディショナルタイムのプレー時間を終えてスコアが同点だった場合はどうなるでしょうか。リーグ戦であれば引き分けで終わりますが、次のラウンドへ進む勝者を決めなければならないトーナメント戦の大会では「延長戦」が行われます。プロの試合における延長戦の流れは以下の通りです。
- 後半戦終了後のインターバル(5分)
- 延長前半(15分+アディショナルタイム)
- 延長戦のハーフタイム(原則なし。一般的には給水などで1分程度)
- 延長後半(15分+アディショナルタイム)
過去には、先にどちらかのチームがゴールを決めた時点で試合終了となる方式(サドンデス、Vゴール、ゴールデンゴール)が採用されたこともありました。現在は、得点の有無にかかわらず15分ハーフの延長戦をフルタイムで戦うルールとなっており、35〜40分の時間が加算されることになります。延長戦の場合、ハーフタイムの休憩時間が原則として設けられていないため、選手たちの消耗を考えると驚きです。
PK戦にはどのくらい時間がかかる?最長の試合とルール

30分+αの延長戦を戦っても決着がつかない際に、勝敗を決するために行われるのが「PK戦」です。延長後半終了後、主審がすぐにコイントスを行い、使用するゴールと、先攻・後攻を決めます。そして、両チームの選手が交互に5人ずつ登場し、GK(ゴールキーパー)が守るゴールに向け、11m離れたペナルティマークからシュートを放ち、キックを決めた本数を競います。
規定の5人以内で点差がついた時点で試合終了ですが、5人ずつのキックで決着がつかない場合は、決着がつくまで6巡目以降もPK戦が続きます。試合終了時にピッチにいた11人全員が蹴っても決着がつかなければ、キッカーは2巡目に突入し、後攻のキック後に点差がつくまで、PKを繰り返します。
規定の5巡目(計10人)で終われば、1人あたり2分程度を要するとしても20分程度で決着することが多く、全体の試合時間は180分前後、つまり約3時間に及びます。ただし、PK戦には競技規則による定められた時間制限がないため、キッカーの数が増えれば増えるほど、試合は長期化してしまうのです。
ちなみに、PK戦の最長記録としてギネスに認定されているのは、2005年にナミビアで行われたカップ戦で「48人(17-16で決着)」となります。ただ、アマチュアの大会まで範囲を広げると、2024年にイスラエルの3部リーグ昇格プレーオフの試合で「56人(23−22)」という記録が残っています。これはフィールドにいた22名のうち、実に12名もの選手が3回もキッカーを務めた計算です。時間にしても、仮に1人あたり1分を要したとしても、ゆうに1時間は緊迫のPK戦を行うため、選手も観客も試合後の疲労感はさぞかしすさまじかったのではないかと想像できますね。

元国際審判員
上川徹
1963年生まれ、鹿児島県出身。1994年に日本サッカー協会(JFA)認定の「1級審判員」資格を取得すると、1998年には国際サッカー連盟(FIFA)の「国際主審」として登録。2002年に韓国/日本で行われたFIFAの国際大会、続く2006年ドイツ大会の審判員に2大会連続で選出され、世界の舞台で活躍した。引退後は、JFA審判委員長を務め、現在は審判インストラクターとして後進の指導にあたりながら日本およびアジアにおける審判界のレベル向上に尽力している。