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【山本篤さん監修】走幅跳の助走距離における制限とは?大跳躍の秘訣は助走スピードにあり 【山本篤さん監修】走幅跳の助走距離における制限とは?大跳躍の秘訣は助走スピードにあり

【山本篤さん監修】走幅跳の助走距離における制限とは?大跳躍の秘訣は助走スピードにあり

文 田中凌平

いかに遠くに跳べるかを競うシンプルさの裏に、「助走・踏切・空中動作・着地」といった一連の動作を繊細に連動させる奥深さが秘められている走幅跳。数秒から数十秒という短い時間の中に、記録を打ち出すためのさまざまな工夫が凝縮されているのが魅力です。走幅跳で好記録を狙うためには、数cmでも遠くに跳ぶことが求められます。そのための秘訣として多くの方が思い浮かべるのは、「全力で助走すること」ではないでしょうか。

走幅跳において助走で勢いをつけることは、記録を伸ばすうえで欠かせない要素ですが、最適な助走距離が気になるところです。助走距離が長ければ長いほど記録が伸びるのか、また、助走距離にルール上の制限はあるのでしょうか。助走と跳躍の関係性を「距離」と「スピード」の観点から検証します。

走幅跳には助走距離の制限はないものの、助走路がベースに

日本陸上競技連盟の競技規則では、走幅跳を含めた水平跳躍種目における助走路の最短距離は40mとし、状況が許せば45mとすることを定めています。ただし、同規則では競技者に対して助走距離の制限については明言されていません。男子の選手は40m~45m、女子やジュニアの選手は35m~40m程度の助走距離をとるケースが多い中、助走路が許す範囲であれば、それ以上に長い助走を行ってもルール上は問題ないことになります。

確かに走幅跳で好記録を狙ううえでは、助走で勢いをつけることが大切です。しかし、助走距離は単に長ければ長いほど勢いがつくということではなく、あまりに長すぎると跳躍までに疲れて減速してしまう可能性があります。実際にランニング系YouTuberで、セイコースポーツファンリーダーのたむじょーさんは「普通の走幅跳と助走1000m幅跳はどっちが記録伸びるの?」という企画を行いましたが、一般的な助走距離での記録が3m60だったのに対し、助走距離を1000mに伸ばした際は3m50と記録が落ちる結果となりました。

普通の走り幅跳びと助走1000m幅跳びはどっちが記録伸びるの?元箱根駅伝ランナーが全力で検証してみた

普通の走り幅跳びと助走1000m幅跳びはどっちが記録伸びるの?元箱根駅伝ランナーが全力で検証してみた

走幅跳では跳躍時に踏切線を超えてしまった場合は、無効試技(失敗)です(※2025年6月時点のルール)。そのため、選手たちは安定した歩幅で助走を行い、正確に踏切板を踏めるよう繰り返し練習を重ねます。この際、助走距離が長くなるほど、一定の歩幅を合わせるのが難しくなり、踏切位置がずれて無効試技となるリスクも高まります。さらに、跳躍の直前で歩幅を合わせるために減速してしまうと、跳躍のパフォーマンスにも影響を及ぼします。以上のことから、「走幅跳に助走距離の制限はない」とはいえ、助走距離を長くければ長いほど記録が期待できるわけではないと言えるでしょう。

走幅跳の記録を支えるのは助走「距離<スピード」

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前項で述べたように、走幅跳においては単に助走距離を伸ばすことよりも、スピードに乗って跳躍を勢いづけることが肝となります。つまり、助走においては「距離<スピード」という図式が成り立つのです。

そのため、陸上選手はできるだけ速く助走ができるようにスプリント力を鍛え、踏切板の直前で減速しないための練習を重ねます。多くの選手は、踏切板から約5m手前(跳躍の約2歩前)で助走スピードが最高速度に到達するよう調整しており、トップスピードに乗った状態からスムーズに踏切動作に移行します。

実際、助走スピードと跳躍距離の間には相関関係があるとされており、日本陸上競技連盟のレポートによると、

・8m00〜8m20の記録を出す男子選手の助走最高スピードは平均10.51±秒速0.22m(0.22m/s)
・8m20を超える選手は10.65±0.20m/sと、より高い数値を記録

このデータからも、好記録の跳躍には助走スピードが大きく寄与していることがうかがえます。

なお、男子走幅跳の世界記録(8m95)が出た際には、助走速度が秒速11mを超えており、当時の100m世界記録保持者とほぼ同じ速度で走っていたと推定されます。こうした走幅跳で大記録を生み出す選手は、偉大なジャンパーであると同時に、スプリンターとしての素質も兼ね備えているのです。

走幅跳は、大きな弧を描く跳躍に注目されがちですが、その跳躍を支える助走スピードにも目を向けましょう。助走においては距離の長さよりも、いかに跳躍につながるスピードと勢いを生み出せるかが大切です。観戦の際は、スピード感あふれる助走からダイナミックな跳躍を見せる選手の走りにも注目してみてはいかがでしょうか。

山本篤 写真

元陸上競技選手・現役ゴルファー
山本篤

高校2年時にバイク事故により左足大腿部を切断。義肢装具士になるための専門学校で競技用義足と出会い、陸上競技を始めた。その後は、「ブレードアスリート」として日本パラスポーツ界の第一人者として君臨した。夏季パラリンピックには主に走り幅跳びの種目で、2008年の北京から4大会連続出場。2021年の東京パラリンピックでは自己ベストの6m75をマークした。2024年5月に陸上選手としての現役引退を発表。今後は後世を育成する指導者としての道と、ゴルフでの新たな挑戦に邁進する。

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