文 田中凌平
世界中に多くの競技人口を誇り、プレー・観戦の双方で人気があるバスケットボール。その人気の理由の1つである圧倒的なスピード感のあふれる攻防は、バスケットボール独自の「秒数ルール」が大きく関わっています。ファウルやバイオレーション(ファウル以外の反則行為)、フリースロー、タイムアウトなどによって「プレーが切れる」「時間が止まる」スポーツである点もバスケットボールの奥深さの1つです。この攻守の切り替え、時間の「静」と「動」は見る者の心を奪うことでしょう。それぞれのルールや秒数にはどんな意味があるのか、バスケットボールにおける時間の秘密を掘り下げます。
バスケットボールの秒数ルールとは?刻む秒数の意味合い
バスケットボールのスピーディーな試合展開において欠かせない要素が秒数ルールです。それぞれのプレーに秒数の制限が設けられており、時間内にプレーを完結させないとバイオレーション(反則)となります。バスケットボールにおける主な秒数ルールは、公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)によって以下のように定められています。
秒数 | ルール |
---|---|
3秒 | ● ゲームクロックが動いている間、攻撃中のチームは相手チームのゴール付近にある制限区域内に3秒以上とどまってはいけない。この際、両足を制限区域外につけたことで、制限区域から出たとみなされる。ただし、3秒以内にシュートを放って手から離れようとしていれば、バイオレーションとはならない。 |
5秒 | ● コート外からのスローイングやフリースローの際、ボールを受け取ってから5秒以内にプレーを始めなければならない。 ● コート内でボールを保持している際、5秒以内にパスかシュート、ドリブルをしなくてはならない。ただし、相手チームの選手が1m以内の距離でガードしている場合のみ、このルールは適用される。 |
8秒 | ● 自チームのコートでボールを受け取った場合、8秒以内に相手チームのコートにボールを運ばなければならない。ボールが相手チームのコートに運ばれるとは、両足が相手チームのコートについている選手に触れたり、ボールとドリブラーが完全に相手チームのコートに触れたりすることで判断される。 |
14秒 | ● 攻撃側のチームが相手チームのコートでファウルを受けたり、リバウンドを取ったりした際、ショットクロックが14秒以上表示されていれば継続し、14秒未満の場合は14秒にリセットして続行やスローインで再開となる。 |
24秒 | ● 攻撃側のチームは、ボールを手にしてから24秒以内にシュートを打たなければならない。 |
参考:(公財)日本バスケットボール協会『2024バスケットボール競技規則』
上記の中でも、特に24秒ルールは攻撃側が強く意識すべきルールです。そのため、試合会場にはゴールの上など、コート上の選手からもアリーナの観客からも見えやすい位置に「24秒計」が設置されています。
バスケットボールには多くの秒数ルールがあるように思えますが、時間にこだわるからこそ、スピード感のある試合展開が生まれると言えるでしょう。
秒数ルールの変遷の歴史!競技性を意識したルール変更

バスケットボールは、FIBA(国際バスケットボール連盟)や北米のプロバスケットボールリーグである NBA において、多くのルール変更が行われてきました。秒数ルールの変更も例外ではなく、時代のニーズに応じて常に変化しています。
たとえば、2001年までは攻撃側のチームは30秒以内にシュートを打たなければならなかったところが、現在では24秒以内に短縮されました。また、自チームのコートでボールを受け取った際、10秒以内に相手コートにボールを運ばなくければならないところが、これも8秒に短縮され、現在の8秒ルールが設定されました。
30秒ルールが存在しなかった時代のバスケットボールは、試合の序盤からリードを奪ったチームが積極的に得点を狙うよりもボールの保持に走り、ロースコアで試合が決まることもありました。そうした展開を防ぐために、30秒ルールが導入されたのですが、24秒への短縮によって、さらにスピーディーな試合が繰り広げられています。中には「たった6秒短縮されただけ」と感じる人がいるかもしれません。しかし、縦28m、横15mのバスケットボールのコートにおいて、30秒から24秒への短縮は、攻撃の組み立てに苦戦するチームが見られるほど選手への影響は絶大でした。
10分で構成される4つのクォーターで行われるバスケットボールの試合。この24秒ルールがあることで合計40分の試合中、理論上は両チーム合わせて100回ほどシュートが放たれる計算になります。やはりシュートを巡る攻防がバスケットボールにおける一番のハイライトです。
今では100点台の攻防が一般的ですが、このスリリングな試合展開は、度重なるルール改訂によって生み出された工夫の証しと言えます。バスケットボールはプレーする楽しさだけでなく、観る者も魅了するルール作りと改訂を実践してきました。その効果もあって、世界でもっともファンの多い人気スポーツの1つになりました。

元バスケットボール選手・解説者
佐々木クリス
(ささき・くりす)
ニューヨーク出身の元バスケットボール選手。14歳の時にNBAに魅了され、野球部からバスケットボール部に転向。その後、青山学院大学で大学日本一を経験し、bjリーグでプロ選手として活躍した。2013年からはNBAアナリストとして中継解説のキャリアをスタート。さらに2017年に国内Bリーグの公認アナリストに就任した。Bリーグ及びNBAの中継解説や番組出演、イベント司会など国内外のバスケットボールの普及に努めている。