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文 田中凌平
写真 落合直哉

2024年3月3日(日)9時10分に、新宿・東京都庁前で “東京がひとつになる合図”が鳴り響く――。「東京マラソン2024」には38,000人が出走を予定しており、記録を狙うエリートランナーからランニングを趣味とする市民ランナーまでが、それぞれの想いを胸に花の都を駆け抜ける。アボット・ワールドマラソンメジャーズ(AbbottWMM)の1つである東京マラソンは、世界でも有数のマラソン大会。それだけに当日はランナーたちだけでなく、大会に関わる多くの人たちが主役となる祭典でもある。

東京マラソンの屋台骨は、常に仕事人とも呼べるエキスパートたちが支えてきた。特に正確な計時計測でタイムを刻むセイコータイミングチーム、地上の大規模な交通規制の中、地下ではいつも通りの安全・安定運行を実現する東京メトロの活躍無くして大会は成功しないだろう。東京マラソンを支える人たちの舞台裏に迫るべく、人気ランニング×コメディYouTuberのたむじょーさんが、東京メトロ日本橋駅駅社員の肥田野さん、セイコータイミングチームの内藤さんに話を聞いた。

東京メトロ駅社員の舞台裏

本番でも「いつも通りミスのない計時計測」を意識

肥田野さん、内藤さん、たむじょーさん 画像

左から東京メトロ日本橋駅駅社員の肥田野さん、セイコータイミングチームの内藤さん、人気ランニング×コメディYouTuberのたむじょーさんの3名で対談が行われた

写真 落合直哉

たむじょー:3月3日に東京マラソン2024が開催されます。僕は今回初めて出走するので、とても楽しみです。セイコーは「東京がひとつになる日。」をコンセプトとした巨大イベント・東京マラソンをオフィシャルタイマーとして支える立場ですが、どんな気持ちで大会に臨んでいますか。

内藤:東京マラソンは東京中を巻き込む一大イベントであることは間違いありませんが、セイコータイミングチームでは一大会だけを特別視することはありません。自分が担当するタイミング業務は、中学生の大会から世界陸上や東京マラソンなどの国際レベルの大会まで、どの大会でも準備を徹底するというルーティンワークを心がけ、ミスなく計時計測するのが使命です。

大会規模などまったくは関係なく、いずれの大会でも「計れていませんでした……。」という失敗は許されません。独特な緊張感は常にありますが、入念に準備をしていつも通りミスなく大会を終えることを意識しています。

たむじょー:僕はこれまでYouTuberとして4年ほど活動を続けていますが、自分で大会を開催した経験もあります。大学までは大会に出て走ることを当たり前だと思っていましたが、裏方を経験すると「こんなに大変なんだ。」と感じました。協力していただける方がいないと大会が成り立たないのだと痛感しています。

セイコータイミングチームの世界陸上の準備から当日までの動画をYouTubeで見させていただきました。東京マラソンでは何日くらい前から準備を始めるのでしょうか。

日本語版:Documentary of SEIKO TIMING TEAM(ブダペスト編)

日本語版:Documentary of SEIKO TIMING TEAM(ブダペスト編)

内藤:1週間前から機材の動作確認を始めますが、交通規制の関係で現地での準備については、実は前日の限られた時間と当日の朝しかできません。本当に時間との勝負ですね。

前日は各地点に置くタイマーを車に設置して動作確認を行います。また、スタート地点とフィニッシュ地点では、できる範囲でリハーサルを行います。タイマーは防水なので大丈夫ですが、もし翌日が雨予報であれば、ケーブルが濡れないように万全の対策を練らなくてはいけません。

たむじょー:過去に準備していた機材が動作しなかったなどのアクシデントが起きたことはありますか。

内藤:動作しなかったことはないですね。ただ、大雨が降った時に「事前に対策していて良かった。」と感じたことはありました。

セイコーのタイマーとたむじょーさん 画像

セイコーのタイマーは単一電池8本で動いているので、停電などのアクシデントでも計時計測がストップすることはない

写真 落合直哉

肥田野:停電になった場合はどうなるんですか。

内藤:実はこのタイマーは単一電池8本で動いているので、停電になっても問題ありません。基本的に施設の電気などを使うことはなく、乾電池やバッテリーで稼働させています。また、どんな状況でも確実に計時計測できるように、機材そのもののバックアップも入念に準備しています。

たむじょー:何が起きても正確に計時計測できる体制が整っている万全な状況は、ランナーとしても安心です!当日はどのように準備を進めるのでしょうか。

内藤:当日はまずスタート周りの準備から始まります。6時から交通規制が始まるので、スタートまでの2〜3時間しか準備時間がありません。スタートゲートの準備状況に応じてスピーカーや電子音の機器を設置していきます。フィニッシュも同様に、交通規制とフィニッシュゲートの設置状況に応じて準備を進めます。あまり早く配線しても、周囲の移動や交通の妨げになりかねないので、開始できるタイミングでチームワーク良く進めるのが鍵です。

たむじょー:前日に準備した各地点のタイマーはどのように運ぶのですか。

内藤:タイマーはGPSを取得して同期作業を行ってから各地点に配置します。全体で20人ほどのチームなので、それぞれが並行して作業を進めていくイメージです。

タイミング業務でもっとも神経を使うのはスタートの瞬間

会話の様子 画像

百戦錬磨のセイコータイミングチームでも、計時計測を開始するスタートの瞬間は毎回、緊張感が走るという

写真 落合直哉

たむじょー:僕が大会を開催した時は、計時計測でミスすることで信頼を失ってしまうと、「次回開催時に人が集まらないのでは?」という漠然とした不安や緊張感がありました。計時計測を成功させるうえでのポイントを教えてください。

内藤:セイコータイミングチームがもっとも神経を使うのはスタートの瞬間です。タイマーの他にマラソンコントローラーという操作盤があるのですが、それがきちんと稼働するかが肝となります。たとえば、東京マラソン2024は9時10分00秒がスタート予定時間ですが、実際に東京都知事がスタートのピストルを鳴らすタイミングが数秒ずれることは珍しくありません。その誤差を計測し、各地点のタイマーに送って正確な時間に修正します。

たむじょー:コントローラーもバックアップを取っているのでしょうか。

内藤:ピストルのスタート信号をメインとサブのコントローラーにそれぞれ送っています。また、スタート信号が来ない事態も想定してグリップのボタンでバックアップも取ります。実は以前のピストルは火薬だったんですが、雨や湿気で音が出ないことを避けるために電子音に変えました。それも大会運営においてミスをゼロにするためのリスクヘッジですね。

たむじょー:そういえば、東京都知事のスタートのピストルもいつの間にか電子化していましたね!東京マラソンは、記録をねらうだけではなく、パリ開催の世界の大舞台への出場枠残り1枠をかけた戦いでもあります。2時間05分50秒を切れば出場権を得られるので「タイムが取れませんでした……。」は絶対に許されないですよね。世界記録が出た時も同じですし、セイコータイミングチームからは「停電が起きようが何が起きようが絶対に計時計測をする!」といったプライドやプロ意識を感じます。

大会を無事にやり遂げた際のやりがいは常に格別

会話の様子 画像

チームワークの大切さを語る内藤さん(中央)。その点は同じく東京マラソンを支える東京メトロの仕事とも共通する

写真 落合直哉

たむじょー:東京マラソンを成功させるためには、チームワークが大事なんだなと改めて感じました。大会の成功に向けて、1人ひとりの気持ちを高めるために行っていることはありますか。

内藤:セイコータイミングチームでは、ミスを犯すと取り返しがつかないことは全員が理解しているので、ルーティンワークの徹底と相互フォローをし合って先読みで行動する文化が根づいています。トラック種目とは異なり、マラソンは遠く離れた地点でそれぞれが作業するので連絡が来ても、互いの状況を踏まえた回答ができません。“全員がプロフェッショナル”として各地点で完結できるように、これまでの知識や経験を活かして行動します。

肥田野:東京メトロでも東京マラソン当日に各駅をご利用になるお客様が困ることがないように、各駅のオペレーションはもちろん、他の駅との連携も大切にしています。駅社員間でのチームワークという意味では、セイコータイミングチームとも共通点がありますね。

会話の様子 画像

セイコータイミングチームの場合、最大の緊張はスタート時、ホッとする瞬間はフィニッシュ時になるそうだ

写真 落合直哉

たむじょー:それは間違いないですね。セイコータイミングチームも東京メトロもチームワークで東京マラソンの舞台裏を支えている企業なのだと改めて実感しました。東京マラソンが無事に終わった際にはどんな気持ちになるのでしょうか。

内藤:全員がフィニッシュした後はほっとした気持ちになります。何も問題なく全ランナー無事に完走していただくのがやりがいです。一般の方も自分の目標に向かってトレーニングを積んでいるので、フィニッシュした時には自分のタイムを見て泣きながら喜ぶ方もいます。「この仕事をやっていて良かったな!」と感じる瞬間です。

肥田野:東京メトロの駅社員も東京マラソンが終わっていつもの通りの駅の様子に戻ったらほっとします。ただ、時間が経つと記憶は薄れてしまうので、すぐに来年の東京マラソンに向けた改善点も話し合います(笑)。1年で一番盛り上がりを見せるイベントなので、お客様により安全に安心して応援してもらうよう準備をすることが私たちの使命です。

たむじょー:僕も自分の大会が終わった時は、参加者から感謝されることもあって嬉しかったです。大規模になればなるほど喜びもひとしおですよね。セイコータイミングチームは終わった後の片付けも時間勝負だと思うのですが、準備と比べるとどちらが大変なのでしょうか。

内藤:たむじょーさんが言うようにどっちも時間勝負です。ですが、大変さはそれぞれ異なります。片付けは積み込みのトラックが来るまでに積める準備をしなくてはいけませんが、フィニッシュ周りなどは多くの機材があって自由に片付けが進められません。準備よりは時間に余裕がありますが、他の業者さんと順番で機材を片付けていくので違った神経を使います。

会話の様子 画像

ランナーと同じくスタッフの東京マラソンの朝は早く、寒いので準備が重要と笑顔で語る内藤さん

写真 落合直哉

たむじょー:セイコータイミングチームならではの東京マラソンあるあるなどはありますか。

内藤:そうですね(笑)。スタッフもランナーと同じで、朝のスタートは早くて寒いので防寒具は入念に用意すると安心です。また、朝食をコンビニで買って食べようとすると、すでにランナーの方が買ってしまっていて何も残っていないことも珍しくありません。なので前日のうちに軽食を用意しておくことをおすすめします。

たむじょー:それは大切ですね!今日のお話を伺って、セイコーの「記録は何が何でも絶対に計るんだ!」という想いから安心して当日の出走を迎えられます。セイコーに任せれば安心して大会に臨めるなと改めて実感しましたし、東京メトロの万全な体制によって応援も楽しめるんだなと心強い気持ちです。もっと大会の裏側も広めていきたいですし、当日は感謝の気持ちを持って走りたいと思います!

セイコーは東京マラソン2024のオフィシャルタイマー

セイコーは、東京マラソン2024にて第1回大会から連続して17回目のオフィシャルタイマーを担当する。2024年3月3日(日)開催の今大会ではいったいどんなドラマが待っているのか。9時10分に鳴り響くスタートの号砲が今から待ちきれない。今回が初めての出走となるたむじょーさんの走りと記録にも注目だ。

たむじょー 画像

ランニング×コメディYouTuber
たむじょー

帝京大学2年時に箱根駅伝の8区を走ったトップランナー。実業団からの誘いを断り、大学卒業と同時にランニングとコメディをミックスしたチャンネル『たむじょー【Tamujo】』を開設した。ランニング×コメディYouTuberを信条に、走りと笑いの融合を目指している。

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