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文 田中凌平
写真 落合直哉

マラソンの日本代表選考会として設立されたマラソングランドチャンピオンシップ。頭文字をとってMGCと呼ばれる今大会は、2019年の初開催に続き、2023年10月15日(日)はセイコーがオフィシャルタイマーを務め、2回目の号砲が東京を舞台に鳴り響く。花の都・パリで行われる世界の大舞台への出場権を懸けた、トップランナーたちによる“一発勝負”が繰り広げられる。

そんな激戦必至のMGCをマラソン初心者から経験者の方まで幅広く楽しめるように、ランニング系YouTuberとして活動するたむじょーさんに話を聞いた。自身も帝京大学2年時に箱根路を走ったトップランナーであり、ランナー視点と視聴者視点を織り交ぜながらMGCの魅力を語ってもらった。

MGCは日本のトップランナーを決める唯一無二の大会

たむじょー

MGCは本当に強い選手が決まる大会なだけに、たむじょーさんも号砲が待ちきれない様子だ

写真 落合直哉

MGCでは男女それぞれで1位および2位になれば、パリで行われる世界の大舞台への出場権を獲得できる。どの選手も目の色を変えて、たった2枚の切符獲得を目指しているだけに、MGCはランナーたちの気持ちが一番入る大会と言っても過言ではない。

「MGCは本当に面白い大会だなと感じます。日本人のトップランナーたちが一堂に会する大会は他にありません。『本当に強い選手は誰なのか』が決まる大会だけに、ワクワクします。」と、たむじょーさんも興奮を隠しきれない様子だ。

「さらに東京で多くの方の応援の中で走れることも、選手のモチベーションアップにつながります。東京マラソンのように毎年開催される大会ではないので、陸上競技ファン以外の認知度はそこまで高くはありませんが、もっとたくさんの人に知ってもらい、見てもらいたい大会です。」

たむじょー

MGCのコースを力説するたむじょーさん。魅力を伝えようと、説明にもおのずと力が入る

写真 落合直哉

今回のMGCのコースは最初の2キロが上り、そこから下って5キロ地点まで走ると36キロ地点までフラットが続く。最後に3キロほどの上りがあり、国立競技場へと戻ってくる。また、10キロ地点以降に15キロほど折り返しの多いコースがある点も今回の特徴だ。

「今回のポイントは最後の上りです。スタート直後の上りはまだ体力があるので問題ありませんが、体力が無くなってきた36キロ地点の上りが勝負の分かれ目になる可能性があります。上りが苦手な選手は最後の上りより早い段階で仕掛けて、先行逃げ切りの作戦をとるかもしれません。」

2位以内に入るためにどのポイントで仕掛けるのか――。選手同士による駆け引きが今大会でも存分に見られそうだ。

選手の表情やレース展開、すべてが見どころとなる

たむじょー

MGCの特異性について語るたむじょーさん。順位だけが問われるMGCでは駆け引きが重要になる

写真 落合直哉

MGCは世界の大舞台の出場権がかかっているため、他の大会と比べるとプレッシャーは桁違いだ。どれだけ練習していても不安な気持ちを拭い切るのは困難であり、緊張から体に余計な力が入り、後半に失速するケースもある。

「緊張感がある中でも『やってやるぞ!』といい表情を浮かべている選手には期待しますね。本当にいい練習ができているんだなとか、いい流れがきているんだなと感じさせてくれます。実は不安があるけれど、吹っ切れてポジティブな気持ちでレースに入っている可能性もあります。」

今回はフラットなコースであるため、記録を狙う大会だと高速レースになることも考えられる。しかし、たむじょーさんはスローペースのレース展開を予想する。MGCで大切なのはタイムを出すことではなく、2位以内に入るという順位を確保するためのレースだからだ。

「先頭で集団を引っ張るのは『力を使い切って後半に失速するかもしれない』という不安を抱えながら走ることになるので、とても勇気がいるんです。集団の中にいれば、ついていくことに専念できるので、比較的リラックスして走れます。なので、多くのランナーは牽制し合いながら集団を形成する可能性があります。」

多くの選手が先頭を避けることで、集団のペースが上がったり下がったりすることも考えられる。それは選手の集中力を欠くことにもなり、痺れを切らしたランナーが先頭に出てくる状況もあり得る。

たむじょー

ランナーとしても活動しているたむじょーさん。今後MGCを走る機会はあるのだろうか

写真 松崎竜也

「前回のMGCでは、設楽悠太選手がスタートダッシュをかけて飛び出すレース展開を見せました。残念ながら後半に失速してしまいましたが、今回もそうした選手が出てくると盛り上がる展開になりますね。」

今回の特徴である折り返しの多いコースもレース展開に影響を与える要素の1つだ。各選手は他の選手の特徴や強さを把握しており、折り返しですれ違う際に各選手の位置状況を確認できる。折り返しがない場合は振り返らない限り後続の状況は分からないが、振り返ることで体力を消耗してしまうため、基本的に後ろを見ることはない。

「他の選手を確認することで『この選手はちょっと遅れているな』『まだこの選手はついてきているな』などの状況が分かり、自身のモチベーションを維持したり、勝負どころを決めたりすることもあります。」

誰もがプレッシャーを感じるMGCだが、たむじょーさんが出場するとなった場合、どんな気持ちで挑むのだろうか。

「僕は先頭には出ず、集団で待機して後半で仕掛ける戦略をとります。やはり先頭に出るのは勇気がいることなので、後ろでできるだけ体力を温存していたいです。もし、今出るとなったら中間地点で飛び出してアナウンサーに名前を呼んでもらったり、テレビに映るように走ったりするかもしれません(笑)。」

見る人が楽しめる演出まで考えるのは、さすが「ランニング×コメディ系YouTuber」だ。

トップランナーだらけのMGC、たむじょーさんが注目する選手は?

国内屈指の実力者が集まるMGCだが、その中でもたむじょーさんが注目する男子選手は山下一貴選手だ。山下選手は8月に開催された世界陸上ブダペスト23に出場。男子マラソンで一時は5位まで浮上するも、左脚のふくらはぎをつった影響もあり、2時間11分19秒の12位と惜しくも入賞を逃している。

「山下選手は同年代ということもあり、とても応援しています。世界陸上からの調整は急ピッチで大変だと思いますが、その逆境の中で勝つ姿は想像しただけで興奮します。世界陸上での悔しい思いをMGCで晴らして、ぜひ世界の大舞台で入賞やメダル獲得を成し遂げる姿を見たいですね。」

一方で、女子の注目選手は加世田梨花選手だ。加世田選手も8月の世界陸上に出場しており、2時間31分53秒の19位と悔しい結果に終わった。山下選手と同様に、世界陸上の悔しい思いをMGCで晴らしてほしいという。

「加世田選手は僕と同じ千葉県出身で、学年は1つ下なんです。成田高校に通っていた加世田選手は昔から力強い走りで有名でした。僕は市立船橋高校出身で陸上部の女子チームも強かったのですが、その仲間でも勝てなかったのが加世田選手でしたね。昔から応援していますし、世界を舞台にして戦っていることを尊敬しています。」

もちろん日本長距離界きってのスター・大迫傑選手にも注目している。

「大迫選手は前回のMGCで3位となり、世界の大舞台の出場権を獲得できませんでした。大迫選手はマラソンへの気持ちが強いので、一番悔しい結果だったのではと思います。その経験がある大迫選手は、今回こそ出場権を勝ち取るという気持ちが誰よりも強いはずです。」

また、出場を予定していながら、泣く泣く欠場を選択した選手もいる。自己ベストが出場予定の女子選手の中で2番目という記録を持つ松田瑞生選手は右脛骨の骨膜炎によりMGCを棄権。別の大会で世界の大舞台の出場権獲得を目指す。

「松田選手も8月の世界陸上に出場しており、身体にダメージがあったのでしょう。MGCで世界の大舞台の出場権は2枠決まりますが、まだ1枠残っています。悪いコンディションでマラソンを走ることはリスクしかありません。気持ちを切らさずに、残りの1枠を狙う大会に全力で挑んでくると思います。」

たむじょーさんは、他にも語りたい選手が山ほどいるという。それほどMGCは魅力的な選手が多いのだ。

MGC観戦を楽しむポイントは情報のキャッチアップ

たむじょー

選手の情報に注目すると、よりレース展開にのめり込めると語るたむじょーさん

写真 落合直哉

2時間以上も走り続けるマラソンを最初から最後まで楽しみながら見るには、多くの着目点がある。まずは実況や解説の人が話してくれる情報だ。

「その選手がどのマラソンを走ってMGCの出場を決めたのか、過去にどんな実績があるのか、箱根駅伝では何区で走って何位だったのか、その選手の趣味は何なのかといった細かい情報を聞くと楽しめます。僕が加世田選手を応援しているように、出身地が同じだと親近感も湧いてきます。」

また、たむじょーさんがマラソンをテレビ観戦するときに注目するのは、30キロ地点まで目立たない選手とのことだ。

「選手の調子がいいと集団のなかで俊敏に立ち位置を変えることがあるのですが、それは体力の消耗につながってしまいます。むしろ集団の真ん中や後ろで静かに走り、虎視眈々と自分の狙ったポイントまで隠れている選手の方が、後半に伸びるケースが多いですね。なので目立って実況に名前をよく呼ばれる選手よりも、あまり目立っていない選手にこそ僕は注目して見ています。」

さらに、MGCならではの注目ポイントもある。選手にとって欠かせない「給水」だが、MGCの給水は他の大会に比べて自由度が高い。装飾が施されていたり、部員からのメッセージが入っていたりする可能性がある。選手の走り以外にも見るべきポイントは尽きない。

現地での声援は選手を突き動かす大きな力になる

たむじょー

最後はバイビーポーズで締めてくれたたむじょーさん。現地観戦する方はぜひ声を出して選手を応援していただきたい

写真 落合直哉

マラソンを現地で観戦すると、選手は一瞬で過ぎ去っていく。しかし、応援の声はしっかりと選手に届いている。

「実際に僕が箱根を走ったときも大きな声援をいただきました。21kmの区間中、約1時間ずっと声援を受けて走っていたので、ゴール後の数分間は左耳が聞こえない感覚になっていましたね。皆さんの声援が力になるのですが、特に響くのは自分の名前や団体名を呼んでもらえるときです。『頑張れ!』『行け!』だけでなく、名前を呼ぶと選手の耳に届きやすく、勇気づけられます。ぜひ現地に応援に行かれる方は事前に選手を確認して、名前を呼んで応援してあげてください!」

世界の大舞台への出場をかけた戦い。今回のMGCではどのようなドラマが生まれるのだろうか。日本のトップランナーたちが夢と目標に向かって、号砲とともに走り出す。

たむじょー

ランニング×コメディYouTuber
たむじょー

帝京大学2年時に箱根駅伝の8区を走ったトップランナー。実業団からの誘いを断り、大学卒業と同時にランニングとコメディをミックスしたチャンネル『たむじょー【Tamujo】』を開設した。ランニング×コメディYouTuberを信条に、走りと笑いの融合を目指している。

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