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文 田中凌平
イラスト 森彰子

2年に一度、陸上競技のトップアスリートが集い世界一を目指す「世界陸上競技選手権大会(世界陸上)」。表彰台争いと記録への挑戦が繰り広げられる数ある種目の中でも、独自の跳躍が魅力の種目が「三段跳」です。「ホップ・ステップ・ジャンプ」という3種の跳躍から成り立っており、その絶妙なバランスから生まれる記録は三段跳の醍醐味と言えるでしょう。

躍動感に溢れ、観る人を魅了する三段跳ですが「3つの跳躍がどのように関係しているのか?」「なぜこのような跳躍となっているのか?」が気になる方もいるでしょう。三段跳の基本ルールと見どころ、どのようにして3つの跳躍が生まれたのかを分かりやすく解説します。

観戦前に押さえておきたい三段跳の基礎知識

三段跳 写真

3種の跳躍にはどんな意味があるのか?三段跳の基本を紹介

三段跳の注目ポイントは、何と言っても「ホップ・ステップ・ジャンプ」の3種の跳躍です。それぞれの跳躍の仕方や遠くに跳ぶためのコツ、踏み切る足の順番など、試合観戦前に押さえておきたいルールを紹介します。好記録を生むためのポイントを理解することで、観戦をより楽しめるはずです。

▼三段跳の種目としての基本

三段跳の順位の決め方や跳躍順などは走幅跳と同じです。 予選で3回の跳躍が行われ、決勝でも同様に3回の跳躍を行います。その中の上位8人が優勝決定のための3回の跳躍をさらに跳ぶのが主な流れです。もし1位の記録が複数の選手で並んだ場合は、2番目に良い記録、3番目に良い記録を比較することで最終的な順位決定をします。

▼三段跳のルール

三段跳のルール イラスト

三段跳は選手が助走をするところから始まります。日本陸上競技連盟の陸上競技ルールブック2023では、国際大会などが開催される競技場においては助走路の長さは45m以上に設定されています。選手は勢いをつけて踏切板で跳躍しますが、少しでも足が踏切板を超えてしまうと、その跳躍はファウル(無効試技)です。また、踏切板から砂場までの距離は決まっており、世界陸上などの世界大会では男子は13mで女子は11mとなります。

記録は踏切板のもっとも砂場に近い端(踏切線)から、選手が砂場に着地した跡のもっとも踏切板に近い位置を計測します。もし着地した後にバランスを崩して踏切板側に手などをついてしまうと、記録は手をついた地点となり短くなってしまいます。また、計測は選手が砂場から出るまで行われるため、着地後は着地点を短くすることがないよう砂場から出る際にも気をつけて出る必要があるのです。

▼ホップ・ステップ・ジャンプの特徴

ホップ・ステップ・ジャンプの特徴 イラスト

三段跳でもっとも特徴的なのは、「ホップ・ステップ・ジャンプ」の跳躍です。この跳躍はどの足で行ってもよいわけではなく、ホップとステップは同じ足で踏み切り、ジャンプは別の足で踏み切らなければいけません。つまり「右、右、左」または「左、左、右」の順番で踏み切るのがルールです。

ホップで踏み切る足に利き足は関係なく、選手の好みによります。ホップは跳躍時よりも着地の方が重要と言えます。なぜならステップは同じ足で踏み切るため、スムーズに着地できればステップの距離を伸ばせるからです。ステップでは、ホップの衝撃をうまく吸収して跳躍につなげることが重要になります。この点がステップにおいて難しい点だと言えるでしょう。

ジャンプではステップと反対の足で着地し、砂場をめがけてできるだけ遠くに跳躍して記録を伸ばします。好記録が生まれる跳躍は、ホップ・ステップ・ジャンプのリズムや動作が美しく、観る人を魅了します。

▼三段跳で記録を伸ばすコツ

三段跳の踏切板 写真

三段跳で記録を伸ばすコツは、できるだけ踏切板を越えないぎりぎりのラインで跳躍を始めることです。三段跳は跳躍を始めた地点ではなく、踏切板の砂場側の端から計測します。そのため、踏切板よりも手前で跳躍を始めてしまうと、その分の距離を損してしまうのです。

また、踏切のタイミングも記録を伸ばすためには重要です。三段跳では助走の勢いをできるだけ水平方向に伝える必要があります。そのためには、姿勢が前傾姿勢に変わる瞬間に斜め前方に踏み切ることがポイントです。この瞬間は0秒1〜0秒2とも言われており、ほんの一瞬のタイミングが記録に影響することが分かるでしょう。

三段跳でセイコーが実践する計測方法

世界陸上のオフィシャルタイマーを務めるセイコーは、計49種目の計時計測を行っています。三段跳においては「跳躍距離計測システム(Jump VDM)」と「跳躍踏切判定システム(JMS)」「三段跳フェーズ計測(TJP)」を活用しています。

▼跳躍距離計測システム(Jump VDM)

跳躍距離計測システム(Jump VDM) 写真

跳躍距離計測システム(Jump VDM)が選手の跳躍を正確に記録する

2010年から導入されている跳躍距離計測システムは、英語表記はJump VDM(Jump Video Distance Measurement system)であり、走幅跳や三段跳などの跳躍種目の距離を計測するシステムです。
観客席に設置された2台のカメラが選手の着地点を捉え、計測員がモニター上で着地点にカーソルを合わせるだけで、記録が自動的に算出されます。

SEIKO 機材「跳躍距離計測システム」動画を流す

▼跳躍踏切判定システム(JMS)

跳躍踏切判定システム(JMS)の映像表示画面 写真

三段跳でもっとも重要な踏切をジャッジするのが跳躍踏切判定システム(JMS)だ

写真 落合直哉

跳躍踏切判定システムは、英語表記だとJMS(Jump Management System)であり、2022年より導入されています。踏切ラインの延長線上に設置されたハイスピードカメラがセイコー独自のアルゴリズムで選手の跳躍の瞬間を捉え、跳躍が有効であるか無効であるかを測定します。有効であれば踏切板の横にあるランプが緑色に点滅し、無効であればランプが赤色に点滅する仕組みです。

跳躍踏切判定システム(JMS)のハイスピードカメラ 写真

ランプが緑の場合は試技成功。反対に赤の場合は失敗となる

photo by AFLO SPORT

▼三段跳フェーズ計測(TJP)

三段跳フェーズ計測(TJP) 写真

三段跳フェーズ計測(TJP)では、ホップ・ステップ・ジャンプの詳細が計測できる      

写真 落合直哉

三段跳フェーズ計測(TJP:Triple Jump Phase Measurement)は、2023年に導入された新機材です。三段跳フェーズ計測の導入により、選手の助走スピードと「ホップ・ステップ・ジャンプ」の各距離・高さ・スピードが計測できます。

この新機材を導入して計測データを活用することで、テレビ中継や場内ビジョンでのグラフィック表示の情報提供や、選手自身の跳躍分析への活用などが期待されます。跳躍の詳細なデータを知ることができれば、観戦がより楽しいものとなるでしょう。

三段跳フェーズ計測(TJP) 写真

選手たちの華麗な三段跳の各距離・高さ・スピードをTJPで記録する

写真 落合直哉

3歩の謎解明!?三段跳の歴史にまつわるトリビア

ホップ・ステップ・ジャンプの軽快な跳躍は多くの方がご存じだと思われますが、なぜ3歩になったという根本的な部分について知っている方は少ないでしょう。三段跳がどのようにして誕生して競技として広まったのか、歴史にまつわるトリビアを紹介します。

▼三段跳の起源はスコットランドの遊び!?

1から10の数字が書かれている地面 写真

三段跳の起源は「ホップスコッチ」という子どもの遊びであるという諸説が有力

三段跳の起源はさまざまな説がありますが、17世紀頃にスコットランドなどで伝わる伝統的な子どもの遊びの「ホップスコッチ」だと言われています。1975年に発刊されたスポーツ辞典「The Oxford Companion to Sports and Games」において、ホップスコッチが三段跳の起源だと記載しています。ホップスコッチは日本の「けんけんぱ」のようなもので、ルールは下記の通りです。

●地面に数字が書かれたマスを作る
●番号順に石などの目印を投げ入れる
●目印が入っているマスは飛び越し「けんけんぱ」の要領で往復する
●次の番号のマスに目印を入れ、往復を繰り返す

▼三段跳は紀元前から行われていた可能性も

古代ギリシア遺跡 写真

三段跳のルーツは紀元前の古代ギリシアにあるという諸説もある

ホップ・ステップ・ジャンプの形で行う三段跳が競技として定着したのは19世紀末から20世紀にかけてであり、比較的新しい種目だと言えます。しかし、そのルーツは紀元前の古代ギリシアにまで遡る可能性があるのです。

古代ギリシアでは、紀元前644年にスパルタのキニオスが走幅跳で15m80cmをマークしたという記録が残っています。この距離は走幅跳としては考えられないような長さであるため、もし記録が正しいとすれば、紀元前に三段跳かそれと似たような連続跳びの種目が存在していたのかもしれません。

セイコーは世界陸上のオフィシャルタイマーを務めています

セイコーは世界陸上において、1987年の第2回ローマ大会以降18大会連続でオフィシャルタイマーを務めてきました。自己ベストという自身の限界を追求する選手たちを正確な計時計測で支え続けています。

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