文 田中凌平
2023年7月に福岡で22年ぶり2回目の開催となった真夏の競泳の祭典「世界水泳選手権2023福岡大会」。世界中のトップアスリートたちが一堂に会し、「100分の1秒でも速く」と自分の限界に挑む姿に日本中が熱狂の渦に巻き込まれることでしょう。
2022年にハンガリー・ブダペストで開催された世界選手権では、男子100m背泳ぎでイタリアのトマス・チェッコン選手が51秒60で、男子200mバタフライでも地元ハンガリーのクリシュトフ・ミラーク選手が1分50秒34で世界記録を更新しました。今回の世界選手権では、どの種目で世界記録、もしくは日本記録が生まれるのでしょうか。22年ぶりの日本国内開催となる世界選手権の観戦をより楽しむためにも、事前に競泳に関する世界記録・日本記録を一覧で総復習しましょう。
競泳タイムの計り方とは?
100分の1秒を争う競泳には、正確なタイムを計測できるシステムが欠かせません。セイコーは(公財)日本水泳連盟唯一の公式計時パートナーとして、主要大会の計時支援を行っています。競泳の日本選手権では、実際にセイコーの計時システムが寸分の狂いもない正確なタイムを測定することで大会運営を支えました。ではアスリートが紡ぐ競泳のタイムは、どのように計られているのでしょうか。
競泳のタイム測定は大きく「リアクションタイム」「ラップタイム」「ゴールタイム」に分かれます。
リアクションタイムとは、スタート音が鳴ってから、スタート台から足を離すまでの時間のことです。選手はスターティングブロックに足を、タッチプレートに手をかけてスタンバイします。スタート音が鳴ってから選手の足がスターティングブロックを離れた瞬間をセンサーが検知し、リアクションタイムが計測される仕組みです。
選手がターンを行うときは競泳用タッチプレートがターンを検知し、ラップタイムを計測。ゴール時にはタッチプレートが水圧や水しぶきには反応せず、選手のタッチのみを検知してゴールタイムを計測します。バックアップとしてゴールカメラと水中のカメラもゴールを記録することで、正確なタイムが保証されます。選手たちが泳ぎ終わった後に当たり前のように表示されるタイムの裏側には、正確さを追求するシステムやそれを支える人たちの弛まぬ努力があるのです。
同距離でもタイム差が?競泳の「長水路」と「短水路」の違い
競泳で使用されるプールには、「長水路」と「短水路」の2種類があります。長水路は長さが50m、短水路は長さが25mと規格が異なるため、同じアスリートが泳いでもタイム差が生じることも珍しくありません。理由としては、短水路はターン数が多く、ターンで壁を蹴ることで加速できる点が挙げられます。そのため、一般的に短水路の方が同じ距離でも速いタイムが出る傾向にあります。泳ぐ距離とターンの回数の違いは下記の通りです。
世界選手権で使用される長水路より、短水路のほうが有利と言われますが、実際の記録はどの程度異なるのでしょうか。男女の自由形の長水路と短水路の世界記録を比較してみました。
男女ともにすべての種目で長水路よりも短水路のほうが好記録であることが分かります。競泳には世界選手権や日本選手権など長水路を基本とする大会とは別に、短水路の大会も開催されているので、気になる方はチェックしてみましょう。
競泳の世界記録・日本記録を総復習!
2023年7月現在の競泳(長水路)の世界記録と日本記録についてもチェックしましょう。記録にはさまざまな傾向があるので、それを把握したうえで世界選手権を観戦すれば、次の記録更新を予想できるかもしれません。
▼競泳の強豪国は男女ともにアメリカ
競泳の世界記録は男女合わせて40のうち12をアメリカの選手が保持しています。競泳における強豪国はアメリカと言えるでしょう。中国やオーストラリアも世界記録保持者が多く、アメリカに次ぐ強豪国となります。
アメリカは高い指導力や世界各地から一流の選手が集まる特徴を活かし、選手のレベルを高める施策を講じています。特に有名なのは、数々の舞台で記録を残したマイケル・フェルプス選手。個人では400m個人メドレー、団体では4×100mリレーと4×200mリレーで世界記録を保持しています。画期的で刺激的な環境で日々練習を重ねているアメリカ選手は、常に世界をリードする存在です。
▼日本記録は1人で複数の記録を保持するケースも
写真 フォート・キシモト
日本記録に関しては、1人の選手が複数種目のレコードホルダーであるケースが多く見られます。特に池江璃花子選手の5個の日本記録は圧巻です。
池江選手とTeam Seikoメンバーの大橋悠依選手は、フリーリレーの日本記録メンバーにも入っています。「個人メドレーの女王」と呼ばれる大橋選手ですが、高校時代は無名でした。東洋大学に在籍時に出場した大会では、女子200m個人メドレーで最下位となったこともあります。
しかし、現在は女子200m個人メドレーと女子400m個人メドレーで日本記録を更新するなど種目の第一人者となりました。大学在籍時に食事から体質改善を行い、練習に励み続けた結果と言えるでしょう。実際に大学4年間で大橋選手は自己ベストを14秒近く縮めた逸話は有名です。自国開催となる今大会でも活躍が期待されます。
▼競泳の中でも世界記録と日本記録の差が小さい種目
写真 フォート・キシモト
世界記録と日本記録の差が小さい種目として「男子200m平泳ぎ」が挙げられます。オーストラリアのアイザック・スタブルティクック選手と日本の佐藤翔馬選手の記録の差は、なんと0秒45。Team Seikoのメンバーでもある佐藤選手は、自己ベスト更新はもちろん、世界記録にもどれだけ肉薄できるかが期待されます。
また、「男子200m背泳ぎ」も差が小さい種目です。アメリカのアーロン・ピアソル選手が保持する世界記録と入江陵介選手の日本記録の差は0秒59。しかも、それぞれの記録は同日に樹立されています。
Team Seikoコンビの大橋&佐藤の活躍も必見
今大会に出場するTeam Seikoの大橋選手は女子個人メドレー200mと400m、佐藤選手は男子200m平泳ぎの日本記録保持者です。
大橋選手は2021年に東京で開催された世界の大舞台で女子個人メドレー200mと400mで2冠を達成。2022年には日本女子競泳選手で初のプロ転向を果たしました。女子個人メドレー200mで2分11秒00の2位で代表権を獲得。自国開催のレースで決勝進出を目指します。
佐藤選手も2021年、東京での世界の大舞台を経験しましたが、2022年はケガの影響で不調に苦しみました。しかし、日本選手権では男子200m平泳ぎで2分08秒21の2位。代表権を獲得しました。「いかに消耗せずに前半を速く泳げるか」を追求することで、自身の持つ日本記録更新に挑みます。
セイコーは多岐にわたり競泳の支援を行っています
セイコーは大橋選手と佐藤選手に加え、成田実生選手も含めた3選手のサポートを行っています。また、最先端の技術を駆使して100分の1秒を争うスポーツのタイムや記録を正確に計測する重要な役割を担っています。
確かな計測技術で記録に挑むアスリートたちの挑戦を応援したいというセイコーの想いを、スポーツスローガン「Timing」という言葉に込めています。「未来につながる一瞬のために」。Seikoはすべての瞬間を正確に刻み続けます。