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C-NAPS編集部

数あるスポーツの中でも、お互いに剣を持ち合って戦う競技はフェンシング以外には存在しません。中世ヨーロッパの騎士による剣術をルーツとするフェンシングは、フェンサーと呼ばれる剣士たちのいわば「決闘」です。日本で盛んな剣道が自己鍛錬を通して精神力を高めることに重きを置いた「武道」であるのに対し、フェンシングは剣術によって雌雄を決する「戦い」である点が大きな違いだと言えるでしょう。

フェンシングはフランスが発祥の地であり、強豪国はヨーロッパに集中しています。一方で日本での競技人口は約6,000人と他のスポーツに比べて多い部類に入るわけではありません。しかし、2000年代以降は世界の大舞台などで日本勢がメダルを獲得するケースが増えるなど、日本フェンシング界の躍進が著しい状況だと言えます。では関心が高まっているフェンシングの観戦を楽しむためにはどんな点に注目すべきでしょうか。種目や歴史解説も含めてフェンシングの見どころを紹介します。

フェンシングは「エペ」「フルーレ」「サーブル」の3種目がある

フェンシングは2人の選手が1対1で向かい合い、片手に持った剣で互いの有効面を突く競技です。相手の間合いを読んで急所を突くとポイントになるため、剣の扱いに長けていることはもちろん、「戦術的で高度な駆け引き」や「攻撃をかわす巧みなフットワーク」が要求されます。フェンサーの剣による決闘ということで「野蛮」だという印象を持つ方もいるかもしれませんが、実情は正反対で「緻密な頭脳戦」が繰り広げられるスポーツなのです。フェンシングは「エペ」「フルーレ」「サーブル」の3種目に分かれており、それぞれでルールが異なります。

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フェンシングは「エペ」「フルーレ」「サーブル」の3種目あり、それぞれルールや戦い方が異なる

全身が有効面のもっとも決闘に近いスタイルが「エペ」

「エペ」は全身すべてが有効面であることが特徴です。先に突いた選手にポイントが入り、両者同時に突いた場合は双方のポイントとなります。フェンシングの3種目の中でも、「先に突けば勝ち、突かれたら負け」というもっともルールがシンプルで分かりやすい点がエペの魅力です。「キング オブ フェンシング」とも呼ばれており、フェンシングの王道の種目はエペだと言われています。

単純にポイントを獲得した選手のランプが点灯するので、フェンシング観戦が初めての方でも分かりやすく楽しみやすいでしょう。フェンシングは中世ヨーロッパの騎士たちによる「決闘」から派生したスポーツであり、「エペ」はその決闘の形にもっとも近いと言われています。

攻撃の「優先権」があって剣さばきが華麗な「フルーレ」

「フルーレ」は「優先権」を保有するターンだけポイントが入る種目です。また、全身が攻撃対象であるエペとは異なり、胴体のみが有効面となります。フルーレでは先に攻撃を仕掛けた選手に優先権が生じます。そのため、双方が有効面を同時に突いた時は、優先権のある選手だけにポイントが付与される仕組みです。

優先権のない防御側の選手は、剣をはらう・叩くなどして剣先を逸らし、間合いを切って逃げて攻撃を阻止できると「優先権」を獲得します。華麗な剣さばきが魅力で、フルーレの語源がフランス語の花であることも戦い方の優美さを物語っています。

「優先権」があり、攻撃パターンが2種類あるのが「サーブル」

エペとフルーレが「突き」の攻撃一辺倒であるのに対して、「斬り(カット)」と「突き」の2種類の攻撃パターンがある種目が「サーブル」です。フルーレとは異なり、両腕と頭部を含む上半身が有効面であり、ダイナミックな斬りの攻撃が見られるところが醍醐味だと言えます。斬りにかかるスピード感と一瞬の判断による身のこなしなど、スピードを楽しむ種目です。

騎馬民族の戦いが発祥のサーブルは、乗っている馬を傷つけないように上半身だけを攻撃するルールになったとされています。ルールはフルーレと同様、「優先権」に基づき攻守交替がなされるので、2種類の攻撃パターンによる攻防戦が見物です。

将来的に4種目目になるかもしれない「ライトセーバーデュエリング」

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フランスのフェンシング連盟はライトセーバーデュエリングを4種目目として認定。将来的には日本でも種目を楽しめる日が来るかもしれない。

世界中で大人気なSF映画の作中で、お馴染みの武器であるライトセーバー。そのSFの世界をフェンシングで種目化する動きが進んでいるという話があります。2019年2月、フランスのフェンシング連盟は、ライトセーバーを使用した「ライトセーバーデュエリング」を正式種目として認定したと発表しました。将来的にはフェンシングの4種目目として世界大会にも登場するかもしれません。

2022年現在では、日本フェンシング協会はライトセーバーデュエリングを第4の種目としては認定しておらず、日本で種目を楽しめる場所もまだないようです。ただ、フェンシングのルールと最先端のテクノロジーを組み合わせた新しい試みだけに、今後の発展には目が離せません。

ライトセーバーデュエリングが第4種目になるかは分かりませんが、正式種目のエペ、フルーレ、サーブルは、それぞれルールや戦い方が異なります。また、攻撃範囲がそれぞれ異なることから武器や防具においても違いがあります。フェンシングを初めて観戦する方は、まずは3種類ある種目のそれぞれの戦い方の違いの見極めから始めると良いかもしれません。好きなフェンシングの種目を発見することが、競技観戦を楽しむうえでの第一歩だと言えるでしょう。

観戦前に知っておきたいフェンシングの歴史と競技化の道のり

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観戦をより楽しむためにもフェンシングのルーツについても知っておきたいところだ

騎士の剣術や貴族の決闘がルーツとなったフェンシング

フェンシングという競技は、戦場で育まれた中世ヨーロッパの騎士の剣術がルーツだと言われています。生死をかけたまさに決闘を生き抜くためにも、大きな剣を持ち、そして頑丈な鎧を身にまとい相手をなぎ倒すのが中世の騎士たちの戦い方でした。その後、馬に乗って戦う騎兵が出現し、火薬の発展により銃や爆弾が導入され始めると、騎士たちの戦術は大きく変わり、スピードを身につけないと戦場で生き抜くことができなくなりました。それが細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣である「レイピア」の登場につながります。

レイピアは、日本人にとってお馴染みの日本刀とは特徴がまったく異なる形状の細身の剣です。そして、後のエペとフルーレの原点となる剣でもあります。日本では「細剣」とも呼ばれており、16世紀から17世紀のヨーロッパで流行しました。その身軽さから当初はスピードを求められるようになった戦場でも重宝されましたが、マスケットと呼ばれる火縄銃や銃火器の発達によって次第に戦場での剣の有用性は薄れていきます。そして、レイピアは次第にヨーロッパの貴族が護身用に保有するのが主流となるのです。

ヨーロッパの貴族は戦場で培った剣術を娯楽としてたしなむようになり、レイピアは決闘者を意味する「デュエリスト」たちに愛用されるようになります。そして、安全性の高い金網製のマスクが開発された1750年頃にフェンシングの前身とも言える決闘のスタイルが流行し始めます。安全性の高い金網製のマスクが開発されたことが現在のフェンシングの形に近づく要因にもなりました。そして、防具が金網に変更されて以降、上流階級から庶民、子供まで幅広い人々に愛される現在のフェンシングに発展していったと言われています。

スポーツとしてのフェンシングの広がり、日本での普及

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中世ヨーロッパの決闘や貴族文化からスポーツとしての定着まではどんな歩みがあったのだろうか。

1896年のアテネで行われた世界の大舞台から正式競技として採用されているフェンシング。第1回から現代にいたるまですべての大会で継続して行われているのは、陸上、競泳、体操、フェンシングの4競技だけということもあり、非常に長く大衆から愛されてきた証拠だと言えます。第1回アテネ大会ではフルーレとサーブルが種目として採用され、第2回パリ大会ではエペも採用されて3種目が開催されるようになりました。

しかし、国際大会の黎明期はヨーロッパ各地でルールが異なるなど、スポーツとしてはまだまだ未熟な面がありました。転機となったのは、1913年の国際フェンシング協会(FIE)の設立です。翌1914年には競技規則が制定され、一気にスポーツとしての体制が整ったという経緯があります。

フェンシングの前身が日本に伝えられたのは明治初年でした。1868年に陸軍戸山学校でフランス人教官が「片手軍刀術」として日本人に指導したのが始まりだと言われています。スポーツとしてのフェンシングが親しまれるようになったのは1932年のことです。フランス留学中にフェンシングを習得した岩倉具清氏が、帰国後に慶応義塾大学・法政大学の学生らを中心に教えたことで、日本での競技としての文化が形成されました。現在でも慶応義塾大学・法政大学がともにフェンシングの強豪大学なのは、その当時の伝統を引き継いでいるからでしょう。

一瞬でポイントが決まる目の離せない決闘が魅力なだけに、現地観戦がまだという方はこの機会に会場で白熱の剣の舞をお楽しみください。

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