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文 久下真以子
写真 落合直哉

「ここまで、何億秒もの時間を積み重ねてきた。」

俳優・永瀬正敏さんの重厚感のあるナレーションで始まるセイコーの新企業CF「Timing」。Team Seikoから陸上競技の山縣亮太、デーデー ブルーノ、競泳の大橋悠依、佐藤翔馬の4選手が出演する、アスリートたちが試合に向けて研鑽を積む様子とその時間経過を表現した作品だ。

競技を始めた日から現在に至るまで、努力を積み重ねてきた時間を「秒数」で換算。アスリートにとって過ごす時間のすべてが試合への準備である一方、競技の本番はほんの一瞬の出来事とも言える。そんな尊さをエモーショナルに表現している。今回、新CFを手がけたのが博報堂でアートディレクターとして活躍する高橋コージさん。「Timing」というコピーに込められた思いや撮影の舞台裏について聞いた。

「Timing」を生むきっかけとなったセイコータイミングチームの存在

高橋さん 写真

自身でディレクションした「Timing」のメインビジュアルを背に制作の舞台裏を語る高橋さん

写真 落合直哉

高橋さんは、前回のセイコー企業CF「TIME IT」でもアートディレクターとして参画。アスリートと時間の関係性を「TIME IT」という強い言葉で世界観を表現した。約3年ぶりの全面リニューアルとなった今回は、どんな構想を思い描いていたのだろうか。

「前回のCF“TIME IT”は、“刻め”、“刻む”といった割と強いニュアンスが込められたキャッチコピーでしたね。4年に一度の世界の大舞台・東京大会前のキャンペーンでもあったので、アスリートの情熱と計測のクールさを対比してシャープに描きました。

大会終了後に今回のCF制作のオファーが来ました。その際にオリエンテーションで言われたのが、”試合にかける一瞬だけではなく、先につながる時間”や、”一緒に時間を作っていくセイコーとアスリートの関係”を描いてほしいというオーダーだったんです。なので、試合の裏側やそれぞれのアスリートが日々研鑽を積んでいる姿を描きたいと思ったんです。」

SEIKO Timing 写真

「Timing」はタイミングチームの「すべての瞬間を正確に刻む」という思いも込められている。
セイコーの要素をここまで凝縮した言葉は他にはないだろう。

photo by AFLO SPORT

高橋さんはアートディレクターとして、まずポスターなどのように1枚絵のビジュアルとしてクライアントの世界観をデザインする。そして、伝えたいテーマやキャッチコピーを含めたメインビジュアルの完成後、絵コンテやシナリオなどCF撮影の準備に移行する流れだ。「Timing」というコピーは、メインビジュアル完成直前に決まったのだという。

「今回のコピーは前回のTIME ITを引き継いで、”未来につながる一瞬のために。TIME IT”だったんですよ。それだと前回の映像と差別化できないよねという話になって。でも”未来につながる一瞬のために。”だけだとインパクトに欠けるから、記憶に残るような短いコピーを後から考えたんです。

記録を測り続ける姿と未来を見つめるアスリートの姿がリンクすると感じたので、セイコーのタイミングチーム(セイコーがサポートする世界中のスポーツ競技大会で正確な計時・計測を行うプロ集団)から名前を取って“Timing”というコピーを提案しました。その後、国立競技場で行われたセイコーゴールデングランプリで大会を支えるタイミングチームを見て、競技大会において成功のカギを握るのはこうしたプロフェッショナルな存在なのだと改めて思いました。」

高橋さん 写真

「秒」で選手の競技人生を表したのは高橋さんが仕掛けた「表現のギミック」だと語る

写真 落合直哉

CFの中には、選手がこれまで競技に打ち込んできた時間が秒で刻まれ続けるテロップが演出されている。「年」でも「月」でもなく、「秒」で表したのには、どんな意味があるのだろうか。

「これは表現のギミック(仕掛け)です。たとえば、山縣選手で言えば競技人生は19年くらいですが、秒に換算すると6億1782万4808秒……という感じで、1秒1秒積みかさねているんですよ。100mの種目で考えると、その膨大な競技人生をたった9秒や10秒のために費やす恐ろしさや凄さみたいなものを表現したかったんですよね。

山縣選手は現在、リハビリの日々を過ごしていますけど、それも今回のテーマにはピッタリでした。最初はCFの中での全力で走るパートは山縣選手にお願いしようと思っていたんですけど、それはデーデー選手に代わってもらって、山縣選手は夜のグラウンドで黙々と1人でやっているシーンにしました。自分の未来と向き合っている表情がすごくリアルでいいなと感じましたね。

アスリートは生きているすべての時間が試合につながっていて、その厳しさをセイコーがずっと一緒に見ているんですよ。このCFの裏テーマは”並走”なんですが、アスリートのそばで”セイコーがずっと時をカウントし続けますよ”、という思いも込めています。」

良い映像が撮れすぎてスケジュールが押した撮影時のエピソード

高橋さん 写真

トップアスリートのトレーニングを間近で見るのは、高橋さんにとっても貴重な体験だったようだ

写真 落合直哉

選手たちが未来につながる一瞬のために、淡々とトレーニングをする画を収めたかったと高橋さんは語る。リアルな表情や息づかいをキャッチするため、撮影は長時間におよんだ。

「”普段行っているトレーニングをやってください”というオーダーだったので、選手たちにとってはカットを指定されるよりはやりやすかったと思います。ただ、作られた表情ではない、自分自身に本気で向き合っているモードの表情が取れるまで長回しにしていたので、疲れさせてしまったとは思いますね……。

彼らがすごかったのは、細かくは指示していないのに何度も繰り返し泳いだり走ったりしてくれていたことです。”CFの意図をこんなにも理解してくれていたのか”とビックリしました。デーデー選手なんかは、3~4時間くらいずっと走っていたと思います。息も肩もどんどんどんどん上がってきて、それがそのまま映像で滲み出ていますよね。普段のタレントさんの撮影だったら、”もういいですか?”という雰囲気になっちゃうんですけど……あ、でも選手たちは内心そう思っていたかもしれません(笑)。」

高橋さん 写真

競泳の撮影は撮れ高が良すぎて終電にもおよびそうになったという

写真 落合直哉

大橋選手と佐藤選手のロケ地は静岡県。良い映像が撮れすぎて時間が押し、予定していた新幹線で帰れなくなったというエピソードがあるほどだ。さらに、水泳の撮影は、水の中に顔が隠れてしまう分、撮影の難しさもあったという。

「印象的だったのは大橋選手ですね。大橋選手と言えば自由形ですけど、それだと顔が見えづらいと監督が言ったんですよね。そしたら彼女、それまでカチッとした表情で聞いていたのに、”えっまさかバタフライですか……マジですか!”という表情になって、そのギャップが素敵でしたね。

水泳の撮影はすごく難しいんですよ。トップスイマーの速度を実はあんまり生で体感したことがありませんでしたし、飛び込んでから水中に浮かんでくるまでの距離がとんでもなく長いんですよね。そのスピードにカメラを合わせるのは大変ですし、観客席からライトを当てていた照明さんも頑張って並走していましたよ。」

陸上と、水泳。編集でつなぐにはそれぞれの競技のテンポを違和感なくつなぐことも重要だ。

「どうしても走る方が速いし、地面を蹴る音などのリズムもあるので、上手くつながないと水泳の躍動感が生まれなくなってしまうんですよね。でも、試写に立ち会って、想像以上の映像が上がってきたし、それができたのも選手たちが真摯に撮影に臨んでくれたからだと思っています。CFの尺には限りがありますし、映像を絞らざるを得なかったんですけど、撮っている最中は、”どれも良い映像だな、見たことのない映像ばかりだな”と感動していたんですよ。」

CF制作を通して感じたアスリートとセイコーの相関性

高橋さん 写真

高橋さんに今回の新CFでアスリートとセイコーの関係性を”並走”というテーマで表現したと語る

写真 落合直哉

高橋さんが強調していたのは、アスリートとセイコーの関係についてだった。”並走”というテーマを表現したが、まさしく両者が互いに支え合い、良い影響をおよぼしているように感じていたようだ。

「セイコーのCFを担当して感じたのは、Team Seikoはただ単に速いとか強いというだけでなく、しっかりした人間性を持った真のアスリートばかりという点ですね。1分1秒を争うアスリートに対して、その記録をまったく狂わず測るプロフェッショナルとの間柄はすごく尊くて素晴らしいので、その相関性をクリエイティブで表現できる自分の仕事にはすごくやりがいを感じています。

なかなかCFの中であんなに真剣にアスリートが練習してくれる映像もなかなかないんじゃないですかね? 普段の練習を見ているわけではないですが、撮影によってケガをしてしまったら申し訳ないので本人の力加減がどのくらいなのか真実はわかりませんが、没頭モードになるまでカメラを長回しできたというのは本当に貴重な経験でしたね。」

高橋さん 写真

高橋さんはTeam Seikoメンバーの内面を描くCFの制作にも興味があるという

写真 落合直哉

今後、制作してみたいセイコーのCFについて、高橋さんは最後にこんなアイデアをくれた。

「”並走”や”刻み続ける”という根本のテーマはたぶん変わらないと思うんですけど、今回もまだストイックさが全面に出ている映像なので、今度はもっと彼らの人間味の部分を描いて見たいなとは思いますね。誰かと一緒に練習するシーンや、そこでの笑顔とか。そういうところまで含めてアスリートと向き合えたら、面白いかもしれないですね。」

Team Seikoメンバーの内面を描くCF――高橋コージさんはどんなビジュアルを、そしてどんなクリエイティブで表現してくれるのだろうか。今後の制作にも期待せずにはいられない。

SEIKO企業CF「Timing 陸上・競泳篇」60秒

SEIKO企業CF「Timing 陸上・競泳篇」60秒

SEIKO企業CF「Timing 陸上・競泳篇」30秒

SEIKO企業CF「Timing 陸上・競泳篇」30秒

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