SEIKO  HEART BEAT Magazine スポーツを通して人生の時を豊かに

文 伊藤諒平
イラスト 森彰子

冬場のレジャーとして体験したことがある人も多く、数あるウインタースポーツの中でも特に人気が高いスノーボード。ただ、自身が“プレーするスポーツ”としては馴染みが深くても、“観るスポーツ”としては、「くわしくは知らない。」という方も多いのではないでしょうか。

実は日本のスノーボードの競技水準は非常に高く、W杯やXゲームなどの世界的な大会で上位に進出する日本人選手も少なくありません。2022年は4年に一度となる世界の大舞台が開催されるだけに、スノーボードの基本を押さえておくことで、より観戦が楽しくなるはずです。今回は複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長である野上大介さんにインタビュー。競技の基本的なルールや見どころ、注目選手について解説してもらいました。

スノーボード競技のキホンと種類

スノーボードとは、両足を1枚の板に乗せて固定し、サーフィンやスケートボードのように横向きに乗ったうえで雪面を滑り降りるスポーツです。レジャーとして広く親しまれているスノーボードですが、競技としてはプロツアーやコンテストが世界のシーンとして主流でした。1998年の長野大会から世界の大舞台の正式競技に採用されると、その後は注目度が上昇し続け、現在では開催国の観衆を沸かす人気競技となりました。

スノーボード競技は、大きくフリースタイル種目とアルペン種目の2種類に分類されます。フリースタイル種目は“スノーボード競技の華”とも言われており、エアの高さや技の難易度などを審査員が採点。そのスコアで順位が決まります。一方のアルペン種目は、スタートからゴールまでのタイムや着順を競います。選手のスピードが勝敗を決するため、ルールもシンプルなのが特徴です。

フリースタイル種目にはビッグエア、ハーフパイプ、スロープスタイルの3種類があり、アルペン種目はスノーボードクロスとパラレル大回転の2種類。スノーボードの競技全体で見ると計5種目もあるため、一口にスノーボードと言っても、それぞれの競技性やルールは異なります。

ボードにも種類?フリースタイル種目とアルペン種目の違い

フリースタイル種目とアルペン種目 画像

フリースタイルで使用するボードは、魅せる仕様になっているのが特徴です。ターンやジャンプの際に安定感が出るように少し太めに作られています。また、さまざまなトリックに柔軟に対応できるようにブーツも軽く、足首の自由度も高めに設定しているケースが多いと言えます。
一方、アルペン種目のボードは斜面を速いスピードで滑り降り、斜面を軽やかにターンすることに特化。そのため、一般的なスノーボードよりも硬い素材を採用し、かつ幅も細めの仕様になります。そして、雪面に効率的に力を伝えたうえでコントロールできるように、ブーツも硬めものが使用される傾向にあります。

スノーボード種目別紹介~ワンポイント解説付き~

野上大介さん 画像

スノーボードの競技のキホンを押さえたところで、種目別の細かいルールや注目ポイントにも触れていきます。野上さんによる観戦のワンポイント解説付きです。

技を競うフリースタイル種目:その1・ビッグエアの基本ルール

ビッグエア 画像

世界の大舞台では、2018年の平昌大会から採用された新種目です。ジャンプの難易度、完成度、高さや着地の美しさなどが採点の基準となります。6人の審判が各100点でジャッジ、最高点と最低点を除く4人の平均点で決められます。予選は2本のうち高い得点、決勝では3本のうち得点の高い2本の合計点で競います。ただし、この2本は回転方向が異なるジャンプでなければなりません。シンプルながらダイナミックな競技性が最大の魅力。飛距離が大きいため、着地時の一瞬の緊張感が非常にスリリングです。

野上「ビッグエアは1つのジャンプで難易度、美しさ、高さ、完成度を見せつける種目であり、“スノーボード特有の技のカッコ良さ”が勝負を分けます。2種類の回転方向の異なる技の合計点で争うので、1つの技に占めるポイントの割合が大きい点が特徴ですね。各選手はあらゆる方向で高難易度のスピンを習得しないと勝負できないので、1本のジャンプに懸ける想いに注目してもらいたいです。」

技を競うフリースタイル種目:その2・ハーフパイプの基本ルール

ハーフパイプ 画像

長さ約160m、幅18~20mのパイプを半分にカットしたような形状のコースを滑りながら、左右の壁を利用してトリックを披露します。ハーフパイプの壁の高さは国際基準が22フィート(約6.7m)。大きいものであれば7m近くあり、ビルの2~3階に相当します。その左右の壁でジャンプを5〜6回連続で飛ぶことで得点を競います。

採点は6人の審判が演技の完遂度、難易度、高さ、多様性、発展性の5つのポイントに沿って、出場選手の相対的な評価でジャッジ。各100点満点で採点し、最高点と最低点を除く4人の平均点で得点が決まります。予選2本、決勝3本で競われ、それぞれ得点の高い1本を採用して全体の順位が決定。華麗なエアトリックの連発が一番の見どころで、回転数の多いトリックや、斜め回転を連続で行う3Dトリックなど、選手によって特徴やスタイルも異なります。

野上「ハーフパイプで注目してほしいのは何と言ってもエアの高さです。トップレベルの選手だと5mは優に超えるので、ビルの2〜3階くらいの高さが出ていますね。後はダイナミックな技にもぜひ注目してほしいです。一般的には回転数が多ければすごく見えるのですが、ボードをつかむ位置や回転の方向など、遠心力に逆らった回転は難易度が高く、ポイントも高得点になります。そうした選手の技の1つひとつに細かく注目すると、一層面白く観戦できると思います。」

技を競うフリースタイル種目:その3・スロープスタイルの基本ルール

スロープスタイル 画像

全長700m前後の斜面に連続的にジャンプ台やレール、ボックスなどが設置されたコースを滑り、トリックを組み合わせて演技の総合点を競います。予選は2本、決勝3本ずつ滑り、それぞれもっとも高い得点を採用して全体の順位が決まります。審判は全体の印象、ジャンプの高さやトリックの難度、完成度などを総合的に評価して採点します。一番の見どころは後半に設置されるジャンプセクション。ここで高難度のトリックを決められるかが勝負の分かれ目となります。

野上「スロープスタイルは、スノーボードが上手い人が勝つ種目ですね。滑りの自由度が高くないと勝てないですし、各選手の滑走力に注目してほしいです。オリジナリティが溢れる滑りを、エンターテイメント感覚で観ていただけると思います。」

スピードを競うアルペン種目:その1・スノーボードクロスの基本ルール

スノーボードクロス 画像

予選では1人ずつ滑り、そのタイムでトーナメントのシードを決めます。予選通過者は4〜6人一組で同時スタートする形で着順を競います。キッカー(ジャンプ台)やウェーブ、バンク(カーブ)などの障害物が設けられた約1kmにもわたるコースを滑り、最初にゴールラインを切れば勝ちというシンプルなルールです。ハイスピードで障害を通過する中で、順位が次々と入れ替わる疾走感が最大の魅力。接触や転倒などが多いことから“雪上の格闘技”とも呼ばれています。

野上「スノーボードクロスは、同時にスタートして最初にゴールラインを切った選手が勝ちという、より分かりやすいルールになっています。最初から最後まで目が離せない展開が続きますし、最下位の選手がゴール直前で先頭に躍り出るなど大逆転もあり得るので、レース展開はものすごく楽しめます。」

スピードを競うアルペン種目:その2・パラレル大回転の基本ルール

パラレル大回転 画像

旗門の設置されたコースを2選手が滑り降り、タイムを競う種目です。予選は左右の2つのコースを1回ずつ滑り、合計タイムの上位16人が決勝トーナメントに進出。決勝トーナメントでは、並行にセットされた赤青2コースを選手が同時に滑って対戦します。“パラレル”とは、並行するコースを2選手が同時に滑る競技方式を指します。シンプルかつエキサイティングな1対1の勝負や駆け引きが、最大の見どころです。

野上「パラレル大回転は、スキーのアルペン競技のように斜面をいかに速く滑り降りるかが問われつつ、難解なコースを華麗にターンする姿が印象的な種目ですね。旗門をかわしながら進む高速ターンの技術と、レースする相手との駆け引きが見物です。」

2022年に注目すべき日本人スノーボーダー

2022年は世界の大舞台が開催されるため、例年以上に日本人選手の活躍が注目されます。野上さんには、北京大会で絶対に観るべき3人の日本人スノーボーダーについても、それぞれの特徴を語ってもらいました。

スケートボードとの融合でさらに進化した平野歩夢選手

平野歩夢選手 画像

二刀流で凄みを増した平野。3大会連続での表彰台入りはなるか。

写真:フォート・キシモト

野上「スケートボードでも世界の大舞台に出場した二刀流の平野歩夢選手は、スノーボードのハーフパイプにおいても当然ながら注目すべき選手です。スノーボード選手のほとんどがスケートボードをした経験があるはずですが、幼少期から競技レベルで滑っているのは平野選手とショーン・ホワイト選手の2人だけです。

スケートボードは両脚がボードから離れる点がスノーボードとの大きな違いですが、踏切タイミングに寸分の狂いも許されない点も同様に特徴だと言えます。その抜群の踏切タイミングは平野選手のスノーボードでのパフォーマンスを支えています。平野選手は二刀流を経て、その踏切タイミングのレベルが各段に上がっているので、“2022年に見せる進化”が本当に楽しみですね。」

頂点を目指す昨季の世界王者・戸塚優斗選手

戸塚優斗選手 画像

世界王者の意地を見せられるのか。戸塚の高難易度技に注目だ

写真:AP/アフロ

野上「戸塚優斗選手は幼少期からのトレーニングの成果もあり、ハーフパイプの競技者において全体的な基礎力が高い選手に成長しました。トリックのバリエーションも多く、高難易度の技をバランス良くこなせる数少ない選手です。さらに、“勝負所”できっちり勝ちにいくパフォーマンスができますし、勝利に対して貪欲なところも魅力だと言えるでしょう。世界の大舞台では、間違いなく表彰台の一番上に照準を合わせてくるので、昨季の世界王者の底力を見せてほしいですね。」

2種目に出場する努力の鬼・鬼塚雅選手

鬼塚雅選手 画像

ストイックさに定評がある鬼塚は、まさに努力で才能を磨いてきた

写真:フォート・キシモト

野上「ビッグエアとスロープスタイルの2種目に出場する鬼塚雅選手は天才と称されていますが、血の滲むような努力によってパフォーマンスを向上させてきた選手の1人です。勝利に対してとてもストイックで、勝ちから逆算して高難易度の技を次々に習得しています。世界の大舞台でも完成度の高い技を披露してくれるはずなので、ぜひ注目してください。」

種目やルールを知れば知るほど面白くなるスノーボード

スノーボードは各種目によって特性がまったく異なるため、その違いやルールを知ることで、観戦がより楽しくなるはずです。また、特にフリースタイル種目のスノーボーダーは“魅せる”ことにこだわっている選手が多く、得点だけではなく、パフォーマンスやファッションにおけるこだわりにも注目すると競技への理解も深まるでしょう。

「野上大介さんが語るスノーボードの魅力・観戦のポイント」はこちらから。

野上大介さんが語る
スノーボードの魅力・観戦のポイント

野上大介

スノーボードジャーナリスト
野上大介

1974年、千葉県生まれ。大学卒業後、全日本スノーボード選手権ハーフパイプ大会に2度出場するなど、複数ブランドの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版に従事し、約10年間に渡り編集長を務める。その後独立し、2016年8月にBACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEのウェブサイトをローンチ、同年10月に雑誌を創刊した。X GAMESやオリンピックなどスノーボード競技の解説者やコメンテーターとしての顔も持つ。


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