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文 C-NAPS編集部
ジャンプ説明 沢田聡子
イラスト 森彰子
インタビュアー 久下真以子
写真 フォート・キシモト

美しい演技の中で繰り出させる数々の技が見物のフィギュアスケート。中でも観衆の目を釘づけにするのがジャンプです。力強い跳躍と華やかな舞に彩られた大技に、多くの方が固唾を飲んで演技を見守ります。しかし、一口にジャンプと言ってもその種類はさまざま。「どのジャンプもすごいけど、何が違うの?」と種類の見分けがつかない方も多いはずです。そんな初心者の方がジャンプの種類を把握できれば、フィギュアスケート観戦がさらに楽しくなるでしょう。

本記事ではジャンプの種類や難易度について、プロフィギュアスケーターで国際大会の解説も務める荒川静香さんのアドバイスや現役時代の体験談も交えながら解説します。

フィギュアスケートのジャンプは全部で6種類

ジャンプの種類 写真

フィギュアスケートのジャンプは全部で6種類あり、大きく『トウ系』と『エッジ系』に分けられます。

フィギュアスケートの選手が履いているスケート靴には、『ブレード(刃)』がついており、ギザギザしているブレードのつま先の部分(トウ)を「トウピック」と呼ばれます。このトウピックをついて跳ぶジャンプがトウ系の『トウループ』『フリップ』『ルッツ』。トウピックをつかずにエッジ(トウ以外の氷に接する部分)で踏み切るジャンプがエッジ系の『サルコウ』『ループ』『アクセル』です。

一番難しいジャンプは、唯一前を向いて踏み切るアクセル。後ろ向きに踏み切る他の5種類のジャンプとは異なる怖さがあると言われています。次に難しいのがルッツです。滑走のカーブと逆方向に回転をかけて踏み切るため、滑走の勢いを活かせません。一方で滑走の流れに乗り、左足のトウをついて右足で踏み切るトウループはもっとも簡単だとされています。

※下記のジャンプ説明については、すべて反時計(左)回りの場合を想定しています

ジャンプ①:アクセル

アクセル 写真

左足外側のエッジを使って前向きに踏み切り、後ろ向きで着氷します。踏み切るのが唯一前向きのため、他のジャンプよりも半回転多くなり、トリプル(3回転)アクセルなら3回転半回転します。もっとも難しいジャンプで、基礎点が一番高く設定されているのが特徴です。踏み切りが他の5種類のジャンプと異なるので、一番見分けやすいと言えます。

ジャンプ②:ルッツ

ルッツ 写真

後ろ向きに入り、左足外側(小指側)のエッジに乗ってから右足のトウをついて踏み切ります。助走のカーブとジャンプを跳ぶ方向が反対のため難しいとされています。フリップと踏み切る足は同じですが、軸足(左足)“外側”のエッジに乗るところがポイント。フリップと見分けるのが難しい面がありますが、ルッツは助走が長い点が特徴です。

ジャンプ③:フリップ

フリップ 写真

後ろ向きに入り、左足内側(親指側)のエッジに乗ってから右足のトウをついて踏み切ります。踏み切る足が同じルッツとの違いは、軸足(左足)“内側”のエッジに乗ること。そのため、跳ぶ直前に振り返る選手が多いのが特徴です。トウループとの違いは、トウをつくのが右足であること(トウループは左足のトウをつく)で見分けられます。

ジャンプ④:ループ

ループ 写真

右足外側(小指側)のエッジで滑りながら、左足を前に出して踏み切ります。踏み切る前に腰かけるような姿勢になるのが、ループを見分けるポイント。連続ジャンプの2つ目としてトウループに次いでよく跳ばれるジャンプです。踏み切る時に左足のトウをつくトウループに比べ、ループは最初のジャンプで着氷した右足のみで踏み切るため難しくなります。

ジャンプ⑤:サルコウ

サルコウ 写真

左足内側(親指側)のエッジで滑りながら、右足を振り上げる勢いを使って跳び上がります。見分けるポイントは、踏み切る前に、踏み切る左足と振り上げようとしている右足が『ハ』の字のかたちになること。近年、3連続ジャンプの3つ目として、連続ジャンプのつなぎのジャンプである『オイラー』に続いて跳ばれることが多い種類です。

ジャンプ⑥:トウループ

トウループ 写真

右足外側(小指側)のエッジで滑りながら、左足のトウをついて右足で踏み切って跳び上がります。フリップとの違いは、トウをつくのが左足であること(フリップは右足のトウをつく)。一番易しいジャンプとされており、連続ジャンプの2つ目としてもっともよく跳ばれる種類でもあります。

荒川静香さん秘話「父でも見間違えるほどジャンプは見分けづらい」

荒川静香さん 写真

ジャンプの種類や難易度を一通りをチェックしたところで、荒川静香さんにもジャンプを見分ける際のコツや観戦の際のポイントを聞いてみましょう。

フィギュアスケートの醍醐味であるジャンプのジャッジ方法について教えてください。

荒川「ジャンプは6種類あります。その種類と回転数によって基礎点が定められていて、スペシャリストが技の判定を行います。何のジャンプを跳んだのか、何回転だったのか、回転数がきちんと足りていたのかを瞬時に判断するイメージです。それにプラスしてGOE(Grade Of Execution)と呼ばれる出来栄え点を+-5段階で評価するのが基本です。」

審判によってジャンプなどのジャッジのポイントは変わるんでしょうか?

荒川「審判も人間なので、ジャッジの仕方は人それぞれ異なります。また、同じジャンプでも見ている角度によって見え方も変わるものです。出来栄えが良かったように見えても、スペシャリストが回転不足と判断するとあまり得点が伸びない時もあります。転倒したり、ジャンプが抜けてしまったりするなどの大きなミスがなくても、見ていた印象と実際の評価が大きく異なることもあるんです。」

ジャンプの回転数や技の種類を瞬時に判断するフィギュアスケートの解説は大変ですよね。

荒川「それは本当に大変です。解説席から見るとジャンプの回転が足りないように見えても、ジャッジが同様の判断をしない時もあります。私から見たら良かったように見えたとしても、ジャッジがマイナスだった場合は瞬時にマイナス要素を指摘しなければなりません。ジャッジ内容が公表されるわけではないので、あくまでそうだったと仮定して解説する必要があります。」

荒川静香さん 写真

写真 フォート・キシモト

荒川さんなりのジャンプを見分けるコツはありますか?

荒川「ジャンプの8割は踏み切りの出来で決まるものです。なので、“何回転できそう”とか“減点を受けちゃうかな”とかは踏み切った瞬間にある程度予想できます。」

では初心者の方も踏切に注目したほうが良いでしょうか?

荒川「初心者の方がジャンプを見分けられるようになるには、まずはジャンプする姿を数多く見る必要があります。実は30年以上私のスケーティングを見ている父であっても、観戦中に“今のはトウループだよね”と聞いてきたけど、実際は全然違うということもありました(笑)。“いやいやルッツだよ”と教えつつ、経験者でないと見分けづらいところがあるんだろうなと実感しました。経験者であれば、“この助走だからこのジャンプを跳ぶだろう”とだいたい予想はつくものなので。」

お父様でも見間違えるんですね(笑)。では見分けが難しいジャンプを見る際は、どんなことを心がけるとより観戦が楽しくなりますか?

荒川「見ただけでジャンプの種類を判別できない場合は、実況や解説の説明で補足することも大切ですね。目で見てジャンプの種類を判断し、耳で聞いて答え合わせすることで精度が高まるはずです。経験者でもなければ、ジャンプの見分けは難しいので、まずは目を凝らす回数を増やしてみてください。

また、ジャンプの種類を理解することはもちろん重要ですが、それと同じくらいに選手の表情や特徴のある動き・滑りにも注目してほしいです。それぞれの選手のタイプを理解することで、どんなジャンプを跳ぶ選手なのかも把握しやすくなるかと思います。後は自分なりにフィギュアスケートを楽しむこと。たとえ、ジャンプの種類が判別できなくても、“もっと分かるようになりたい”と思えたとしたら、すでにフィギュアスケートの魅力にハマり始めているかもしれません。フィギュアスケート観戦を自分なりに楽しむことが、まず何よりも大切だと思います。」

フィギュアスケート観戦は楽しむ心を持つことが一番重要

力強く華やかなジャンプの魅力についてお分かりいただけたでしょうか。選手が織りなす技の数々は、それぞれの選手の想いや努力が込められています。もちろん、フィギュアスケート観戦は、知識を増やして技を見分けられるようになったら、よりその深さを実感できるでしょう。荒川さんがおっしゃっていたように“自分なりにフィギュアスケートを楽しむこと”を心がけたうえで、ジャンプや技の知識を増やしてみてください。

セイコーが行うフィギュアスケート支援

セイコーでは、選手たちが氷上に舞う華麗な競技・フィギュアスケートの支援も行っています。精密な採点が求められるフィギュアスケートの大会運営を「フィギュアスケート競技システム」でサポート。

演技の美しさを競うフィギュアスケートのスコアを正確に計測することで、競技貢献を果たしています。

荒川静香

プロスケーター
荒川静香

1981年12月29日東京都生まれ。小学校に入学してから本格的にフィギュアスケートに取り組むと、3年生で3回転ジャンプをマスター。天才少女と呼ばれた。94~96年には全日本ジュニアフィギュア選手権で3連覇を果たした。97年にジュニアからシニアへと移行すると、全日本選手権で初優勝。翌98年には長野五輪へ出場を果たした。2006年トリノ五輪では、アジア人としてフィギュアスケート女子シングル初の金メダルを獲得。2006年5月にプロ宣言し、本人プロデュースのアイスショー「フレンズオンアイス」、国内及び海外のアイスショーを中心に活動。日本スケート連盟副会長を務めるほか、テレビ、イベント出演、スケート解説、オリンピックキャスターとして活躍している。

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