SEIKO  HEART BEAT Magazine スポーツを通して人生の時を豊かに

文 沢田聡子
イラスト 森彰子
インタビュアー 久下真以子

フィギュアスケートの国際大会であるグランプリシリーズが始まり、4年に一度の世界の大舞台に向けたシーズンが本格的に幕を開けました。フィギュアスケートは”ウィンタースポーツの花形”で、観る者を魅了する美しさがあります。そのため、フィギュアスケート観戦においては「きれいだな。」「素晴らしいな。」という自分の感性や直感を大事にすることが第一です。そのうえでルールや採点方法の基準を理解していれば、より観戦を楽しめるでしょう。本記事ではプロフィギュアスケーターで、国際大会の解説も務める荒川静香さんのインタビュー内容を交えながらフィギュアスケートの魅力を紹介します!

フィギュアスケートのキホンとルール

フィギュアスケート 写真

“フィギュアスケート”という競技名は、“氷上に図形=フィギュアを描くこと”に由来します。種目数は主に4つ。1人で滑るシングル種目が男子・女子ともにあり、男女が組んで2人で滑るカップル種目にはペアとアイスダンスがあります。他にも16人で滑るシンクロナイズドスケーティングもあります。

男女シングル・ペアはショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)、アイスダンスはリズムダンス(RD)とフリーダンス(FD)を行い、その合計点で順位が決まります。2分40秒±10秒のSPは規定要素(ジャンプやスピンなどルールで定めされた要素)が決まっており、4分±10秒のFSはルールの枠内で自由に技を構成できます。
2分50秒±10秒のRDはシーズンごとにリズムとテーマが決まっており、4分±10秒のFDは好きな音楽を選びルールの枠内で自由な組み立てが可能です。初めに滑るSP・RDは4年に1度の大舞台では予選代わりになり、その上位者のみがFS・FDに進出します。

観戦が楽しくなる荒川さんのフィギュア小話

荒川静香 写真

基本ルールを押さえたところで、荒川静香さんにフィギュアスケートの魅力について伺います。ご自身の経験を踏まえたちょっと観戦が楽しくなる話が聞けました。

まずフィギュアスケートのそれぞれの種目の特徴を教えてください。

荒川「男女シングルが恐らく多くの方がイメージするフィギュアスケートの種目かと思います。ペアはシングルを男女一緒にやるような種目です。シンプルな技に加えて男性が女性を放り投げてジャンプするなどアクロバティックな技が入ってきます。一方のアイスダンスはいわば、“氷上の社交ダンス”です。男女2人で芸術性の高いダンスのような滑りを求められる点がペアとの違いです。」

ペア・アイスダンス イラスト

ペアとアイスダンスの区別がつきませんでしたが、そういう違いだったんですね。“氷上の社交ダンス”はイメージしやすいです。

荒川「アイスダンスはシングル・ペアと異なり、1回転半以上のジャンプが禁止されています。男性が女性を持ち上げるリフトでは、ペアだと男性が腕を伸ばして女性を頭上まで持ち上げるのが特徴です。しかし、アイスダンスの場合は、女性を男性の頭上まで持ち上げることは認められていません。アクロバティックな技が見どころのペアに対し、スケーティングそのものの美しさや芸術性を競うのがアイスダンスの特徴です。」

男子シングル・女子シングル イラスト

シングルのSPとFSにおいて滑り方の明確な違いはありますか?

荒川「SPが“短距離走”で、FSが“中距離走”と表現すると分かりやすいかもしれません。決められた要素だけを詰め込んで2分50秒でまとめるのがSPです。たとえば、3回転の予定のところが回転不足で2回転になると得点はゼロになります。FSであれば2回転分の得点が入るのでその違いがあります。一方でFSはボーナスがつく(基礎点が1.1になる)後半のジャンプは3つであり、SPの3倍です。つまり後半に難しいジャンプを持ってくると得点が上がりやすくなります。終盤は体力的にキツイのでミスのリスクも高くなりますよね。その場面でのジャンプにはすごく価値があるということです。」

短距離走と中距離走の例えはまた分かりやすいですね。SPが上手くいかなかった場合に、翌日のFSでメンタル的に影響することはありますか?

荒川「大いにありますね。不思議ですが、SPが上手くいったら、それはそれで“昨日が一番良かったのでは?”と思っちゃうものなんです。2006年に行われた世界的な大会ではSPで3位でしたが、1点差以内に3人がひしめき合っていました。FS次第でメダルの色が変わる状況でしたが、追う立場だったのでプレッシャーは少なかったと思います。結果にとらわれると注意すべきことを見失いがちになるため、メンタルのコントロールは重要でした。」

やっぱりメンタルが大きく影響をおよぼす競技なんですね。滑り終わってキス&クライで待っている時間はどんな心境なんですか?

荒川「上手くいかなった時は長く感じて、自分の納得する表現ができた際は一瞬に感じますね。上手くいった時は隣にいるコーチとテンション高く2人で喋っている間に得点がバンとでるようなイメージです(笑)。」

衣装/音楽とフィギュアスケートの関係性について

荒川静香 写真

写真 フォート・キシモト

フィギュアスケートの衣装は、芸術品と呼びたくなるほど美しいものばかりです。演技とともに観客の心に残る衣装は、作品としてのプログラムを形づくる重要な一部だと言えるでしょう。そして衣装は、試合という舞台で選手に力を与える役割も果たします。衣装にもルールがあり、過度に肌を露出したもの、裸体を連想させるものは品位を損なうとして禁止されています。

フィギュアスケート衣装デザイナーとして有名な伊藤聡美さんは、羽生結弦選手や宇野昌磨選手ら多くのトップスケーターの衣装を手がけており、シーズンで50着制作したこともあるそうです。もともとアイスダンスが好きだったという伊藤さんは、村元哉中選手&髙橋大輔選手組の衣装も制作しています。

また、フィギュアスケートのプログラムづくりは、音楽選びから始まります。王道と言われる曲はオペラやバレエなどのクラシックなものが多いですが、誰も使わなかった曲で斬新な印象を与える名プログラムもあります。羽生結弦選手の『SEIMEI』やネイサン・チェン選手の『ネメシス』、宇野昌磨選手の『Great Spirit』などが、その例でしょうか。

フィギュアスケートにおける特別な名曲として、『ボレロ』が挙げられます。イギリスのアイスダンスカップル、ジェーン・トービル選手&クリストファー・ディーン選手組が優勝した1984年の世界の大舞台で滑り、芸術点でジャッジ全員が満点をつけたフリーダンスで使った曲です。今季は、シニアデビューと同時に優勝候補となったロシアのカミラ・ワリエワ選手がフリーで採用しています。

スケーターは、音楽に調和した滑りが求められます。また、試合では音楽に背中を押されて力を発揮することもあるでしょう。

荒川さんが明かす衣装/音楽に関する秘話

荒川静香 写真

荒川さんは衣装も印象的でしたが、現役時代はどれくらい重要視していましたか?

荒川「パッと見た時の印象、曲や世界観とマッチしているかによって演技構成点などにも影響を与えるので大事な要素ですよね。私は子どもの頃から自分の衣装をデザインすることが多かったので、こだわりはありました。私のように多少動きにくくてもデザイン性を重視する選手は少数派だったかもしれません。」

選手によって衣装への意識も異なるんですね。やはり荒川さんの衣装にはこだわりを感じていました!

荒川「1人ひとりの体型が異なるので、同じデザインでも着る人が変われば見た目の印象も変わります。なので、スカートにしても飾りにしても選手自身に合っている衣装や着こなしを選択することが重要なんです。私のように自分で作っていた人もいれば、有名デザイナーに高額でオーダーしていた人もいました。シーズン中に衣装を変えることもたまにありますが、安藤美姫さんは毎試合違う衣装で臨んだシーズンもありましたね。」

衣装と並んでスケート靴も重要な道具だと思います。選手それぞれのこだわりがあるのでしょうか?

荒川「エッジの位置が少し変わるだけでもまったく違う感覚になるので、シーズン中は同じ靴を履くなど選手それぞれのこだわりがありますね。履き方も十人十色で、女性選手の多くはタイツの上に履くのですが、厚いソックスや五本指ソックスを履いたり、素足のまま履く人もいます。驚いたのはビニール袋の上からスケート靴を履く選手がいたことですね!その選手にとって最適な感覚を突き詰めた結果だと思います。」

荒川さんと言えばトゥーランドットのメロディを想起する方も多いと思いますが、選曲の経緯を教えてください。

荒川「私があの曲で滑ってみたいと思ったのは19歳か20歳の時でした。すごく好きな曲だったので、滑っていて心地良かったんです。普通は毎シーズンごとに新しい曲に挑戦するものなのですが、私は好きな曲だったので結局3回も使いました。やっぱり大舞台では“トゥーランドットで滑りたい。”という感情が湧き上がってきましたね。」

フィギュアスケートの気になる採点方法

フィギュアスケートの演技評価 画像 フィギュアスケートの演技評価 画像

フィギュアスケートの得点は、技術点(トータルエレメンツスコア)と演技構成点(プログラムコンポーネンツスコア)の合計点です。

技術点は、ジャンプ・スピン・ステップなどの技術要素を評価した得点。それぞれの要素には基礎点があり、その出来栄えにより+5から-5までのGOE(Grade Of Execution)がつきます。

ジャンプについては、回転数と種類(易しいとされている順にトゥループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルの6種類)に応じて基礎点があります。さらに回転が十分かどうか、踏み切る際のエッジが正しいかどうかでも基礎点異なるのです。また、体力を消耗している状態で跳ぶことになる演技後半のジャンプ(SPでは最後の1つのみ、FSでは最後の3つのみ)にはボーナスがつき、基礎点が1.1倍になります。

演技構成点は、プログラム全体を評価する得点。スケーティング技術・技と技のつなぎ・演技力・構成力・音楽の解釈の5項目があり、ファイブコンポーネンツとも呼ばれます。各項目は、0.25点刻みの10点満点です。世界トップのスケーターでも、演技構成点で9点台を出せる選手は少なく、満点の10点は優れた一握りのスケーターにしか出せません。ちなみに演技構成点は単に合計するのではなく、技術点と近い得点になるように係数がかけられます。

また、転倒や演技時間の超過、衣装の落下などは減点対象です。転倒による減点は、1・2度目は各-1点、3・4度目は各-2点、5度目以降は各-3点となります。ジャンプが得意な選手もいれば、観客を魅了する美しいスケーティングが強みの選手もいます。国際スケート連盟や日本スケート連盟のホームページに掲載される採点表を見るだけでも、その選手の特徴が分かります。

ちょっとの知識でフィギュアスケート観戦は面白くなる

荒川さんの話も大変興味深かったですね。スポーツと芸術の融合であるフィギュアスケートは、スケーターはもちろん、コーチや振付師、衣装デザイナーら関わるすべての人の美しさへのこだわりで成り立っています。また、ルールの根底にあるのは、“本当に美しいフィギュアスケートとは何か”を追求する信念です。そのことをファンがより深く知ることで、フィギュアスケートをもっと魅力的に感じることができるかもしれません。観客が演技の価値を感じ取り、それに対して惜しみない拍手を送る競技会の会場は、最高の空間になるでしょう。

次回はフィギュアスケートの技やジャンプを中心に、荒川さんのお話を交えて解説します。

セイコーが行うフィギュアスケート支援

セイコーでは、選手たちが氷上に舞う華麗な競技・フィギュアスケートの支援も行っています。精密な採点が求められるフィギュアスケートの大会運営を「フィギュアスケート競技システム」でサポート。

演技の美しさを競うフィギュアスケートのスコアを正確に計測することで、競技貢献を果たしています。

荒川静香

プロスケーター
荒川静香

1981年12月29日東京都生まれ。小学校に入学してから本格的にフィギュアスケートに取り組むと、3年生で3回転ジャンプをマスター。天才少女と呼ばれた。94~96年には全日本ジュニアフィギュア選手権で3連覇を果たした。97年にジュニアからシニアへと移行すると、全日本選手権で初優勝。翌98年には長野五輪へ出場を果たした。2006年トリノ五輪では、アジア人としてフィギュアスケート女子シングル初の金メダルを獲得。2006年5月にプロ宣言し、本人プロデュースのアイスショー「フレンズオンアイス」、国内及び海外のアイスショーを中心に活動。日本スケート連盟副会長を務めるほか、テレビ、イベント出演、スケート解説、オリンピックキャスターとして活躍している。

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