SEIKO  HEART BEAT Magazine スポーツを通して人生の時を豊かに

文 小山裕也
イラスト 森彰子

陸上競技の短距離種目の中でも、4人の選手がチーム一丸となって金メダルを目指す4×100リレー。日本は並みいる強豪国との持ちタイムの差を巧みなバトンパスで埋め、過去には世界の大舞台で銀メダルを獲得した実績もあります。国際舞台でメダル獲得の期待が高いと言える種目の1つです。

リレーと言えば、なんとなく「エースの選手はアンカー」というイメージを抱いている方も多いでしょう。しかし、実際は2走目にエースを配置するケースが少なくありません。その理由は走順とバトンパスの位置によって選手が走る距離が異なるためです。4×100mなのに走る距離が違うというのは、一体どんな理由があるのでしょうか。陸上4×100mリレーの基本的なルールなどとともに解説します。

4×100mリレーのルールや特徴について

4×100mリレーは、陸上競技の短距離種目に出場する選手で構成された団体種目です。まさに「短距離のオールスターが集結する種目」といっても過言ではありません。各選手のダイナミックで気迫に満ちた走りはもちろん、勝負の結果をも左右するバトンパスも注目のポイント! まずは、そんな盛り上がること必至の4×100mに関する基礎知識やルールを押さえましょう。

◆ 4×100mの基礎知識

その名の通り4人のランナーがバトンを繋ぎながら計400m走り、タイムを競う種目です。バトンの受け渡しはテイクオーバーゾーンと呼ばれる30mの区間内で行わなければいけません。リレーでは2走目以降の選手はバトンを受け取る際に助走をつけることができるため、バトンパスの技を磨けば走者4人のベストタイムを単純に合計したタイムよりも速くなります。

◆ リレーの肝となる「バトンパス」の細かいルール

バトンパスにはいくつかの細かいルールがあります。団体戦の肝となる連携部分だけに、その点に注目してみるとリレーの醍醐味をより楽しめるようになるかもしれません。

・テイクオーバーゾーンを越えてバトンパスを行うと失格
バトンの受け渡しはテイクオーバーゾーン内で行わなければ失格となります。ゾーン内かゾーン外かの判断基準はバトンの位置。走者の身体はゾーン外でもバトンがゾーン内で受け渡されていれば問題はありません。「連携が取れず次走者がゾーン外に出てしまったが、戻ってゾーン内でバトンを受け渡した」という場合もそのままレースは続行されます。

・バトンは手渡ししなければならない
バトンパスは「次走者にバトンが触れた瞬間に始まり、前走者の手を離れて次走者の手の中に完全にわたり、唯一のバトン保持者になった瞬間に成立する」とされています。そのため、前走者が確実に次走者に手渡しする必要があります。

・バトンを落としても失格にはならない
受け渡しの際にバトンを落としてしまうシーンを見かけることもありますが、それだけで失格となることはありません。ただし、「バトンパス完了前に落とした場合は前走者が拾う」「バトンパス完了後に落とした場合は次走者が拾う」と定められています。

・バトンが他のレーンに出てしまったら
落としたバトンが他のレーンに出てしまった場合は、他の走者の妨害とならないように拾い、バトンが転がり出てしまった地点から自分のレーンのバトンを落とした場所に戻る必要があります。

・次走者の走り出しの目印としてテープを貼れる
バトンパスは、「受け渡しのタイミングが命」と言っても過言ではありません。前走者が来たタイミングで次走者が走り出して加速できれば、勢いに乗ったままバトンを受け取れます。その目印として、実はテイクオーバーゾーンの直前にテープを貼ることが認められています。大きさが最大50mm×400mmで他の恒久的なマーキングと混同しないはっきりとした色の粘着テープであればルール上問題はありません。
テレビ観戦の際にレーンを注意深く見てみるとマーカーが見つかるかもしれません。

"4×100mリレー" なのに走順で走る距離が変わる理由

第二走者は最大で130m走ります 図

第二走者は、バトンを早く受け取りテイクオーバーゾーンのギリギリで渡すことで、最大で130mの直線をトップスピードで駆け抜けます。

前述の通り、4×100mリレーはチームの4人が100mずつ走る種目ですが、実は走順によって走る距離が少し異なります。これは、バトンの受け渡しを行うテイクオーバーゾーンが、400mの中に3ヶ所、各30mずつ定められている点が理由です。そのため、テイクオーバーゾーンを2回通過する2走者目か3走者目のどちらかは、「バトンをゾーンの一番手前で受け取り、次走者への受け渡しをゾーンの最後で行う」ことで最大130m走ることができます。コーナーを担当する第1第3走者の走る距離を短くするため、直線を走る第2走者の距離が長くなるように設定し、エースを配置して勝負をかけるというのが一般的な作戦です。

日本のバトンパスは世界から評価される大きな武器!

バトンパス イラスト

◆ オーバーハンドパスとアンダーハンドパス

リレーのバトンパスは主に「オーバーハンドパス」と「アンダーハンドパス」の2つの方法に分けられます。オーバーハンドパスは、バトンの受け手が手のひらを上にして、渡し手が置くようにバトンを受け渡す方法です。両走者が腕を伸ばしてバトンを受け渡せるため距離をかせげることや、比較的習得も容易なことからこちらを採用するチームが多い傾向にあります。

一方、アンダーハンドパスは、受け手は手のひらを下向きにして拡げ、渡し手は下から押し込むようにバトンを受け渡します。バトンパスの際もフォームが崩れにくいため、スピードが出しやすいというのが大きなメリットです。しかし、オーバーハンドパスのように手を伸ばさないため距離をかせぎにくく、習得も難しいため採用するチームはあまり多くありません。

◆ 世界と渡り合う日本のバトンパス技術

4×100mリレーを日本が得意としているのは、世界からも評価されているバトンパスの技術があるからです。日本のチームは蓄積したデータを基に、腕を伸ばして距離をかせぐことよりもスピードに乗った状態でバトンを受け渡すことを重視し、2001年からアンダーハンドパスを採用。そして、選手の速度変化、走力、走りのタイプ、区間などを細かく分析し、科学的なアプローチから1/100秒を削る努力を重ねてきました。

2015年にはアンダーハンドパスの形を取りながら少し腕を伸ばす様にフォームを改良。また、バトンを受け取るまでの歩数を決めるなど細かい部分まで突き詰めることでバトンパス時のタイムロスを大きく削減し、メダルの獲得に至るなど他の強豪国と十分に渡り合うことができるようになりました。

バトンを渡す方法を1つとってみても、さまざまな技術やアイデアが凝縮されていることが分かります。個人の短距離走は単純に一番速いタイムの選手が勝ちますが、リレーは4人のタイムの合計で決まります。さらにバトンパスやテイクオーバーゾーンの有効活用によるチーム戦術で、タイムを縮められる可能性があるところはまた興味深いですね。こうした情報を知ったうえでリレーを観戦すると、選手たちの創意工夫が垣間見られて、より楽しめることは間違いないでしょう。

セイコーが行うスポーツ支援

未踏のタイムに挑み、自らの限界にチャレンジするアスリート。セイコーは最先端の技術を駆使し、0.01秒を争うスポーツのタイム・スコアを正確に計測することで応援しています。

そして、肉体を極限にまで鍛え上げ、自らの限界を超えた領域に挑み続けるアスリートたちの成果を記録として残すことで、スポーツが生み出す「ドラマの証人」となってきました。

記録に挑むアスリート達の躍動感溢れる走り。確かな計測技術でその挑戦を応援したいというセイコーの思いを、スポーツスローガン「Timing」という言葉に込め、未来につながる一瞬のために、Seikoはすべての瞬間を正確に刻み続けます。

RECOMMENDあなたにオススメの記事

Seiko HEART BEAT Magazine

夢中になれるスポーツがある、
アスリートの熱い意志と躍動感を。
あなたの人生の「時」を豊かにしていく
ワクワクドキドキするストーリーを届けます。

HEART BEAT Magazneトップ